アンモニア燃料アンモニア輸送船の建造決定
「日本の技術で海と未来を変える」~2026年竣工へ加速~
日本郵船株式会社(以下「日本郵船」)、株式会社ジャパンエンジンコーポレーション(以下「ジャパンエンジンコーポレーション」)、株式会社IHI原動機(以下「IHI原動機」)、日本シップヤード株式会社(以下「日本シップヤード」)の4社は、2023年12月に世界初となる国産エンジンを搭載したアンモニア燃料アンモニア輸送船(AFMGC: Ammonia-fueled Medium Gas Carrier、以下「本船」)の建造に関わる一連の契約を締結しました。本船の竣工は海洋分野における脱炭素化の実現に向けた大きな一歩となります。4社は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によるグリーンイノベーション基金事業(注1)への21年10月の公募採択以降、協力機関である一般財団法人日本海事協会(以下「日本海事協会」)とともに5者(以下「当コンソーシアム」)で「アンモニア燃料国産エンジン搭載船舶の開発」(以下「本プロジェクト」)を進めてきました。26年11月のAFMGC竣工に向けて「日本の技術で海と未来を変える」を合言葉に、日本の海事産業を挙げて世界をリードする取り組みがいよいよ本格化します。
1.背景・目標
(1)国際海運ネット・ゼロエミッション達成への貢献
国際海運のネット・ゼロエミッション達成には、旧来の化石燃料から最適な次世代燃料への転換が不可欠です。アンモニアは燃焼しても二酸化炭素(CO2)を排出しないため、地球温暖化対策に貢献する次世代燃料として期待されています。当コンソーシアムはAFMGCの開発・建造を通じ、アンモニアを燃料とする船舶の実用化に貢献します。
(2)アンモニアバリューチェーンの構築
従来は肥料など化学原料用途での需要がその大半を占めていたアンモニアは、今後火力発電所での混焼用途や水素キャリア(注2)としての活用が見込まれ、国内外で需要が急拡大すると考えられています。同時にアンモニアの製造や海上輸送需要も増大し、アンモニアのバリューチェーンが順次立ち上がると想定されます。当コンソーシアムは、よりクリーンで環境負荷の少ないアンモニアバリューチェーンの構築が脱炭素化社会の実現に不可欠と考え、AFMGCをはじめとするアンモニア燃料アンモニア輸送船の竣工・普及に取り組みます。
(3)日本の海事産業の強化
四面を海に囲まれ、資源や食料の輸出入の99%以上(重量ベース)を海上輸送に依存している日本にとって、海事産業は経済安全保障を支える上で必要不可欠な産業です。海事産業には、船舶を運航する海運会社、輸送船を供給する造船会社、舶用機器メーカーなどが含まれ、国際競争力の維持・強化に取り組んでいます。当コンソーシアムは、ゼロエミッション実現に向けた燃料転換を好機とし、日本の海事クラスターの技術力をもって、高い環境性能・安全性を備えた船舶を他国に先駆けて供給することを目指します。
(4)アンモニアの舶用利用に関わる国際ルール化
アンモニアを燃料として使用する船舶に関する国際ルールは現状未整備で、目下、国際海事機関(IMO)での検討が進められています。本プロジェクトは、世界に先駆けてアンモニア燃料船舶の開発に取り組むものであり、AFMGCの建造・運航により得られた知見はIMOにおける議論の進展に不可欠です。当コンソーシアムは日本海事協会および国土交通省と密に連携し、日本主導の国際ルール化に寄与することを目標としています。
2.本船概要
船種 | 40000m3型アンモニア燃料アンモニア輸送船 |
引渡時期 | 2026年11月(予定) |
造船所 | ジャパンマリンユナイテッド㈱有明事業所 |
搭載エンジン | ①主機:ジャパンエンジンコーポレーション製 |
主な技術開発要素 | ①アンモニア燃料DFエンジンの開発 |
イメージ図
3.課題と歩み
(1)アンモニア燃料船開発にかかわる課題
アンモニア燃料船の設計開発の課題として、主に以下の点が挙げられます。
①アンモニアの難燃性 | アンモニアは着火しにくい難燃性を持つため、エンジンで安定的に燃焼させる高度な技術開発が必要。 |
②温室効果ガスである亜酸化窒素の処理 | アンモニアの燃焼時にCO2の約265倍の温室効果を持つ亜酸化窒素(N2O)が発生する恐れがある。亜酸化窒素の排出抑制及び処理に関わる技術が必要。 |
