どろんこ会グループ「性教育に関する言葉・社会問題等についての意識調査」レポート公開
「生命の安全教育」「包括的性教育」「日本版DBS」「性犯罪の刑法改正」などについての保育者・保護者の考えは?
どろんこ会グループ(本社:東京都渋谷区)は、2022年度から実施している「性教育意識調査」において、2024年度は「性教育に関する言葉・社会問題等についての意識調査」を実施しました。
子どもの性暴力被害の増加が深刻な社会問題となっている今、国は、2023年に学校等への「生命(いのち)の安全教育」の本格導入、性犯罪の刑法改正、2024年に「日本版DBS」を導入するための「こども性暴力防止法」を成立させるなど、子どもの性被害・加害防止に向けてさまざまな取り組みを行っています。こうした取り組みについて、保育者や保護者がどのような考えを持っているのか調査結果をまとめました。
ポイント
1.「生命(いのち)の安全教育」性情報があふれるネットやSNS時代には不十分な点も多いとの意見も
2.「包括的性教育」幅広い分野に及ぶ内容を教えるには工夫が必要、大人自身の学びが不可欠
3.「日本版DBS」課題点は残っているが、導入に至ったことには一定の評価
4.「性犯罪にかかわる刑法改正」まだ不十分な被害者支援、加害者治療など再犯防止を求める声も
5.性的な広告があふれるネットやSNSのコンテンツに対する指摘、対策を求める保護者
6.子どもへの性暴力を防ぐためには、大人向けの性教育こそが必要
調査概要
■調査期間:2024年8月1日~2024年8月31日
■調査機関:どろんこ会グループ Doronko LABO®(自社調査)
■調査方法:PCやスマホなどからアクセス可能なアンケートフォーム
■調査対象者:どろんこ会グループの保育園、児童発達支援、学童保育、放課後等デイサービスのスタッフ/どろんこ会グループご利用家庭の保護者
■回答者数:スタッフ:1,086人 保護者:2,647人
※回答の比率は四捨五入のため合計が100%にならない場合があります。
1.「生命(いのち)の安全教育」性情報があふれるネットやSNS時代には不十分な点も多いとの意見も
「生命(いのち)の安全教育」(*1)は、生命(いのち)を大切にし、子どもたちが性暴力の加害者、被害者、傍観者にならないよう、文部科学省が2023年度より全国の学校などにおいて導入を進めた性犯罪・性暴力対策のための教育です。幼児期から小中高生、大学生にかけて、児童生徒の発達段階に応じた教材や指導の手引きがあり、幼稚園や保育園、学校において、さまざまな活動を通じて活用することが可能となっています。
「生命(いのち)の安全教育」について、「内容も含めて知っている」と回答したスタッフ、保護者にどのような考えを持っているかを質問したところ、「子どもに必要な教育であり、性教育として十分な内容である」と回答したスタッフは78.6%、保護者は82.9%でした。

「十分な内容である」と回答したスタッフ、保護者からは、
スタッフ
・昨今の社会における性の問題とその対策について具体的に伝えられており、子どもの発達段階や年齢において必要な教育内容を網羅しているため。
・年齢別にもなっていて、目の前の子どもの状況に合わせて伝える内容を変えることもできると思う。
保護者
・各家庭に任せると、認識の差が出てしまったり、教えないまま成長する可能性もあるので、ある程度教育の場で教えてもらえると有難いなと思います。
・個々の事例によっては不足する部分は出てくると思うが、統一の知識として基本をわかりやすくまとめられているから。
といった意見があり、保育園や学校などで、年齢ごとに統一した教育内容で一斉に教えられる点に一定の評価がありました。
一方、「内容が不十分だと思う」と回答したスタッフは6.1%、保護者は5.9%となり、
スタッフ
・参考資料よりも、日常の中で流れてくる情報のほうが過多になっている。 性に関する知識が自然と情報として入ってくる年齢が低年齢化しているので、正しい知識を早くから伝えることが追いついていない気がする。
・特に年長児は性別のことやSNSメディアで直接的な性の表現にも触れているので不十分だと感じます。
保護者
・今の子どもたちはSNSというネット社会で色々な情報に触れるため、文部科学省が掲げている内容や時期では少ないし遅いと思います。なるべく早い段階から性教育に対する「恥ずかしい」「エッチなこと」という間違った概念を払拭しなければいけないと思います。
・受精に関する事は以前と同じで教えないのでしょうか。その部分だけタブーにしているのはなぜでしょうか。子どもたちはネットで調べることになります。ネットでの間違った情報や過激な内容を先に見てしまえば、それが普通なんだと思いこみ、早いうちから間違った性知識を刷り込まれてしまいます。そこにとても危険性を感じます。
