日立とコロンビア大学、AIが持続可能な社会への移行に与える機会とリスクを示した共同報告書を発表

AIの地球環境・社会・経済への影響を多面的に分析し、ガバナンスの枠組みと国際ロードマップを提言

株式会社 日立製作所

図1 共同研究報告書 表紙

 日立は、コロンビア大学気候大学院持続可能な投資センター(Columbia Center on Sustainable Investment*1、以下CCSI)と、共同研究報告書「AIと持続可能性トランジション:新たな機会、リスク、ガバナンス(Artificial Intelligence and Sustainability Transitions: Emergent Opportunities, Risks, and Governance) 」(英文)を発表しました*2。

 本報告書では、AIが持続可能な社会へのトランジション(移行)にどのような影響を与えるのかを、「地球環境」「エネルギーシステム」「産業・労働」「金融」「民主主義と社会的レジリエンス」の5つの分野から整理し、機会とリスクの観点で分析しました。その上で、AIの利点を生かしながらリスクを抑えるためのガバナンスの枠組みと、その実現のためのロードマップを提言しています。今後、日本語版も公開予定です。

 日立は、IT・OT・プロダクトを活用した社会イノベーション事業を通じて、Lumadaをコアにデータから価値を創出し、お客さまと社会の課題解決に取り組んできました。こうした取り組みをさらに進化させていく上で、AIの活用は不可欠な要素です。一方で、そうしたAI活用による機会の享受にとどまらず、リスクにも向き合いながら、環境・幸福・経済成長が調和したハーモナイズドソサエティの実現をめざしています。今回の共同研究で得られた知見を踏まえながら、責任あるAI活用とガバナンスの両立を通じて、持続可能でレジリエントな社会の実現に貢献していきます。

*1 Columbia Center on Sustainable Investment

*2 共同研究報告書 掲載ページ、CCSI プレスリリース: “AI's promise requires innovation in governance ― not in technology alone”

研究の背景

 気候変動の深刻化や地政学的緊張、資源制約を背景に、持続可能な社会の実現はより難しくなっています。さらに、生成AIをはじめとするAI技術が急速に進化し、社会の幅広い分野で大きな変化をもたらしています。AIは、持続可能な社会へのトランジションを後押しする可能性を持つ一方で、膨大なエネルギー消費、雇用への影響などの新たな課題も生み出しています。

 こうした中、AIを持続可能性の観点から捉え直す機運が高まっており、特に“AIガバナンス”を巡る国際的な議論は活発化しています。国際連合で2026年7月に開催される「AIに関する独立国際科学パネル(IISP-AI)*3」などをはじめとして、AIの能力とリスクを科学的に捉え、国際的なルール形成をめざす動きが進んでいます。しかしながら、「AIと持続可能性」に関して、多様な分野を横断して分析を行う研究は、これまで十分ではありませんでした。そこで、ハーモナイズドソサエティの実現を掲げ、AI技術を通じて社会インフラを支えてきた日立と、全米で初めて気候変動に特化した大学院を有するコロンビア大学において研究を続けてきたCCSIは、AIの発展が社会全体に与える影響を多面的に検討する共同研究に取り組みました。

*3 Independent International Scientific Panel on Artificial Intelligence (IISP‑AI) :国連総会決議により2025年8月に設立された、AIに関する初の独立国際科学パネル

報告書の概要

 本研究は、持続可能な未来への変革の道筋を探求する「トランジションズ・リサーチ」の一環として、日立とCCSIが実施した共同探索研究です。報告書の主な内容は以下のとおりです。

1. AIが持続可能な社会に与える影響を、5つの分野から体系的に整理

AIが持続可能な社会に与える影響を、「地球環境」「エネルギーシステム」「産業・労働」「金融」「民主主義と社会的レジリエンス」の5つの分野から整理・分析しました。AIは、環境モニタリングやエネルギー運用の高度化、産業の生産性向上、金融における情報活用の拡大などを通じて、持続可能な社会へのトランジションを後押しする可能性があることを示しました。一方で、その影響の現れ方は分野ごとに異なるため、個別の技術論ではなく、領域を横断する変化として捉える必要があることも示しました。

