国内初、移植用ドナー豚の病原体検査パネルを開発
標的病原体数は世界最多、国内での異種移植実現に向けた大きな一歩
URL:https://doi.org/10.1111/xen.12825
本件のポイント
●異種移植用ドナー豚の感染症リスクを評価する病原体検査パネルを国内で初めて開発
●本パネルによって検査できる病原体数は現時点で世界最多、先行国を大きく上回る
●国内で開発中の異種移植ドナー候補となるブタの清浄性を検査することにも成功
背景
移植医療におけるドナー不足は慢性的な問題であり、それを解決しうる技術として異種移植に期待が集まっています。異種移植のドナー動物としてはブタが最も有望視されており、国内では本研究グループの長嶋教授らによってドナー候補となるブタの開発が進められています。
異種移植の実現に際しては、同種移植以上に、感染症リスクの検査が重要な課題です。すなわち、ドナーとなるブタが病原体を保有していないかを調べるための入念な検査が求められます。しかしこれまで国内では、異種移植の際に問題となり得る病原体の検査方法が整備されていませんでした。そこで本研究グループは、ブタを用いた異種移植に際して問題となりうる病原体を対象とした高感度PCR検査系のセット(病原体検査パネル)の開発に取り組みました。
研究内容と成果
厚生労働省は「異種移植の実施に伴う公衆衛生上の感染症問題に関する指針※注」の中で、「移植に際して危険性が排除されるべきとされる病原体」として、ウイルス44種、細菌25種、真菌2種、原虫18種の合計89種を挙げています。このうち最も感染リスクが懸念されるのは、母ブタから垂直伝播しうる病原体(おもにウイルス)であり、これらの検査系確立が急務でした。井上教授と三浦特任助教らは上記の89種のうち、とくに優先度の高いウイルス40種、細菌25種、原虫1種を対象とする高感度なPCR検査パネルを確立しました(表1)。本パネルによって検査できる病原体数は現時点で世界最多であり、例えば、異種移植で先行するニュージーランドの合計25種(ウイルス14種、細菌8種、原虫3種)を大きく上回るものです。また、本研究で確立したPCR検査系の大部分は、PCR反応条件が統一されているため、多くの病原体を一括で検査できるような工夫もなされています。
ついで、本研究で確立した検査パネルの有効性を評価するために、長嶋教授らが開発するドナー候補ブタの病原体検査を実施しました。このブタは、出産前の健康な母ブタの子宮から手術により仔ブタを取り出し、病原体の存在しない隔離施設で飼育する「U-iR法」を用いて生産されました。検査の結果、ドナー候補ブタからは、母ブタに感染履歴があり垂直伝播したと考えられるウイルス(ブタサーコウイルス2型)のみが検出され、U-iR法では垂直伝播に注意すれば高い清浄性を実現できることが確認されるとともに、本検査パネルの有効性が検証されました(図1)。
今後の期待
近年、異種移植実現の機運が国内でも急激に高まっていますが、これには感染症リスクの検査体制の整備が欠かせません。本研究の成果は、国内外を問わず、異種移植の実現に向けた最重要課題のうちの一つである「ドナーブタの感染症リスク評価」に大きく貢献すると考えられます。なお、本研究で開発された検査パネルは特許出願済み(特願2023-147198)で、実用化の際には研究グループの厳密な管理のもと精度を損なわない体制で運用される見込みです。
特記事項
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)課題番号JP15gm0010002、JP20pc0101056および日本IDDMネットワークの支援を受けて実施されました。
論文情報
論文名:Development of a panel for detection of pathogens in xenotransplantation
donor pigs(和訳:異種移植用ドナー豚の病原体検査パネルの開発)
著者名:大給日香里1*、三浦広卓1*、瓜生遥1,2、小林良奈2、安部加奈子1、中野和明3、
梅山一大3、長谷川航希3、塚原隆充4、長嶋比呂志3、井上亮1,2(*共同筆頭著者)
1 摂南大学農学部応用生物科学科 動物機能科学研究室
2 京都府立大学大学院生命環境科学科
3 明治大学農学部生命科学科
4 株式会社栄養病理学研究所
雑誌名:Xenotransplantation
DOI:10.1111/xen.12825
公表日:2023年9月29日 (オンライン公開)
補足説明
※注 異種移植の実施に伴う公衆衛生上の感染症問題に関する指針
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/kousei/i-kenkyu/isyoku/sisin.html
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