③アンモニアの毒性 | アンモニアには毒性があるため、本船の配管やタンクから漏洩しない設計とする必要がある。同時に、万が一漏洩した場合であっても、船員の安全を守る対策が必要。 |
(2)これまでの歩み・達成事項
4社はこれらの課題を克服したプロトタイプ船を設計し、22年9月日本海事協会による安全コンセプトの確認、リスク評価を含む安全性検証を実施し、代替設計承認を見据えてのAiP(基本設計承認)を取得しました。その後さらに研究開発が進展し、特に重要な判断軸である安全性と環境性について社会実装に足る水準まで達したと判断し、建造決定に至りました。
<安全性>
舶用燃料利用の最大の課題である毒性の克服に際し、日本海事協会によるリスク評価、日本郵船の機関長・機関士を中心とするユーザー目線からのリスク評価・安全対策提言などを実施しました。これらリスク評価を踏まえた安全対策を本船仕様に反映することで、安全性のさらなる向上を図りました。また本プロジェクトから得られた知見に基づき、日本海事協会がアンモニア燃料船の安全要件(ガイドライン)を公表、協業を踏まえた安全要件案については国土交通省を通じて、世界に先駆けてIMOへ提案するに至っています。
<環境性>
23年5月にはIHI原動機が、AFMGCの補機として使用予定の4ストロークエンジン実機で、世界で初めて重油との混焼率80%での燃料アンモニアの安定燃焼に成功し、亜酸化窒素(N2O)や未燃アンモニアの排出がほぼゼロとなること、運転中と停止後に実機からのアンモニア漏洩がないことが確認されました。同月ジャパンエンジンコーポレーションが大型低速2ストロークエンジンでの混焼運転を開始し、エンジン性能の最適化、安全性の検証を実施しています。これらの実証から得られたデータに基づき十分な環境性能の確立におおむね目途が立ったとの判断に至りました。本船全体で80%以上のGHG削減達成を最終的なターゲットと定め、さらなる研究開発を進めます。
4.今後のスケジュール
26年11月竣工に向けて主機・補機の製造、本船建造に向けた詳細検討の着手、また実運航に向けた運航マニュアルの整備などを進めます。また竣工後も、本船の実証運航を通じて、環境性を含めた本船性能や運航マニュアルの実用性などの最終確認を行い、ユーザーフィードバックを造船会社・舶用機器メーカーに行うことでさらなる改良につなげ、アンモニア燃料船開発の「ファーストムーバー」としての開発サイクルの構築に努めます。
5.各社概要・お問い合わせ先
社名・法人名 | 概要 | 問い合わせ先 |
日本郵船株式会社 | 本社:東京都千代田区 | 広報グループ 報道チーム |
株式会社ジャパンエンジンコーポレーション | 本社:兵庫県明石市 | 総務広報課 |
株式会社IHI原動機 | 本社:東京都千代田区 | IHIコーポレートコミュニケーション部 担当 齋藤 |
日本シップヤード株式会社 | 本社:東京都千代田区 | 管理部 人事総務グループ |
一般財団法人日本海事協会 | 本社:東京都千代田区 | 広報室 |
(注1)グリーンイノベーション基金事業
「2050年カーボンニュートラル」に向けてエネルギー・産業部門の構造転換や、大胆な投資によるイノベーションといった現行の取り組みを大幅に加速するため、NEDOが2兆円の基金を造成し、官民で野心的かつ具体的な目標を共有した上で、これに経営課題として取り組む企業などに対して、最長10年間、研究開発・実証から社会実装までを継続して支援する基金制度。グリーン成長戦略において実行計画を策定している重点14分野を中心に支援が行われる。
(注2)水素キャリア
クリーンな次世代燃料として注目される水素は常温常圧ではガス状態であるため、大量輸送、貯蔵が困難であることが大規模利用に向けた大きな課題となっている。この課題を克服するために、取り扱いがより容易な状態に変換された物質(圧縮水素・液化水素など)、効率的な輸送を実現する水素を含有する物質(メチルシクロヘキサン・アンモニアなど)を水素キャリアと呼ぶ。なお、アンモニアは肥料など化学原料用途でのサプライチェーンがすでに存在していること、また水素含有率が約18%、体積あたりの水素密度が液化水素の約1.7倍とほかの水素キャリアと比較して高いことから、アンモニアの直接利用だけでなく水素キャリアとしての活用が見込まれている。ただし、アンモニアから水素を取り出すためには、大規模な分解(クラッキング)技術の確立が必要となる。
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