被爆80年報道特別番組 彼女が世界に語る理由
英語で証言続ける小倉桂子さんの”種まき”に5年間密着

被爆80年を迎えた今、被爆体験の継承が一つの課題となっています。2021年からカメラが追いかけた小倉桂子さん(87歳)。2年前はG7広島サミット、去年12月はノーベル平和賞授賞式と、その証言活動は国際的な場にまで及びます。独学の英語で直接世界の人々に語りかける姿。一市民の彼女がどんな覚悟でその場に立っているのか。そこには、これまでの人生をかけて紡ぎだした思いがありました。
小倉さんは8歳のとき、爆心地から2.4キロメートル地点にあった自宅で被爆。幸い軽傷だったものの、毎日目の前で人が亡くなっていく光景がトラウマになり、被爆体験を心の奥にしまい込みます。転機となったのは42歳、英語が堪能で原爆資料館の館長も務めていた夫の急死でした。悲しみに暮れる中、夫の代わりに通訳をしてほしいという依頼があり、遺志を継いで海外に被爆者の声を届け始めます。証言活動を始めた頃は通訳に徹していたものの、頼まれて自身の被爆体験を語り始め、以降約40年間国内外へ発信を続けてきました。「来年の8月6日、わたしは元気でいられるかな?」自身も高齢になり、残された時間で平和への種まきを続ける中、ある出会いが花を咲かせ始めます。
2022年、教育現場を継承の大事な場と考える小倉さんは、アメリカのアイダホ大学を訪れます。取り出したのは紙芝居。広島市内の高校生が、小倉さんの被爆体験を自主的に紙芝居にしたものでした。授業を受け、意識が変わっていくアメリカの学生たち。これまで学んでこなかった原爆の惨状を目の当たりにし、小倉さんの思いに突き動かされた若者たちがその紙芝居を英訳する活動を始めます。紙芝居を通して小倉さんの思いが着実に世界に伝わっていく様子に、継承のカギが見えてきました。

多くの人が影響を受け、確かに広がっていくその思い。彼女はどんな思いで世界に語るのか。声が出る限り伝え続ける姿から、受け取るバトンのその先を考えます。
※小倉桂子さんは、2025年8月4日で88歳になります。
【草刈正雄(ナレーション) コメント】
私は福岡県小倉の出身で、8月9日に長崎へ投下された原子爆弾の第一目標は、その小倉でした。天候不良で目標が変更されましたが、もしそのまま小倉に落ちていたら、母が被害に遭い私はいなかったかもしれません。平和に関する仕事はこれまで機会がありませんでしたが、自分にも無関係ではなく、ナレーションをやっていても少し涙が出てくるようなことがありました。小倉さんが話す「継承には教育とメディアが大切」という言葉はその通りだと思います。多くの方に見ていただきたいです。
【石井百恵ディレクター コメント】
小倉さんとの出会いは、イベントニュースの取材でした。その人間力と言葉の力に魅せられ、継続取材をしました。小倉さんの側にいると、いつの間にか人が集まり、次から次へと何かが起こります。自然とそれを追わずにはいられませんでした。
「私の役目は、若い人の心のろうそくに火を灯して、自分がやらねばという気持ちを起こさせること」と小倉さんは言います。私もいつの間にか火を灯された一人となり、2年前に一本のドキュメンタリー番組が完成しました。取材中に出会ったアメリカの若者たちは、その後も小倉さんから受け取ったバトンを手に走り続けていました。私は必然とカメラを持ってそれを追いかけ、今回の番組が完成しました。
現在、被爆者の平均年齢は86.32歳(2025年3月末時点)です。5年間の取材中、小倉さんは「最後の仕事」という言葉を何度も口にしました。被爆者の思いを次世代につなぎ、過去の悲劇を繰り返さない世界にしていくことは、被爆地のメディアに課された使命です。今回の取材で出会った方々の姿は、そのヒントを与えてくれているのではないでしょうか。番組を通じて、小倉さんたち被爆者の思いが、平和の種として多くの方に届き花開くことを願っています。
●番組内容
タイトル:被爆80年報道特別番組 彼女が世界に語る理由
放送日時:8月6日(水)午前9時50分~10時45分
ナレーション:草刈正雄

草刈正雄
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