アラヤ、順天堂大学・ゼブラと共同で「ペンの動き」からパーキンソン病を検知するAI技術を開発
説明可能なAI(XAI)により、筆記時の「ペンを離す動き」が重要なバイオマーカーである可能性を示唆

ニューロテック×人工知能(AI)の研究開発・ソリューション提供を手掛ける株式会社アラヤ(所在地:東京都千代田区、代表取締役:金井良太、以下「アラヤ」)は、順天堂大学、ゼブラ株式会社(以下「ゼブラ」)と共同でセンサー搭載ペンから得られる手書き動作データを用い、パーキンソン病を高精度に識別する説明可能なディープラーニングモデルの構築に取り組みました。本研究において、アラヤは手書き動作からパーキンソン病を高精度に検知する「AIモデルの構築と解析」を担当。開発したフレームワークは、最高91%の精度でパーキンソン病患者と健常者を識別し、「筆圧」や「ペン角度」といった具体的な動作の変数が判断の根拠である可能性を示しました。
本研究成果は、2026年5月20日(水)~5月23日(土)にパシフィコ横浜で開催された第67回日本神経学会学術大会※1において発表されました。
※1 https://www.neurology-jp.org/neuro2026/
■ 発表内容
【背景と目的】
パーキンソン病は、世界で数百万人が罹患する神経変性疾患であり、高齢化に伴い2050年には患者数が現在の約2倍に増加すると予測されています。現在、診断は専門医による視覚的な観察や主観的な評価尺度に依存しており、早期発見や日常的な経過観察を可能にする客観的かつ非侵襲的な「デジタルバイオマーカー」の確立が急務となっています。本研究では、日常的な「書く」という動作に着目し、手書き動作より「バイオマーカー」の特定を行うAIモデルの開発を目的としました。
【実験・解析内容】

順天堂大学医学部附属順天堂医院のパーキンソン病患者50名と、年齢をマッチさせた健常者50名を対象に、15種類の筆記・描画タスクを実施しました。このうち、ストロークの区切りが明確な8タスクを主要解析の対象としました。解析にあたっては、得られたデータを「ストローク単位(1画ごと)」に分割し、さらに以下の3フェーズに分解して解析する独自の1次元CNN(Convolutional Neural Network)モデルを構築・適用しました。
3つの筆記フェーズ
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Rising(書き始めの筆圧上昇フェーズ)
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Horizontal(比較的安定した筆圧水平フェーズ)
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Falling(書き終わりの筆圧下降フェーズ)

