安全工学的視点からの高濃度水素吸入のリスク検証:「ハインリッヒの法則」に基づく人体内水素爆発事故の最悪シナリオ
MiZ株式会社(本社:神奈川県鎌倉市)は、高濃度水素吸入器に関連して報告されている人体内水素爆発事故について、安全工学の観点から分析を行いました。本分析では、「ハインリッヒの法則」を枠組みとして事故の発生構造を体系的に検証しました。
検証の結果、高濃度水素吸入器による爆発事故はすでに「ハインリッヒの法則」における「重大事故」の段階に達しており、かつ複数の重大事故が確認されていることが明らかになりました。安全工学的見地からは、同一の危険要因が除去されない限り、さらに深刻な事故が発生する可能性を予見できます。
背景:高濃度水素吸入器の爆発リスクに関する学術論文
MiZ株式会社と慶應義塾大学等の研究グループは、高濃度水素吸入器による水素爆発事故の危険性と、その防止のための低濃度水素発生技術の開発について、これまで複数の査読付き学術論文を発表してまいりました。同研究グループは、これらの論文を通して再三、高濃度水素吸入器の爆発危険性について警鐘を鳴らしてきました (図1)。
(論文1) 2015年 水素を爆発が起きない安全濃度に希釈する技術に関する論文
タイトル「分子状水素の摂取のための便利な方法:飲用、注射、および吸入」Med Gas Res. 2015 Oct 26;5:13
(論文2) 2019年 安全な水素吸入技術に関する論文
タイトル「水素ガス吸入器の爆発防止」Med Gas Res. 2019 Jul-Sep;9(3):160-162.
(論文3) 2023年 高濃度水素の爆発事故と吸入器選択ガイドラインに関する論文
タイトル「水素爆発事故を踏まえた水素ガス吸入器の選択ガイドライン」Med Gas Res. 2023 Apr-Jun;13(2):43-48
(論文4) 2026年 人体内水素爆発と低濃度水素療法に関する論文
タイトル「日本で発生した高濃度水素吸入器による防止可能な人体内水素爆発 ― 安全な低濃度水素療法への転換を提言」Int J Risk Saf Med. 2026 Jan 5:9246479251414573.

深刻化している高濃度水素吸入の爆発事故
MiZ株式会社は、2015年、既存文献の精査および吸入環境を想定した実証的検討に基づき、日常環境下では水素濃度が10%を超えると爆発の危険性があることを発表しました。これは理想的条件下で定義される水素の爆発下限界とは区別される、吸入環境を想定した実証値です。後述するように、この頃からすでに、高濃度水素吸入器の爆発事故が消費者庁に報告されていました。
2019年時点では、水素ガス吸入器の普及率はまだ低水準にありました。しかし、高濃度水素吸入器の爆発による「聴力低下」や「耳鳴り」といった、軽傷から重症に位置付けられる事故は増加傾向にあり、MiZ株式会社は高濃度水素吸入器による爆発事故が深刻化することを予見していました。
2022年には、高濃度水素吸入器の普及に伴い、実際に吸入器本体の爆発による火災や家財の損傷に加え、複数の人身事故が発生していることを改めて警告しました。
その後、2026年までの間に、高濃度水素ガス吸入によって人体内で水素爆発が発生し、顔面複雑骨折や肺組織の破裂に伴う大量出血といった深刻な人体内爆発事故が繰り返し報告されるようになりました(図2)。

事故の発生件数と事故の規模を拡大させている高濃度水素吸入器のスペック競争
こうした事故の推移を辿ると、高濃度水素吸入器の市場への普及に伴い、爆発の規模と人的被害が加速度的に拡大していることが分かります。その背景にあるのは、メーカー各社による「高濃度・高発生量」を追い求める過度なスペック競争です。安全設計を置き去りにしたスペック重視の姿勢が、吸入器本体の爆発にとどまらず「人体内水素爆発」という脅威をもたらすに至りました。
高濃度水素爆発による「死亡事故」発生の可能性
-「ハインリッヒの法則」が示す深刻化する高濃度水素爆発による重大事故-
「ハインリッヒの法則」は「1件の重大事故の背後には、29件の軽傷事故と300件のヒヤリハットが存在する」という知見に基づき、「重大事故」「軽傷事故」「ヒヤリハット」の三層構造を示した安全工学の基本原則です。これは、事故は偶発的に発生するものではなく、同じ危険要因が繰り返し存在する中で、確率的により深刻な事故へと発展することを意味します。
2019年と2023年に当社と慶應義塾大学の研究グループが、高濃度水素吸入器の爆発事故について警鐘を鳴らし始めてから現在に至るまで、事故の頻度が増加し、被害が深刻化していることは消費者庁の事故報告と学術論文からも確認できます。
2026年の論文を踏まえると、すでに高濃度水素吸入器の単独使用による爆発事故は、吸入器本体の爆発にとどまらず、鼻腔や肺といった呼吸器系内の水素濃度が爆発域に達し、「顔面複雑骨折」、「内臓破裂に伴う大量吐血」、「気管支裂傷に伴う大量出血」、爆音と衝撃波による「聴力低下」や「難聴」といった事故が発生していることが分かります。
