【徳島大学】細胞内の「液滴」は、中身が変わると働きも変わる!―液滴の中身が硬さを変え、細胞骨格の形成を切り替える仕組みを発見―

国立大学法人徳島大学

令和8年10月30日

国立大学法人徳島大学

https://www.tokushima-u.ac.jp/

■ポイント

①細胞内の「液滴」が、細胞骨格をつくる働きを調節することを発見

 細胞の形や接着を支えるアクチン線維※1の形成に、JRAB/MICAL-L2※2 というタンパク質がつくる液滴が関わることが明らかになりました。

②液滴の「中身」が変わると、硬さと働きが大きく変化

 精製タンパク質を用いた試験管内実験※3では、Rab13※4が加わると液滴の硬さは約1.5倍になり、アクチン線維束※1の形成面積は約10分の1に減少しました。

③液滴の構成分子によって細胞骨格の形成を切り替える新たな仕組みを提示                                  
 細胞が場所に応じて異なる骨格構造をつくり、細胞同士の接着を調節する仕組みの理解につながります。

研究結果に基づきChatGPTを用いて作成した模式図(実際の観察画像ではありません)

 ■概要

  細胞は、形を保ち、移動し、隣の細胞と接着するために、アクチンというタンパク質からなる細胞骨格を絶えず組み替えています。しかし、同じ細胞の中で、場所に応じて太さや形の異なるアクチン線維束がどのようにつくり分けられるのか、その仕組みには不明な点が残されていました。

 徳島大学フォトニクス健康フロンティア研究院 分子細胞機能ユニットの坂根亜由子イニシアティブユニットリーダーらの研究グループは、細胞内の「液滴」の中身が変わることで、細胞骨格をつくる働きまで変化することを明らかにしました。JRAB/MICAL-L2というタンパク質が形成する液滴は、太いアクチン線維束の形成を促進します。一方、Rab13というタンパク質がこの液滴に加わると、液滴の硬さは約1.5倍となり、アクチン線維束の形成面積は約10分の1に減少することが、精製タンパク質を用いた試験管内実験で明らかになりました。また、JRAB/MICAL-L2を欠損させた上皮細胞では、細胞周辺部の太いアクチン線維束や接着構造が乱れ、細胞同士の接着も不安定になりました。これらの結果は、液滴が単なるタンパク質の集合体ではなく、その構成分子に応じて物理的性質と働きを変え、細胞骨格の形成に関わることを示しています。

 本成果は、細胞内の液滴が分子を集めるだけでなく、その「中身」の変化によって働きを切り替えるという、新たな細胞制御の考え方を提示し、細胞の形や接着を支える仕組みの理解を深めるものです。本研究は、2026年10月29日21時(日本時間)に国際学術雑誌『Journal of Cell Science』に掲載されました。

■研究の背景と経緯

 アクチン細胞骨格は、細胞の形、運動、細胞外基質との接着、細胞同士の接着など、多くの生命現象を支える重要な構造です。アクチン線維は束を形成しますが、その太さや配置は細胞内の場所によって異なります。例えば、上皮細胞では、細胞の外側の縁には比較的太いアクチン線維束が形成される一方、細胞同士が接する場所には細いアクチン線維束が形成されます。しかし、こうした場所によるアクチン線維束の形態の違いが、どのような仕組みによって生み出されるのかは、十分に明らかになっていませんでした。

 研究グループはこれまで、低分子量Gタンパク質Rab8AやRab13の標的タンパク質であるJRAB/MICAL-L2が、アクチン線維やアクチン結合タンパク質と相互作用し、細胞運動や細胞間接着に関わることを明らかにしてきました。また、JRAB/MICAL-L2が液-液相分離(LLPS)※5によって液滴を形成することも報告していました。しかし、この液滴がアクチン細胞骨格の形成にどのような役割を果たすのか、また液滴に含まれる分子が変化したときに機能がどのように変わるのかは分かっていませんでした。

 そこで本研究では、培養上皮細胞、精製タンパク質を用いた再構成実験、超解像顕微鏡、光–電子相関顕微鏡法(CLEM)、蛍光退色後回復法(FRAP)※6、高速原子間力顕微鏡を用いた高速インラインフォースマッピング(HS-iFM)※7による力学計測などを組み合わせ、JRAB/MICAL-L2液滴とアクチン線維束形成との関係を解析しました。

