なぜ潰瘍性大腸炎は増え続けるのか? ― 食生活の変化と腸内水素の減少に着目した新仮説 ―
潰瘍性大腸炎の新たなメカニズム仮説と水素吸入による改善症例を報告
MiZ株式会社(神奈川県鎌倉市)と慶應義塾大学の研究グループによる学術論文「水素産生菌としてのクロストリジウム・ブチリカムの大腸炎改善のメカニズムの仮説」がMedical Gas Researchに掲載されました。本論文では、伝統的な植物性食物から動物性食物への食生活の変化が、腸内の水素産生菌による水素量を減少させ、慢性炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎など)を誘発している可能性があるという新仮説を提唱しました 。本研究成果は、水素吸入がこれらの疾患の予防・改善に寄与する可能性を示唆するものです(注1)。
また、同研究グループは高濃度水素ガス吸入の水素爆発の危険性を警告するとともに、低濃度水素ガス吸入であっても、健康上のメリットは十分に期待できる旨を記した論文を2026年1月に発表しました。
背景:急増する潰瘍性大腸炎と食生活の変化
潰瘍性大腸炎の増加には、食生活の変化が深く関与していると考えられています。日本やヨーロッパの伝統的な食生活は、穀物・野菜・果物を中心とした植物性食品主体であり、肉類や乳製品の摂取は限定的でした。こうした植物性食品に富む食事は、腸内細菌による発酵を促し、水素を産生する腸内細菌が優勢となる腸内環境を形成していたと考えられています。
しかし、第二次世界大戦後の肉類を中心とした食生活の近代化により、動物性タンパク質や脂肪の摂取量が急増し、食物繊維を多く含む植物性食品の摂取量は大きく減少しました。この変化は、腸内細菌叢の構成を変化させ、水素産生菌の減少と腸内における水素産生量の低下を招いた可能性があります。
疫学研究や臨床研究においても、高脂肪・動物性食品の過剰摂取が炎症性腸疾患の発症リスクを高め、低脂肪・植物性食品中心の食事が炎症の改善と関連することが示されています。これらの知見は、食生活の変化が単に栄養バランスの問題にとどまらず、腸内細菌が産生する水素量の低下を介して、腸管の慢性炎症を助長している可能性を示唆しています(図1)。
すなわち、植物性食物から動物性食物への食生活の転換は、腸内水素産生という生理的防御機構を弱体化させ、その結果として潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患の増加につながっているという仮説を導くことができます。

提唱された仮説:水素産生菌の減少が炎症を招く
本論文では、植物性食物から動物性食物への変化がなぜ大腸炎を引き起こすのか、その詳細なメカニズムについて以下の仮説を提唱しています。
1.伝統食と水素の恵み: 米、野菜、果物などの植物性食物(食物繊維や多糖類)を摂取すると、腸内の水素産生菌による発酵が促進され、1日あたり10L以上の水素が産生されます 。
2.水素の役割: 産生された水素は、細胞にダメージを与え慢性炎症(老化、ガン、認知症などの原因)を引き起こすヒドロキシルラジカル(•OH)を、無害な水へと変換することができます。水素によるヒドロキシルラジカルの除去は腸のバリア機能を守ります 。
3.食の欧米化による悪循環: 動物性タンパク質や脂肪の過剰摂取は、腸内の水素産生菌を減少させ、水素産生量を低下させます。これにより、ヒドロキシルラジカルが十分に消去されなくなり、腸は慢性炎症状態に陥ります。さらに、上皮細胞のバリア機能も低下し、潰瘍性大腸炎の発症リスクが高まります。
酪酸菌「クロストリジウム・ブチリカム」の新たな側面
これまで大腸炎を改善するとされてきた酪酸菌(クロストリジウム・ブチリカム)について、本論文は「酪酸による寄与よりも、同菌が産生する水素による貢献が大きいのではないか」という新たな視点を提供しています。
水素吸入の重要性:減少した「腸内水素」を外から補う
本研究が示す重要なポイントは、食生活の変化によって減少した腸内水素を、体外から補うという考え方です。
もし、潰瘍性大腸炎を含む慢性炎症性疾患の背景に、腸内水素の不足が一因として存在するのであれば、その不足を補うことは合理的な予防・改善のアプローチとなり得ます。
