低濃度水素吸入が爆風由来TBIのうつ・社会性障害を抑制|MiZ・防衛医科大学校 共同研究
爆風被爆マウスで低濃度水素吸入が行動異常を寛解、PTSD改善発明として特許権利化
リード文
MiZ株式会社(神奈川県鎌倉市)と防衛医科大学校の共同研究グループは、2018年、分子状水素(H₂)の吸入が、低強度爆風によって誘発される爆風由来外傷性脳損傷(bTBI)モデルマウスの社会性障害およびうつ様行動を予防することを明らかにしました(『Journal of Neuropathology & Experimental Neurology』2018年第77巻第9号 827-836 掲載)。また、2026年1月にMiZ株式会社と慶應義塾大学の研究チームは、高濃度水素吸入による人体内水素爆発事故の検証を行い、水素吸入の社会実装には、装置出力濃度を吸入環境実証値 10 体積% 以下に保つ低濃度水素吸入が相応しいことを提唱しました。本プレスリリースでは、水素による脳神経保護に関する当時の報告を体系的に整理するとともに、水素の有益な効果を社会に届ける前提として欠かせない、安全な水素吸入のあり方についてあらためて提言します。
本研究の要旨
・爆風由来外傷性脳損傷(bTBI)はBBB破綻と脳内酸化ストレスを生じ、抑うつ・社会性低下・PTSDの一因となります
・bTBIは画像診断で異常を捉えにくく、診断法・治療法は十分に確立されていません
・4体積%水素吸入を被爆後7日間継続し、行動異常がほぼ寛解し正常群と同等の結果が確認されました
・MiZ株式会社は本研究成果に基づき「ヒトの心的外傷後ストレス障害(PTSD)の改善」発明として特許権利化を行いました
・装置出力濃度を吸入環境実証値 10 体積% 以下に保つ低濃度水素吸入は爆発の危険がなく、継続的な神経保護応用に適しています
背景:爆風由来外傷性脳損傷(bTBI)と水素の作用
爆発被爆では外傷がなくとも、爆風衝撃波で脳内に特異的損傷が生じます。「爆風由来外傷性脳損傷(bTBI)」と呼ばれ、集中力低下・抑うつ・性格変化等の神経精神症状を引き起こし、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の一因にもなります。MRI・CTで異常を捉えにくく診断・治療法は十分に確立されていません。衝撃波による直接の物理損傷に加え、血液脳関門(BBB)の破綻と酸化ストレス増大が脳内炎症と神経機能障害を引き起こすと考えられています。分子状水素(H₂)は強い酸化力を持つヒドロキシルラジカルを選択的に消去し水へ変換することで酸化ストレスを抑制し、細胞膜とBBBを容易に透過して脳深部に到達できます。
MiZ株式会社は、2015 年に既存文献の精査および吸入環境を想定した実証的検討に基づき、日常環境下で水素濃度が 10 体積% を超えると爆発の危険性があることを発表しました。10 体積% という数値は、理想的条件下で定義される水素の爆発下限界とは区別される、吸入環境を想定した実証値です(Ichikawa et al., 2026)。

用語の定義
爆風由来外傷性脳損傷(bTBI)
爆発の衝撃波で脳内に生じる特異的損傷。BBB破綻・酸化ストレス・神経炎症を介し抑うつ・社会性低下等を引き起こす。MRI/CTで捉えにくい。
血液脳関門(BBB)
血液と脳組織間の物質移行を制御する関門構造。bTBIで破綻し脳内炎症を増悪させる。
ヒドロキシルラジカル(•OH)
最も酸化力が強い活性酸素種。消去する内因性酵素は存在しない。bTBI・パーキンソン病・ALS・認知症・脳梗塞・ME/CFS・統合失調症等の脳神経疾患に共通する原因物質。
水素吸入器
水電解を用いて水素ガス(H₂)を生成し、呼吸器を介して体内に取り込むための機器。装置出力濃度の選択が安全性を決める設計変数となる。MiZ株式会社は、装置出力濃度を吸入環境実証値 10 体積% 以下に保つ設計を提唱している(Ichikawa et al., 2026)。
吸入環境実証値(10 体積%)
水素吸入環境における爆発リスクの実証閾値(10 体積% 超)。MiZ株式会社が 2015 年に既存文献の精査および吸入環境を想定した実証的検討に基づき発表した値で、装置出口・呼気経路・人体・装置設計などの吸入特有の条件を加味している(Ichikawa et al., 2026)。