■研究の内容と成果

 まず、ゲノム編集技術であるCRISPR-Cas9法を用いてJRAB/MICAL-L2を欠損させた上皮細胞を作製しました。欠損細胞では、細胞周辺部の太いアクチン線維束が疎になり、接着斑の成熟と安定性が低下しました。また、細胞間接着部位ではアクチン線維の配列が乱れ、タイトジャンクション(密着結合)やアドヘレンスジャンクション(接着結合)を構成するタンパク質の連続した局在も失われました。これらの異常はJRAB/MICAL-L2を再発現させることで回復しました。

  次に、アクチン重合阻害剤ラトランクリンAで上皮細胞内のアクチン線維を一時的に崩壊させると、細胞質にJRAB/MICAL-L2の液滴様構造が形成されました(図1、蛍光標識※8により観察)。この構造は1,6-ヘキサンジオール処理※9によって減少し、ラトランクリンAを除去すると消失してアクチン線維束と細胞間接着が再形成されました。さらに、液滴形成を弱めると、太いアクチン線維束と連続した細胞間接着の回復が低下しました。

図1:JRAB液滴形成(細胞系)

 精製タンパク質を用いた試験管内実験では、JRAB/MICAL-L2が液滴を形成している条件で太いアクチン線維束の形成が促進されました。JRAB/MICAL-L2は液滴からアクチン線維束へ移動し、小さなアクチン線維束をつなぐことで太い束の形成と安定化に寄与すると考えられました(図2、蛍光標識により観察)。

図2:JRAB液滴によるアクチン線維束形成の促進(試験管内実験)

 さらに研究グループは、液滴の「中身」が変わると働きも変わるのかを調べました。Rab13はJRAB/MICAL-L2液滴に取り込まれ、精製タンパク質を用いた試験管内実験では、Rab13を含む液滴によるアクチン線維束の形成面積が、JRAB/MICAL-L2単独の液滴の場合と比べて約10分の1になりました(図3、蛍光標識により観察)。

図3:JRAB–Rab13液滴によるアクチン線維束形成の抑制(試験管内実験)

 高速原子間力顕微鏡による測定では、Rab13を含まない液滴の弾性率※10は153±36 kPaであったのに対し、Rab13を含む液滴では228±81 kPaとなり、約1.5倍の硬さになることが示されました。FRAP解析でも、Rab13を含む液滴ではJRAB/MICAL-L2の動きが低下する方向への変化が認められました(図4)。

図4 : 左:HS-iFM による液滴の硬さの測定、右:FRAP による液滴内部での JRAB の流動

 これらの結果は、液滴の構成分子が変わることで物理的性質と機能が変化し、アクチン線維束形成を促進する状態と抑制する状態が切り替わる可能性を示しています。つまり、細胞内の液滴は「できるかどうか」だけでなく、「何が入っているか」によっても働きが変わると考えられます。

図5:本研究から提案される細胞骨格形成の制御モデル

■今後の展開

 本研究は、細胞内の生体分子凝縮体である液滴が単に分子を集める場ではなく、構成分子の変化に応じて物性と機能を切り替え得ることを示しました。細胞骨格と細胞接着は、組織の形成や維持、細胞の移動など、生命活動の基盤となる仕組みです。今後、JRAB/MICAL-L2液滴に含まれる分子をさらに同定し、液滴の形成・成熟・組成変化が細胞内のどの場所、どのタイミングで起こるのかを明らかにすることで、これらの仕組みの理解が進むと期待されます。

 さらに、液滴の物理的性質の変化と細胞機能を結び付ける原理を明らかにすることは、相分離研究を液滴の「形成」から「状態変化と機能制御」へと発展させ、将来的には組織形成や細胞運動の異常を理解するための基礎研究にもつながると考えられます。

■用語解説

※1)アクチン線維・アクチン線維束:

 アクチンというタンパク質がつながってできる細い線維と、それらが束になった構造です。細胞の形を保ち、細胞の移動や接着を支える役割があります。

※2)JRAB/MICAL-L2:

 低分子量Gタンパク質Rab8A、Rab13と結合する標的タンパク質です。アクチン線維や複数のアクチン結合タンパク質とも相互作用し、細胞骨格の再編成や細胞間接着に関わります。

