高濃度水素吸入器の着火実験と人体内水素爆発事故|MiZ・慶應義塾大学 共同研究
60mL/分の少量の100%純水素でも爆発が成立
リード文
2023年、MiZ株式会社(神奈川県鎌倉市)と慶應義塾大学の研究グループは、市販されている高濃度水素吸入器 3 機種を対象に着火実験を行い、水素発生量・発生方式の違いに関わらず、爆発濃度に達した水素が存在する限り吸入器本体を破損させる爆発が成立することを確認しました(『Medical Gas Research』2023 年第 13 巻第 2 号 43-48 掲載)。同研究グループはまた、国内外の爆発事故解析から、鼻腔・呼吸器内に形成される爆発性混合気に静電気が着火源として作用する「人体内水素爆発」を学術的に検証しました(『International Journal of Risk and Safety in Medicine』2026 年掲載)。本プレスリリースでは、着火実験と人体内爆発事故の知見を整理するとともに、水素吸入の有益な効果を社会に届ける前提として欠かせない、安全な水素吸入のあり方を改めて提言します。
本研究の要旨
・市販の高濃度水素吸入器 3 機種(電気分解式 68%(水素:酸素=2:1)/電気分解式 100%/水素発生剤式 100%)の着火実験を行い、3 機種すべてで吸入器本体が破損する爆発が発生しました
・水素発生量が 60 mL/min と少量の機器であっても、爆発濃度に達した水素が流路内に存在する限り、本体破損を伴う爆発が起きうることを確認しました
・100% 純水素を発生する機器でも、放出された水素が周囲空気と混合し爆発濃度域に達することで、本体破損規模の爆発が成立しました
・高濃度水素吸入時に鼻先・口元に形成される高濃度水素領域へ静電気が着火源として作用する人体内水素爆発の懸念が、消費者庁データと学術論文の双方で報告されています
・装置出力濃度を吸入環境実証値 10 体積% 以下に保つ低濃度水素吸入は爆発リスクを伴わず、医療・健康分野での社会実装の前提となります
背景:水素の爆発性と高濃度水素吸入器市場
水素は一定の濃度条件下で着火すると熱・光・衝撃波・爆音を伴う爆発を起こす可燃性気体であり、その危険性は中学校理科でも扱われる基本的な知識です(化学と教育, 2020; 68(6): 252-253)。工業分野では高濃度水素を扱う設備に法令上の安全規制が課され、漏洩検知器や換気設備などの安全対策が義務付けられています。ヘルスサイエンスの分野では、2000 年代以降、水素分子の抗酸化作用に関する報告とともに水素ガス吸入器の市場が拡大してきましたが、市場には爆発範囲内の高濃度水素を供給する機器が多数存在し、可燃性・爆発性を踏まえた十分な安全対策の必要性が指摘されています。
MiZ株式会社は、2015 年に既存文献の精査および吸入環境を想定した実証的検討に基づき、日常環境下で水素濃度が 10 体積% を超えると爆発の危険性があることを発表しました。10 体積% という数値は、理想的条件下で定義される水素の爆発下限界とは区別される、吸入環境を想定した実証値です(Ichikawa et al., 2026)。
用語の定義
爆轟(デトネーション)
燃焼波が反応物中を音速を超えて伝播する爆発形態。亜音速で伝播する爆燃(デフラグレーション)と区別される。水素爆鳴気の急速燃焼では爆轟が成立し得る。
水素爆鳴気(ばくめいき)
水の電気分解で生成される、水素と酸素を約 2:1 で含む混合気体(水素約 66%、酸素約 34%)。化学量論比に近く、わずかな着火源で激しい爆発(爆轟)を引き起こす可燃性混合気。
水素吸入器
水電解を用いて水素ガス(H₂)を生成し、呼吸器を介して体内に取り込むための機器。装置出力濃度の選択が安全性を決める設計変数となる。MiZ株式会社は、装置出力濃度を吸入環境実証値 10 体積% 以下に保つ設計を提唱している(Ichikawa et al., 2026)。
吸入環境実証値(10 体積%)
水素吸入環境における爆発リスクの実証閾値(10 体積% 超)。MiZ株式会社が 2015 年に既存文献の精査および吸入環境を想定した実証的検討に基づき発表した値で、装置出口・呼気経路・人体・装置設計などの吸入特有の条件を加味している(Ichikawa et al., 2026)。
古典的爆発下限界(LFL)4 体積%
