『専門家ママ・パパの本』kindle発売記念「妊娠・出産・子育ての迷信やデマに惑わされないで!」 小児科医・森戸やすみ先生 インタビュー
株式会社内外出版社は、各分野の専門家が科学的根拠(エビデンス)のあることだけを書いた子育て本のシリーズ『専門家ママ・パパの本(6冊)』の、寝かしつけ時や授乳時にも読みやすいkindle版を発売しました。
よく目や耳にする妊娠・出産・子育ての情報には、じつは間違ったものがいっぱい。たとえば、「妊娠中に運動するほど安産になる」「ワクチンの同時接種は危険」「食べたものの味がそのまま母乳に出る」「子どもにも玄米がいい」「叱らないとストレス耐性が弱くなる」などは全部根拠がありません。そこで、kindle版の発売を記念して、著者のおひとりで小児科専門医の森戸やすみ先生にインタビューしました!
――専門家ママ・パパの本のシリーズ1冊目は、森戸先生の『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』でした。書いたきっかけを教えてください。
きっかけを聞かれたとき、私は必ずこう答えています。「担当編集者が、妊娠・出産・子育てについて様々なおかしなアドバイスを受けたルサンチマンがきっかけです」って(笑)。ルサンチマンは言い過ぎだけど、「妊娠中は代表的なアレルゲンを避けて」「母乳育児中はあっさりした和食のみ」とか、科学的根拠のない変なアドバイスに悩まされたそうです。それでブログに「母乳に食べたものの味が出るのか」などの記事を書いていた私に執筆依頼が来ました。私も子育ての情報にはデマが多くて問題だと思っていたので、ぜひ書きたいと思ったんです。ただでさえ、子育ては楽しいけど、体力的にも気力的にも大変なもの。迷信やデマに振りまわされている場合じゃないですからね。
――確かに、子育て中は様々なアドバイスを受けることがあるし、インターネット上の情報も玉石混交です。
インターネット上の子育て情報は、玉よりも石が多いかもしれません(笑)。先日もキャベツ枕で熱が下がるという記事が話題になりました。もちろんデタラメです。ふだん診察していると、お父さんやお母さんから様々なことを聞かれるんですよ。「おむつは布がいいでしょうか?」「ワクチンは怖いけれど大丈夫なんですか?」とか。いわゆるママサイトに書いてある根拠のない記事を読んで不安になったという人もいます。小児科医は“子どもの病気の専門家”であって、“子育ての専門家”ではありませんから、質問によっては即答できないこともありますが、できるだけ調べて答えています。
――森戸先生ご自身は、子育てで悩んだり困ったりしたことはありますか?
もちろん、たくさんありますよ。振り返ってみると、私自身も上の子を産んだばかりの頃は、母乳が出ないことに悩んだり、何時間おきに授乳すべきかで迷ったり、子どもが泣いてばかりで困ったり、おかしな俗説に驚いたりした経験があります。専門である小児の病気のことでさえ、自分の子どもとなると冷静に診られているかどうか心配で、教科書を見直したこともありましたし、他の小児科医に診てもらったこともあります。こういう経験があったから、自分自身のために、また患者さんのお母さんやお父さんの質問に答えるために調べたことを、ブログにも載せてきたという感じです。
――このシリーズを書くときに大切にしていることは何でしょうか。
これは私だけでなく、他の著者の方たちも編集者も共通して大切にしていることですが、①科学的根拠のあることで、②リアルに実践できそうなことを、③なるべく偏りなく論理的に書くことです。知っていることでも改めて調べ直して書きますし、自分の価値観や考えをなるべく押し付けないように、同じ親仲間として対等な姿勢で伝えようと心がけています。それから、どんなに理想的なことでも、日常生活で実践できなくては意味がないので、自分の子育て経験や周囲の様子を思い返してみて、できるだけ無理のない提案を心がけています。子どものためにも、親が無理をしすぎず、元気で笑顔でいることが重要ですからね。
――インターネット上はもちろん書籍でも、専門家によるブログ等でも、価値観の押しつけでしかない「子育てのアドバイス」を見かけます。
そうなんですよ。たとえば母乳育児にしても、専門家に求められているのは科学的根拠に基づいた正確な情報を伝えることです。「母乳で育てないと」とか「粉ミルクで育てたらいい」などという個人的な価値観を押し付けることではありません。母乳が十分に出る人もいれば出ない人もいるし、家族のサポートを受けやすい人もいれば受けづらい人もいます。だから、最終的にはそれぞれのお母さん、お父さんが選ぶことですよね。あ、それとこのシリーズは、お母さんだけでなくお父さんにも向けて書いています。
――多くの子育て本が、母親だけに語りかけがちですよね。
確かに今はまだ現実的に母親がメインで子育てしていることが多いかもしれません。でも、本来、子育てはお父さんとお母さんの両方がメインでやるものです。お母さんだけに語りかけると、子育てをしているお父さんに対しては失礼だし、お母さんに対しては重圧を与えかねませんよね。以前、古い育児書を読んでいたら、終始お母さんだけに呼びかけているうえ、子どもが風邪をひいたことについて「母が子に寒い思いをせしめたため」なんて書かれていました。明らかに非科学的でおかしな記述ですが、母親だけの責任にしすぎだし、書き方も上から目線です。こんな本を読んだら、世のお母さんたちは疲れちゃいますよね。私だってげんなりしてしまいます。
―そういう風潮があるからこそ、子どもに何かがあると、お母さんだけが「私のせいで…」と思いがちなのかもしれません。
実際、診察室でお母さんが「この子に風邪をひかせちゃって……」と言うことがあります。本当はお母さんが風邪をひかせたのではなくて、子どもはよく風邪をひくものです。そういうことも、このシリーズには書いてあります。だいたい「自分のせいで子どもが風邪をひいた」と言うお父さんはあまりいません。つまり、母親ばかりが責められがちなんですね。こういう子育ての責任を母親だけに押し付ける風潮を変えたいですし、父親にも子育ての当事者意識を持ってほしいです。母親と同様に父親も「親」なんだから、「お手伝いしている」という意識ではダメだと思います。
――子育てに悩んだときは、どうしたらいいでしょう?