※3)試験管内実験:

 細胞の中ではなく、精製したタンパク質などを用いて、試験管内などの人工的な条件で行う実験です。

※4)Rab13:

 細胞内の膜輸送や細胞間接着などに関わる低分子量Gタンパク質です。本研究では、JRAB/MICAL-L2液滴の構成分子として液滴の性質と機能を変化させることが示されました。

※5)液-液相分離(LLPS):

 細胞内のタンパク質やRNAなどが、周囲から分かれて液滴状に集まる現象です。このように形成される「液滴」は、膜で囲まれていない分子の集合体で、特定の分子を集めたり、細胞内の反応を調節したりする働きがあります。このような集合体は「生体分子凝縮体」とも呼ばれます。

※6)蛍光退色後回復法(FRAP):

 蛍光標識した分子の一部を強い光で退色させ、その後の蛍光回復を測定することで、分子の動きや交換のしやすさを調べる方法です。

※7)高速インラインフォースマッピング(HS-iFM):

 高速原子間力顕微鏡の探針を試料表面に高速で押し当てながら走査し、表面の形状と同時に硬さ(弾性率)の分布を短時間で画像化する測定技術です。本研究では、JRAB/MICAL-L2 液滴の硬さの評価に用いました。

※8)蛍光標識(GFP、mCherry、Alexa Fluor 647):

 細胞内の特定のタンパク質や構造を蛍光によって観察するための方法です。GFPは緑色、mCherryは赤色の蛍光を発するタンパク質で、Alexa Fluor 647 (647)は遠赤色の蛍光色素です。これらを使い分けることで、複数の分子や構造の位置関係を観察できます。

※9)1,6-ヘキサンジオール処理

 分子同士の弱い相互作用を妨げる作用を持つ化合物を用いた処理です。細胞内でタンパク質が集まって形成される液滴様構造を不安定化させることがあり、その構造の性質を調べるために用いられます。

※10)弾性率:

 物質が変形しにくい程度を表す指標です。本研究では、液滴の硬さを評価するために用いています。

■謝辞

 本研究は、徳島大学フォトニクス健康フロンティア研究院 分子細胞機能ユニットの坂根 亜由子 イニシアティブユニットリーダーの研究グループを中心に、同大学の堀川 一樹 教授、米村 重信 名誉教授、茂谷 康 准教授、大学共同利用機関法人自然科学研究機構生命創成探究センター(ExCELLS)のChristian Ganser 特任准教授、加藤 薫 特任研究員、名古屋大学の内橋 貴之 教授(生命創成探究センター 客員教授)、愛知医科大学の松下 夏樹 准教授、岡山大学の竹居 孝二 名誉教授、山田 浩司 准教授、神戸大学の川辺 浩志 教授、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所, 医薬基盤研究所の片桐 豊雅 研究所長、松下 洋輔 研究員らとの共同研究により行われました。本研究は、JSPS科研費(21K06838、JP24K01309、JP26H01626)、文部科学省「共同利用・共同研究システム形成事業~学際領域展開ハブ形成プログラム~」(JPMXP1323015482)、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所のプロジェクト研究費、武田科学振興財団、財団法人大阪基礎医学研究奨励会、徳島大学研究クラスター、J-PEAKS(JPJS00420240022)、自然科学研究機構ExCELLS共同利用研究(22EXC346)等の支援を受けて実施されました。

■論文情報

掲載誌:Journal of Cell Science

論文名:The molecular composition of JRAB/MICAL-L2 droplets controls site-specific actin bundle morphology to drive cell–cell adhesion

著者名:Ayuko Sakane*, Christian Ganser, Kazuki Horikawa, Chie Sakamoto, Mayu Sakai, 

Maho Okada, Nodoka Ono, Natsuki Matsushita, Hiroshi Yamada, Kohji Takei, Kou Motani, 

Yosuke Matsushita, Toyomasa Katagiri, Kaoru Katoh, Hiroshi Kawabe, Shigenobu Yonemura, 

Takayuki Uchihashi, Takuya Sasaki(*責任著者)

DOI番号: 10.1242/jcs.264804

■徳島大学に関する情報

・徳島大学×J-PEAKS

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本社所在地
徳島県徳島市新蔵町2丁目24番地
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設立
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