ヒト胎盤の発生・分化を調節する新たな仕組みを解明 ―胎盤の異常を伴う周産期疾患の病態解明、治療法や予防手段の開発に期待―
・ヒト胎盤幹(TS)細胞注1を用い、遺伝子工学的技術によって網羅的に遺伝子の機能を欠失させることで、胎盤の発生や分化に重要な遺伝子を多数同定することに成功しました。
・胎盤の機能障害を原因とする周産期疾患の病態解明やその治療法、予防法の開発への応用が期待できる成果です。
【研究の内容】
胎盤の形成障害や機能の異常は、妊娠中の様々な病気と関連しています。しかしこれまでの胎盤研究は、主に動物実験から得られた知見に基づいており、どの程度ヒトに当てはまるのかについては明確ではありませんでした。
東北大学大学院医学系研究科婦人科学分野 清水孝規大学院生、齋藤昌利教授、情報遺伝学分野 小林枝里助教、有馬隆博教授、熊本大学発生医学研究所胎盤発生分野 岡江寛明教授らのグループは、独自に樹立に成功したヒト胎盤幹(TS)細胞を用い、ヒト胎盤の発生や分化に必須である遺伝子を系統的、網羅的に探索し、その制御機構の全体像を明らかにしました。特に、胎盤の分化において中心的な役割を果たす転写因子注2であるDLX3注3とGCM1注4の作用機序について、その全体像を明らかにしました。本研究の成果は、ヒト胎盤の発生、分化における作用機序について基礎的な理解を深めるだけでなく、周産期医学に広く貢献し、母児双方の健康に役立ちます。
本研究成果は日本時間2023年12月12日(火)午前5時(米国東部時間12月11日(月)午後3時)米国科学アカデミー紀要PNASに掲載されました。
【展開】
本研究の成果は、ヒト胎盤細胞の発生、分化における分子機序の基礎的な理解を深めるだけではなく、周産期疾患(妊娠高血圧症候群や子宮内胎児発育不全など)の病態解明やその治療法、予防法の開発への応用が期待できます。さらに、哺乳類の胎盤の多様化をもたらした分子機構の理解にも役立つと考えられます。
【謝辞】
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)(課題番号:JP19gm1310001)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の成育疾患克服等総合研究事業(Birthday)(課題番号:JP 23gn0110072)、科学研究費助成事業(JP21K16782、JP23K08838、JP21H04834、JP19H05757、JP21H03072)等により行われました。
【用語解説】
注1. ヒト胎盤幹(TS)細胞:胎盤の中に存在する、高い増殖能と分化能を持つ未分化な幹細胞。ヒトTS細胞の培養法は、当研究室が独自に確立し、国内外で広く利用されている。
【論文情報】
タイトル:CRISPR screening in human trophoblast stem cells reveals both shared and distinct aspects of human and mouse placental development
(ヒト栄養膜幹細胞を用いた胎盤細胞の分化誘導の分子メカニズムに関与する研究)
著者:清水孝規、大池輝、小林枝里、関谷麻杜、小林記緒、柴田峻、濱田裕貴、齋藤昌利、八重樫伸生、須山幹太、有馬隆博*、岡江寛明*
*責任著者:熊本大学発生医学研究所胎盤発生分野 教授 岡江寛明(おかえ ひろあき)・東北大学大学院医学系研究科情報遺伝学分野 教授 有馬隆博(ありま たかひろ)
掲載誌:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
DOI:10.1073/pnas.2311372120
URL: https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2311372120
▼プレスリリース全文はこちら
https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei-sentankenkyu/20231214
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