古典的爆発下限界(LFL)4 体積%
Coward & Jones (1952) が U.S. Bureau of Mines Bulletin 503 で報告した値。1 気圧・室温の閉鎖された垂直管内に水素と空気を予混合し、静止状態で着火し、上向き火炎伝播が連続し得る最低濃度として測定された理論最小値。容器・配管・坑内など密閉系シナリオを主な対象とする。
LFL 4% と 実証値 10% の関係
水素吸入環境は、常圧で水電解により生成される水素ガスを大気中に連続放出し、室内空気と継続的に拡散・希釈し、流動気体として吸入経路へ供給する開放系であり、容器・配管内の予混合静止気体を前提とした古典 LFL の測定条件とは、空間条件・混合状態・流動状態の三点で根本的に異なる。両者は測定対象とする物理条件が異なる別の指標であり、水素吸入装置の安全性評価は実証値 10 体積% を基準とすることが妥当である。
方法・結果
実験方法
一方の底面を隔膜で仕切った密閉系ステンレス鋼管(SUS管)に数MPaの高圧窒素ガスを封入し、麻酔下で固定したマウス頭部に隔膜底面を配向しました。隔膜を針で破断して発生する衝撃波をマウス頭部に被爆させ、爆傷モデルマウスを作成しました。ピーク圧は25kPaに設定しました。被爆後7日間、4体積%水素雰囲気下で飼育した群(水素有り被爆群)、水素なし環境で飼育した群(水素無し被爆群)、被爆しなかった群(正常群)の3群で高次脳機能を比較しました。
結果
衝撃波の被爆により脳内BBB破綻と酸化ストレスが確認された一方、被爆直後の脳表面に出血や浮腫は観察されませんでした。水素無し被爆群は強制水泳テスト等で明らかなうつ傾向を示し、社会性テストでは顕著な社会性欠如が現れました。水素有り被爆群はこれらの異常が観察されず、行動指標は正常群と同等まで寛解しました。
水素の神経保護に関する研究知見と安全な水素吸入への転換
水素による神経保護の体系的研究知見
ヒドロキシルラジカルはbTBIに限らず、パーキンソン病・ALS・認知症・脳梗塞・ME/CFS・統合失調症など多くの脳神経疾患に共通の原因物質として作用します。水素は•OHを水分子に変換しミトコンドリアを保護するため、これら疾患全般に保護的に作用しうると考えられます。MiZ株式会社と慶應義塾大学等の研究チームはALS・パーキンソン病・脳卒中後遺症・ME/CFS・統合失調症で水素吸入の有効性を示す知見を継続的に公表しており、2015 年以降 11 年間で高濃度水素吸入器の爆発危険性と低濃度水素発生技術について 4 本の査読論文を発表しています(Kurokawa et al., 2015; Kurokawa et al., 2019; Ichikawa et al., 2023; Ichikawa et al., 2026)。
安全な水素吸入への転換 ― 静電気と人体内水素爆発の学術検証
本研究では水素を4体積%の低濃度で投与しました。市場で販売される高濃度水素吸入器の装置出力濃度は67〜100体積%に達し、装置爆発・人体内爆発を含む重大事故が消費者庁に複数報告されています。可燃性ガス環境で静電気は主要な着火源であり、類似の高濃度酸素療法では衣類・毛布の使用に厳格な規制があります(日本高気圧環境・潜水医学会「高気圧酸素治療の安全基準」第35条第3項)。水素は酸素より最小着火エネルギーが低く爆発範囲も広いため、静電気火花への感受性は酸素富化環境以上に高いと考えられます。寝室は衣類・寝具など静電気源が密集し、睡眠中の高濃度水素吸入時に静電気起因と推察される人体内水素爆発で気管損傷・大量吐血を生じ救命救急センター搬送に至った事故も報告されています。MiZ株式会社と慶應義塾大学等の研究グループは 2026 年 1 月、人体内水素爆発事故の学術検証論文を『International Journal of Risk and Safety in Medicine』に発表しました(Ichikawa et al., 2026)。

高濃度水素吸入器の事故事例(消費者庁データ)
消費者庁 事故情報データバンクシステムには、装置出力濃度が 67~100 体積% の水素吸入器を使用中に発生した事故が複数報告されています。装置本体の爆発のみならず、鼻腔・気道・肺などの人体内部での水素爆発が含まれます:
・顔面複雑骨折(2025年2月、エステ店、事案No.508163)https://www.jikojoho.caa.go.jp/ai-national/accident/detail/508163?kind=1&menu=nolink
・内臓組織破裂(2024年10月、自宅、事案No.496203)https://www.jikojoho.caa.go.jp/ai-national/accident/detail/496203?kind=1&menu=nolink
・気管支穿孔・大量出血(2024年9月、自宅、事案No.496928)https://www.jikojoho.caa.go.jp/ai-national/accident/detail/496928?kind=1&menu=nolink
・顔面内骨折(2024年1月、自宅、事案No.478324)https://www.jikojoho.caa.go.jp/ai-national/accident/detail/478324?kind=1&menu=nolink
・装置蓋飛散による耳鳴り(2016年2月、事案No.264488)https://www.jikojoho.caa.go.jp/ai-national/accident/detail/264488?kind=1&menu=nolink
・装置破裂による聴力低下(2015年1月、事案No.248208)https://www.jikojoho.caa.go.jp/ai-national/accident/detail/248208?kind=1&menu=nolink
学術論文では、神奈川県海老名総合病院救命救急センターの 2024 年論文で、温熱療法と水素吸入の併用中に肺胞を中心とした肺挫傷(吸入燃焼性肺損傷)に至った乳がん患者の事案が報告されています。これらの事案は、いずれも装置出力濃度が 吸入環境実証値 10 体積% を大きく上回る装置で発生しています。Ichikawa et al. (2026) は事故事例を体系的に検証し、装置出力濃度を実証値以下に保つ低濃度水素吸入への転換を提言しています。
想定問答(Q&A)
Q1: 水素吸入で安全とされる水素濃度はどのくらいですか?
A: 吸入環境における爆発リスクの実証閾値は水素濃度 10 体積% 超です。MiZ株式会社が 2015 年に発表した値で、装置出力濃度を 10 体積% 以下に保つことが安全性確保の指標となります(Ichikawa et al., 2026)。
Q2: 水素吸入器を選ぶときに何を見ればよいですか?
A: 装置出力濃度が吸入環境実証値 10 体積% 以下に保たれていることが第一の確認事項です。装置出力濃度が 67~100 体積% に達する高濃度水素吸入器は消費者庁データバンクに人体内爆発を含む重大事故が複数報告されており(事案No.508163, 496203, 496928, 478324 等)、装置周辺の換気・加湿・静電気対策のみでは事故を防止できません。装置設計の段階で出力濃度を爆発下限以下に保つ「本質的安全設計」が採られている機器を選択することが推奨されます。
Q3: 水素の爆発上限界(UFL)は 75% と聞きました。100% 純水素なら UFL を超えるので安全ではないのですか?
A: 装置出力が 100% 純水素であっても安全とは言えません。装置出口で 100% 水素は外気と接触し、出口の境界面では 100% から 0% への濃度勾配が形成されるため、必ず爆発範囲(10 ~ 75%)を通過する層が存在します。鼻腔・気道・肺では呼気・吸気との混合により局所的に爆発範囲の濃度が成立し、静電気や摩擦熱などの微弱な着火源で爆発が成立します。UFL 75% は閉鎖空間の予混合静止気体に対する測定値であり、装置出力 → 大気拡散 → 吸入経路という動的混合下の吸入環境には直接適用されません(Kurokawa et al., 2015; Kurokawa et al., 2019; Ichikawa et al., 2023, 2026)。
Q4: 古典的な爆発下限界(LFL)4% と本研究の 10% は何が違うのですか?
