【徳島大学】表皮の脂質代謝がアトピー性皮膚炎の炎症とかゆみを増幅する仕組みを解明― PLA2G2Fが産生するリゾプラズマローゲンが皮膚炎症とかゆみに関与 ―

国立大学法人徳島大学

令和8年9月29日

国立大学法人徳島大学

■ポイント

・アトピー性皮膚炎において、表皮に発現する脂質代謝酵素PLA2G2F(分泌性ホスホリパーゼA₂-IIF)(※1)が増加し、PLA2G2Fによるプラズマローゲン型リン脂質(※2)の代謝によって生じるリゾプラズマローゲン(P-LPE)(※3)が皮膚に蓄積することを明らかにしました。

・P-LPEは表皮角化細胞 (※4)に炎症関連分子IL-33(※5)の産生を促し、皮膚炎症を増幅するとともに、かゆみを悪化させることが分かりました。

・PLA2G2Fを欠損したマウスではアトピー性皮膚炎モデルの皮膚炎症とかゆみが軽減し、P-LPEの産生・作用を抑えることでかゆみも抑制されました。

・ヒトのアトピー性皮膚炎患者でも皮膚表面のP-LPEが増加しており、表皮の脂質代謝異常が炎症とかゆみを結びつける新たな病態機構であることが示されました。

■報道概要

 徳島大学大学院社会産業理工学研究部生物資源産業学域の山本圭教授、徳島大学大学院医歯薬学研究部薬学域/徳島大学フォトニクス健康フロンティア研究院の三木寿美特任助教らの研究グループは、東京大学大学院医学系研究科の村上誠教授、名古屋大学大学院医学系研究科の秋山真志名誉教授、武市拓也教授らとの共同研究により、皮膚に存在する脂質代謝酵素PLA2G2F(分泌性ホスホリパーゼA₂-IIF)が産生する脂質「リゾプラズマローゲン(P-LPE)」が、アトピー性皮膚炎における皮膚炎症とかゆみを増悪させる仕組みを明らかにしました。

 研究グループは、ヒト表皮角化細胞及びPla2g2f欠損マウスを用いて、アトピー性皮膚炎におけるPLA2G2FとP-LPEの役割を解析しました。その結果、培養したヒト表皮角化細胞を用いてアトピー性皮膚炎に特徴的な2型炎症(※6)環境を再現したところ、表皮角化細胞におけるPLA2G2Fの発現とP-LPEの産生が増加し、炎症やかゆみに関わるIL-33の産生が促進されることが分かりました。また、Pla2g2f欠損マウスでは、アトピー性皮膚炎モデルにおける皮膚炎症とかゆみが軽減し、P-LPEを皮膚に投与するとかゆみが誘導されました。さらに、P-LPEの産生や作用を抑制することで、かゆみが軽減されることも確認しました。加えて、アトピー性皮膚炎患者の皮膚表面においてもP-LPEが増加しており、その量が疾患の重症度と関連することを見いだしました。本研究から、これまで主として免疫反応の異常として理解されてきたアトピー性皮膚炎において、表皮角化細胞の脂質代謝異常が炎症とかゆみを結びつける新たな仕組みであることが示されました。特に、PLA2G2Fによって産生されるP-LPEが、皮膚炎症とかゆみを増幅する「生理活性脂質」として働くことを示唆した点に特徴があります。これにより、アトピー性皮膚炎の病態理解が深まるとともに、PLA2G2F/P-LPE経路を標的とした新たな治療法の開発につながることが期待されます。

 本研究成果は、2026年9月7日に、学術誌「Frontiers in Immunology」のオンライン版に掲載されました。

1 研究の背景

 アトピー性皮膚炎は、強いかゆみを伴う慢性の炎症性皮膚疾患であり、患者の生活の質を大きく低下させます。近年、IL-4やIL-13(※7)などの2型炎症関連サイトカインによる2型炎症が病態の中心的な役割を果たすことが明らかになり、これらを標的とする治療薬が臨床で広く使用されています。一方、アトピー性皮膚炎では、表皮を構成する表皮角化細胞そのものも炎症反応を増幅することが知られています。表皮角化細胞は、外界から身体を守る皮膚バリアを形成するだけでなく、サイトカインや脂質などの生理活性物質を産生し、免疫細胞との相互作用を通じて皮膚の恒常性や炎症を制御しています。

 研究グループはこれまで、表皮に高く発現する分泌性ホスホリパーゼA2の一種であるPLA2G2Fが、皮膚の脂質代謝を制御し、乾癬などの慢性皮膚炎症に関与することを明らかにしてきました。しかし、アトピー性皮膚炎においてPLA2G2Fがどのような脂質を産生し、炎症やかゆみにどのように関与するかは明らかではありませんでした。

