妊娠中のお口の中の不具合、実は知らない間に発症しているかも!?
妊娠中こそ歯科健診を
※1 厚生労働省 令和元年度地域保健・健康増進事業報告
■妊娠中のお口の中の変化には気づきにくく、知らない間に歯肉炎などが発症している可能性も。
「妊娠前と妊娠中を比べて、口内の状態に変化を感じていますか」という質問をしたところ、69%が「変化は感じない」と答えました(図1)。しかし、論文によると、妊娠中に歯肉炎を発症している人の割合は約60%※2とも言われています。妊娠中、お口の中に変化が起こっていても、自分では気づいていない可能性が示唆されました。
■歯科健診の受診には、「胎児に影響する不安」を解消することがポイント。
妊婦歯科健診の受診率は約35%※1と言われていますが、「“胎児への影響が無い”ことがわかったら、または“歯科医院が妊婦さん向けに特別な配慮をしてくれる”ことを知っていたら、妊娠中に歯科健診を受けたい気持ちに変化はあったと思いますか」という質問には、72%の人が「高まった※3」と答えました(図2)。
胎児に影響すると思うこととしては、受診時の姿勢(仰向けに横たわること)や精神的ストレス、レントゲン、麻酔、投薬などが挙がりました。歯科健診の受診を促進するポイントは、これらが胎児に影響するのではないかという不安を解消することにあるようです。
※2 久保ら、口腔衛生会誌,73:21–30,2023 歯肉出血のある者、歯周ポケットのある者の割合
※3 「歯科健診を受けたい気持ちが高まった」、「やや歯科健診を受けたい気持ちが高まった」 計
■妊娠中は歯肉炎などの発生リスクが高まります。生まれてくる赤ちゃんのためにも、歯科健診の習慣化を。
日本歯科大学附属病院マタニティ歯科外来
准教授 鈴木 麻美
博士(歯学)、博士(医学)
日本歯科大学歯学部卒業、日本歯科大学大学院歯学研究科修了後、歯周病を中心に臨床を行っている。日本歯科大学附属病院のマタニティ歯科外来開設にあたり、併任として妊婦の治療にも携わる。
妊娠中は特に、妊娠を維持するためのホルモン変化が口腔内の細菌叢などにも影響し、歯肉炎の発症や歯周炎の悪化などの炎症が起こりやすくなります。それに伴う炎症性物質産生により、子宮の収縮などによる早期出産や胎児の成長への悪影響がもたらされる可能性があります。そのため、実感しにくいお口の中の変化に気づくためにも、妊娠中にこそ歯科健診は受けていただきたいと思います。
また、歯科健診による胎児への影響を心配されていますが、受診の際にお腹が大きい場合やお腹が張るときには、膝を立てて横になる、少し左を向くなど、無理のない姿勢で受けることができます。
検査で用いるレントゲンの放射線量は、自然放射線の1年分の2%以下とごくわずかです。妊娠初期でもほとんど問題ないと言えます。
治療の際の歯科麻酔や飲み薬については、産科医と連携することでリスクを減らします。歯科診療の前に、産科医に歯科治療の可否、使用できる薬剤の確認をした上で、必要と判断された場合のみ最小限の使用としています。
妊娠中に歯科健診を受けることは、妊娠期特有の口腔内疾患の早期発見、早期治療に繋がり、元気な赤ちゃんの出産に繋げることができます。また、家族から赤ちゃんへのう蝕(むし歯)や歯周病原因菌の伝播を防ぐこともできます。かかりつけ歯科医院を持っておくと、自分だけでなく赤ちゃんや家族についても相談することができるので、是非、歯科健診を習慣化することをお勧めしたいと思います。
<歯科衛生士からのアドバイス>
公益財団法人ライオン歯科衛生研究所 歯科衛生士 久保田 好美
今回行った調査では、歯科健診を受けていない理由の上位に、「つわり等で体調が悪かったから(33%)」、「普段から治療以外で歯科医院に行く習慣がないから(28%)」、「むし歯などの不具合がないから(26%)」が挙がりました。
妊娠初期はつわりの影響や、出産後は育児等で忙しく、なかなか自分のための時間が取りにくくなります。妊婦歯科健診を受けるタイミングとしては、つわりなどが落ち着き、体調が安定してくる妊娠16週(妊娠5ヵ月)頃からおなかが大きくなる前の28週頃の安定期が受診しやすい時期と言えます。
しかし、この限られた期間の中で歯科医院を新たに探して受診することにハードルが高いと感じることもあります。理想的には、妊娠前から定期的に歯科医院を受診して習慣化しておくとよいでしょう。不具合があった場合、妊娠前に治療を済ませておくことができます。
受診率の低い妊婦歯科健診ですが、「むし歯が見つかり治療できた」「歯科医師が丁寧に診てくれた」など、受診した人の73%※4が満足したと回答しています。是非、受診をお勧めいたします。
※4 妊娠中歯科健診を受診された方(63名)の満足度(「非常に満足している」、「やや満足している」 計)
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