これらの事故が深刻であるのは、水素爆発が外部環境ではなく、人体内部で起こり得るという点です。人体内部での爆発は、外部爆発と異なり回避が不可能です。とりわけ鼻腔は脳に近接し、肺や気道は呼吸を支える生命維持に不可欠な臓器であり、これらの内部での水素爆発は死亡事故に直結しやすい危険な事故形態です。
さらに事故の現場も、家庭内からエステサロンなどに拡大していることから、今後は病院などの医療機関での爆発事故も起こる可能性があります。
これらの事故について「ハインリッヒの法則」に当てはめてみると、高濃度水素の爆発事故は、消費者庁からも「重大製品事故」に認定された事例もあり、すでに「ヒヤリハット」や「軽傷事故」の段階を超えて「重大事故」の段階に達していると言えます。また「1件の重大事故」どころか「複数回の重大事故」が発生していることから、今後さらに深刻な事故が発生する条件がすでに整っていることを示しています。
このような状況において想定される次の段階は、医療機関における重大事故、なかでも死亡に至る事例の発生です。すでに複数の重大事故が確認されている現状を踏まえれば、これを単なる可能性としてではなく、安全工学の観点から十分に予見し得るリスクとして捉える必要があります(図3)。

時系列でたどる高濃度水素吸入器の単独使用による事故事例 -深刻化する爆発事故の規模-
(聴力低下)
事故発生年月:2015年1月
事故の概要: 昨年の暮れ、知人の紹介で水素吸入器を購入した。2度破裂して、聴力が低下した。
(耳鳴り)
事故発生年月:2016年2月
事故の概要:水素・酸素混合ガス吸入器を使用後、同機器を持ち上げたところ、爆音を発して蓋が飛び、耳鳴りの症状。
(家財破損)
事故報告年月日:2016年8月
事故の概要:水素吸入のため専用容器に水素発生剤と水を入れると爆発し、内容物が飛散して部屋中が破損した。業者に補償してほしい。
(事故頻発の報告1)
事故報告年月日:2022年8月
事故の概要:販売代理店からの情報提供。販売している水素酸素吸入機が爆発事故を10回以上起こしている。購入者に使用停止を伝えるべき。
(事故頻発の報告2)
事故報告年月日:2023年12月
事故の概要:水素酸素吸入器を販売する代理店である。扱っている吸入機が何回か爆発事故を起こしている。購入者に相談窓口を紹介したい。
(顔面内骨折)
事故発生年月日:2024年1月
事故の概要:高濃度水素・酸素吸入器を自宅玄関で使用中、鼻に挿していた器具が爆発。顔面内骨折し通院中。
(気管支裂傷に伴う大量出血)
事故発生年月:2024年9月
事故の概要:父が自宅で水素吸引機を使用中、大量出血し救急搬送された。気管支に穴が開きICUに入っている。
備考:令和7年5月30日に消費生活用製品の重大製品事故として公表済。この公表によれば、この事故を起こした吸入機メーカーは、事故報告書の提出期限を徒過し、消費者庁より厳重注意を受けている。
(内臓組織破裂)
事故発生年月:2024年10月
事故の概要:父が癌治療の為自宅で水素ガス吸入器を使用中パンと音がして血まみれになった。内臓組織が破裂し現在ICUにいる。
(顔面複雑骨折)
事故発生年月:2025年2月
事故の概要:母がエステ店で水素吸引を施術時に水素爆発して顔面複雑骨折をした。
安全性情報の正確な理解の重要性
一方で、当社が指摘する高濃度水素吸入の危険性に対し、異なる見解を示す情報も一部で発信されています。とりわけ、高濃度水素吸入器メーカーと関係を有するとみられる媒体や情報サイトの中には、当社の警告を取り上げつつも「過度に心配する必要はない」とする見解を示すものが確認されています。
さらに一部では、「高濃度水素の爆発性」という本質的な危険要因が、水素吸入器の比較・評価において十分に考慮されておらず、結果として爆発リスクを内在する高濃度水素吸入器が高く評価されている事例も見受けられます。
こうした情報が広く流通することで、利用者が水素爆発の危険性を十分に認識しないまま製品を選択し、事故の発生頻度の増加や被害規模の拡大につながるおそれがあります。安全性に関する情報発信には、高い倫理観と社会的責任が求められます。水素ガス吸入器の選択においては、「水素濃度に基づく爆発リスクの評価」を不可欠な判断基準として位置づけ、慎重かつ客観的な情報提供がなされることが重要です。
水素の爆発物性と高濃度水素吸入に対する安全軽視
小学校や中学校の教科書にも記載されているとおり、水素は広い爆発濃度範囲を持つ可燃性ガスであり、ロケット燃料として利用されるほど高いエネルギーを有しています。歴史的にも、ヒンデンブルグ号の爆発事故や東日本大震災における福島第一原子力発電所の原子炉建屋爆発など、水素が関与した事故は人命に関わる重大な災害につながり得ることが示されています。
また、工場や研究施設では、高濃度水素は特に注意を要する危険物として扱われ、消防法や労働安全衛生法などの法規制のもと、厳重な管理体制が求められています。漏洩対策、換気設備、防爆設計、静電気対策など、多層的な安全対策が講じられているのが一般的です。
