【アンケート調査】フードバンクを利用するひとり親家庭の生活状況を他の子育て家庭と比較
「子どものためにしてあげたいことを経済的な理由で諦めたことがある」ひとり親家庭は27倍
相対的貧困率が48.3%にも上る(2019年国民生活基礎調査)ひとり親家庭について、その生活状況を知るため、その他の家庭への調査結果と比較を行いました。年収や食費、新型コロナによる影響等を比べることで、ひとり親家庭が抱える困難な生活がより具体的に見えてきました。
今回は、毎月のグッドごはん申し込み時等に利用者の方に回答していただいているアンケートと、グッドネーバーズ・ジャパンがSNS等を通じて行った、就学中の子どもを養育している家庭の保護者、または学生本人を対象にしたアンケートの中から、「夫婦と未婚の子のみの世帯」に属する方の結果を比較しました。(一部厚生労働省による国民生活基礎調査、総務省統計局による家計調査の結果を引用しています)
〈グッドごはん利用家庭へのアンケート概要〉
- 実施月:2021年4月、5月、7月(計3回)
- 対象者:「グッドごはん」の食品配付に申し込みをした「ひとり親家庭等医療費受給者証※」を持つ首都圏および大阪近郊の利用者 (首都圏は主に大田区、品川区、その他東京・神奈川・埼玉 / 大阪近郊は大阪・京都・兵庫・奈良) ※ひとり親家庭等医療費受給者証:18歳未満の子どもを養育し、所得が限度額未満かつ生活保護を受けていないひとり親家庭等に交付される医療費助成制度の医療証
- 回答者数:約1000世帯/月
〈グッドごはん利用家庭以外の家庭(以下「比較調査世帯」)へのアンケート概要〉
- 実施日:2021年3月~5月
- 対象者:大学生以下の子どもを養育している家庭の保護者、または学生
- 回答者数:保護者150人 学生57人
【調査結果】
①子育て世帯で開く収入の差
2019年度の国民生活基礎調査によると、夫婦と未婚の子のみの世帯の所得は、500万円から1000万円が半数を占めています。(参考:1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たりの平均給与は433万円。国税庁2020民間給与実態統計調査より)
一方でグッドごはんを利用しているひとり親世帯は、約72%が200万円以下の就労収入となっています。少ないお金で生活費や子どもの学費をやりくりしなければならないひとり親家庭の苦しい現状が想像できます。
グッドごはん利用世帯の所得が低くなる背景には、稼ぎ手が1人しかいないということに加え、ひとり親の就労形態に「非正規雇用」が多いことがあります。往々にしてひとりの稼ぎで子どもを養うため、たくさん働く必要がありますが、育児や家事もすべて一人で行うため長時間の労働はできません。また女性には、結婚や出産で一度退職した後に正規雇用の職を見つけることが難しいという問題もあります。
②収入の差による影響 【食費】
実際に生活を切り詰めなければならないとき、減らせるのは「消費支出」、特に「食費」と考える世帯が多いのが実態です。家賃や学費などの固定費は減らそうと思っても難しく、生活の質を決める部分で減らさざるをえない状況にあります。
グッドごはん利用世帯の約50%は1か月3万円以下、1日に換算すると1000円以下の食費で暮らしています。
食費を切り詰めなければならない事態は子どもの健やかな成長にも影響し、自分だけでなく、子どもの体重が減ってしまったと悩んでいるひとり親の声も届いています。
③収入の差による影響 【経済的理由で諦めたこと】
このグラフは、グッドごはん利用世帯と、比較調査世帯それぞれに、「過去3年間において、子どものためにしてあげたかったのに、(新型コロナウイルスの影響ではなく)経済的理由で諦めたこと」を聞いた結果を表しています。
比較調査世帯では、一番多い「旅行・レジャー」でも15%以下、その他の項目では10%を切っています。
一方グッドごはん利用世帯では、84%の回答者が「旅行・レジャー」を諦めたことがあり、その他の項目も50%前後のものが多くなっています。「ない」と答えた人は、わずか3%でした。比較調査世帯の「ない」81%と比べると、何かを諦めた経験が「ある」ひとり親家庭が27倍となる計算になります。家庭の経済格差が子どもの経験・体験の機会格差に直結していることがわかります。
④食費を減らすとはどういうことか? 食事回数の比較
グッドごはん利用世帯において、食費の切り詰めは子どもや親の食事回数に表れています。平日の子どもの平均食事回数をグッドごはん利用世帯と比較調査世帯で比べると、1日に食事が2回以下しか取れていない子の割合は、ひとり親家庭が他方の約6.5倍にもなります。さらにひとり親家庭からは子どもが平日1回しか食事がとれていないという回答もありました。
