奥西勝さんの死を無駄にしてはならない
10月10日、「名張毒ぶどう酒事件」の奥西勝さんが八王子医療刑務所において、その生涯を終えた。アムネスティ・インターナショナル日本は、死刑判決が下されてから46年もの間、拘置所から無罪を叫び続けた奥西さんの死を悼むとともに、再審開始を何度も拒み、ついに正義を実現することのなかった名古屋高等検察庁および最高検察庁を強く非難する。
奥西勝さんが関与したとされるこの事件では、三重県名張市において1961年に女性5人が毒殺された。事件の捜査には、重大な瑕疵があるとされる。当初から奥西さんが犯人であるとされ、長時間の取り調べに自白の強要がなされた。死刑事件には相当な証拠が必要である。津地方裁判所では、限られた物証では犯人と特定できないとして無罪の判決を得たにもかかわらず、名古屋高等裁判所では逆転して死刑判決が下された。
当時は、捜査過程で密室での拷問によって自白が引き出されてきた。また、証拠のねつ造も散見された時代であり、えん罪の温床は今もなお解消されていない。強制された自白による証拠について、証拠能力が認められてきたことも、適正手続を無視したものである。物証が極めて限定され、奥西さんが犯人ではない蓋然性が高いといわれてきた。疑わしきは罰せずとの原則に立ち返り、少しでも有罪が疑われるのであれば、再審を開始すべきであった。
奥西さんは、命のあるかぎり闘うと、強い決意をもって長年拘束された生活を耐えてきた。しかし、死刑囚としての生活は、体力も気力も奪うものであっただろう。えん罪の可能性が高いことは、弁護団の主張だけでなく鑑定結果によっても明らかである。執行もせず、放置された状態で、検察庁はまるで死を待っていたかのように思える。再審が開始されなかったことが悔やまれる。
奥西さんの死から、司法は学ばなければならない。取調べにおける自白の強要は、何も生まない。死刑はえん罪の可能性がある人の命も奪う。命が途絶えてしまえば、取り返しがつかないのだ。
奥西さんの人生は、検察の不正義の歴史である。検察官の使命は、公益の代表者として、無実の者を罰せず、真相解明に取り組むことにある。このような過ちは二度と繰り返してはならない。検察庁が個人の人権を尊重し、無罪推定を徹底し、あらたなえん罪を生まないことを求める。
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