【研究結果】
① 筆圧とペン角度がパーキンソン病識別の主要特徴量
20種類の特徴量を解析した結果、2つのXAI(Explainable AI)手法(Integrated GradientsおよびOcclusion分析) が共通して「筆圧(Pressure)」と「ペン角度(Angle)」を最重要特徴量として特定しました。
パーキンソン病は脳内ドーパミン減少を背景とする神経疾患であり、 手首・指・前腕の筋固縮が知られています。このため、ペン角度の動的調整の制限や筆圧の力加減が困難になると考えられます。
② ストローク終わりの「筆圧下降フェーズ(ペンを紙から離す動き)」に重要な特徴が集中
ストロークの3フェーズ別に解析したところ、書き終わりの筆圧下降フェーズ(ペンを紙から離す動作)において筆圧・ペン角度の重要度が高い傾向が見られました。
この結果は、パーキンソン病特有の「運動終了時のスムーズな力の解放が困難」という症状と一致しており、ストローク終わりの部分の動作パターンが重要な診断情報を含む可能性が示唆されました。
③ 平行線の間への書字タスクが最高精度91%を達成
8種類のタスクを用いたCNNモデルの全体精度は83%を示しました。中でも「2本の平行線の間に文章を書く」タスクに限定した場合、最高精度91%を達成しました。線の間に書く空間的制約が、視空間処理・注意・運動実行の複合負荷を増加させ、パーキンソン病特有の運動・認知障害をより顕著に引き出すためと考えられます。
■ アラヤの技術的貢献
アラヤは、本研究においてAI・ニューラルネットワーク解析を担当し、説明可能な深層学習フレームワークの設計・構築を主導しました。
◎ 「ブラックボックス」問題への挑戦
医療AIが臨床で実際に活用されるためには、診断精度だけでなく「なぜそう判断したか」の根拠が不可欠です。アラヤは、IG(Integrated Gradients)とOcclusion分析という、理論的背景の異なる2つのXAI手法を並行して適用し、双方が一致する特徴量のみを重要バイオマーカーとして認定する「デュアルXAI検証フレームワーク」を構築しました。
◎ ストロークレベルのCNN設計
1次元CNNにDilated Convolution(拡張畳み込み)、残差接続、GELU活性化関数、Gated Linear Unit(GLU)を組み合わせた独自アーキテクチャを設計。ストロークデータの特徴を捉えながら、過学習を抑制し、100名という規模のデータでも高い汎化性能を実現しました。
本研究のコードはGitHub(https://github.com/arayabrain/zebra-analysis)で公開予定です。
■ 今後の展開
今回、研究グループは専門医による主観的な評価尺度に依存しているパーキンソン病診断における、「書く」という動作による客観的かつ簡便な診断法の基盤を確立しました。主観から客観、そして複雑から簡便へのパラダイムシフトにより、パーキンソン病診断が脳神経内科医に限らず、広く行われる未来が期待されます。また、その診断法では、筆圧とペン角度が重要であることがわかりましたが、それらの情報を患者にフィードバックし、「書く」という動作を正常に近づけることにより、症状改善につながる可能性もあります。
■ 順天堂大学医学部神経学講座 服部 信孝 特任教授によるコメント
パーキンソン病の診断を、専門医の主観だけに頼らず、「書く」という日常動作から客観的に支えたい――その思いで本研究に取り組みました。筆圧とペン角度、特にストローク終端の動きが重要なデジタルバイオマーカーとなりうること、そしてごく簡便な書字タスクで91%という高い精度が得られたことは大きな成果です。将来は、自宅や地域医療の現場でも誰もが気軽にパーキンソン病の兆候をチェックでき、さらにフィードバックを通じて症状の改善・進行抑制にもつながるような、「書くこと」を軸にした新しい診断・リハビリのエコシステムを実現したいと考えています。
■ 順天堂大学医学部神経学講座 佐光 亘 准教授によるコメント
本研究では、AIの課題であるブラックボックス化を克服し、病態生理に基づく判断根拠からパーキンソン病診断モデル構築に成功しました。「書く」という日常的な動作から、筆圧とペン角度という二つのバイオマーカーが特定され、これらは、診断は当然ですが、その情報を患者さんにフィードバックすることにより、治療にも応用できる可能性を秘めています。研究を進め、皆さんの手元に実装された成果がもたらされるよう、一層努力していきたいと思います。
■ ゼブラ研究担当者によるコメント
「かく」ことを通した医療分野への貢献を目指し研究を進めてきました。今回、筆記データを用いたAI解析手法を開発し、パーキンソン病診断に応用できる可能性が示されました。今後は、本研究成果をもとにセンサー搭載ペンの医療分野への社会実装を目指して研究開発を進めるとともに、「かく」ことを起点としたパーキンソン病研究を継続し、最先端の解析手法も活用しながら、日常的な「かく」という行為によって生み出される新たな価値と社会への貢献を追求していきます。
■ アラヤ担当者によるコメント
医療AIが臨床現場で本当に役立つためには、「なぜそう判断したか」を説明できることが不可欠です。本研究では、理論的背景の異なる、説明可能AI(XAI)の2つの手法が共通して「筆圧」と「ペン角度」をパーキンソン病の重要指標として特定しました。AIの判断根拠を可視化し、医師が検証・信頼できる形で示せたことは、診断支援AIの社会実装に向けた重要な一歩だと考えています。アラヤは今後も、XAIを通じて医療・神経科学分野の課題解決に貢献してまいります。
■ センサー搭載ペンとは
ゼブラ株式会社が開発した本体にセンサーを搭載し、書いている時の速度、角度、筆圧、時間などのデータを取得できるペン。Bluetoothで様々なデバイスに接続して筆記のプロセスを可視化し、デジタル空間とつなぐことができます。
もちろん通常の筆記具(ボールペン又は シャープペン)のように紙に書くこともできます。
全長:146mm 重量:19.6g ※非売品

■ 本研究に関わる機関について
順天堂大学:臨床研究の実施および専門的な医学的知見の提供を行い、実験デザインの設計から実験実施まで本研究を主導。
https://www.juntendo.ac.jp/
ゼブラ株式会社:1897年創業の筆記具メーカー。センサー搭載ペンの開発および研究構想を提供。
https://www.zebra.co.jp/
株式会社アラヤ:AIと脳科学を融合したNeuroAIをコアとし、医療からエッジAI、自律制御まで幅広く展開。
会社概要
会社名:株式会社アラヤ
代表者:代表取締役 金井 良太
設 立:2013年12月
所在地:東京都千代田区神田佐久間町1-11 産報佐久間ビル6F
事 業:ディープラーニング、エッジAI、自律AI、ニューロテック、研究受託等
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