子育てに悩んだら、その分野の専門家の本で基本を学んでください。よく「自分の頭で考えよう」「感性に従うといい」という説を見聞きしますが、基本を知らないと正しい情報にアクセスすることさえできません。たとえば、私は『管理栄養士パパの親子の食育BOOK』で残留農薬は農林水産省のサイトで調べられるという「とっかかり」を得ました。今後は自分で調べられます。各年齢の栄養所要量や不足しやすい栄養素などを知ったことで、1週間のトータルで食事のバランスを考えられます。このように、「考える」には正確な情報という材料が必要です。専門家ママ・パパの本は、そういう基本がわかる本なので、ぜひ読んでみてくださいね。
――子育て中は本を読みづらいという声がありますが…
専門家ママ・パパの本は、開きやすく持ちやすい紙を選んでいて、Q&Aなので必要なところから読めます。kindle版なら、寝かしつけや授乳のときでも読みやすいと思いますよ。子どもって紙の本をかじったり、やぶったり、よだれをつけたりしますから、kindle版なら安心かもしれません(笑)。「産後すぐは目を休ませないと」「スマホを見ながら授乳してはダメ」などと言う、スマホ育児絶対反対派の人もいますが、特に根拠はありません。産後でなくても目が疲れることはありますし、疲れたら休めばいいんです。当たり前のことですね。授乳は1回40分×1日8回なんてこともあるので、その間ずっと何もしないのは苦痛だと思います。根拠のない説は気にせず、大切な要点だけ押えて、楽しく子育てしてください。
内外出版社の専門家ママ・パパの本(6冊)
【妊娠前~産後】
新装版 産婦人科医ママの妊娠・出産パーフェクトBOOK
産婦人科専門医 宋美玄 著
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プレ妊娠編、妊娠編、出産編、産後ケア編まで、最新の医学論文をもとにした情報がたっぷり。巻末には、妊娠カレンダーとエコー写真の見方を解説したページもあります。
【0~2歳頃】
新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK
小児科専門医 森戸やすみ 著
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0~2歳頃、特に気になる子どもの体の特徴や発達のこと、生活上の細かなこと、母乳、予防接種、離乳食、トラブルなどの疑問や悩みにやさしく回答。出産のお祝いにも最適です。
【授乳中~離乳】
新装版 産婦人科医ママと小児科医ママのらくちん授乳BOOK
宋美玄、森戸やすみ 著
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母乳信仰でも粉ミルク信仰でもない新しい授乳の教科書。母乳のあげ方や増やし方はもちろん、粉ミルクのあげ方まで網羅。根拠のないデマも指摘。安心して読める1冊です。
【0歳~中学生】
新装版 児童精神科医ママの子どもの心を育てるコツBOOK
児童精神科医 白尾直子 著
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0歳~中学生までの心を育てる基本、ほめ方や叱り方、反抗期や不登校などケースごとの対処法までを伝えます。さらに認知行動療法によって感情的に怒らない親になる方法も紹介。
【0歳~中学生】
小児科医ママの子どもの病気とホームケアBOOK
小児科専門医 森戸やすみ 著
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乳幼児から高校生までの「食」と「栄養」の基本から食材選び、献立や調理のこと、食べさせ方まで様々な疑問に答えます。これを読めば、上手に手抜きするコツもわかるはず。
森戸やすみ
1971年東京生まれ。小児科専門医。一般小児科、NICU勤務を経て、現在は東京都世田谷区にある『さくらが丘小児科クリニック(http://sakuragaokashonika.com)』勤務。朝日新聞アピタル、WEZZYで連載中。
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