など、今の子どもたちは幼児期からすでにネットやSNSでの間違った性の情報に触れていることから、「生命(いのち)の安全教育」の内容では不十分とする指摘がありました。
文部科学省は「生命(いのち)の安全教育」の教材内容は、「各学校や地域の状況等に応じて、適宜内容の加除や改変を行った上での使用も可能」としています。しかし、どのように加除や改変を行えばよいのか、保育者や教員の力量が問われる部分でもあります。どろんこ会グループの保育者向け性教育研修で、参加者から一番多い質問は「幼児期の子どもが自然に持つ『赤ちゃんはどうやって生まれるの?』『女の子と男の子のからだはなぜ違うの?』『女の子にはなぜおちんちんがないの?』などの疑問にどう答えればよいのか」です。
このことからも、どろんこ会グループは、性犯罪・性暴力防止のための「生命(いのち)の安全教育」において、子どもたちに「生命を大切にする」ことを教えるためには、性や生殖の正しい知識を教える性教育も含めたガイドラインや教材が必要ではないかと考えています。
2.「包括的性教育」幅広い分野に及ぶ内容を教えるには工夫が必要、大人自身の学びが不可欠
包括的性教育は、性や生殖の科学的知識だけでなく、人間関係やジェンダー平等、多様性なども幅広く学ぶ人権をベースとした性教育です。ユネスコが『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』(*2)として指針をまとめており、どろんこ会グループの5歳児向け性教育プログラムは、このガイダンスに準じた内容になっています。性教育に関して「寝た子を起こすな」の意識が根深い日本ですが、ここ数年は包括的性教育をベースにした、家庭でもできる性教育の書籍が多数出版されています。そこで今回の意識調査では、包括的性教育に対する考えについて質問しました。
「包括的性教育」について、「内容も含めて知っている」と回答したスタッフ、保護者にどのような考えを持っているかを質問したところ、「子どもに必要な教育であり、性教育として十分な内容である」と回答したスタッフは80.4%、保護者は77.6%でした。

「十分な内容である」と回答したスタッフ、保護者からは、
スタッフ
・これからの時代を生きる子どもたちにとって、人間関係や多様性やジェンダーなどいろいろな事を断定したり否定したりするのではなく、自分の価値観だけでなく、人の考え方や性の考え方も受け入れて、より良い社会をつくり幸福に生きていくために必要な教育だと思うので。
・性だけに特化するのではなく、人権など全てにつながっていることを学んだから。
保護者
・幅広い視野をもち、自身や他者を知ることは良いことだ。性教育は自分と他者がいてさまざまな考え方があることを知るひとつの学習だと思う。
・「性教育」というとデリケートな話題、恥ずかしい内容という古い意識を払拭し、身近なジェンダー、多様性についてからはじめ、その先へ理解を深めていく必要がある。
などの意見がありました。
「ここまで教える必要はない」と回答したスタッフ5.4%、保護者8.4%の中には、
スタッフ
・大切なことだが、必要以上に興味関心を持つこともあるのではと思い、扱い方、クラスの子どもたちの性格、雰囲気などを考慮して伝えていくべきだと考えている。
・実施するなら小学生高学年から。
保護者
・ジェンダーや多様性などの内容で、子どもの価値観を誘導したくない。自我が確立されていない幼い子どもへのジェンダーを含む教育は、子どもを混乱させるだけと考えるため。
・第二次性徴期の前に性行為について教育するのは時期尚早ではないか。
といった意見があり、生殖のプロセスや性の多様性に関する学習内容は子どもにはまだ早いのではないかとの懸念があるようです。また、「よくわからない」と回答したスタッフ・保護者の中には、「内容が広範囲で複雑なので、教育の仕方には工夫がいる」「幅が広すぎてどこから子どもに伝えていくと良いかわかっていない」などの意見がありました。包括的性教育は、まずは大人の側が理解を深めていかねばならない課題が見えてきました。
※2:『国際セクシュアリティ教育ガイダンス 科学的根拠に基づいたアプローチ』ユネスコHPより
3.「日本版DBS」課題点は残っているが、導入に至ったことには評価
2024年6月、「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」(*3)、通称「こども性暴力防止法」が成立しました。「日本版DBS」は、この法律に基づく、学校や児童福祉施設など、仕事で子どもと関わる人の性犯罪歴の有無を照会できる制度です。2026年の本格導入に向けて、こども家庭庁では有識者と議論を重ねながらシステム構築などの整備を行っています。
