バイオものづくりプロセスの開発に向け、有効な測定対象を数理的に選ぶ技術を開発

経験に依存しやすい測定対象の選定を定量化し、根拠に基づく測定計画の立案を支援

株式会社 日立製作所

 日立は、国立大学法人 大阪大学との共同研究を通じて、バイオものづくりに用いる微生物や培養プロセスの開発において、細胞内のどの代謝物*1を優先して測定すべきかを数理的に評価し、測定計画の立案を支援する技術を開発しました。

 今回開発した技術は、微生物の細胞内の化学反応を数理的に表した代謝モデル*2を構築する際に、各代謝物の測定がどの程度未知の代謝モデルの解明度*3の向上に役立つかを情報理論*4に基づいて評価し、代謝モデルの精度を向上させるための測定対象の選定を支援します。コハク酸を生産する大腸菌のモデルに本技術を適用し、5種類の代謝物を比較した結果、有望と評価した代謝物の測定データを加えることで、モデルの解明度が向上することを確認しました。これにより、限られた実験・分析資源の中でも、モデル構築に役立つ情報を得やすい測定計画を検討できるとともに、なぜその代謝物を優先するのかという判断根拠を関係者間で共有しやすくなります。

 今後、日立は、お客さまやパートナーと連携し、実際の開発プロセスへの適用を通じて有効性を検証していきます。さらに、バイオものづくりの過程で得られるデータとナレッジの融合を進め、根拠に基づく開発・生産を支える技術として発展させることで、産業基盤の高度化に貢献していきます。

図1 モデル構築に役立つ測定対象を選定する技術の概念図

*1 代謝物: 細胞の中で起こる化学反応の過程で生じる物質

*2 代謝モデル: 細胞内でどのように物質がつくられ、変化していく過程を数理的に表したモデル

*3 未知の代謝モデルの解明度: この値が低いと同じ結果を説明できるモデルが複数存在し、それぞれのモデルの予測結果のばらつきが大きい状態

*4 情報理論: 情報の量や価値を数理的に扱い、どの情報がどれだけ役立つかを評価するための理論

■背景および課題

 脱炭素化の進展や原料調達環境の変化を背景に、微生物を活用して素材や化学品などを生産するバイオものづくりへの期待が高まっています。その実用化や産業化を進めるには、開発判断を経験だけに頼らず、データに基づいて効率的に進めることが重要です。経済産業省の合成生物学分野の議論でも、「匠の技に依存したバイオものづくりからの脱却」や「データ高度利用」の重要性が示されています*5。一方で、微生物に目的物質を安定して生産させるための条件を見極めることは容易ではありません。このため、細胞内の物質の流れを数理的に表した代謝モデルなどデジタル技術・データを活用し、微生物の性質や培養条件の違いが、物質生産に与える影響を、コンピューター上で事前に予測する取り組みが進んでいます。しかし、測定対象となる代謝物の候補は多く、すべてを網羅的に測定することは、実験回数や測定コストの制約から難しいのが実情です。そのため、どの代謝物を優先すべきかの判断は、専門家の経験や個別の知識背景に依存していたことが課題でした。

*5 出典: 経済産業省「合成生物学をめぐる現状と今後の方向性

■課題を解決するために開発した技術の特長

 そこで日立は、代謝モデルの構築や活用を進めるために、どの代謝物を優先して測定すべきかを情報理論を応用した指標である2種類の情報利得*6を用いて、測定対象の選定を支援する技術を開発しました。技術の特長は以下の通りです。

*6 情報利得: ある情報を得ることで、不確かさがどの程度減るかを表す指標

図2 優先して測定する代謝物を数理的に選択する技術の全体像

1. 未知の代謝モデルの解明度向上に役立つ測定対象の選定を支援する技術

 各代謝物の測定によって未知の代謝モデルの解明度が向上するかを観測前に定量的に評価する期待情報利得(Expected Information Gain)を導入し、多数の代謝物候補の「測定する価値の高さ」を、共通の指標で比較できます。温度などの実験条件を決める従来の実験計画法とは異なり、本技術では「何を測ればモデルの解明度が効率的に向上するか」を定量的に評価し、優先して測定すべき代謝物の選定を支援します。

2. 未知の代謝モデルの解明度の改善効果を定量評価する技術

 実測した代謝物測定データを用いて算出する実現情報利得(Realized Information Gain)を導入し、測定データが未知の代謝モデルの解明度の向上にどの程度寄与したかを評価します。期待情報利得が「測る前に期待される効果」を表すのに対し、実現情報利得は「実際に測った結果として得られた効果」を表します。これにより、選定した測定対象が、モデルの改善や開発判断にどの程度有効だったかを確認できます。

■確認した効果

 コハク酸を生産する大腸菌の速度論モデルを用い、5種類の細胞内代謝物を測定候補として比較しました。その結果、本技術を用いて選定した物質(CA: グルコース6-リン酸)を測定データとして追加することで、未知の代謝モデルの解明度が29.8%向上することを確認しました。これにより、限られた実験回数の中でも、モデル構築に役立つ情報を得やすい測定計画を検討できる可能性が示されました。さらに、なぜその代謝物を優先するのかという判断根拠を、関係者間で共有しやすくなることが期待されます。

■今後の展望

 今後、日立は、お客さまやパートナーと連携し、実際の開発プロセスへの適用を通じて本技術の有効性を検証していきます。さらに、バイオものづくりの過程で得られる実験データと、微生物や培養に関するナレッジを融合し、根拠に基づく開発・生産を支える技術として発展させることで、持続可能な産業基盤の高度化に貢献していきます。

 なお、本成果は2026年8月26日(水)から8月28日(金)まで神奈川県相模原市で開催される日本バイオインフォマティクス学会年会(IIBMP2026)で発表予定です。

■関連情報

 日立の研究開発ウェブサイト

■照会先

 株式会社日立製作所 研究開発グループ

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URL
https://www.hitachi.co.jp/
業種
情報通信
本社所在地
東京都千代田区丸の内一丁目6番6号
電話番号
03-3258-1111
代表者名
德永 俊昭
上場
東証プライム
資本金
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設立
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