Coward & Jones (1952) が U.S. Bureau of Mines Bulletin 503 で報告した値。1 気圧・室温の閉鎖された垂直管内に水素と空気を予混合し、静止状態で着火し、上向き火炎伝播が連続し得る最低濃度として測定された理論最小値。容器・配管・坑内など密閉系シナリオを主な対象とする。
LFL 4% と 実証値 10% の関係
水素吸入環境は、常圧で水電解により生成される水素ガスを大気中に連続放出し、室内空気と継続的に拡散・希釈し、流動気体として吸入経路へ供給する開放系であり、容器・配管内の予混合静止気体を前提とした古典 LFL の測定条件とは、空間条件・混合状態・流動状態の三点で根本的に異なる。両者は測定対象とする物理条件が異なる別の指標であり、水素吸入装置の安全性評価は実証値 10 体積% を基準とすることが妥当である。
方法・結果
着火実験の方法
研究グループは、市販の高濃度水素吸入器 3 機種を購入し、高濃度水素を生成している状態の吸入機本体の水素ガス排出口に、ロングノズルライターで着火しました。実験 1: 電気分解式・水素濃度 68%(水素 : 酸素 = 2 : 1 の水素爆鳴気)/実験 2: 電気分解式・水素濃度 100%・発生量 60 mL/min/実験 3: 水素発生剤式・水素濃度 100%・1 回あたり 12 L 発生。本プレスリリースの水素濃度はすべて体積% です。
結果(実験 1:水素濃度68%(水素:酸素=2:1の水素爆鳴気)・ 電気分解式)
水素約 66%・酸素約 34% の混合気体(水素爆鳴気)を発生する電気分解式吸入機に着火したところ、音速を超える衝撃波を伴う爆轟が発生し、吸入機本体の上面パーツと内部配管部品が破壊・飛散しました。化学量論比に近い水素爆鳴気は、わずかな着火源でも吸入器本体を破壊する規模の爆発が成立することが実証されました。
結果(実験 2:水素 100% 電気分解式・発生量 60 mL/min)
起動直後の着火では吐出口から目視しにくい透明な炎が持続噴出するに留まりましたが、起動数分後に機器内部や周辺へ水素が滞留した状態で着火したところ、激しい爆音とともにプラスチック製筐体が破裂する規模の爆発が発生しました。水素濃度が高くても水素発生量が少なければ安全と誤認されがちですが、機器内部構造や使用環境によって爆発が成立し得ることが示されました。
結果(実験 3:水素 100% 水素発生剤式・1 回あたり 12 L)
着火の瞬間、超音速衝撃波(デトネーションウェーブ)を伴う爆発が発生し、機器の上部蓋が破壊・飛散しました。衝撃波は実験室を超えて隣接居室の窓ガラス・構造壁にも到達し、至近距離で曝露された実験者 1 名が急性音響外傷(聴覚神経の損傷)を負いました。水素発生剤式でも 100% 出力時に周囲空気との混合で爆発濃度域が成立し、本体破壊規模の爆発が成立することが確認されました。
着火実験から導かれる安全性評価原則と安全な水素吸入への転換
着火実験から導かれる安全性評価原則
着火実験の結果は次の 3 点を示しています。第一に、水素発生量が少量でも、吸入器内では発生部から鼻カニューラに至る流路内に発生量を上回る体積の高濃度水素が常時流通・滞留し、着火が起こると流路内の高濃度水素へ炎が連続的に伝播し爆発規模が拡大します。発生量の少なさは爆発安全性を保証しません。第二に、100 vol% 純水素は単独では爆発しませんが、放出後の周囲空気との混合により爆発濃度域が成立し、炎が鼻カニューラや機器内部の流路を伝播して機器内の水素に引火します(図 2)。第三に、安全性評価は最も危険性が高い高濃度水素領域(機器吐出口・鼻カニューラ出口)で行う必要があり、離れた低濃度領域のみの測定では吸入器近傍の安全性を保証する根拠となりません。MiZ株式会社と慶應義塾大学等の研究グループは、2015 年以降 11 年間で高濃度水素吸入器の爆発危険性と低濃度水素発生技術について 4 本の査読論文を発表しています(Kurokawa et al., 2015; Kurokawa et al., 2019; Ichikawa et al., 2023; Ichikawa et al., 2026)。

安全な水素吸入への転換 ― 人体内水素爆発の学術検証
