RNA修飾酵素METTL5が骨形成を支えるしくみを解明~国際共同研究により、骨形成異常に関わる抗酸化制御機構を発見~
公立大学法人 九州歯科大学(キャンパス:福岡県北九州市、学長:粟野 秀慈)生化学分野の古株彰一郎教授が責任著者の一人として参画する国際共同研究グループは、中国・四川大学華西口腔医院のQuan Yuan教授らとともに、RNA修飾酵素METTL5(※1)が、骨をつくる細胞を酸化ストレスから守り、正常な骨形成を支えていることを明らかにしました。本成果は、METTL5関連疾患や骨形成不全の病態理解を深め、抗酸化制御を標的とした新たな治療法開発につながる可能性があります。本研究成果は、2026年5月8日付で、医学・生命科学分野の国際学術誌 JCI Insight に掲載されました。
【本研究発表のポイント】
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METTL5を欠損したマウスでは、体が小さく、骨量と骨形成能が低下する。
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METTL5は、OSER1(※2)タンパク質の産生を制御して、骨芽細胞(※3)の抗酸化機能を維持する。
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METTL5欠損により、骨芽細胞の抗酸化能が低下し、酸化ストレスに弱くなる。
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抗酸化物質N-アセチルシステイン(NAC)(※4)の投与により、METTL5欠損による骨形成異常が一部改善される。
【九州歯科大学 生化学分野について】
1952(昭和24)年に創設され、2017(平成19)年から現在の体制で新たにスタートしました。生命の最小単位である細胞が生物としてさまざまな機能を営む「しくみ」の解明に取り組んでいます。
【研究の背景】
骨は一度つくられたら変化しない組織ではなく、生涯にわたり形成と吸収を繰り返しながら維持されています。骨芽細胞や、そのもとになる間葉系幹細胞(※5)が正常に働くことは、骨の成長、骨量の維持、骨折後の修復などに不可欠です。一方で、骨形成のしくみは非常に複雑であり、遺伝子、細胞内シグナル、代謝、酸化ストレスなど、さまざまな要因が関与しています。近年、細胞の中でRNAに化学修飾が加わる「RNA修飾」が、遺伝子発現やタンパク質産生を調節する重要な仕組みとして注目されています。
METTL5は、リボソームRNA(※6)にm6A修飾(※7)を加える酵素として知られています。これまでの研究から、METTL5の異常は知的障害、小頭症、顔面形態異常、低身長などを伴う疾患と関連することが報告されていました。しかし、METTL5の異常がどのように骨格形成や骨量低下につながるのか、その詳しい仕組みは十分に明らかになっていませんでした。
【研究の内容と成果】
九州歯科大学 生化学分野の古株彰一郎教授が責任著者の一人として参画する国際共同研究グループは、RNA修飾酵素METTL5が骨形成に果たす役割を調べました。
まず、METTL5を欠損したマウスを解析したところ、正常なマウスに比べて体が小さく、骨量も低下していました。詳しく調べると、骨を壊す細胞には大きな変化がない一方で、骨をつくる骨芽細胞の働きが弱くなっていました。このことから、METTL5がなくなると、主に「骨をつくる力」が低下することが分かりました。次に、骨芽細胞のもとになる細胞を調べたところ、METTL5を欠損した細胞では、骨芽細胞への変化や石灰化が進みにくくなっていました。さらに、METTL5が欠損すると、OSER1というタンパク質が十分につくられなくなり、細胞を酸化ストレスから守る働きも低下していました。その結果、骨をつくる細胞がダメージを受けやすくなり、骨形成が妨げられると考えられました。最後に、抗酸化物質であるNACを投与したところ、METTL5欠損による細胞の抗酸化機能や骨形成能が一部回復しました。マウスでも、骨量低下や成長の異常が一部改善されました。
これらの結果から、METTL5はOSER1の産生を支えることで、骨芽細胞を酸化ストレスから守り、正常な骨形成を維持していることが明らかになりました。本研究は、RNA修飾と骨形成をつなぐ新しい仕組みを示す成果です。(図:今回の論文の図1Aおよび1Fより改変。METTL5欠損マウスでは体サイズの小型化と骨量低下が認められる。)
<図>

【今後の展開】
今後は、この仕組みがヒトの骨の成長や骨疾患にどのように関わるのかを明らかにし、METTL5関連疾患や骨形成不全の病態理解を進めます。さらに、NACなどを用いた抗酸化制御の可能性を検討し、新たな治療法の開発につなげることを目指します。
<共同責任著者からのコメント> 生化学分野 古株彰一郎教授
Quan Yuan教授とは、約15年前に米国Harvard School of Dental Medicineでともにポスドクとして研究に取り組んだ間柄です。本共同研究は2022年10月に始まり、研究者の往来が難しい時期もありましたが、日本と中国の研究者が協力を続け、今回の成果を論文として発表することができました。国際共同研究の形として一つの成果を示すことができ、大変うれしく思っています。本研究にご助言とご協力をいただいた多くの皆様に心より感謝申し上げます。

【用語の解説】
※1 METTL5:RNAに化学修飾を加える酵素の一つ。特に、タンパク質をつくる装置であるリボソームに含まれるRNAに、m6A修飾を加える酵素として知られている。近年、発達異常や神経疾患との関連が報告されている。
※2 OSER1:Oxidative stress responsive serine-rich protein 1の略。細胞が酸化ストレスに対応する際に関わるタンパク質。
※3 骨芽細胞:骨をつくる細胞。骨の土台となる成分を産生し、そこにカルシウムなどを沈着させることで骨形成を進める。
※4 N-アセチルシステイン(NAC):抗酸化物質の一つ。細胞内で働く抗酸化分子であるグルタチオンの合成に関わる。
※5 間葉系幹細胞:骨、軟骨、脂肪などの細胞へ変化する能力を持つ細胞。骨芽細胞のもとになる細胞の一つ。
※6 リボソームRNA:細胞内でタンパク質をつくる装置であるリボソームを構成するRNA。
※7 m6A修飾:RNAに加わる代表的な化学修飾の一つ。RNAからタンパク質がつくられる過程や、遺伝子の働きの調節に関わる。
【論文題目】
題名:METTL5 deficiency impairs osteogenesis through OSER1-dependent antioxidant regulation
著者:Kexin Lei, Qi Yin, Qiwen Li, Qian Wang, Zhong Zhang, Fei Xue, Ruoshi Xu, Xinyi Zhou, Lin Peng, Shoichiro Kokabu, Shuibin Lin, Quan Yuan
論文雑誌:JCI Insight
DOI: 10.1172/jci.insight.194068
【謝辞】
本研究は、文部科学省・日本学術振興会 科学研究費助成事業 国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))、22KK0141の支援を受けて実施されました。
【問い合わせ先】
九州歯科大学 生化学分野
教授 古株 彰一郎 (こかぶ しょういちろう)
E-mail: r14kokabu■fa.kyu-dent.ac.jp
※送信時は、■を@に置き換えてご送信ください。
【公立大学法人九州歯科大学について】
九州歯科大学は、全国にある歯学部、歯科大学の中で唯一の公立大学で、歯学科と口腔保健学科からなる「口腔医学の総合大学」です。私たちが考える歯学とは「口の健康」を通して、日々の生活を、幸せを支える医療です。歯学部並びに大学院歯学研究科において、歯学のプロフェッショナルの育成に取り組んでいます。また、併設する附属病院は1914年開設以来、地域に密着した歯科の専門性を持った中核病院として歩み続けています。

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