世界最高の発電効率を誇る廃熱発電システムのオフグリッド化を実現
―最大約10kWh超のLIBを搭載したORC発電システムを開発―
NEDOの「脱炭素社会実現に向けた省エネルギー技術の研究開発・社会実装促進プログラム」(助成事業)で株式会社馬渕工業所、国立大学法人東京大学生産技術研究所(東京大学)、宮城県産業技術総合センター、国立大学法人京都大学大学院工学研究科(京都大学)、イーグル工業株式会社は、廃熱を使った有機ランキンサイクル(ORC)発電システムに、最大約10kWh超のリチウムイオン電池(LIB)を搭載した制御システムの構築に成功しました。
今回開発した「独立型ORC発電システム(5kW級)」(本システム)は、世界最高の発電効率と省エネルギー化を実現するとともに、LIBに蓄電された電気を起動電力として使用するなど系統連系を必要としないオフグリッド運転を標準とし、いつでも充放電ができる装置として事業継続計画(BCP)対策となる運用が可能となりました。
本システムは、工場から排出される未利用熱を活用する発電・蓄電システムとして、脱炭素社会実現に貢献していきます。あわせて災害時などの電力喪失時においても独立して発電・蓄電し、導入先のBCP対策や復元力(レジリエンス)性の高さで社会貢献できることが期待されます。
1.概要
東日本大震災以降、地熱・温泉熱・産業系廃熱などの未利用廃熱を活用した有機ランキンサイクル(ORC)発電システム※1が注目を集めています。2023年3月に終了したNEDOの「戦略的省エネルギー技術革新プログラム※2」(以下、前事業)の実用化フェーズで馬渕工業所は工場の未利用廃熱の活用策として要素技術を開発し、同年7月に採択されたNEDOの「脱炭素社会実現に向けた省エネルギー技術の研究開発・社会実装促進プログラム※3」(以下、本事業)で実証フェーズを進めています。
本事業では、これまで必須であった商用電源※4との系統連系※5を行なわずにオフグリッド化できる本システムを、2025年度の事業化に向けて、社会実装による実証実験を展開しています。この中で馬渕工業所は、前事業で開発した「ORC発電システム(5kW級)」に最大約10kWh超のLIB※6を搭載したことで、電力喪失時にもORC発電システムが運転できる制御システムを構築することに成功しました。LIBは5kWh、2.5kWhなどとモジュール化して持ち運びできるため、停電時への備えや個別分散型の避難所などでの電源需要への対応に期待が寄せられています。
2.今回の成果
本システムの開発では、80℃の廃温水を想定した運転により4kW以上の電力のLIBへの充放電制御や設計値での85℃から60℃程度までの温度変化への追随、発電電力の充放電制御を可能としました。実証試験では鈴木工業株式会社(仙台市若林区)の協力のもと工場内での試験運転を行い、設計値よりも低い55℃程度の廃熱温度帯で、本システムで作った電力のLIBへの充放電制御も確認しています。
本事業では、馬渕工業所を含めた5機関が連携し、1年間という短期間で、実証実験および耐久性・信頼性試験で生じた課題を対策して完成させました。具体的には、本事業でもスクロール式膨張機※7のさらなる高効率設計と、耐久性試験中の速やかな課題対策を行う目的で、東京大学が参画しました。さらに、宮城県産業技術総合センターは前事業と同様に3次元(3D)計測装置による加工精度(10μm程度)の検証や設計・加工の妥当性評価を担当しています。
今般、2025年度の事業化を見据え、京都大学、イーグル工業が加わりました。京都大学は前事業で開発したスクロール式膨張機における摺動部の低摩擦化による膨張機効率最大化の検討を受け持ち、イーグル工業はスクロール式膨張機の耐久性・信頼性を高めるための摺動部の改善を担当しています。これらの取り組みにより、世界的にも例を見ない仕組みと発電効率※8を持つシステムとして実用化を目指します。
(1)最大約10kWh超のLIBを介して充放電できる制御システムの確立
一般にこれまで市場投入されたORC発電システムは、全ての発電出力を売電することを目的とし、運転に必要な電力を商用電源でまかなうための系統連系が前提でした。このため商用電源喪失時には装置の運転ができず、非常時に対応可能な発電システムとして位置付けられていませんでした。