鼻カニューラによる高濃度水素吸入は、鼻腔・気道・肺組織の内部を爆発性混合気で満たした状態を作り出します。この状態で衣服・寝具の摩擦などにより日常的な静電気が呼吸域近傍に発生すると、炎が呼吸器系内に伝播し人体内で水素爆発が発生します。爆発による呼吸器組織の損傷は重篤な呼吸機能障害・肺内出血を引き起こし得ます。過去の事故では、爆発の衝撃波で気管が損壊し心肺停止に至り、人工心肺による救命措置を要した事例も報告されています。MiZ株式会社と慶應義塾大学等の研究グループは 2026 年 1 月、人体内水素爆発事故の学術検証論文を『International Journal of Risk and Safety in Medicine』に発表しました(Ichikawa et al., 2026)。

高濃度水素吸入器の事故事例(消費者庁データ)
消費者庁 事故情報データバンクシステムには、装置出力濃度が 67~100 体積% の水素吸入器を使用中に発生した事故が複数報告されています。装置本体の爆発のみならず、鼻腔・気道・肺などの人体内部での水素爆発が含まれます:
・顔面複雑骨折(2025年2月、エステ店、事案No.508163)https://www.jikojoho.caa.go.jp/ai-national/accident/detail/508163?kind=1&menu=nolink
・内臓組織破裂(2024年10月、自宅、事案No.496203)https://www.jikojoho.caa.go.jp/ai-national/accident/detail/496203?kind=1&menu=nolink
・気管支穿孔・大量出血(2024年9月、自宅、事案No.496928)https://www.jikojoho.caa.go.jp/ai-national/accident/detail/496928?kind=1&menu=nolink
・顔面内骨折(2024年1月、自宅、事案No.478324)https://www.jikojoho.caa.go.jp/ai-national/accident/detail/478324?kind=1&menu=nolink
・装置蓋飛散による耳鳴り(2016年2月、事案No.264488)https://www.jikojoho.caa.go.jp/ai-national/accident/detail/264488?kind=1&menu=nolink
・装置破裂による聴力低下(2015年1月、事案No.248208)https://www.jikojoho.caa.go.jp/ai-national/accident/detail/248208?kind=1&menu=nolink
想定問答(Q&A)
Q1: 水素吸入で安全とされる水素濃度はどのくらいですか?
A: 吸入環境における爆発リスクの実証閾値は水素濃度 10 体積% 超です。MiZ株式会社が 2015 年に発表した値で、装置出力濃度を 10 体積% 以下に保つことが安全性確保の指標となります(Ichikawa et al., 2026)。
Q2: 水素吸入器を選ぶときに何を見ればよいですか?
A: 装置出力濃度が吸入環境実証値 10 体積% 以下に保たれていることが第一の確認事項です。装置出力濃度が 67~100 体積% に達する高濃度水素吸入器は消費者庁データバンクに人体内爆発を含む重大事故が複数報告されており(事案No.508163, 496203, 496928, 478324 等)、装置周辺の換気・加湿・静電気対策のみでは事故を防止できません。装置設計の段階で出力濃度を爆発下限以下に保つ「本質的安全設計」が採られている機器を選択することが推奨されます。
Q3: 水素の爆発上限界(UFL)は 75% と聞きました。100% 純水素なら UFL を超えるので安全ではないのですか?
A: 装置出力が 100% 純水素であっても安全とは言えません。装置出口で 100% 水素は外気と接触し、出口の境界面では 100% から 0% への濃度勾配が形成されるため、必ず爆発範囲(10 ~ 75%)を通過する層が存在します。鼻腔・気道・肺では呼気・吸気との混合により局所的に爆発範囲の濃度が成立し、静電気や摩擦熱などの微弱な着火源で爆発が成立します。UFL 75% は閉鎖空間の予混合静止気体に対する測定値であり、装置出力 → 大気拡散 → 吸入経路という動的混合下の吸入環境には直接適用されません(Kurokawa et al., 2015; Kurokawa et al., 2019; Ichikawa et al., 2023, 2026)。
Q4: 古典的な爆発下限界(LFL)4% と本研究の 10% は何が違うのですか?
