中小製造業のDXは何から始める?──507件の事例から見えた「はじめの一歩」7テーマ【ものづくり新聞製造業DX事例分析vol.14】
中堅・中小製造業DX事例507件をもとに、DXを始める際に着手しやすい7テーマを整理
株式会社パブリカが運営しているものづくり新聞(代表:伊藤宗寿)は、世界の製造業DX事例を継続的に収集・分類している「製造業DX事例データベース」をもとに、リアルな課題と解決策を紐解くレポートを配信しています。このデータベースは、ものづくり新聞が日本と世界のニュース記事やプレスリリースなどを毎日自動取得しデータベースに蓄積する仕組みで、製造業向け情報発信を目的として構築した仕組みです。
今回の分析では、企業規模が「中小」または「中堅」と分類されている製造業DX事例507件を対象に、紙・Excelのデジタル化、生産実績・品質データの見える化、AI外観検査、設備データ収集、市民開発・ローコードなどの着手テーマを整理しました。
分析の結果、製造業DXは大規模ERP刷新や全社基幹システム導入だけでなく、現場の日報、設備稼働、品質検査、生産進捗、作業手順といった身近な業務から始められることが見えてきました。
調査の背景
製造業DXという言葉からは、ERP刷新、スマートファクトリー、AI、ロボット、デジタルツインなど、大規模で高度な取り組みが想起されがちです。
しかし、中堅・中小製造業にとっては、最初から大規模なシステム刷新に着手することが難しい場合もあります。現場では、紙の日報、Excel管理、設備稼働の見えにくさ、検査の属人化、熟練者依存、受発注や工程管理の手作業など、日々の業務に根ざした課題が多く存在します。
ものづくり新聞では、こうした現場課題に対して、どのようなテーマからDXを始める事例が多いのかを整理することで、中堅・中小製造業が自社の第一歩を考えるための参考情報として発信します。
製造業DXの“はじめの一歩”ランキング
今回の分析では、公開事例において確認できる着手テーマを重複ありで抽出し、次の7テーマに整理しました。
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紙・Excel・手書き業務のデジタル化 (該当事例件数133件/構成比26.2%)
始めやすい理由:現場の負担が分かりやすく、導入範囲を限定しやすい。日報、点検表、受発注、検査記録など、身近な業務から始められる。 -
生産実績・品質データの見える化 (該当事例件数291件/構成比57.4%)
始めやすい理由:既存業務を大きく変えず、まず現場や経営が同じ数字を見る状態を作りやすい。紙や口頭で共有していた稼働、進捗、品質、原価を可視化することで、改善テーマを見つけやすくなる。 -
設備データ収集・IoT (該当事例件数259件/構成比51.1%)
始めやすい理由:既存設備にセンサーを後付けするなど、小さく始めやすい。古い設備でも稼働状況や停止時間を取得できれば、生産性改善や保全の入口になる。 -
AI外観検査・品質DX (該当事例件数167件/構成比32.9%)
始めやすい理由:人手不足や検査のばらつきへの対応としてニーズが明確。限定された工程や品目からPoCを始めやすく、効果を品質・工数で説明しやすい。 -
市民開発・ローコード (該当事例件数107件/構成比21.1%)
始めやすい理由:現場担当者が小さな業務アプリを作り、改善を積み上げやすい。IT人材が限られる中堅・中小企業でも、現場主導でDXを進める入口になる。 -
生産管理・工程管理のデジタル化 (該当事例件数282件/構成比55.6%)
始めやすい理由:日々の計画、実績、進捗、納期管理に直結するため、効果を説明しやすい。中小製造業では、Excelや個人管理から生産管理システムへ移行する事例が多い。 -
技能継承・作業支援のデジタル化 (該当事例件数168件/構成比33.1%)
始めやすい理由:人手不足、熟練者退職、若手育成の課題に直結する。動画、マニュアル、作業記録、IoTデータなどを使い、技能を見える形にする取り組みから始められる。
※複数テーマに該当する事例は重複して集計しています。本ランキングは市場シェアや導入実績数ではなく、公開事例から確認できる「着手しやすいDXテーマ」の傾向整理です。
