地下水中の硝酸性窒素の低減に貢献している微生物コミュニティーと窒素代謝遺伝子が明らかに
沖縄県南部地域の観測用の3つの井戸(サイト1〜3)で地下水を3か月間毎月採取し、水質分析とともにメタゲノム解析を行ったところ、サイト間で異なる微生物コミュニティーを有していることがわかった。特に、地下水中の微生物は存在比が全体の1%未満である細菌が多く、属レベルでは分類されない細菌も多く生息していることが明らかになった。
地下水中から硝酸性窒素を窒素ガスとして放出する脱窒素作用(脱窒)(※4)と共に、硝酸イオンを亜硝酸イオンやアンモニウムイオンに変換する硝酸還元反応は重要な窒素代謝経路である。本報では、メタゲノム解析を実施し地下水中の微生物が持つ窒素代謝を担う各遺伝子の豊富さを示す新たな指標を考案した。この指標を用い硝酸還元反応を含む窒素代謝遺伝子を網羅的に調べた結果、サイト3では脱窒酵素遺伝子と共に硝酸還元酵素遺伝子を持つ微生物が増加しており、硝酸還元が地下水中の硝酸性窒素の減少に関わっている可能性が示された。
今回発見された微生物コミュニティーによる窒素代謝は、汚水処理に利用される微生物の働きと類似している。一方で、本地域の地下水中で働いている微生物コミュニティーはこれまで知られていなかった未知の微生物群である可能性が高く、その微生物資源としての可能性も期待されるなど、今後の水資源としての持続的な地下水利用を行なっていくための重要な知見となった。
【概要説明】
近年、硝酸性窒素による地下水汚染が全国的に問題となっています。おおよそ、地下水の硝酸性窒素の濃度は、地表面からの窒素成分の供給量に加え、地下水の貯留量と滞留時間によって決定されます。しかし、地下水の流れ場の条件によっては、地下水に生息する微生物によって分解されるなどの自然の浄化作用が働き、硝酸性窒素濃度が低減することがあります。そのため、地下水の水質を管理する上では、硝酸性窒素の低減などに係る微生物の働きを把握する必要があります。しかし、これまでどのような微生物がどういった窒素代謝経路(一連の化学反応)で地下水中の硝酸性窒素を低減しているのかなどの十分な知見は得られていません。
琉球大学農学部 安元純助教、北里大学海洋生命科学部 丸山莉織修士課程学生、安元剛講師、水澤奈々美博士研究員、渡部終五客員教授、熊本大学大学院先端科学研究部 細野高啓教授、産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門 飯島真理子研究員、同地質情報研究部門 井口亮主任研究員、総合地球環境学研究所 新城竜一教授、一社トロピカルプラス 廣瀬美奈博士研究員らの研究グループは、沖縄島南部地域の地下水に含まれる微生物の働きを調べました。今回、メタゲノム解析(※1)という手法により、地下水中の有機物や硝酸性窒素(※2)の低減に貢献している微生物コミュニティーと窒素代謝遺伝子(※3)の詳細を明らかにしました。今回明らかになった微生物コミュニティーによる働きは、汚水処理に利用される微生物の働きと類似しています。一方で、本地域の地下水中で働いている微生物コミュニティーはこれまで知られていなかった未知の微生物群である可能性が高く、その微生物資源としての可能性も期待されます。この成果は2024年2月22日にNature Publishing Groupが刊行する “Scientific Reports”誌に掲載されました。
【今後の展開】
今後の展開としては、沖縄島南部地域のような琉球石灰岩帯水層における地下水の微生物活動に関するさらなる研究が必要となります。特に、未知の微生物コミュニティーの特定とその機能の解明が重要であり、これにより地下水中の硝酸性窒素濃度を自然に減少させる「自然浄化作用」の定量化手法の構築につながる可能性があります。また、地下水の硝酸性窒素汚染を防ぐために、農業や畜産業からの窒素供給量を管理するためのより効果的な戦略の開発も求められます。これには、化学肥料と同程度の肥料効果のある堆肥肥料や緑肥の利用が含まれるかもしれません。さらに、地下水質の定期的な監視と、地下水を使用するコミュニティーへの教育と啓発活動を通じて、地下水資源の持続可能な利用に向けた意識の向上を図ることが重要です。これらの取り組みを通じて、沖縄島南部地域の地下水資源を守り、将来世代にとっても安全で持続可能な水資源を確保することが目指されます。
詳細は下記をご覧ください
https://prtimes.jp/a/?f=d124365-94-512ea70173bf5ec16eb2ed40a303d005.pdf
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