DXは「技術」ではなく「人」──約4,000件の事例から見えた5つの力【ものづくり新聞製造業DX事例分析vol.13】
現場理解、業務設計、データ活用、AI・デジタル活用、巻き込み力が重要に。Innovation Maker Academyの教育コンテンツにも展開
株式会社パブリカが運営しているものづくり新聞(代表:伊藤宗寿)は、世界の製造業DX事例を継続的に収集・分類している「製造業DX事例データベース」をもとに、リアルな課題と解決策を紐解くレポートを配信しています。このデータベースは、ものづくり新聞が日本と世界のニュース記事やプレスリリースなどを毎日自動取得しデータベースに蓄積する仕組みで、製造業向け情報発信を目的として構築した仕組みです。
2026年7月現在、同データベースには約4,000件の製造業DX関連事例を蓄積しています。今回の分析では、これらの事例から、製造業DXが単なるツール導入ではなく、現場課題の発見、業務プロセスの整理、データ活用、AI・デジタル技術の使いこなし、関係者の巻き込みによって進んでいることに着目しました。
その結果、製造業DX人材に必要な力として、現場課題を発見する力、業務プロセスを整理する力、データを活用する力、AI・デジタル技術を使いこなす力、関係者を巻き込む力の5つを整理しました。ものづくり新聞では、今回の整理を、製造業向けDX教育事業「Innovation Maker Academy」の教育コンテンツにも展開していきます。
調査の背景
製造業DXでは、生成AI、AI検査、IoT、クラウド、データ基盤、PLM、ERP、MES、ロボット、デジタルツインなど、多様な技術やツールが活用されています。
一方で、製造業の現場では、「DXツールを導入しても、現場で使われない」「何から始めればよいか分からない」「現場課題とデジタル施策が結びつかない」「IT部門と現場部門の間で話がかみ合わない」といった課題も多く見られます。
製造業DXは、ツールを知っているだけでは進みません。現場の業務を理解し、課題を整理し、データや技術を活用しながら、関係者を巻き込んで業務に定着させる力が求められます。
製造業DX人材に必要な5つの力

⒈現場課題を発見する力
現場で起きている非効率、属人化、見えない業務、判断のばらつきを発見し、DXで解くべき課題として言語化する力。
⒉業務プロセスを整理する力
現状業務をAs-Isとして把握し、部門をまたぐ流れやデータのつながりを整理したうえで、あるべき業務プロセスを設計する力。
⒊データを活用する力
設備、品質、保全、サプライチェーン、経営に関するデータを収集・可視化・分析し、業務判断や改善に活かす力。
⒋AI・デジタル技術を使いこなす力
AI、生成AI、IoT、クラウド、ロボット、デジタルツイン、PLM、ERPなどの技術を、自社業務の課題解決に結びつける力。
⒌関係者を巻き込む力
経営、現場、IT、設計、品質、保全、調達、外部パートナーなどを巻き込み、DX施策を現場に定着させる力。
1. 現場課題を発見する力
現場で起きている非効率、属人化、見えない業務、判断のばらつきを発見し、DXで解くべき課題として言語化する力。関連する事例からは、次のような示唆が得られます。
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株式会社樋口製作所:IoTセンサーとAIで熟練技術者のノウハウを形式知化し、属人化の解消と設備高稼働を実現した事例。現場の「暗黙知」と「設備稼働」を課題として捉えている。
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株式会社フジワラテクノアート:紙・Excel中心の管理から複数のITツール導入へ進み、部門横断委員会やIT学習文化の醸成まで行った事例。現場の管理方法そのものを課題として発見している。
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有限会社永井製作所:3D CAD/CAMと生産管理システムにより、熟練者依存や若手育成の課題に取り組んだ事例。DXの入口が技術導入ではなく、技能承継と業務の属人化解消にある。
DXはツール選定からではなく、現場の困りごとを発見し、解くべき課題を定義するところから始まる。
2. 業務プロセスを整理する力
現状業務をAs-Isとして把握し、部門をまたぐ流れやデータのつながりを整理したうえで、あるべき業務プロセスを設計する力。関連する事例からは、次のような示唆が得られます。
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キヤノンITソリューションズ:CAD、PLM、xR、IoTを連携させ、設計・製造・保守の業務プロセス全体を統合する取り組み。As-Is/To-Beで課題を整理する重要性が見える。
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マツモトプレシジョン株式会社:クラウドERP導入により、業務標準化・見える化を進め、売上総利益改善やカーボンフットプリント可視化にもつなげた事例。
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マルハニチロ株式会社:複数工場の生産・品質・原価管理を統合し、本社でデータを一元管理する新生産管理システムを構築した事例。
業務プロセスを整理できなければ、デジタルツールは個別最適にとどまり、全社的な成果につながりにくい。
3. データを活用する力
設備、品質、保全、サプライチェーン、経営に関するデータを収集・可視化・分析し、業務判断や改善に活かす力。関連する事例からは、次のような示唆が得られます。
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NTT Com×三井化学:化学プラントの51種類のプロセスデータを活用し、ディープラーニングで20分先の製品品質を予測した事例。
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ファイザー:PAXLOVIDの製造供給チェーン全体をAIとデータ分析で最適化し、サイクルタイム短縮につなげた事例。
