キタミソウ(絶滅危惧Ⅱ類)の染色体構造の解明 ―なぜ江津湖と秋津町でしか生育していないのか?―
・これまで、このような特殊な分布パターンを示すキタミソウが、どのように日本にやってきたのか、世界のキタミソウとどのように違っており、どの程度似ているのか、全くわかっていませんでした。
・熊本県でも希少植物として知られているキタミソウについて、今後、より詳細な性質や生態が明らかになると期待されます。
【概要説明】
熊本大学生物環境農学国際研究センターの澤進一郎センター長、吉田祐樹特任助教、東海大学大学院生物科学研究科の星良和教授、総合農学研究所の加藤木高広特定助手の研究グループは、北海道・関東・熊本という限定的な場所でしか発見されていないキタミソウの染色体構造を突き止めました。
【今後の展開】
世界的にも、多くのキタミソウは四倍体であることから、日本のキタミソウは、やはり、渡り鳥によって運ばれてきた可能性が考えられます。また、国内での分布が北海道・関東・熊本と、かなり限定的なことから、それぞれの産地のキタミソウは、それぞれ異なる場所から渡り鳥によって運ばれてきた可能性も考えられます。海外におけるキタミソウの染色体数や種間雑種の報告と、今回の詳細な染色体の解析を照らし合わせ、さらに非常に速い世代交代ができる旺盛な種子繁殖の性質からみて、本種は、以下の様な特徴があると考えられます。
1)雑種起源をともなった2種類の異なるゲノムを共有させて環境適応能力を向上させ、日本の異なる地域(北海道から九州まで)でも生育できるようになった。
2)染色体の倍化によって、異なるゲノム間の染色体対合を回避し、不等分配を引き起こさない正常な減数分裂を回復させて、繁殖出来るようになった。
3)また、異質四倍体として、親から子に同じ4セットのゲノムを伝えるための種子繁殖性を獲得した。
今後、より詳細な解析を行うことで、なぜ、日本国内の分布が限定的なのか、熊本では、なぜ江津湖と秋津町でしか見られないのか、また、日本の異なる産地のキタミソウは、それぞれ世界のどこからやってきたのか、はたまた、日本の3箇所のキタミソウは同一種なのか、等も明らかにできると考えています。熊本県でも希少植物として知られているキタミソウについて、今後、より詳細な性質や生態が明らかになると期待されます。
本研究成果は、令和5年12月24日に科学雑誌「Cytologia」に論文が掲載されました。
【論文情報】
論文名:“Genome Size Determination and Chromosome Characterization of Limosella aquatica L. (Scrophulariaceae) in Japan”
“日本におけるキタミソウの染色体構造とゲノムサイズの決定”
著者・所属:加藤木高広1、吉田祐樹2、中山魁仁3、 星良和4、澤進一郎1
1東海大学総合農学研究所
2 熊本大学大学院先端科学研究部附属生物環境農学国際研究センター
3東海大学農学部農学科
4東海大学大学院生物科学研究科
掲載誌:Cytologia
DOI:https://doi.org/10.1508/cytologia.88.339
URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/cytologia/88/4/88_D-23-00058/_html/-char/ja
▼プレスリリース全文はこちら
https://www.kumamoto-u.ac.jp/daigakujouhou/kouhou/pressrelease/2023-file/release240305.pdf
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