T4IS2026 Strategy Dialogue『ケアする都市』——縦割り行政と「ラスト・ワン・パーソン」、超高齢時代の都市デザイン
行政の縦割りが最大の摩擦。ホスピタリティの1対1の技を都市規模へ——「市民」と「お客様」を同じ人として

本リリースのポイント
・セクターを越えて最も一貫した診断は、行政の「縦割り」だった。 教育・スポーツ・観光・市民課などの部局がそれぞれ独立して施設と予算を更新し、横断的な意図が働かない。出身分野を問わず、参加者は同じ壁に突き当たっていた。
・自治体の投資判断には、来場者数と経済波及効果という指標が拘束力を持つ。 ケアの質やウェルビーイングの価値は、これらの指標では自然には捉えられない——この緊張を、誰も完全には解けなかった。
・「ラスト・ワン・マイル」から「ラスト・ワン・パーソン」へという再構成が、強い賛同を得た。 ホスピタリティ業界がすでに持つ1対1の技を都市規模の公共サービスへ広げる、という発想である。
・ケアに関わる都市の課題は、政策・産業・空間・技術・施設サービスという少なくとも5つの層にまたがる。 ほとんどの組織は一つの層の内側でしか動けていない。
・複数年の連携協定(職員の相互出向を含む)、食を横断プラットフォームとする手法、養生による温泉地再生など、実際に機能している仕組みが具体的に共有された。
セッション概要
ソーシャス株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役:尹世羅)は、2026年4月26日(日)、東京ガーデンテラス紀尾井町 紀尾井カンファレンスにて開催した招待制エグゼクティブサミット「Tech for Impact Summit 2026(https://tech4impactsummit.com/ja)」(以下、T4IS2026)において、非公開セッション「Strategy Dialogue」を実施いたしました。本リリースは、そのうちの一つ『Cities That Care(ケアする都市)』の議論を要約するものです。本セッションは日本語で実施されました。
本セッションはチャタムハウス・ルールのもとで実施されました。したがって本リリースは、議論されたテーマ・論点・提案を記録するものであり、特定の発言を個人または組織に帰属させるものではありません。なお、本セッションの登壇者のうち、プロフィールの公開に同意された方々は、公式セッションページ(https://tech4impactsummit.com/ja/sessions/designing-cities-for-the-mind/)でご確認いただけます。
参加したのは、ホスピタリティと施設運営、MICE・国際会議運営、官民連携アドバイザリー、建築・データ基盤の設計、ビジネスメディア、都市研究のコンサルティングなど、最大10名規模のクローズドな円卓に集った実務家たちです。財政が縮小し、人口が高齢化・減少し、デジタルとAIの道具が現れつつあるなかで、日本は都市・公共施設・ケアの基盤をウェルビーイング、公平性、レジリエンスを軸にどう再設計すべきか——各参加者が直面する障壁から、機能した横断的な仕組み、そして具体的なパートナーシップの表明へと議論が進みました。
議論のハイライト
1. 最大の摩擦は行政の「縦割り」
セクターの違いを越えて最も一貫した診断は、縦割りでした。公共部門の各部局(教育、スポーツ、観光、市民課など)は、それぞれ独立して自らの施設と予算を更新し、横断的な意図が働きません。ホスピタリティ、MICE、アドバイザリー、建築、研究——どの分野から来た参加者も、同じ壁に突き当たっていました。
特徴的な失敗の形も語られました。誘致したイベントが地方の会場に世界中の来場者を呼び込んでも、開催地の市民課はそこに関わらない。イベント誘致が別の部局の所管だからです。地域インバウンドが本来目指すものとは逆に、市民は来訪者と出会わないまま終わる。市政の側にも対応する構図がありました。ある事業が対象となる住民層を指定すると、その枠の外にいる人は規則によって排除される。個別対応のできる外部のパートナーがいなければ、自治体は事業の境界をまたぐケアを届けられないのです。
2. 誰も解けなかった「指標」の緊張
参加者は、自治体の投資には説明可能な数字が要るという政治的な現実に、正面から向き合いました。議会の承認には、見込みの来場者数と経済波及効果が、いまも拘束力を持つ評価基準です。「街のためになるか」だけではもはや足りず、議会は具体的な目標値を求めます。
しかしケアの質やウェルビーイングの価値は、これらの指標では自然には捉えられません。注意を促す実例も挙げられました。ある都市のインクルーシブな遊び場が、結果的に障害のない利用者で占められ、本来その施設が想定していた人々を締め出してしまった。来場者数という見出しの数字は、成功を誤って伝えていました。属性別・再来訪別のセグメント分析が最低限の補強だという点では一致したものの、完成された代替指標は生まれませんでした。希望として共有されたのは、AIが、対面の価値や対話の質といった「ソフト」な次元を、議会の精査に耐える形で定量化しうるという見通しです。それが現時点で存在すると主張した参加者はいませんでした。
3. 「ラスト・ワン・マイル」から「ラスト・ワン・パーソン」へ
強い賛同を得た再構成がありました。ホスピタリティ業界はすでに1対1で動いています。アレルギー対応、アクセシビリティの調整、多言語のコンシェルジュ、多世代のイベント設計。これらの技能はすでに存在し、展開可能であり、そして民間の商業施設の内側に閉じ込められています。
業界自身が、その技能を都市規模の公共サービスへ翻訳できていない——この点について、ホスピタリティ業界は「ケアする都市」の使命にとって最も活かしきれていないセクターであり、その自覚において最も自己批判的だ、という指摘がありました。提案された構造的な動きは、市民とお客様を「異なる行政上のフィルター越しに見た同じ人」として捉えることです。ホスピタリティの技能が自治体の規模で適用されれば、ケアは住民を集団として届ける形から、個別に応じる形へと移れる。「ラスト・ワン・マイル」が「ラスト・ワン・パーソン」になるのです。AIは、それを規模の問題として扱えるようにする層として——リアルタイムの個別対話、そして特定のニーズに対する人への引き継ぎとして——位置づけられ、日本はこのハイブリッドなモデルを牽引するのに適している、と語られました。