「日本版DBS」について、「内容も含めて知っている」と回答したスタッフ、保護者にどのような考えを持っているかを質問したところ、「子どもを守るために不可欠、内容も十分な制度である」と回答したスタッフは38.7%、保護者は24.7%でした。

「十分な制度である」と回答したスタッフ、保護者からは
スタッフ
・まずは取り組みをはじめたことに意味があり、やる価値はあると思う。
・子どもの人権や尊厳を守るために少しでも危険を回避すべきだからです。
・保護者に安心して預けてほしいから。
保護者
・子どもが性被害にあうことはやはりあってはならない事だと思うため。
・事前に性犯罪の履歴が調べられれば、再発は防げると思うため。
・不完全なところもあるが、まずは制度を作り周知し、世間に認知され、少しずつ改善されることが大事だと思う。
など、制度導入に至ったことをまずは評価する意見がありました。また、スタッフ・保護者双方にとって、「安心して園に預けてもらえる・預けられる」ことにつながる制度という捉え方もあるようです。
「不十分な部分もある」と回答したスタッフは55.8%、保護者は68.9%となり、
スタッフ
・事前の性犯罪を把握することで未然に防ぐこと自体は悪いことではないが、そもそも1度でも発生することが望ましくない事象であるため、履歴だけで対策をしようとしていることに不十分さを感じるため。
・子どもを守るためには性犯罪歴がないかを調べ、把握することは必要だと思うが、対象者の個人情報への配慮も必要であると思う。 また、性犯罪歴がなくても、子どもと関わる仕事をするにあたり、適性があるのかをきちんと判断する必要があると思う。
・学習塾など子どもと関わる施設が、任意の認定制度になっており、こぼれ落ちるところがあるため。
保護者
・子どもと関わる職業全てをカバーできているわけではなく、抜け穴がある制度のように思います。
・調べるのはあくまで過去の犯罪歴であり、初犯を防ぐことはできないため。
・不完全なところもあるが、まずは制度を作り周知し、世間に認知され、少しずつ改善されることが大事だと思う。
など、義務対象とならない施設・事業者があること、そもそも初犯をどう防ぐのか、従事予定者の個人情報への配慮などが課題点として挙げられています。初犯対策としては、事業者に「教員等の研修」(第8条)が求められており、保育従事者への研修がますます重要となってきます。
※3:学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律
4.「性犯罪にかかわる刑法改正」まだ不十分な被害者支援、加害者治療など再犯防止を求める声も
2017年、明治時代の1907年から110年間変わらなかった性犯罪にかかわる刑法がようやく改正されました。このときの課題として残っていた「不同意性交等罪の創設」「性交同意年齢の引き上げ」「性犯罪の公訴時効期間の延長」などが、2023年の改正で実現。さらに「わいせつ目的での16歳未満の者への面会要求」に対する処罰、性的な画像の盗撮について「撮影罪」と「提供罪」などが新設されました。(*4)
2023年の「性犯罪に関する刑法改正」について、「内容も含めて知っている」と回答したスタッフ、保護者にどのような印象・考えを持っているかを質問したところ、「子どもを守るために不可欠、内容も十分な改正である」と回答したスタッフは43.8%、保護者は30.3%でした。

「十分な改正である」と回答したスタッフ、保護者からは
スタッフ
・処罰に対する必要な要件が具体的で明確になっていると感じたから。
・同意していない者に対して性行動を強要する事は、人格を否定し尊厳を踏みにじることであり犯罪である、ということをはっきり示していて、夫婦や恋人関係の者同士についても適応される事は必要な事と思う。
保護者
・抑止力にもなり得る内容と思われるため。
・子どもだけでなく、男性女性が不同意で性行為が行われるのは犯罪だと思うから。
といった意見がありました。
一方、「もっと厳しい刑法が必要」と回答したスタッフは44.3%、保護者は58.3%でした。
スタッフ
・性犯罪に対する刑罰が、性犯罪の内容や被害者が受ける心身の傷に対して相対的にまだ軽いと思うので、量刑を重くすることにより性犯罪を抑止する機能を求めたいと考えるため。
・時効が短いため。
・被害にあわれた方への支援が十分とは言えないため。被害者が子どもの場合は、それが犯罪だと気付かない場合があるなどもっと配慮が必要だと思われます。
保護者
・性犯罪は被害にあった子どもの心に大きな傷を残します。人生に影響する可能性があることなのでこれからも刑法の見直しをしていくべきだと考えています。