公開事例から見える着手テーマ
1. 紙・Excel・手書き業務のデジタル化
紙・Excelのデジタル化は、現場が実感しやすい小さなDX。
中堅・中小製造業でも始めやすい理由:現場の負担が分かりやすく、導入範囲を限定しやすい。日報、点検表、受発注、検査記録など、身近な業務から始められる。
代表事例
サンコー技研
・30名の町工場が手書き日報をQRコード・スマホアプリでデジタル化し、作業記録の自動化と見える化を実現。大手企業にも採用される新事業へ展開。
2. 生産実績・品質データの見える化
DXの第一歩は、現場で起きていることをデータで見える状態にすること。
中堅・中小製造業でも始めやすい理由:既存業務を大きく変えず、まず現場や経営が同じ数字を見る状態を作りやすい。紙や口頭で共有していた稼働、進捗、品質、原価を可視化することで、改善テーマを見つけやすくなる。
代表事例
武州工業
・工作機械の三色灯を光センサーで読み取り、稼働状況を簡易IoT化。古い機械でも配線工事不要。低コストで開発・外販を実現。
・パイプ部品加工の中小企業が独自開発の生産管理システムBIMMSにより一個流し生産を実現。リードタイム72h→48h短縮
3. 設備データ収集・IoT
設備データ収集は、大規模な工場刷新をしなくても始められる現場DXの入口。
中堅・中小製造業でも始めやすい理由:既存設備にセンサーを後付けするなど、小さく始めやすい。古い設備でも稼働状況や停止時間を取得できれば、生産性改善や保全の入口になる。
代表事例
トーネジ株式会社
・旭鉄工のIoT講演会をきっかけにiXacs導入。改善活動サイクルを加速させ、現場改善の生産性向上を実現。
武州工業
・工作機械の三色灯を光センサで読み取り、稼働状況を簡易IoT化。古い機械でも配線工事不要。低コストで開発・外販を実現。
4. AI外観検査・品質DX
AI外観検査は、製造業にとってAI活用を現場課題に結びつけやすいテーマ。
中堅・中小製造業でも始めやすい理由:人手不足や検査ばらつきへの対応としてニーズが明確。限定された工程や品目からPoCを始めやすく、効果を品質・工数で説明しやすい。
代表事例
埼玉県内の中小製造業10社(グループ事例)
・埼玉県が2018年開始のAI活用支援事業で、県内中小製造業10社へのAI外観検査導入を実証。照明や撮影角度最適化で金属部品など微細な傷検出精度を100%達成。
・複数の中小製造業がAIによる外観検査システムを導入し、100%の不良品検出精度を実現した。
5. 市民開発・ローコード
市民開発は、現場の困りごとを現場自身が解決するための実践的な手段です。
中堅・中小製造業でも始めやすい理由:現場担当者が小さな業務アプリを作り、改善を積み上げやすい。IT人材が限られる中堅・中小企業でも、現場主導でDXを進める入口になる。
代表事例
西機電装株式会社
・生産管理システム導入失敗の経験から、ノーコードツール『kintone』で業務を効率化し、中小企業向けDXコンサルティング事業を新展開。
・Kintoneで スモールスタートから現場に適したシステムを自社開発、工程管理効率化を実現
6. 生産管理・工程管理のデジタル化
生産管理・工程管理は、現場改善と経営管理をつなぐ実務的なDXテーマ。
中堅・中小製造業でも始めやすい理由:日々の計画、実績、進捗、納期管理に直結するため、効果を説明しやすい。中小製造業では、Excelや個人管理から生産管理システムへ移行する事例が多い。
代表事例
日本ツクリダス株式会社
・職人・事務員退職をきっかけに生産管理ソフトを自社開発。段階的なデジタルツール導入で属人化を解消。その後他の町工場向けに販売。DXセレクション2024優良事例。
7. 技能継承・作業支援のデジタル化
技能継承DXは、デジタル化を人材育成と現場力強化につなげるテーマ。
中堅・中小製造業でも始めやすい理由:人手不足、熟練者退職、若手育成の課題に直結する。動画、マニュアル、作業記録、IoTデータなどを使い、技能を見える形にする取り組みから始められる。
代表事例
有限会社永井製作所
・3DCAD/CAMの導入と生産管理システムで属人化を解消、技能承継を加速。DXセレクション選定。
