ギガファクトリー、量産開始は平均6~9カ月遅延 6カ月の遅れで約2.5億ドルの価値損失リスクも
バッテリー需要は2035年に6.8TWh超へ、先進企業は着工から18~24カ月で量産開始 マッキンゼー、工場立ち上げを競争優位に変える3つの要諦を提示
マッキンゼー・アンド・カンパニー(日本代表:岩谷直幸)はこのたび、世界各地で建設が進むバッテリー向け「ギガファクトリー」の量産開始遅延の要因と、計画どおりに立ち上げるための方策を分析した最新インサイト「ギガファクトリーを計画どおり立ち上げる:量産開始遅延の課題解決に向けて」を公開しました。
EVに加え、再生可能エネルギーの拡大を支える大規模蓄電システム(BESS)の需要増加を背景に、世界の高性能バッテリー需要は現在の約1.6TWhから、2035年には6.8TWh超へ拡大すると予測されています。
こうした需要を支えるのが、年間5~100GWh規模のリチウムイオン電池を生産する「ギガファクトリー」です。1工場当たりの建設費は10億~70億ドルに上り、世界各地で大規模な投資が進んでいます。
しかし、課題は「工場を建てること」だけではありません。
バッテリーセル製造業界では、量産開始(SOP)が当初計画から平均6~9カ月遅延しています。年間40GWhのNMC811セルを生産する工場では、量産開始が6カ月遅れるだけで、約2億5,000万ドル相当の価値を失うリスクがあります。
一方、業界トップクラスの先進企業は、着工から18~24カ月で量産開始まで到達しています。市場が拡大する中、競争力を左右するのは電池技術や生産能力だけではなく、「工場を予定どおり立ち上げる力」そのものになりつつあります。
本稿は、マッキンゼーのオペレーション研究グループの見解をまとめたもので、アンドレアス・ブライター、デニー・ティーミグ、ヤコブ・フライシュマン、マーティン・リンダー、土谷大、ラファエル・レッティグ、ウルリッヒ・トゥエルクハイムが共同で執筆しました。
▼インサイト
「ギガファクトリーを計画どおり立ち上げる:量産開始遅延の課題解決に向けて」
■「6カ月の遅れ」が2.5億ドルの価値損失につながる可能性
ギガファクトリーでは、わずかな工程の遅れが、後続工程へ連鎖的に影響します。
年間40GWh規模のNMC811セル工場の場合、量産開始が6カ月後ろ倒しになることで、約2億5,000万ドル相当の価値を失うリスクがあります。さらに、顧客への供給開始が遅れることで、バッテリーメーカーだけでなく、自動車メーカーなどバリューチェーン全体に影響が及ぶ可能性があります。
ギガファクトリーの量産開始遅延が生み出す経済的インパクト

■なぜ、ギガファクトリーは予定どおり立ち上がらないのか
本インサイトでは、量産開始が遅れる背景として、大きく5つの構造的な課題を指摘しています。
第一に、製品・製造プロセス・工場設計を同時並行で進める難しさです。バッテリー工場では、製品や製造工程が完成する前に建設を開始するケースも多く、設備仕様やユーティリティ要件が途中で変更されるリスクがあります。
第二に、競争力向上のために最新の製造技術を採用する一方、量産実績や経験を持つ人材が限られていることです。
第三に、製造設備のサプライチェーンが中国・韓国をはじめとするアジアに集中しており、欧米などで建設する際には、設備輸送だけでなく、現地の安全・環境・防火規制への適合が必要になります。
さらに、大規模プロジェクトの経験を持つ人材不足や、請負業者、設備メーカー、技術ライセンサー、自治体など多数の関係者を統合的に管理する仕組みの不足も、工程遅延やコスト超過を招く要因となっています。
ギガファクトリーの量産開始を遅らせる構造的な要因

■先進企業は24カ月以内に量産開始―差を生む3つの要諦
こうした複雑性がある一方で、先進企業は着工から18~24カ月という短期間で量産開始を実現しています。
本インサイトでは、その差を生む要素を3つに整理しています。
1.人材・組織能力
経営陣と直接連携する専任のプロジェクト遂行組織を設置し、工場建設チームと量産後の運営チームを早期から一体化。問題が発生した際には、経営層まで迅速に判断を上げられるエスカレーションルートを整備します。
2.実行管理の仕組み
請負業者を含む関係者間でマイルストーンを一元管理し、共通KPIをリアルタイムで可視化。クリティカルパスを継続的に見直し、遅延の兆候を早期に特定します。
3.設計・建設の最適化
製品、製造プロセス、工場設計を初期段階から統合して進め、サプライヤー間の責任分担を明確化。許認可や規制対応も後工程ではなく、プロジェクト開始時から計画に組み込みます。
■AIが「工場建設」の工程そのものを変え始める
ギガファクトリーの建設では、AIや高度なアナリティクスの活用も進み始めています。
先進企業では、プロジェクト計画やマイルストーン管理に高度なアナリティクスやAIを活用しています。さらに、生成AIを活用したスケジューリングシステムでは、数十万通りの工程計画案を作成し、それぞれのコストや工期への影響を短時間で評価することが可能になりつつあります。
これにより、従来は担当者の経験に依存していた工程計画についても、作業順序の変更、設備・資材の調達リードタイム、リソース配置などを組み合わせたシナリオを比較し、工期短縮やプロジェクト価値の最大化につなげることができます。
