エマルション（※1）の乳化滴の壊れやすさを調整、複雑な感触変化を的確に実現

新たな乳化装置により複合型クリーム（※2）の感触コントロール技術が進化

　ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担うポーラ化成工業株式会社（本社：神奈川県横浜市、社長：片桐崇行）は、複雑な構造の複合型クリームにおいて、乳化滴の壊れやすさをコントロールすることにより、肌に塗った時の感触変化をコントロールする技術を開発しました。これは、横浜事業所に新設したテクニカルディベロップメントセンター（以下、TDC）（※3）の新乳化装置を駆使した製造方法により実現しました。

※1　エマルション：  エマルション（乳化物）とは、互いに混じり合わない2種の液体の一方が他の液体中に微粒子状の液滴で分散している状態。分散している液滴は「乳化滴」と呼ばれる。

※2　複合型クリーム：複数の種類の乳化滴が共存する「複合エマルション」タイプのクリーム。本技術は、乳化滴中に別の乳化滴が内包された「多相エマルション」を含む複合エマルションに関するもの。

※3　参考リリース：   「ポーラ化成工業、横浜に生産技術開発および生産を担う施設を拡充 研究から生産までを一気通貫させ、よりハイレベルなモノづくりへ 高度な生産機能をもつ新工場を内設し2024年1月より生産を開始」

（2023年12月21日）　https://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20231221.pdf

より高度で複雑な感触を極めるため複合型クリームの可能性に着目

　化粧品ではしばしば、『肌に塗ると柔らかくほぐされ、その後は肌がしっかりと引き締まったように感じる』 といった、両立が難しい相反する感触への変化が求められます。このような感触変化を実現するうえで大きな可能性を持つのが「多相エマルションを含む複合型クリーム（図1）」です。このタイプのクリームは、塗ったときの壊れやすさや出てくる成分を乳化滴ごとに変えることで、段階的に異なる感触を、さまざまなバリエーションで生み出せる可能性を持ち、ポーラ化成工業では以前よりその技術を蓄積してきました（※4）。

※4　参考リリース： 「浸透性を高めた新たな多層エマルションクリーム製剤を開発」（2015年5月20日）

https://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20150520_cr.pdf

課題は多相エマルションの壊れやすさ： 新施設TDC内に新たに導入した乳化装置の利点を活用　

　しかし、複合エマルションのうち、多相エマルション部分の壊れやすさをコントロールすることはこれまで困難とされてきました。一般的に、乳化滴は大きい方が壊れやすいことが知られており、内側にも乳化滴を持つ多相エマルションの乳化滴を小さくするには限界があるためです。したがって多相エマルションは壊れやすく、柔軟な感触変化の実現を妨げる要因となっていました。これを克服するには、多相エマルション自体の粘度を高め強度を持たせることが有効と考えられましたが、複雑な製造工程や設備上の制約があいまって困難でした。この課題を解決したのが新施設TDC内の工場です。ポーラ化成工業では複雑な工程を制御する乳化設備を特別設計し、これを活用した新製法を開発しました（補足資料1）。

狙いの順番で乳化滴が壊れることを実証、目指す感触変化の実現が可能に　

　新製法により試作した乳化滴について実証実験を行ったところ、乳化滴の大きい多相エマルションの方が乳化滴の小さい単相エマルションよりも後に壊れることが示唆されました（補足資料2）。

  これまで以上に繊細な条件制御ができる新たな乳化設備の導入により、乳化滴の壊れる順を柔軟にコントロールできるようになり、高度で多様な感触変化設計が可能となりました。本技術は今後、より的確な化粧膜の設計および実現にも活用していきます。

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【補足資料1】　新施設TDCの新乳化装置を活用した新製法について

多相エマルションを含む複合型クリームの製造には、多相エマルションを構成するための乳化が2回、さらにもう一方の単相エマルションを構成するための乳化が1回と、計3回もの乳化工程を要します。

新施設TDCの新乳化装置を活用することで、多相エマルションの粘度を調整でき、塗布した時の乳化滴の壊れやすさを的確にコントロールすることが可能となりました（図2）。

【補足資料2】 乳化滴の壊れる順序の制御が可能なことを検証

新乳化装置にて多相エマルション部分の粘度を高めることのできる製法を設計し、乳化滴の壊れやすさを実験で検証しました。

まず多相エマルションに内包される乳化滴（図2、エマルション①）のみ検証すると、実際に壊れにくくなったことが確かめられました（図3）。

　さらに、新製法の多相エマルション（図2、エマルション②）と、単相エマルション（図2、エマルション③）を比べたところ、新製法の多相エマルションの方が壊れにくくなったことが確認できました（図4）。

　これらの結果から、新乳化装置を活用した製法の工夫により、多相エマルションを壊れにくくするという目的を果たすことができたと考えられます。