月面での蓄熱・熱利用システムの研究提案がJAXAにより採択
~宇宙材料をテーマにした社員の自主活動から創出~
JAXAは、研究提案の一つとして、「レゴリス物理蓄熱エネルギーシステム」を募集していました。月に堆積している砂「レゴリス」を蓄熱材として活用しようというものです。月では、夜の気温がマイナス170℃まで下がり、昼夜の気温差が激しい過酷な期間が約2週間ずつ続くため、有人活動をするには、安定的にエネルギーを確保する必要があります。
一方、レゴリスは、宇宙風化作用によって生成された主にガラス質の微小粒子であり、月面上に大量に存在します。これを蓄熱材として活用できれば、月面で効率的に、低コストでエネルギーを確保できます。しかし、粒子間の空隙は真空で熱が伝わらないため、レゴリス全体として熱伝導率および比熱を大きくしたり、蓄熱したレゴリスから熱を取り出したりするシステムを構築する必要があります。
これに対し、当社は、グループで量産実績のある「レジンコーテッドサンド(*1)技術」を用いることで、熱伝導率および比熱を向上できると着想しました。レゴリスの表面にポリアミドイミド等の樹脂層をコーティングし、これを締め固める手法です。この適用可能性を確認するため、メンバーは、熱が輻射(*2)のみで伝わる真空の環境かつ約2週間ごとに昼夜の過酷な気温変化を繰り返す月面環境を想定して、熱シミュレーションを行いました。その結果、熱伝導率、比熱ともに向上し、月の赤道面においてはレゴリス単体に比べ、コーティングした場合のほうが昼間の太陽熱を20倍以上蓄熱可能な見込みであるという結論を得ました。従来の研究では、レゴリスの蓄熱性を改善する手法として、レーザ溶融によるガラス固形化などが考えられてきましたが、重量物であるレーザの運搬や溶融といった製造時に多大なエネルギーが必要であることが課題でした。今回提案した手法は、月面上で、スクリュー混練のみでコーティング可能であり、実現できれば圧倒的に低エネルギーで大量製造することができます。当社は計算情報科学研究センターで高いシミュレーション技術を保有しているため、今回の蓄熱効果の検証も短期間で実現できました。このような独創性が評価され、「チャレンジ型」枠で採択されました。
今後、JAXAとの共同研究実施に向け、研究計画・体制等の調整を行った後、レゴリスを蓄熱材として成立させるための検討、また、コストと性能のバランスの取れた月面用蓄熱エネルギーシステムについて検証を行う予定です。なお、JAXAとの共同研究期間は、最長1年を予定しています。
今回提案を行ったのは、社内の自主的な活動グループです。当社では、パーパスである「化学の力で社会を変える」を実践するために従業員が手上げ制で活動するコミュニティ「REBLUC(Resonac Blue Creators)」を、2022年に設立しています。そのなかで、宇宙関連材料を通して社会に貢献したいメンバーが集まり、本プロジェクトを推進しています。
*1 鋳物製品を製造するときに使われる、表面を樹脂でコーティングした砂のこと。加熱により樹脂が溶融し硬化剤等と反応することで硬化物となる。当社グループでは、株式会社レゾナック・テクノサービスが製造。
*2 熱の伝わり方には、「輻射(放射)」「伝導」「対流」の3つがある。輻射は、物体が発する熱が電磁波となって伝わる現象のことで、真空でも熱が伝わるのは輻射のみ。
以上
【Resonac(レゾナック)グループについて】
レゾナックグループは、半導体・電子材料、モビリティ、イノベーション材料、ケミカル等を展開し、川中から川下まで幅広い素材・先端材料テクノロジーを持つ化学会社です。2023年1月に昭和電工グループと昭和電工マテリアルズグループ(旧日立化成グループ)が統合し、新たなスタートを切りました。新社名の「Resonac」は、英語の「RESONATE:共鳴する・響き渡る」と、Chemistryの「C」を組み合せて生まれました。レゾナックは「共創型化学会社」として、共創を通じて持続的な成長と企業価値の向上を目指しています。2023年度の売上高は約1兆3千億円、うち海外売上高が53%を占め、世界22の国や地域にある製造・販売拠点でグローバルに事業を展開しています(2024年1月時点)。詳しくはウェブサイトをご覧ください。
株式会社レゾナック・ホールディングス https://www.resonac.com/jp/
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