2. AIは持続可能性への貢献と、新たなリスクを同時に生み出す

本研究では、AIを単純に「持続可能性に役立つ技術」とみなすのではなく、大きな機会と深刻なリスクを併せ持つ基盤技術として位置づけました。たとえば、AIは再生可能エネルギーの統合や環境リスクの早期把握に貢献し得る一方で、データセンターの電力・水消費、アクセス格差、偽情報の拡大のほか、将来的な高度なAI利用によって、個別の問題が複数の領域をまたいで連鎖・増幅し、社会全体の不安定性や脆弱性を高めるリスクなど、新たな負の外部性も生み出し得ることを明らかにしました。AIの価値は技術そのものではなく、設計・実装・統治のあり方によって左右されることを示しました。

3. AIの利点を生かしリスクを抑えるには、三層のガバナンスが必要

AIの影響に対応するため、部門別・領域横断・グローバルの三層からなるガバナンスの必要性を示しました。部門別ガバナンスでは、環境、労働、金融、民主主義など各分野の文脈に応じたルールや監督を整える必要があります。領域横断ガバナンスでは、透明性、データ品質、監査、人間の関与といった共通の安全策が求められます。さらに、AI能力の発展が社会・経済にもたらすリスクに各国が協調的に対応するためには、グローバルなガバナンスの枠組みが不可欠であると提言しました。

4. 国際的なAIガバナンスに向けた段階的なロードマップを提示

AIガバナンスを実効性あるものにするため、三段階の国際ロードマップを示しました。第1段階では、国連の枠組みの下で科学的な共通理解を形成します。第2段階では、高リスク領域に対する暫定的な国際安全枠組みを整備します。第3段階では、各国が実施方法を調整しつつ共通の義務を担う国際的枠組条約へと発展させることを提案しました。これにより、AIの発展を地球と人々の長期的なウェルビーイングと整合させる道筋を提示しました。

5. 文献レビューと専門家の知見に基づいた分析

既存文献の整理だけでなく、国際機関や大学の専門家へのインタビューも踏まえて分析しました。これにより、技術論にとどまらない多面的な視点を取り入れました。インタビューには、国際連合大学学長のチリツィ・マルワラ学長(国際連合事務次長)をはじめ、国際労働機関(ILO)、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、オックスフォード大学、ウォータールー大学に所属するAI専門家が協力しました。

今後の展望

 日立は、今回得られた知見を社内外で共有し、AIを持続可能な世界の構築の加速につなげる研究開発を進めていきます。また、AIガバナンスを巡るさらなる関心の高まりも見据え、地球と人々のウェルビーイングを支える責任あるAI実装のために協創パートナーとの対話や知見の発信を促進していきます。これを通じて環境、エネルギー、産業、金融、公共領域における社会インフラの革新を通じて、持続可能な社会へのトランジションにリーダーシップを発揮していきます。

関連コンテンツ

 本報告書をより多くの方に届け、本研究の内容への関心を深めていただくため、2種類の映像も制作しました。約3分の「予告編型映像」は研究が投げかける「問い」を共有し、約1時間の「音響コンセプト型映像」は音楽とともに報告書への理解を深め、内省を促します。

・予告編型映像(英語):https://www.youtube.com/watch?v=I9fr9DnFMtA

・音響コンセプト型映像:https://www.youtube.com/watch?v=3e2SIQoeH_o

Lumadaについて

Lumada(ルマーダ):日立

共同研究機関について

コロンビア大学気候大学院 持続可能な投資センター

コロンビア大学(1754年設立)は、法律・国際公共政策、金融、気候変動をはじめとする分野において世界トップレベルの研究教育プログラムを有しています。2020年に設立された気候大学院は、全米で初めて気候変動に特化した大学院です。持続可能な投資センター(Columbia Center on Sustainable Investment)は、コロンビア大学気候大学院に属する応用研究拠点です。気候変動、エネルギー転換、気候金融、食、産業政策、国際投資法、土地利用ガバナンス、鉱業、持続可能な金融などについて、研究、実践、対話を推進しています。学際的研究、アドバイザリープロジェクト、マルチステークホルダー対話、教育プログラムなどを実施しています。

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代表者名
德永 俊昭
上場
東証プライム
資本金
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設立
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