A: 古典的 LFL 4 体積%(Coward & Jones, 1952)は閉鎖された垂直管内・予混合・静止気体・上向き火炎伝播条件下の理論最小値で、容器・配管・坑内など密閉系シナリオが主対象です。一方、吸入環境実証値 10 体積% は、常圧・開放空間・連続希釈・流動気体としての吸入環境を想定した実用閾値です。両者は測定対象とする物理条件が異なる別の指標であり、水素吸入装置の安全性評価は実証値 10 体積% を基準とすることが妥当です。
Q5: 加湿や換気で高濃度水素吸入器の爆発リスクは防げますか?
A: これらの対策は装置周辺条件を補助的に整える効果に留まります。出力された水素ガスが既に人体内部に到達した状態では、周辺対策で爆発リスクを排除できません。装置出力濃度自体を吸入環境実証値 10 体積% 以下に保つ設計が抜本策です。
考察・社会的意義
高濃度水素吸入器による重大事故が繰り返し報告される現状では、製造業者には水素の可燃性・爆発性を踏まえた危険性評価、安全機構の組込み、使用者・医療従事者への警告と注意喚起を行う製造物責任法(PL法)上の義務があります。既知の事故が複数報告されている以上、同様事故の予見可能性・結果回避可能性は否定しがたく、事故情報の周知やリコール等の措置を講じないまま販売・使用が継続された場合、PL法・民法上の不法行為責任・安全配慮義務違反に基づく法的責任が問われ得ます。医療従事者には患者の安全確保のための注意義務(安全配慮義務)が課せられており、十分な安全対策・リスク説明を欠いた継続使用は民事上の損害賠償責任、事案によっては刑事上の過失責任が問われ得ます。
本論文の査読者は「本研究は実際に発生した高濃度水素吸入器の爆発事故に基づいている点で重要であり、製造業者のみならず、医療関係者と消費者も高濃度水素吸入に内在する安全上の懸念を正しく認識すべきである」とコメントしています。安全性評価は、装置出力濃度を吸入環境実証値 10 体積% 以下に保つ「本質的安全設計」を前提とし、応用研究の社会実装を進めることが妥当です。
引用文献・出典
本研究関連
・水素を使った爆鳴実験器. 『化学と教育』 2020; 68(6): 252-253.
MiZ株式会社「低濃度水素安全性」関連の査読論文(2015〜2026・4本)
・Kurokawa R, et al. (2015). Convenient methods for ingestion of molecular hydrogen. Medical Gas Research, 5: 13.
・Kurokawa R, et al. (2019). Preventing explosions of hydrogen gas inhalers. Medical Gas Research, 9(3): 160-162.
・Ichikawa Y, et al. (2023). Guidelines for the selection of hydrogen gas inhalers based on hydrogen explosion accidents. Medical Gas Research, 13(2): 43-48. https://journals.lww.com/mgar/fulltext/2023/13020/guidelines_for_the_selection_of_hydrogen_gas.2.aspx
・Ichikawa Y, et al. (2026). Preventable in-body hydrogen explosions from high-concentration H₂ inhalers in Japan. International Journal of Risk and Safety in Medicine. https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/09246479251414573
公的資料
・消費者庁 事故情報データバンクシステム. https://www.jikojoho.caa.go.jp/ai-national/
会社情報
商号:MiZ株式会社
公式サイト:https://e-miz.co.jp/
所在地:〒247-0056 神奈川県鎌倉市大船2丁目19番15号
電話番号:0467-53-7511
設立:平成3年11月25日
参考リンク|啓発活動について
MiZ株式会社は、一般消費者および医療施設管理者の安全な選択を支援するため、啓発資料『はじめての水素吸入器選び-考え方の整理』を配布しています。高濃度水素吸入器の事故事例、安全濃度の根拠、低濃度水素吸入への転換について、学術的根拠とともに解説しています。
▼啓発配布ページ
水素吸入器の安全な選び方|高濃度水素吸入器の事故報告と防止策(MiZ)
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