近年、水素の健康分野への応用が注目される中、高濃度水素吸入器はエステサロンだけでなく、病院やクリニックにも普及しつつあります。一方で、「水素は拡散しやすいため危険性は低い」「特殊な条件でなければ着火しない」といった誤解や楽観的な認識が、一部のメーカーのみならず医療関係者にも見受けられます。
しかし、人体内水素爆発とされる事故が実際に報告されていることを踏まえると、工場や研究施設では厳重な管理が求められている高濃度水素が、吸入用途においてのみ安全性が軽視される傾向があるとすれば、その妥当性についてあらためて検証する必要があります。
とりわけ、患者の安全確保が最優先されるべき医療機関において、高濃度水素の爆発に起因する人身事故の可能性は看過できない問題です。水素吸入が普及しつつある今こそ、科学的根拠に基づいたリスク評価と慎重な安全対策の再確認が求められます。
社会実装で推奨されるのは爆発危険性を排除した「低濃度水素吸入」
MiZ株式会社が2019年から2026年の間に発表してきた学術論文では、爆発の危険性を排除した「低濃度水素吸入」への転換を一貫して提言してきました。
「ハインリッヒの法則」に照らせば、事故を防ぐ最も有効な方法は、事故の原因となる危険要因そのものを根本的に取り除くことです。高濃度水素吸入における最大の危険要因は、水素濃度が10%を超える爆発範囲に達し得るという点にあります。したがって、この危険要因を根本的に回避する水素濃度10%以下の「低濃度水素吸入」は、安全工学的にも合理的な選択といえます(図4)。
さらにMiZ株式会社は、水素濃度が安全閾値に近づいた場合や、水素ガスが機器内に漏洩した場合に安全装置が作動し、水素の供給を停止させる多重の安全装置を開発しています。
すでに重大事故が発生している状況において、ハインリッヒの法則が示すように、同じ危険要因が存在し続ける限り、事故は確率的により深刻化します。重大事故のみならず「死亡事故」という最悪のシナリオを回避するためにも、爆発の危険性を伴う高濃度水素吸入から、安全性の高い低濃度水素吸入への転換が求められます。

論文情報
1.2015年の水素濃度を爆発濃度以下に希釈する技術に関する論文
邦文タイトル:分子状水素の摂取のための便利な方法:飲用、注射、および吸入
英文タイトル:Convenient methods for ingestion of molecular hydrogen: drinking, injection, and inhalation
ジャーナル:Med Gas Res. 2015 Oct 26;5:13
URL: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4620630/
2.2019年の安全な水素吸入技術に関する論文
邦文タイトル:水素ガス吸入器の爆発防止
英文タイトル:Preventing explosions of hydrogen gas inhalers.
ジャーナル:Med Gas Res. 2019 Jul-Sep;9(3):160-162.
URL:https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6779006/
3.2023年:高濃度水素の爆発事故と吸入器選択ガイドラインに関する論文
邦文タイトル:水素爆発事故を踏まえた水素ガス吸入器の選定ガイドライン
英文タイトル:Guidelines for the selection of hydrogen gas inhalers based on hydrogen explosion accidents.
ジャーナル:Med Gas Res. 2023 Apr-Jun;13(2):43-48.
URL:https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9555030/
4.2026年:人体内水素爆発に関する論文
邦文タイトル:日本で発生した高濃度水素吸入器による防止可能な人体内水素爆発 ― 安全な低濃度水素療法への転換を提言
英文タイトル:Preventable in-body hydrogen explosions from high-concentration H2 inhalers in Japan-Switch to safe, low-concentration hydrogen therapy.
ジャーナル:Int J Risk Saf Med. 2026 Jan 5:9246479251414573.
URL:https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/09246479251414573
5.低濃度水素吸入に関するガイドブック配布
https://e-miz.co.jp/pressrelease/pressrelease15.html
問い合わせ先
MiZ株式会社
神奈川県鎌倉市大船2-19-15
0467-53-7511
infoAe-miz.co.jp (Aをアットマークに置き換えてください)
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