【新刊】町田康×清水次郎長!! 痛快コメディ小説(ときどきBL)『男の愛 たびだちの詩』発売開始!

「まったく男が男に惚れるってのは厄介(やっけぇ)なもんだ。」昭和浪曲でも大人気! 海道一のやくざの大親分が令和に蘇る!

株式会社左右社

町田康著『男の愛 たびだちの詩』(2022年1月7日より全国で順次発売/1870円(税込)/左右社)
http://sayusha.com/catalog/books/potokonoai1
https://amzn.to/3zxelu6

●清水次郎長、やくざデビュー!!

幕末・明治に数々の逸話でその名を馳せた侠客、清水次郎長。
二代目広沢虎造『清水次郎長伝』などをはじめ、多くの作品で人々に親しまれてきた次郎長の物語が、浪曲の節と啖呵、そしてボーイズ・ラブ視点も織り交ぜた町田康版・痛快コメディとして蘇る!

義理と人情には滅法強い海道一の親分……のはずが、初恋の男にはすげなく振られ「顔か。顔が不細工なのか」と激しく苦悶。初めての啖呵は全く上手く切れず「ちょっとなに言ってるかわからない」と返される始末。
どこか抜けていて愛おしい次郎長が、失恋、養父母との確執、親しい仲間との出会いと別れを経て、国を捨てて男も惚れる「やくざ」になるまで!

ーーどんなに自分が辛くてもぐっと我慢して笑ってみせる。
吁(ああ)、やくざの旅ゃ、辛ぇなあ。

 
  • 次郎長、初恋
「だけど、おいら土手から帰る途中にあの飴を落としちまったんだ。慌てて探したんだけど見つからねぇのさ。あンときは口惜しかったっけなあ」
「そうかい。口惜しかったかい」
「ああ、口惜しかったさ」
「なにがそんな口惜しかった」
「だっておめぇがくれた飴じゃねぇか。他の者じゃねぇ、おめえがくれた飴ならおいら大事に舐めたかったさ」
トゥクン。
次郞長は暫く歩きにくかった。
福太郞が自分を嫌って飴を捨てたのではないこと。それどころか、むしろ自分に好意を持っていることがわかって次郞長は有頂天になった。
(『次郎長と福太郞/次郎長の計略』より)
 
  • 次郎長、失恋
福太郞はあのとき黙っていた。と次郞長は思った。
おいらの弁当箱から金魚が見つかったとき福太郞は黙っていた。それは別にいい。おいらが勝手にやったことなのだから。ただ、おいらが家に帰るとき。あのときも福太郞は黙っていた。おいら、別に何を言って欲しかったわけじゃあない、ただ、「次郞長どん、またな」と、たった一言、言ってくれりゃあ、おいら笑って家に帰ったんだ。
ところが福太郞はなにも言いやしねぇ。言わねぇばかりじゃねぇ、こっちを見もしねぇんだ。見もしねぇで、米吉やら丑吉やらとふざけてやがった。あんまりじゃねぇか、福太郞。あれじゃあ、おいら、あんまりにも甲斐がねぇじゃねぇか。福太郞よ、あんたにとっておいらはいったい何だったんだよ。福太郞ってなんなんだよ。おいらってなんなんだよ。牛ってなんなんだよ。毛虫ってなんなんだよ。みんなみんな蓑虫なのかよ。
このように混乱するうちに昼間の疲れから次郞長はいつしか眠りに落ちていたが、その頬には一筋の涙が流れていた。
(『次郎長、五年がんばる』より)
 
  • 「やくざ・清水次郎長」、誕生
好きなように生きる? どうやって?
どうもこうもない。世間の常識なんか無視するのさ。金なんか塵芥と思うのさ。飲みたいだけ酒を飲み、暴れたいだけ暴れ、刹那に生きる。
それでどうなるってんだ?
どうにもならんよ。どうにもならんが、ただ我慢してなにもしないまま虚しさを抱えて生きて死ぬより、その瞬間瞬間、やりたいことをやって快活に生きた方がいいに決まってる、って話だよ。
そりゃそうしたいのは山々だが……、果たしてそんなことが可能なのか?
普通じゃ無理だ。だが此の世にひとつだけ、そうして生きる道がある。
なんて道だ?
任侠の道だよ。
任侠。やくざ、ってことか。
そうよ。
「任侠」
と、次郞長は声に出して言った。
清水次郞長はこの瞬間に誕生した。
(『次郎長、やくざになる』より)

 

  • 旅の始まり
「さあ、どこへ行こうか」
「どうしようかねぇ」
 と金八と諮っているところ、後から、
「おヽい」
と声を発しながら追ってくる者があった。
「すは、追手か」
と一瞬、身構えた次郞長と金八であったが、すぐに、「なんでぇ」って顔になった。
追いかけてきた二人は、かねてよりの博奕仲間、江尻の熊五郞、庵原の広吉であった。
二人は追いつくなり次郞長に言った。
「次郞長、おめえ、旅に出るんなら俺たちも一緒に連れてってくんねぇ」
「なんでだ。てめえらも人を殺したのか」
「人聞きの悪いこと言うねぇ、殺しゃしねぇ」
「じゃあ、なんで旅に出るんだ」
「決まってらあ、男を磨きてぇからよ、なあ」
(『次郎長、国を売る』より)
 
  • じゃれあい道中
「よしじゃ、そうと決まりゃ、熊五郞、おめぇ、ちょっと行って仁義切ってきてくんねんか」
「嫌だよ」
「なんで」
「なんでもかんでもあるかい。俺はやくざだが始めたばかりでまだ仁義の切り方を知らねぇ。広吉、おめぇ、行け」
「俺も知らねぇ」
「なんだ、なんだ、てめぇたちゃ、だらしがねぇにも程があるぜ。偉そうにやくざだなんだと言いながら仁義も知らねぇんじゃどうしようもねぇじゃねぇか」
「面目ねぇ。けど知らねぇもなあ、しようがねえ。すまねぇが次郞、おめぇ、行ってきてくれ」
「バカヤロー。俺も知らねぇ」
「がくっ、って口で言っちゃったじゃねぇか」
「げらげらげら」
「げらげらげら」
(『仁義の技法』より)

ーー
《書誌情報》
町田康著『男の愛 たびだちの詩』(本体価格:1870円(税込)/四六判上製/224頁/978-4-86528-064-7  C0093/左右社)
装画:巻田はるか
Instagram https://www.instagram.com/makitaharuka/
Twitter https://bit.ly/3qZ6x0e
ブックデザイン:鈴木成一デザイン室

http://sayusha.com/catalog/books/potokonoai1
https://amzn.to/3zxelu6

《著者紹介》
町田康:1962年大阪府生まれ。作家。96年、初小説「くっすん大黒」でドゥマゴ文学賞・野間文芸新人賞を受賞。2000年「きれぎれ」で芥川賞、05年『告白』で谷崎潤一郎賞など受賞多数。
Twitter https://twitter.com/machidakoujoho 
 

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会社概要

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URL
http://sayusha.com
業種
製造業
本社所在地
東京都渋谷区渋谷2-7-6 金王アジアマンション502
電話番号
03-3486-6583
代表者名
小柳学
上場
未上場
資本金
-
設立
2005年04月