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SCREENグラフィックアンドプレシジョンソリューションズ:Access/Excelによる手作業レポートからBIダッシュボードへ移行し、KPI可視化と意思決定品質向上を進めた事例。
データを集めるだけでなく、業務課題に応じて読み解き、判断や改善につなげる力が重要になる。
4. AI・デジタル技術を使いこなす力
AI、生成AI、IoT、クラウド、ロボット、デジタルツイン、PLM、ERPなどの技術を、自社業務の課題解決に結びつける力。関連する事例からは、次のような示唆が得られます。
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富士石油:製油所で専用生成AI環境を構築し、法令・規程・手順書・共有ファイルの検索業務を効率化した事例。
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川崎重工業:カメラやセンサー、AI/ML、エッジコンピューティングを組み合わせ、鉄道保守や作業分析に活用する事例。
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サムスン電子:Agentic AI、デジタルツイン、ロボティクスを組み合わせ、AI駆動型工場への転換を目指す事例。
技術名を知るだけではなく、業務プロセス、データ、現場運用と結びつけて使いこなす力が求められる。
5. 関係者を巻き込む力
経営、現場、IT、設計、品質、保全、調達、外部パートナーなどを巻き込み、DX施策を現場に定着させる力。関連する事例からは、次のような示唆が得られます。
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西日本旅客鉄道:Microsoft Power Platformを活用した「Work Smile Project」により、全社員向け研修とPoCを通じて市民開発を推進した事例。
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味の素:ノーコード/ローコード活用による全社員DX人財育成と市民開発を推進し、全社オペレーション変革に取り組む事例。
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ニチレイグループ:全社約4,000名を対象とした段階的DX人材育成プログラムを展開し、経営層も含めたDX浸透を進める事例。
DXは技術導入で終わらず、現場に使われ、業務に定着し、継続的に改善されることで成果につながる。
事例から見えた共通点:技術導入と現場定着の橋渡しが重要
今回の整理から見えてきたのは、製造業DX人材には、技術と現場の間を橋渡しする力が求められるということです。製造業DX事例では、AI、生成AI、IoT、クラウド、PLM、ERP、MES、デジタルツイン、ロボットなど、多様な技術が登場します。
しかし、成果につながる事例では、技術そのものよりも、現場課題が明確であること、業務プロセスが整理されていること、データを取得・活用できる状態にしていること、技術を業務の中で使える形にしていること、関係者を巻き込み現場定着まで設計していることが重視されています。
つまり、製造業DX人材には、ITやAIの知識だけでなく、現場理解、業務設計、データ活用、技術活用、組織変革をつなぐ総合的な力が必要です。
今後の展開
ものづくり新聞では、製造業DX事例データベースを活用し、AI外観検査、品質データ分析、トレーサビリティ、予兆保全、スマートファクトリー、MES、PLM、生成AI活用など、製造業DXの主要テーマについて継続的に分析・発信していきます。
また、製造業向けDX教育事業「Innovation Maker Academy」やコンサルティング活動においても、実際の公開事例をもとに、企業ごとの課題に即した情報提供や学習コンテンツの拡充を進めていきます。
株式会社パブリカ
製造業を中心としたコンサルティングサービス(プロジェクトマネージメント、DXコンサルティング)を軸に、製造業向けウェブメディア事業(ものづくり新聞)、製造業向けDX人材育成プログラム(Innovation Maker Academy)などを手掛けています。私たちの夢は、ものづくりを通して好奇心と喜びでワクワクし続ける社会の実現です。目には見えない「作る人の想い」と変革の力を掛け合わせ、ものづくり企業と共に心躍る未来をつくり続けます。
HP:株式会社パブリカ
ものづくり新聞について
ものづくり新聞は、「ものづくりを通して好奇心と喜びでワクワクし続ける社会の実現」を目指すウェブメディアです。中小製造業や工芸職人のインタビュー記事や、製造業のDX・業務改革に関する情報を発信するメディアです。
この活動の一環として、国内外の製造業DX事例を継続的に収集し、業種、地域、技術、業務領域、活用テーマごとに分類・分析することで、製造業の実務者が自社の取り組みに活用できる情報提供を目指しています。
ウェブサイトはこちらから⇨makingthingsnews.com
製造業向けDX人材育成プログラム「Innovation Maker Academy」
ものづくり新聞による取材やコンサルティング活動により得た知見をもとに、製造業向けDX教育事業「Innovation Maker Academy」を展開しています。デジタル活用やDX推進課題に対して専門講師が講義やワークショップを実施いたします。「ものをつくる人から、変革を動かす人へ」をコンセプトに掲げ、ツール導入ありきではない教育プログラムをご提供しています。
ホームページはこちらから⇨imacademy.jp
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ものづくり新聞 編集部(製造DX担当)
お問い合わせ先:dx@publica-inc.com
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