・犯罪者の治療プログラムなど環境が整わなければ、繰り返され根本的な解決にならないと思う。
・同性や同級生からいじめの延長線での性犯罪などもニュースで見る事があり、年齢による適用範囲はなくすべきだと思っているため。
など、性犯罪被害者が受ける心身の傷の大きさに比べて法定刑がまだ軽い、被害者支援が不十分という指摘、「不同意性交等罪」や「不同意わいせつ罪」の年齢要件(相手が13歳以上16歳未満の場合は、行為者が5歳以上年長のとき)の見直しなどを求める声などがありました。再犯防止の取り組み、加害者の治療プログラムについての言及もあり、子どもたちを守るためにはさまざまな視点からの対策が求められています。
※4:「性犯罪に関する法律の規定が変わりました!」法務省HP
5.性的な広告があふれるネットやSNSのコンテンツに対する指摘、対策を求める保護者
今回、保護者の意見の中に、インターネットやSNSで目にする性的なコンテンツについての指摘がいくつかありました。
・YouTubeやゲーム攻略サイト等、子どもが見ることも多いのに簡単に18禁コンテンツの広告等が垂れ流されている現状は異常だと感じます。 保護者も完全には防ぎきれないため、運営側ももっとゾーニングを意識してほしいです。
・SNSなどの広告など、ふと目に入ってしまうものでも性犯罪のような広告が流れているので規制して取り締まってほしい。
・ネット上の性的な広告の廃止を求めたい。 街中の露出の多いイラスト等、廃止されないのは何故なのか。
こども家庭庁の「令和6年度 青少年のインターネット利用環境実態調査」(*5)において、通園中の子ども(0歳~6歳)の72.7%、小学生(6歳~9歳)の91.4%がインターネットを利用していることが明らかになっています。保護者が実感しているように、低年齢の子どもたちがインターネットを利用する中で、アダルトコンテンツなどから誤った性情報を目にしやすくなっていることがわかります。今は学校でも生徒が日常的にインターネットで調べ学習をしていますが、授業で必要なことを調べていたウェブサイトで性的な広告が表示される問題も起きています。
子どもをインターネットから遠ざけることが現実的ではない今の時代、インターネットやSNSの運営会社に対策を求めることに加え、子どもたちが誤った性情報を鵜呑みにし、加害者・被害者にならないためにも、どろんこ会グループは幼児期からの科学的で人権ベースの性教育がより一層重要になっていると考えています。
※5:「令和6年度 青少年のインターネット利用環境実態調査」報告書
6.子どもへの性暴力を防ぐためには、大人向けの性教育こそが必要
最後に、「子どもへの性加害を防ぐため、国や教育機関にどのようなことを求めますか?(複数回答)」の質問について、スタッフ、保護者ともに「幼児期からの性教育」が一番多く選択されています。
そのほか、スタッフにおいては「学校での性教育」「性被害を受けた子どもへのケアと支援の充実」と続き、保護者においては、「性犯罪へのさらなる厳罰化」「学校での性教育」となっています。
一方、「大人向けの性教育」の選択者はスタッフ、保護者ともに一番少なく、子どもへの性暴力を防ぐためには、大人も性教育を受ける必要があることがあまり認識されていない結果となりました。

どろんこ会グループは2004年より20年間、幼児期の性教育を実践してきましたが、本調査の結果から、スタッフや保護者を対象とした啓発活動や学習機会の提供などに取り組む余地があることが明らかになりました。今後、園児はもとより大人を対象とした性教育のさらなる充実に尽力し、国が進めている施策が保育・教育現場で効果を発揮するよう、社会へさまざまな提言を行ってまいります。
本調査についての取材、性教育に関するお問い合わせは下記のフォームをご利用ください。

どろんこ会グループ
どろんこ会グループ(社会福祉法人どろんこ会、株式会社日本福祉総合研究所 理事長・代表取締役 安永愛香/株式会社ゴーエスト、株式会社南魚沼生産組合、株式会社Doronko Agri 代表取締役 高堀雄一郎)は全国約180箇所に認可保育園、認証保育所、事業所内・院内保育所、学童保育室、地域子育て支援センター、児童発達支援センター、児童発達支援事業所、放課後等デイサービス、就労継続支援B型事業所などを運営。次代を担う子どもたちの「にんげん力」を育む体験型保育・自然保育を行う。幼児期の性教育や男性保育士比率の高さなど、各種メディアでもその取り組みが紹介されている。
1998年設立。職員数約2600人(2025年3月)。施設利用者数約10000人(2025年3月)。
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