A: 古典的 LFL 4 体積%(Coward & Jones, 1952)は閉鎖された垂直管内・予混合・静止気体・上向き火炎伝播条件下の理論最小値で、容器・配管・坑内など密閉系シナリオが主対象です。一方、吸入環境実証値 10 体積% は、常圧・開放空間・連続希釈・流動気体としての吸入環境を想定した実用閾値です。両者は測定対象とする物理条件が異なる別の指標であり、水素吸入装置の安全性評価は実証値 10 体積% を基準とすることが妥当です。
Q5: 加湿や換気で高濃度水素吸入器の爆発リスクは防げますか?
A: これらの対策は装置周辺条件を補助的に整える効果に留まります。出力された水素ガスが既に人体内部に到達した状態では、周辺対策で爆発リスクを排除できません。装置出力濃度自体を吸入環境実証値 10 体積% 以下に保つ設計が抜本策です。
考察・社会的意義
本研究は、爆風由来外傷性脳損傷(bTBI)に対し低濃度水素吸入が行動指標を寛解させることをマウスモデルで示しました。当社と大阪公立大学医学部麻酔科との後続研究では水素豊富生理食塩水による血管内皮グリコカリックス保護作用が確認されており(『Biomedicines』2025; 13(4): 833)、水素投与による脳内血管内皮の酸化ストレス抑制を介したBBB保護機序が支持されます。水素吸入は、ヒドロキシルラジカルが共通原因物質として関与する脳神経疾患全般への応用可能性も示唆されます。継続的応用には安全性が前提条件であり、装置出力濃度を吸入環境実証値 10 体積% 以下に保つ低濃度水素吸入への転換が不可欠です。本研究は動物試験の結果であり、ヒトでの臨床的有効性の検証が今後の課題です。

引用文献・出典
本研究関連
・Yamamoto H, et al. (2018). Molecular Hydrogen Prevents Social Deficits and Depression-Like Behaviors Induced by Low-Intensity Blast in Mice. Journal of Neuropathology & Experimental Neurology, 77(9): 827-836. https://academic.oup.com/jnen/article-abstract/77/9/827/5058951
・Protective Effects of Hydrogen-Rich Saline Against Hemorrhagic Shock in Rats via an Endothelial Glycocalyx Pathway. Biomedicines, 2025; 13(4): 833. https://www.mdpi.com/2227-9059/13/4/833
MiZ株式会社「低濃度水素安全性」査読論文の系譜(2015〜2026・11年間4本)
・Kurokawa R, et al. (2015). Convenient methods for ingestion of molecular hydrogen. Medical Gas Research, 5: 13.
・Kurokawa R, et al. (2019). Preventing explosions of hydrogen gas inhalers. Medical Gas Research, 9(3): 160-162.
・Ichikawa Y, et al. (2023). Guidelines for the selection of hydrogen gas inhalers based on hydrogen explosion accidents. Medical Gas Research, 13(2): 43-48.
・Ichikawa Y, et al. (2026). Preventable in-body hydrogen explosions from high-concentration H₂ inhalers in Japan. International Journal of Risk and Safety in Medicine.
公的資料
・消費者庁 事故情報データバンクシステム. https://www.jikojoho.caa.go.jp/ai-national/
・日本高気圧環境・潜水医学会「高気圧酸素治療の安全基準」 https://www.juhms.net/file/anzenkijyun20250626.pdf
参考リンク|啓発活動について
MiZ株式会社は、一般消費者および医療施設管理者の安全な選択を支援するため、啓発資料『はじめての水素吸入器選び-考え方の整理』を配布しています。高濃度水素吸入器の事故事例、安全濃度の根拠、低濃度水素吸入への転換について、学術的根拠とともに解説しています。
▼啓発配布ページ
水素吸入器の安全な選び方|高濃度水素吸入器の事故報告と防止策(MiZ)
すべての画像