水素分子は極めて小さく、生体膜を容易に通過するため、吸入された水素は肺から血液中に取り込まれ、全身の組織へと拡散します。特に、細胞に強い酸化ダメージを与えるヒドロキシルラジカル(•OH)を水素が消去する作用によって、腸管の慢性炎症の抑制に対しても寄与する可能性が考えられます。
この観点から、本研究グループでは、食生活の変化によって減少した腸内水素を補う手段の一つとして、水素ガス吸入の活用が考えられるとしています。水素水などの経口摂取では体内に取り込める水素量に限界があるため、長時間の水素ガス吸入は効率的な水素供給手段となる可能性があります。
すなわち、水素吸入は、食生活の変化によって減少した腸内水素を補うことで、生体が本来備えていた抗酸化防御機構を補完するアプローチとして位置づけることができます。
水素吸入による潰瘍性大腸炎改善の症例報告
本論文では、従来の薬物療法で改善が見られなかった潰瘍性大腸炎の患者2名に対し、水素ガスの吸入(1日3時間、水素濃度6~7体積%)を実施した経過も報告しています。
症例1(49歳男性): 水素吸入開始から1週間で血便が消失。ステロイドの服用を中止でき、腹痛による不眠も改善しました 。
症例2(60歳男性): 下血や下痢が抑制され、便の状態が正常化。カメラによる観察でも荒れていた腸壁の回復が確認されました。
水素:腸脳相関の主役の可能性
MiZ株式会社、カリフォルニア大学バークレー校、慶應義塾大学は2023年に『水素産生菌の見過ごされてきた恩恵』と題する論文を公開しました(Med Gas Res. 2023 Jul-Sep;13(3):108-111)(注2)。
この論文によれば、腸内細菌叢のバランスが崩れる「ディスバイオシス」に関連する疾患と、水素投与によって改善が認められている疾患には、驚くほどの重複が見られます。特にパーキンソン病や認知症といった脳神経疾患の患者においては、主要な水素産生菌である「バクテロイデス」の割合が著しく減少していることが報告されています。本来であれば、バクテロイデスによって産生され、全身へ拡散した水素が脳を酸化ストレスから守るはずですが、その水素が不足することで、脳の保護機能が脆弱になっている可能性が示唆されます。
近年、腸内環境の状態が脳の機能や精神状態に影響を及ぼす「腸脳相関(ちょうのうそうかん)」が注目を集めていますが、その具体的なメカニズムにはいまだ多くの謎が残されています。本論文は、この腸と脳を繋ぐミッシングリンクとして「水素」が極めて重要な役割を果たしている可能性を示唆しています。
水素は最小の二原子分子であるため、細胞膜や血液脳関門を容易に通過できる稀有な分子です。腸内の「スーパー善玉菌」とも呼ぶべき水素産生菌が絶えず作り出す水素は、血流に乗って脳へと運ばれ、脳内での炎症や酸化ストレスを抑制する役割を担っています(図2)。つまり、腸脳相関の本質的な主役は、腸内細菌そのものの存在だけでなく、彼らが副産物として放出する「水素ガス」の恩恵にあると考えられるのです。私たちは、日々の腸内環境を整えることを通じて、水素という強力なサポーターを脳へと送り届けている可能性があります。

高濃度水素吸入器の危険性と問われる医療責任
MiZ株式会社と慶應義塾大学は、2026年1月、「日本における高濃度水素吸入器の安全上の課題と、その回避に向けた低濃度水素療法への転換の必要性」と題する論文を国際医学誌The International Journal of Risk & Safety in Medicine(SAGE Publishing)に公表するとともに(注3)、高濃度水素吸入の危険性に関する一般への啓発活動を開始しました(注4)。
本論文では、市場に流通する「水素・酸素混合ガス(2:1)」や「100%水素」を吸入させる水素吸入器に内在する複数のリスクが体系的に指摘されています。すなわち、これらの高濃度水素を吸入した場合、鼻腔や肺といった閉鎖空間において水素濃度が爆発範囲(10%を超える濃度)に到達し得ることから、静電気などの微小な着火源によって人体内水素爆発が引き起こされる危険性があります。
実際、消費者庁の事故データバンクには、高濃度水素吸入器の単独使用によって鼻腔内で爆発が生じ顔面複雑骨折に至った事例や、肺・気道内での爆発により裂傷と大量出血を伴い救命救急センターへ搬送された事例など、複数の事故が報告されています。特に静電気が発生しやすい冬季に事故が集中している点は見過ごせず、季節要因と相まってリスクが顕在化する実態が浮き彫りとなっています。