福島県の高精度金型メーカー(企業名非公開)
・ものづくり補助金でIoT・ICT環境整備、設備負荷を一元管理。若手への技能承継を可視化し実現。

DXは大規模ERP刷新だけではない
今回の整理から見えるのは、DXは必ずしも大規模ERP刷新や全社システム導入から始める必要はないということです。中堅・中小製造業の公開事例では、現場の日々の困りごとを起点に、小さく始めて改善効果を確認し、その後に対象範囲を広げる事例が多く見られます。
たとえば、手書き日報のデジタル化、設備稼働の可視化、検査工程のAI活用、kintoneなどを使った業務アプリ内製、生産管理や工程管理の見える化などは、現場課題と直結しやすく、効果を実感しやすいテーマです。
重要なのは、ツール名から入るのではなく、自社の現場で何が見えていないのか、どこに手戻りがあるのか、どの業務が属人化しているのかを明らかにし、そこからデジタル活用を始めることです。
中小製造業でも取り組みやすいDXテーマ
第一に、対象業務が明確であること。第二に、既存設備や既存業務をすべて置き換えなくても始められること。第三に、現場担当者が効果を実感しやすいことです。これらが、中小企業でも取り組みやすいDXテーマの共通点です。
紙・Excelのデジタル化、設備データ収集、見える化、AI外観検査、市民開発は、いずれもこれらの条件を満たしやすいテーマです。これらは単独の施策で終わるのではなく、将来的には生産管理、品質管理、保全、経営管理、教育、人材育成へと広がる入口にもなります。
今後の展開
ものづくり新聞では、製造業DX事例データベースを活用し、AI外観検査、品質データ分析、トレーサビリティ、予兆保全、スマートファクトリー、MES、PLM、生成AI活用など、製造業DXの主要テーマについて継続的に分析・発信していきます。
また、製造業向けDX教育事業「Innovation Maker Academy」やコンサルティング活動においても、実際の公開事例をもとに、企業ごとの課題に即した情報提供や学習コンテンツの拡充を進めていきます。
株式会社パブリカ
製造業を中心としたコンサルティングサービス(プロジェクトマネージメント、DXコンサルティング)を軸に、製造業向けウェブメディア事業(ものづくり新聞)、製造業向けDX人材育成プログラム(Innovation Maker Academy)などを手掛けています。私たちの夢は、ものづくりを通して好奇心と喜びでワクワクし続ける社会の実現です。目には見えない「作る人の想い」と変革の力を掛け合わせ、ものづくり企業と共に心躍る未来をつくり続けます。
HP:株式会社パブリカ
ものづくり新聞について
ものづくり新聞は、「ものづくりを通して好奇心と喜びでワクワクし続ける社会の実現」を目指すウェブメディアです。中小製造業や工芸職人のインタビュー記事や、製造業のDX・業務改革に関する情報を発信するメディアです。
この活動の一環として、国内外の製造業DX事例を継続的に収集し、業種、地域、技術、業務領域、活用テーマごとに分類・分析することで、製造業の実務者が自社の取り組みに活用できる情報提供を目指しています。
ウェブサイトはこちらから⇨makingthingsnews.com
製造業向けDX人材育成プログラム「Innovation Maker Academy」
ものづくり新聞による取材やコンサルティング活動により得た知見をもとに、製造業向けDX教育事業「Innovation Maker Academy」を展開しています。デジタル活用やDX推進課題に対して専門講師が講義やワークショップを実施いたします。「ものをつくる人から、変革を動かす人へ」をコンセプトに掲げ、ツール導入ありきではない教育プログラムをご提供しています。
ホームページはこちらから⇨imacademy.jp
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本件に関するお問い合わせ
ものづくり新聞 編集部(製造DX担当)
お問い合わせ先:dx@publica-inc.com
Webサイト:makingthingsnews.com
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