2 研究の内容と主な成果

(1)アトピー性皮膚炎の2型炎症環境でPLA2G2Fが増加

 ヒト表皮角化細胞を用いて2型炎症環境を再現したところ、IL-4やIL-13によってTSLP(※8)受容体の発現が増加し、さらにTSLP刺激によってPLA2G2Fの発現が増加しました。特に、複数のサイトカインが存在する炎症環境では、PLA2G2Fの発現が顕著に上昇することが分かりました。また、PLA2G2Fの発現を抑制すると、炎症関連分子IL-33の発現も低下しました。この結果から、2型炎症環境においてPLA2G2Fが表皮角化細胞の炎症応答を増幅することが示されました。

(2)PLA2G2Fがリゾプラズマローゲン(P-LPE)を産生

 脂質質量分析法を用いて解析したところ、PLA2G2Fは皮膚に存在するプラズマローゲン型リン脂質を分解し、P-LPEを産生することが分かりました。アトピー性皮膚炎モデルマウスでは、皮膚表面のP-LPEが増加していましたが、Pla2g2f欠損マウスではこの増加がほぼ認められませんでした。これにより、アトピー性皮膚炎の皮膚で増加するP-LPEの主要な産生酵素がPLA2G2Fであることが示されました。

(3)PLA2G2F欠損で皮膚炎症とかゆみが軽減

 アトピー性皮膚炎モデルを作製したところ、Pla2g2f欠損マウスでは、野生型マウスと比べて皮膚の腫れや表皮の肥厚が軽減していました。また、血中IgEやIL-33などの炎症関連分子の増加も抑えられていました。さらに、アトピー性皮膚炎で特徴的にみられるかゆみ行動も、Pla2g2f欠損マウスでは明らかに減少していました。

(4)P-LPEがかゆみを誘導

 Pla2g2f欠損マウスの皮膚にP-LPEを投与すると、かゆみ行動が再び誘導されました。一方、P-LPEを分解する酵素や、その作用を抑える処置を行うと、アトピー性皮膚炎モデルにおけるかゆみが軽減しました。また、かゆみに関与する感覚神経の遺伝子発現を解析したところ、Pla2g2f欠損マウスでは、IL-4やIL-31(※9)に応答する受容体の発現も低下していました。これらの結果から、PLA2G2Fが産生するP-LPEが、皮膚の炎症だけでなく、かゆみの増悪にも関与することが示されました。

 

(5)ヒトのアトピー性皮膚炎でもP-LPEが増加

 アトピー性皮膚炎患者の皮膚表面を解析したところ、健常者と比べてP-LPEが増加していました。また、患者の一部では、P-LPEの量と疾患の重症度との間に関連がみられました。これらの結果は、マウスモデルや培養細胞で明らかになったPLA2G2F/P-LPE経路が、ヒトのアトピー性皮膚炎にも関与している可能性を示しています。

3 研究成果の意義と今後の展望

 本研究は、アトピー性皮膚炎を単なる免疫細胞の異常として捉えるのではなく、表皮角化細胞における脂質代謝の変化が、皮膚炎症とかゆみを増幅することを示しました。とりわけ、PLA2G2Fが産生するP-LPEが、炎症関連分子IL-33の産生を促し、さらにかゆみを増悪させるという知見は、アトピー性皮膚炎の病態を理解する新たな枠組みとなります。

 現在、アトピー性皮膚炎の治療は免疫反応を標的としたものが中心ですが、今回明らかになったPLA2G2F/P-LPE経路は、表皮の脂質代謝を標的とする新しい治療戦略につながる可能性があります。今後は、P-LPEが細胞に認識される仕組みや、炎症とかゆみを引き起こす詳細な分子機構を明らかにすることで、新たな治療法の開発を目指します。

 なお、本研究は所属機関の承認のもと、「実験動物の飼育及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準(環境省告示第88号)」、「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針(文部科学省告示第71号)」及び所属機関の動物実験の適正な実施に向けたガイドラインに則り実施されました。

4 論文情報

論文名:

PLA2G2F/lysoplasmalogen axis links epidermal lipid metabolism to type 2 inflammation and itch in atopic dermatitis

PLA2G2F/リゾプラズマローゲン経路は、表皮の脂質代謝をアトピー性皮膚炎における2型炎症とかゆみに結びつける

 

著者:

Yoshimi Miki, Natsumi Higashisaka, Honami Inubushi, Niki Hirabayashi,

Kanji Watanabe, Saho Fukui, Masayoshi Onitsuka, Chiaki Fukaura,

Mariko Ogawa-Momohara, Kana Tanahashi, Yuki Nagasaki, Takuya Takeichi,

Masashi Akiyama, Makoto Murakami, Kei Yamamoto

掲載誌:

Frontiers in Immunology

2026年9月7日 オンライン版掲載 (Online ahead of print)

DOI: doi.org/10.3389/fimmu.2026.1880255

受理日:2026年8月4日

研究機関:

・徳島大学大学院社会産業理工学研究部生物資源産業学域

・徳島大学大学院医歯薬学研究部薬学域

・徳島大学フォトニクス健康フロンティア研究院

・東京大学大学院医学系研究科

・名古屋大学大学院医学系研究科

研究助成:

 本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業ソロタイプPRIME「画期的医薬品等の創出をめざす脂質の生理活性と機能の解明」研究開発領域における研究開発課題「生理活性脂質アルケニル型リゾリン脂質の機能の解明」(研究開発代表者:山本圭、課題番号:JP15gm5910012)、革新的先端研究開発支援事業ユニットタイプAMED-CREST「生体組織の適応・修復機構の時空間的解析による生命現象の理解と医療技術シーズの創出」研究開発領域における研究開発課題「疾患脂質代謝に基づく生体組織の適応・修復機構の新基軸の創成と医療技術シーズの創出」(研究開発代表者:村上誠、課題番号:JP20gm1210013)、「元気につながる生命現象の解明と制御」研究開発領域における研究開発課題「脂質代謝リプログラミングの分子機序の解明に基づく元気の実現」(研究開発代表者:村上誠、課題番号:JP25gm2110005)、日本学術振興会科学研究費助成事業「基盤研究、新学術領域研究、挑戦的萌芽研究(課題番号:JP22K06577、JP25K09970、JP16H01372、JP19H03372、JP23K18289、JP24K02180、 JP20H05691、JP25000261、JP25H01017)」、小野医学研究財団、コーセーコスメトロジー研究財団、テルモ生命科学振興財団の支援により実施されました。

5 用語解説

※1 PLA2G2F(分泌性ホスホリパーゼA₂-IIF)

リン脂質を分解する酵素の一種。皮膚の表皮に高く発現し、皮膚の恒常性や炎症を制御することが知られています。

(補足)分泌性ホスホリパーゼA₂

細胞から分泌され、リン脂質を分解する酵素の一群。リン脂質から脂肪酸やリゾリン脂質などを産生し、さまざまな生体機能の調節に関わります。

 

※2 プラズマローゲン型リン脂質

細胞膜を構成するリン脂質の一種。一般的なリン脂質とは一部の化学構造が異なり、皮膚、脳や心臓をはじめ、さまざまな組織に存在します。

 

※3 リゾプラズマローゲン(P-LPE)

細胞膜を構成するプラズマローゲン型リン脂質が分解されて生じる脂質。今回の研究では、皮膚炎症とかゆみを増幅する生理活性脂質として働くことが示されました。

 

※4 表皮角化細胞

皮膚の最も外側にある表皮を構成する主要な細胞。外部からの刺激や異物の侵入を防ぐバリア機能を担うとともに、炎症時にはサイトカインなどを産生し、皮膚の免疫応答やかゆみにも関与します。

 

※5 IL-33

皮膚の上皮細胞などから産生されるサイトカイン。アトピー性皮膚炎などの2型炎症を促進し、皮膚炎症やかゆみに関与します。

※6 2型炎症

IL-4、IL-13などのサイトカインを介して引き起こされる免疫反応の一つ。アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患で特徴的にみられ、皮膚の炎症やバリア機能の低下、かゆみなどに関与する。

※7  IL-4、IL-13

2型炎症に中心的な役割を果たすサイトカイン。アトピー性皮膚炎では、皮膚の炎症やバリア機能の低下などに関与します。

※8 TSLP(胸腺間質性リンパ球新生因子)
主に上皮細胞から産生されるサイトカイン。外部からの刺激などに応答して産生され、2型炎症を誘導・増幅する働きを持ちます。

※9 IL-31

主に免疫細胞から産生されるサイトカイン。アトピー性皮膚炎などにおいて、知覚神経に作用してかゆみを引き起こす重要な因子の一つです。

■徳島大学に関する情報

・徳島大学×J-PEAKS

https://www.iphf.tokushima-u.ac.jp/

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本社所在地
徳島県徳島市新蔵町2丁目24番地
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代表者名
河村 保彦
上場
未上場
資本金
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設立
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