学校給食のない休日になると、食事が2回以下の子どもの割合はもっと増えます。ひとり親家庭の子どもの39.5%が、休日に食事を2回以下しか取れていません。これは単に食費が足りないだけではありません。生活が苦しいため親が休日にも働きに出ており、家に大人がおらず生活が不規則になりがちだったり、自分で食事を用意できないなどの理由も考えられます。
グッドごはんのアンケートでは、「自分は家を空けている時間が長いため、子どもがひとりでも用意できるレトルト食品はありがたい」などの意見も見られます。
⑤ひとり親家庭の困難に追い打ちをかけるコロナ禍
非正規雇用で働いているひとり親は多く、新型コロナウイルスによる経済的影響を一番に受けています。比較調査世帯では、父親・母親共に「コロナ禍で収入が減った」と答えた人は約15%にとどまります。しかしグッドごはん利用家庭では、その4倍以上の約66%が「収入が減った」と答えています。
⑥ひとり親が感じる社会からの孤立
『(受付で)名前と番号を聞かれ、私の事を知っていてくれるだけで繋がりを感じ生きててもいいんだと思える。』
これは、あるグッドごはん利用者の方がグッドネーバーズ・ジャパンに寄せたメッセージです。
食品の提供方法に関して、緊急事態宣言下等では食品の配送対応を行っていますが、基本的には対面での配付を大切にしています。利用者の皆さんと顔を合わせて会話をすることで「繋がり」を感じていただけたらと考えているためですが、このメッセージをいただいて、ひとり親家庭が抱える孤独は予想を超えるものだと感じました。自分の名前を誰かが知っていることで繋がりを感じる。その方は普段どれほど、社会から孤立していると感じているのでしょうか。
2019年に行った「子育てや生活の悩みを相談できる相手はいますか?」というアンケートで、グッドごはん利用者の24%が「誰もいない」と回答しました。
今回、比較調査世帯に同じ質問をしたところ、「いない」と答えた人はたった2%でした。
ひとり親家庭に相談できる家族が少ないことは予想できますが、友人や子どものいる学校、行政などに相談できると考えている人も他の家庭と比べて少なかったのです。
さらなる支援の強化にむけて
新型コロナの感染拡大は世界規模で人々の生活に大きな影響を及ぼしていますが、特に女性への影響が深刻と言われています。
女性の多いひとり親にも、その日を生きるために続けてきた仕事から離れざるを得ない状況が多くみられ、感染者数が落ち着いてきた2021年10月以降の当団体の調査においても6割のひとり親が収入が減ったままだと回答するなど、その経済的な打撃はすぐには回復しません。
感染拡大予防のためのステイホームや休校は、保障のない非正規雇用の多いシングルマザーがとりわけ影響を受けました。ひとり親は、収入が無くなるという脅威にさらされながらも、子どもの命を背負っています。健康な心と身体があるならまだしも、本人や家族の病気対応や介護を同時に背負っている人も少なくありません。新型コロナの影響からの回復にはこのようなひとり親への対応が不可欠です。
グッドネーバーズ・ジャパンは、2020年3月に政府が臨時休校の要請をする考えを示した際、ひとり親家庭の困窮はますます深刻化すると考え、支援の強化に努めてきました。
活動場所に大阪を加え、急増する利用登録(2020年は前年比で7倍)に対応するため寄付を募り、配付拠点を増やし、できるだけ多くの利用者に食品を提供できるよう努めております。
多くの企業や個人から食品や資金の寄付をいただいておりますが、まだまだ食品の支援を必要としている人は多くいます。食品の質・量ともに拡大し、継続した支援を提供できるよう、引き続き協力を募っております。
●特定非営利活動法人グッドネーバーズ・ジャパン(https://www.gnjp.org/)とは
国際組織グッドネーバーズ・インターナショナルの一員として、2004 年開設。「子どもの笑顔にあふれ、誰もが人間らしく生きられる社会」を目指し、アジア・アフリカの7カ国および日本国内の子ども支援を行っています。公益性の高い団体である「認定NPO 法人」として東京都から認可を受けています。
■ひとり親家庭のフードバンク「グッドごはん」とは
「グッドごはん」とは、主に東京および大阪近郊のひとり親家庭(※)を対象に、食品を無料で配付する事業です。企業や個人の寄付によって集まった、お米や調味料、レトルト食品、お菓子、生鮮食品など、約18,000円相当のカゴいっぱいの食料を毎月ひとり親家庭に配付しています。
※1 当事業の対象者は、ひとり親家庭等医療費受給者証をもつ、所得が限度額未満かつ生活保護を受けていないひとり親家庭で、通常は東京都大田区および大阪市の配付拠点に直接取りに来られる方を対象としています。
https://www.gnjp.org/work/domestic/gohan/
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