ノンフィクションの名作『あの戦争から遠く離れて』の著者が母となり、子へと家族の歴史を語りつぐ。
「中国残留孤児」という言葉が生まれる前に、自力で日本の家族を探し、中国からの帰国を果たした青年・城戸幹を父に持つ城戸久枝が、子の世代へとあの戦争を伝える、初の児童書作品。
- 著者の父・城戸幹の半生を描いた『あの戦争から遠く離れて』の児童書版
著者の父・城戸幹(きど・かん)は、敗戦後の混乱期、3歳のときに家族とはぐれ、中国にたったひとりで残された、中国残留孤児の一人です。
中国人の優しい養母に引き取られ、「孫玉福(スンユイフー)」として大切に育てられた幹でしたが、成長するにつれ「日本人」であることの障壁を度々感じるようになります。同時に自身が「日本人である」という自意識、祖国への思いが日に日に強くなり、ついに25年後に自力で日本への帰国を果たします。出来うる限りの日本人としての自身の情報を収集し、日本赤十字社に300通を越える手紙を書いた結果、家族がみつかったのです。中国残留孤児の、初めての帰国でした。
それは、日中国交正常化前にして、文化大革命のまっただ中である1970年のこと。「中国残留孤児」という言葉もまだなく、政府の支援もなかった時代の、幾多の困難を乗り越えての帰国でした。
著者は、ときに命の危険にさらされながらも祖国への帰国を果たした父の激動の半生を『あの戦争から遠く離れて』にまとめ、大宅壮一ノンフィクション賞、講談社ノンフィクション賞ほか多数の賞を受賞しました。
本書はその児童書版ともいえる、現代の子どもたちにむけて書きおろした作品です。
- 家族の歩んだ歴史についてふりかえるきっかけとなる作品
本書は、著者が、当時5歳だった息子に「じいじが迷⼦になっちゃったお話、聞かせて」とせがまれて、読み聞かせをはじめたことがきっかけとなり、現在、小学3年生になった息子に、改めて⽗親の半⽣を語り継ぐという形式で描かれています。本書にでてくるやりとりは、すべて、実体験をもとに描かれています。
自分が生まれる前の話だから関係ない、「戦争があった」という事実さえ知っていたら良い、と思うかもしれませんが、著者は史実だけではなく、「家族の物語」として語りつぐことの大切さをエピローグに書いています。
著者自身も戦争を知らない世代ですが、その父親は戦争によって人生を翻弄された一人です。そして、著者のみならず、日本人の誰しもが家族の歴史を遡れば必ず戦争の時代にたどりつきます。そこにある物語は皆一人一人全く異なります。読者は自分自身の家族の歴史を知ることで、「長くつながる物語の一部に、あの戦争があった」ということに気づくはずです。
家族で、家族の歩んだ歴史について、そして、あの戦争について、考えてみるきっかけを提供する作品でもあります。
戦争を体験した人がすくなくなる中、今こそ子どもたちに伝えておきたい物語です。ぜひ貴媒体でご紹介ください。
- 書籍概要
【著者紹介】
著:城戸久枝(きど・ひさえ)
1976年、愛媛県松山市生まれ、伊予市育ち。徳島大学総合科学部卒業。出版社勤務を経てノンフィクションライター。『あの戦争から遠く離れて── 私につながる歴史をたどる旅』(2007年/情報センター出版局。現在は新潮文庫刊)で大宅壮一ノンフィクション賞、講談社ノンフィクション賞ほか受賞。その他の著書に『祖国の選択──あの戦争の果て、日本と中国の狭間で』(新潮文庫)などがある。一児の母で、戦争の記憶を次の世代に語りつぐことをライフワークとしている。http://saitasae.jugem.jp/
絵:羽尻利門(はじり・としかど)
1980年、兵庫県生まれ、京都府育ち。立命館大学国際関係学部卒業。在学中に香港中文大学へ留学。貿易会社勤務ののちイラストレーターに。2006年、第7回インターナショナル・イラストレーション・コンペティションで優秀賞受賞。絵本に『夏がきた』(あすなろ書房)、さし絵作品に『坂の上の図書館』(さ・え・ら書房)、『天国にとどけ! ホームラン』(小学館)など多数。
【書籍詳細】
書名:じいじが迷子になっちゃった––––あなたへと続く家族と戦争の物語
作:城戸久枝
絵:羽尻利門
定価:1,600円+ 税
対象:小学校高学年から
サイズ:22cm×15cm
ページ数:186ページ
ISBN コード:978-4-03-645090-9
発売時期:2019年7月18日
◎偕成社HP書誌情報:
https://www.kaiseisha.co.jp/books/9784036450909
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