4. ケアの問題は「5つの層」にまたがる
ある参加者は、印刷した枠組みを示しながら、ケアに関わる都市の課題が複数の層にまたがることを論じました。政策・規制、産業・活動セクター、空間・建築・インフラ、技術・デジタルの基盤、施設レベルのサービス——少なくともこの5つです。
主張は明快でした。ケアを志向する都市の課題の多くは、これらの層をまたいだ協調を要するのに、ほとんどの組織は一つの層の内側でしか動いていない。たとえばPFI事業を不安定にしている建設費の高騰と労働力不足は、政策と産業の層に発するものであり、施設や建築の層では解けません。これが、個々の事業者が縦割りを抜け出したいと願っても縦割りが残り続ける、構造的な理由として論じられました。
5. 実際に機能していること
実例も具体的に共有されました。民間事業者と自治体のあいだの複数年にわたる連携協定で、双方向の職員出向を含むもの。ある協定はすでに3年目に入り、両者の従業員が1年単位で相手の組織に入り込んでいました。「食」は、最も信頼できる関わりとパートナーシップの回路として繰り返し挙げられました。
Park-PFIによる地域再生の事例では、年間およそ90万人を集める地域の施設が新たなホテル投資の核となり、高速鉄道の延伸計画が需要予測を大きく押し上げていました。「養生」を掲げる鹿児島の温泉地再生の取り組みは、人・事業・自然という3つのケアの対象が、どれか一つを犠牲にするのではなく同時に良くなることを成功条件とするモデルとして紹介されました。建築の出身から都市規模の設計を支える「データの基盤」づくりへと移った参加者からは、ある東京の会場が持つ庭園や伝統建築を、撮影の背景としてだけでなくデジタル資産として扱う、という申し出も示されました。
6. 「横浜のパラドックス」と多様性のデフォルト失敗
セッション終盤、横浜が「日本最大の“田舎”」と表現されました。国際的に見え、東京に隣接していながら、多様性とイノベーションへの実際の関与では後れている、という指摘です。能動的に介入しなければ、登壇者の構成は——スタートアップの文脈であってもなくても——同世代の日本人男性のままになる。これは過去の話ではなく、いまも続く運用上の現実として扱われました。「ケアする都市」にとっての含意は明快でした。デザインによる公平性は、事業の段階での意図的な多様性の設計からのみ生まれ、会場の選び方や打ち出し方だけからは生まれないのです。
クロージング——継続コミットメント
セッションの最後には、複数の参加者が具体的な取り組みを表明しました。自治体をまたぐインクルーシブ・スポーツとケア施設の計画における、境界を越えたプログラム設計。大規模なMICE・国際会議の周辺で、対面の価値を可視化するための、非収益型のサイドイベントの実験。横断的な地域パイロットを全国に届けるメディア報道。福岡の会場での、健康データの取得と地場の食の開発を組み合わせたケア+AIのパイロット。他地域で生まれた横断的なパイロットの検証の場としての横浜。日本の超高齢社会のケアモデルの国際的な発信。そして、高齢者介護ではなくキャリアを通じた健康設計として打ち出される、新たな地域の長寿プロジェクトです。
未解決の問いも残りました。議会の審査に耐える、政治的に説明可能なケアの質の定量化基準とは何か。ホスピタリティ業界は、業界団体の規模で、その公共サービスへの応用可能性を自ら認識し打ち出せるのか。「ラスト・ワン・パーソン」を支える仕組みは、誰が設計し、どこが担うのか。これらは、今後の Strategy Dialogue に持ち帰るべきテーマとして記録されました。
関連リンク
・本セッションの公式ページ(登壇者プロフィール):https://tech4impactsummit.com/ja/sessions/designing-cities-for-the-mind/
・Tech for Impact Summit 公式サイト:https://tech4impactsummit.com/ja
・ソーシャス株式会社 コーポレートサイト:https://socious.io/ja
メディア取材のお問い合わせ
本セッションの取材に関するお問い合わせは、Tech for Impact Summit 運営事務局(summit@socious.io)までご連絡ください。
本セッションはチャタムハウス・ルールのもとで実施されたため、発言は特定の個人・組織に帰属させていません。本リリースに記載した内容は、出典「Tech for Impact Summit 2026 Strategy Dialogue『Cities That Care』(2026年4月26日、東京・紀尾井カンファレンス)」を明記の上、ご利用いただけます。
Tech for Impact Summit について
Tech for Impact Summit(T4IS)は、ソーシャス株式会社が2023年から東京で主催する、テクノロジーと社会的インパクトの交差点を扱う招待制エグゼクティブサミットです。SusHi Tech Tokyo の公式パートナーイベントとして開催され、ビジネス・政策・文化の各領域のリーダーが、人類が直面する最も緊急な課題への対応を議論しています。第4回となる Tech for Impact Summit 2027 は、2027年5月18日(火)・19日(水)に東京で開催予定です。
お問い合わせ先
ソーシャス株式会社
Tech for Impact Summit 運営事務局
・Email:summit@socious.io
・公式サイト:https://tech4impactsummit.com/ja
会社概要
ソーシャス株式会社
・業種:情報通信
・本社所在地:東京都中央区日本橋3丁目2番14号1階
・代表者名:尹世羅
・設立:2021年07月
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