灰の物理的特性と化学的特性に着目して、燃焼プラント内の灰の付着を防ぐ

~燃焼プラントの安定運転を支えるための灰粒子の高温付着抑制技術を産学連携により開発~

三機工業株式会社

概 要

 国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」という)エネルギープロセス研究部門の堀口 元規 研究グループ付、東京農工大学大学院生物システム応用科学府の奥泉 達也 氏(研究当時)、伊藤 敦貴 氏(研究当時)、同大学の神谷 秀博 名誉教授、同大学大学院グローバルイノベーション研究院の岡田 洋平 教授、三機工業株式会社(社長:名古屋 和宏)の伊東 賢洋 氏、刀根 康一郎 氏は、燃焼プラント内での灰の高温付着を抑制するために、灰の化学的特性に加えて物理的特性にも着目し、薬剤コーティングによる新たな灰の付着性制御技術を開発しました。

 下水処理で発生する汚泥や廃棄物の燃焼プラントは、生活を支える重要なインフラです。その際に発生する熱エネルギーを効率よく回収することで省エネルギーにもつながります。しかし、燃焼プラントの内壁への灰の付着によって、エネルギー効率の低下やプラントの腐食を引き起こすことが問題になっており、この課題解決のために灰への薬剤添加によって付着を防ぐ技術の開発を行ってきました。

 これまで灰の付着を抑制する薬剤は、灰の化学的特性に基づいて設計されてきましたが、実際のプロセスにおいてその特性は経時的に変動するため、薬剤の効果もそれに伴って変化します。今回、特に下水処理工程において深刻な付着を引き起こすリンを含む灰を対象として、薬剤でコーティングする高温付着抑制技術を新たに開発しました。薬剤の作用を解析した結果、薬剤で灰をコーティングすると化学的な効果だけでなく、実効的な灰の粒子径を大きくするという物理的な効果を加えることで、高温付着性の指標である粉体層強度を83%も低下させることに成功しました。

 今回開発した薬剤の添加による化学・物理両面からの灰の高温付着抑制技術は、実際の燃焼灰にも適用することができ、燃焼プロセスの安定化に貢献します。

なお、この研究成果の詳細は、2026年2月27日に「Chemical Engineering Journal」に掲載されました。

下線部は【用語解説】参照

開発の社会的背景

 下水汚泥や廃棄物の燃焼プラントは、廃棄物の減量化や無害化するという役割に加え、燃焼時の熱エネルギーを利用して発電を行うなど、生活を支える重要なインフラです。しかし、燃焼プロセスで生じた灰がプラントの伝熱面や炉壁に付着・堆積し、流動不良やダクト閉塞などを引き起こすことで、運転に支障を与える問題が2010年頃から全国の焼却炉で顕在化しています。特に、下水汚泥やバイオマスに多く含まれるリンやアルカリ金属は、融点が低く燃焼プラント内部のような高温条件では容易に融けてしまうため、石炭などの燃焼時に比べて灰が付着しやすくなります。燃焼プラント内部への灰の付着を抑えることによって燃焼プロセスの運転を安定化させる効果が期待されます。

研究の経緯

 これまで研究グループは、灰の特性と高温付着性の関係性に関する知見を積み重ねてきました※1), 2)。実際のプラントから排出された燃焼灰のほか、特性を単純化した灰のモデル化合物を活用し、付着性評価技術と組み合わせることで、灰の特性が付着性に与える影響を評価してきました。代表的な成果として、リンを含む成分は融点が低く、深刻な高温付着を引き起こしうることや、適切な量の鉄を添加してリンと反応させることで、融点の高い成分を形成させ、リン由来の付着性を抑制できることを明らかにしています。これは、「鉄とリンとの反応によって灰の融点が変化する」という化学的な特性に着目したことによる成果です。

 ところが、適量を超える薬剤の添加は付着を促進してしまう可能性があります。最適な量は、灰の組成と関係がありますが、灰の組成が経時的に変化するため、最適量は時々刻々変化します。このように、薬剤設計を化学的な知見に依存することの限界も顕在化しています。一方で、研究グループは、灰の物理的特性である粒子径が高温付着性に影響を与えることも見出してきました。一般に、粉体の粒子径と付着性の間には反比例の関係があるとされています。研究グループは、この関係が高温の灰粒子でも成り立つことを明らかにし、灰の粒子径が大きくなるほど、高温付着性が低下することを見出してきました。そこで、灰の化学的特性に加えて物理的特性にも着目し、灰を薬剤でコーティングし、粒子径を大きくする新たな高温付着抑制技術の開発に取り組みました。この取り組みは、三機工業株式会社が納入した下水汚泥焼却炉においても上述のような問題が発生していたことを受け、産学連携で進められたものです。産総研および東京農工大学が灰のモデル化合物を用いた基礎研究と検証を、三機工業株式会社が実際の燃焼灰を用いた実証・検証を担当し、本技術の開発に至りました。

研究の内容

 本研究は、高温(500~900℃)条件で灰粒子の付着を抑えることを目的としています。付着抑制効果を判定するためには、粒子の付着性を高温条件で評価することが必要不可欠ですが、定量的な評価手法はほとんどありません。研究グループは、高温条件で粒子の付着性を定量化できる独自の粉体層強度測定装置を有しています(図1)。この装置では、粒子をサンプル容器に詰めてその集合体(粉体層)の引張強度を測定することで、付着性を定量化しています。測定セルなどの工夫により高温(最高1000℃)条件で強度測定を行うことができるため、高温付着性を定量化できます。