にもかかわらず、現在の市場では「高濃度であるほどよい」「発生量は多いほどよい」といった、濃度や発生量の多さを競うかのような宣伝がなされているのが現状です。しかし、「高濃度・高発生量であるほど効果が高まる」という確固とした科学的根拠は存在しません。一方で、水素濃度が上昇するほど爆発発生の確率は高まり、さらに発生量が増大するほど爆発時に解放されるエネルギー、すなわち爆発規模は増大します。この意味において、「高濃度」「高発生量」という訴求は、そのまま「高リスク」「大規模爆発」という危険性の表明と同義であると見なすことができます。
低濃度水素療法の薦め
MiZ株式会社は、水素を生成直後に空気で希釈し、その濃度を爆発濃度未満に制御する技術を開発しました。この技術は日本を含む世界各国で特許を取得しており、水素吸入器本体の爆発だけでなく、鼻腔や肺など人体内部での水素爆発の危険性を原理的に回避することを目的としています。
水素吸入は、慢性疾患や加齢関連疾患などに対して長期的かつ反復的に利用される可能性のある技術ですので、安全性を前提とした設計が不可欠です。MiZ株式会社は、安全性と有効性の両立を目指す「低濃度水素療法」を提唱しています。低濃度水素療法は、水素吸入が社会に浸透していくために欠かせない現実的なコンセプトです。

参考情報
(注1)
ジャーナル: Medical Gas Research
邦文タイトル:水素産生菌としてのクロストリジウム・ブチリカムの大腸炎改善のメカニズムの仮説
英文タイトル: Hypothesized mechanism of amelioration of colitis by Clostridium butyricum as a hydrogen-producing bacterium.
著者:市川祐介 博士(理学)1、佐藤文平1、武藤佳恭 博士(工学)2,3、佐藤文武1
所属:1.MiZ株式会社 研究開発部、2.慶應義塾大学、3.武蔵野大学
DOI: 10.4103/2045-9912.390251.
URL: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC466991/
(注2)
ジャーナル: Medical Gas Research 2023 Jul-Sep;13(3):108-111
邦文タイトル:水素産生菌の見過ごされてきた恩恵
英文タイトル:The overlooked benefits of hydrogen-producing bacteria.
著者:市川祐介 博士(理学)1,2、山本暖2,3、平野伸一 博士(獣医学)1、佐藤文平1,2、武藤佳恭 博士(工学)3、佐藤文武1,2
所属:1. MiZ株式会社 研究開発部、MiZ Inc. CA, USA、 3. カリフォルニア大学バークレー校、4. 武蔵野大学 データサイエンス学部、5. 慶應義塾大学 環境情報学部
URL:https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9979208/
(注3)
ジャーナル: The International Journal of Risk and Safety in Medicine
邦文タイトル:日本における高濃度水素吸入器による人体内水素爆発とその防止策-低濃度水素療法への転換の必要性-
英文タイトル:Preventable In-Body Hydrogen Explosions from High-Concentration H₂ Inhalers in Japan —Switch to Safe, Low-Concentration Hydrogen Therapy—
DOI: 10.1177/09246479251414573
URL: https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/09246479251414573
(注4)
水素吸入についてのガイドブック配布(一般向け)
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