今回開発したシステムは、世界最高の発電効率と省エネルギー化を実現するとともに、最大約10kWh超のLIBに蓄電された電気を起動電力として使用するなど、系統連系を必要としないオフグリッド型であることが特徴です。これは本システムのランキンサイクルユニットと蓄電制御ユニットが、最適化された制御システムにより自立運転できるように開発したもので、商用電源喪失時でも発電電力を利活用できる画期的な装置として製品化するものです。
今回ランキンサイクルユニットに80℃以上の温水を流すことで、4kW以上を発電する定格運転に加えて、60℃程度の低温水でも2kW以上の発電を行い、蓄電制御ユニットのLIBに対して安定的に充放電できることが確認されました。これは精緻に設計した非対称ラップ構造のスクロール式膨張機や、軸トルク制御を最適化した制御システムなどの高性能化によるものであり、過去に開発したORC発電システムの性能を大幅に超える結果につながった成果といえます。
これにより商用電源喪失時にもオフグリッド電源としての使用が可能となり、BCP対策やレジリエンス性の高さで社会にこたえることができる発電システムとなっています。
(2)LIBと連携したORC発電システムの実証実験に成功
今回新たに構築した制御システムの動作確認をするために、ボイラーの熱を仮想廃熱として試験した結果と、鈴木工業のエコミュージアム21※9で実際の廃熱を使用した実証実験の結果から、表1に示すように、発電機を稼働させるスクロール式膨張機の効率としては世界最高を維持しつつ、本システムがBCP対策の装置としても実現可能であることが明らかになりました。これにより、産業系廃熱の有効活用に向けて道がひらけたと言えます。
表1 約10kWhのLIBを搭載したORC発電システムの性能
3.今後の予定
馬渕工業所は、本事業で得た成果を踏まえ京都大学、イーグル工業との協働による膨張機摺動部の改善により、高効率で耐久性・信頼性のあるORC発電システムの製品開発を行います。一方、2025年度の「独立型ORC発電システム(5kW級)」の事業化に向け、2024年度に社会実装による実証実験機を5台程度、熱源別の廃熱所有事業所で稼働させ、製品化に向けた開発を進めます。
【注釈】
※1 有機ランキンサイクル(ORC)発電システム
発電所などで使う蒸気サイクル(ランキンサイクルシステム)の作動媒体を一般的な水から、より低沸点の媒体(フロンガスなど)に変更し、中低温の熱源であっても蒸気を発生させることで、タービンを回すシステムです。温泉・地熱などを使ったバイナリー発電や、小型木質バイオマス発電での熱電供給システムとして活用されています。
※2 戦略的省エネルギー技術革新プログラム
テーマ名:スクロール方式による高速・高出力膨張機を搭載した低価格ORC発電システムの開発【助成事業】
事業期間:2020年度~2022年度(実用化フェーズ)
テーマ概要:https://www.nedo.go.jp/content/100927667.pdf
※3 脱炭素社会実現に向けた省エネルギー技術の研究開発・社会実装促進プログラム
テーマ名:スクロール方式による高速・高出力膨張機を搭載した低価格ORC発電システムの開発【助成事業】
事業期間: 2023年度~2024年度(実証フェーズ)
テーマ概要:https://www.nedo.go.jp/content/100965559.pdf
※4 商用電源
電力会社から消費者に届けられる電力、および電力を消費者に届ける(供給する)ための設備一般の総称です。
※5 系統連系
発電設備などが商用電力系統へ並列(発電設備などを商用電力系統に接続すること)する時点から解列(発電設備などを商用電力系統から切り離すこと)する時点までの状態のことです。
※6 LIB
リチウムイオンバッテリーのことで電極にリチウムが使用されている二次電池です。
※7 スクロール式膨張機
流体の持つ内部エネルギーを膨張仕事に変え、それを機械仕事へと変換する回転式、容積型の動力回収機です。
※8 世界的にも例を見ない仕組みと発電効率
系統連系せず、商用電源による起動もしない小型ORC発電システムの事例は見当たりません。また発電効率も世界最高といえます。(馬渕工業所調べ)
※9 エコミュージアム21
鈴木工業の産業廃棄物処理施設です。
https://www.suzukitec.co.jp/em21/
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