図1 独自の粉体層強度測定装置

  今回、リンが原因となる灰の付着を抑えるために化学的な観点から、薬剤成分として強い効果が期待される鉄系化合物を選定しました。リンと鉄の反応によって、融点の高い成分が生成して灰が融けにくくなります。物理的な観点から、薬剤成分で灰粒子をコーティングし、見かけの粒子サイズを大きくすることを考えました。鉄系薬剤で灰粒子をコーティングすることで、リンと鉄の反応による化学的な付着抑制効果と、粒子径増加による物理的効果の相乗効果により、優れた付着抑制効果が発現すると考えました(図2)。

図2 これまでの知見に基づき設計した新規付着抑制技術

 そこで、リンの影響で高い付着性を有することを再現した灰のモデル化合物に対し、化学的・物理的効果が発揮されるよう鉄系薬剤(硫酸鉄水溶液)を鉄添加量が10wt%となるよう、灰を鉄でコーティングしました。添加効果を、上述の粉体層強度測定装置を用いて定量化した結果、900℃における粉体層強度が、薬剤添加しない場合と比べて最大で83%も低下しました(図3 (a))。また、薬剤コーティングによって粒子径が増加したことを確認しました。解析の結果、化学的効果と物理的効果の組み合わせで灰の高温付着性を大幅に抑制できたことが分かりました。さらに、実際の下水汚泥燃焼灰に対しても本手法の実用性を検証しました。実際の下水汚泥燃焼灰はリン以外にもさまざまな成分を含んでおり、カリウムなど一部の成分はリンと同様に付着の原因になることが知られています。検証の結果、リン以外の付着原因が考えられる灰に対しても今回開発した薬剤コーティングによって粉体層強度が劇的に低下することを確認し(図3(b))、実際の燃焼灰にも適用できることを示しました。

図3 灰のモデル化合物および下水汚泥燃焼灰に対する鉄系薬剤添加効果                         ※原論文の図を引用・改変したものを使用しています。

今後の予定

 研究グループが積み重ねてきた灰の高温付着性に関する知見が、実際の現場で起こっているトラブルを回避するための技術開発に有効であることを示すことができました。本知見に基づく薬剤添加試験について実際の下水処理場を対象に実施し、実用化に向けた検討を進めていきます。

 今後も、これまでに得られた技術・知見を活用しながら、現場で問題視されている灰が関与するトラブルの解決策の提案に貢献していきたいと考えています。また、社会実装に向けて、実際の燃焼プロセスでの薬剤の添加方法の最適化を行います。さらに、リン等の有用成分を含む下水汚泥燃焼灰は、資源としての価値があるため、燃焼灰に関する技術・知見を活用して、燃焼灰の資源化にも取り組み、省資源化にも貢献していきます。

参考文献

1) Genki Horiguchi, Masahiro Ito, Atsuki Ito, Hidehiro Kamiya and Yohei Okada (2021). Role of Phosphorus and Iron in Particle Adhesiveness at High Temperatures Using Synthetic Ashes. ACS Sustainable Chem. Eng. 2021, 9, 45, 15315–15321. https://doi.org/10.1021/acssuschemeng.1c05676

2) Genki Horiguchi, Masahiro Ito, Atsuki Ito, Hidehiro Kamiya, Yohei Okada (2022). Controlling particle adhesion of synthetic and sewage sludge ashes in high temperature combustion using metal oxide nanoparticles. Fuel

Volume 321, 1 August 2022, 124110. https://doi.org/10.1016/j.fuel.2022.124110

論文情報

掲載誌:Chemical Engineering Journal

タイトル:Controlling particle adhesion at high temperatures via chemical and physical effects using an Fe-based additive

著者名:堀口 元規、奥泉 達也、伊藤 敦貴、伊東 賢洋、刀根 康一郎、神谷 秀博、岡田 洋平

DOI:10.1016/j.cej.2026.174686

用語解説

粉体層強度

粒子の集合体である粉体層の機械的な強さ。粒子の付着性の指標の1つ。

    

本件に関する問い合わせ先

国立研究開発法人産業技術総合研究所
 エネルギープロセス研究部門 エネルギー触媒技術研究グループ
 研究グループ付 堀口 元規

  〒305-8569 茨城県つくば市小野川16-1 つくばセンター西事業所
 050-3522-5949  g.horiguchi@aist.go.jp

国立大学法人東京農工大学

  大学院グローバルイノベーション研究院

  教授 岡田 洋平

  〒183-8509 東京都府中市幸町3-5-8

  042-367-5667  yokada@cc.tuat.ac.jp

  

三機工業株式会社

  R&Dセンター 環境システム開発部 伊東 賢洋

  〒242-0007 神奈川県県大和市市中央林間7-10-1

  046-276-3911  masahiro_ito@eng.sanki.co.jp

      

機関情報

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  ブランディング・広報部 報道室 hodo-ml@aist.go.jp

    

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三機工業株式会社

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業種
建設業
本社所在地
東京都中央区明石町8‐1 聖路加タワー
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代表者名
石田 博一
上場
東証プライム
資本金
-
設立
1925年04月