つまりAIは、バッテリーそのものの研究開発や製造だけではなく、「工場をどう造るか」という巨大設備投資の意思決定にも入り始めています。
■日本企業への戦略的示唆
世界各地でバッテリーサプライチェーンの地域化が進む中、日本のバッテリーメーカー、自動車メーカー、製造装置メーカー、エンジニアリング・建設関連企業にとっても、ギガファクトリーの立ち上げ力は重要なテーマです。
特に、製造設備のサプライチェーンがアジアに集中する中、日本企業が海外拠点の建設に関与する場合には、設備技術だけでなく、現地規制への適合、据付・試運転支援、複数サプライヤー間のインターフェース管理まで含めたプロジェクト遂行能力が求められます。
また、今後のバッテリー競争では、革新的なセル技術を開発することと同時に、その技術を量産可能な工場として、予定どおり市場に投入できるかが重要になります。
ギガファクトリーの立ち上げは、単なる建設プロジェクトではなく、市場投入スピード、投資回収、顧客との契約、競争優位を左右する経営課題として捉える必要があります。
■主なポイント
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世界の高性能バッテリー需要は現在の約1.6TWhから、2035年には6.8TWh超へ拡大する見通し
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ギガファクトリーの建設費は1拠点当たり10億~70億ドル、生産能力は年間5~100GWh規模
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バッテリーセル業界では量産開始が平均6~9カ月遅延
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年間40GWhのNMC811工場では、6カ月の量産開始遅延によって約2.5億ドル相当の価値を失うリスク
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一方、業界トップクラスの企業は着工から18~24カ月で量産開始
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遅延の背景には、製品・製造プロセス・工場設計の同時進行、新技術、人材不足、海外サプライチェーン、多数の関係者管理などがある
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成功の鍵は、①人材・組織能力、②実行管理、③工場の設計・建設の最適化
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AIや高度なアナリティクスを活用し、数十万通りの工程計画を評価するなど、工場建設そのもののデジタル化も進展している
■取材可能な主なテーマ
本件について、マッキンゼーのバッテリー、製造業、オペレーション、設備投資領域の専門家が、以下のテーマについて背景解説・個別取材に対応可能です。
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なぜギガファクトリーの量産開始は平均6~9カ月遅れるのか
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6カ月の遅延で2.5億ドルの価値が失われる構造とは
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18~24カ月で工場を立ち上げる先進企業は何が違うのか
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EV市場の成長鈍化と、BESS拡大がバッテリー工場投資に与える影響
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バッテリー工場の建設費10億~70億ドルをどう管理するか
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中国・韓国などアジアに集中する製造設備サプライチェーンの影響
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日本の電池・自動車・設備メーカーが海外ギガファクトリー建設で直面する課題
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AI・生成AIは巨大工場の建設計画をどう変えるのか
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数十万通りの工程をAIで比較する「次世代プロジェクト管理」
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バッテリー技術の競争から「量産立ち上げ力」の競争へ
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日本企業がギガファクトリー市場で競争優位を築くための条件
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