細胞内のHIVウイルス動態を高精度で可視化する新規感染系を確立~HIV感染の治癒を目指した研究の有用なツールになることが期待~
・HIV-Tockyシステムを用いた解析によって、ウイルスの潜伏感染細胞が生じる際に、2つのルートが存在し、その2つの群における異なる潜伏の仕組みを特定しました。
・HIV-Tockyシステムを用いて作製した感染細胞モデルは、潜伏を標的とする薬剤で処理をした際に、従来のモデルに比べてより鋭敏に薬剤効果を判定できることから、今後のHIV感染の治癒を目指した研究において有用なツールになる事が期待されます。
【概要説明】
ヒトレトロウイルス学共同研究センター熊本大学キャンパス※1のOmnia Reda研究員、佐藤賢文教授、大学院生命科学研究部微生物学講座 門出和精助教らの研究グループは、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科の武内寛明教授、ヒトレトロウイルス学共同研究センター鹿児島大学キャンパスの前田賢次教授及び英国インペリアル大学等との共同研究により、タイマー蛍光タンパク※2、※3という時間動態が観察可能な特殊なタンパクを搭載した組み換えウイルスを作製し、HIVが細胞に感染し侵入した後のウイルス動態を詳細に観察することを可能にする新規感染系を確立しました。さらにその新システムを用いて、ウイルスを感染させた細胞の詳細な解析を行ったところ、ウイルスが潜伏する2つのルートを区別することが可能となり、その2つでは潜伏のメカニズムが異なることを明らかにしました。さらに、HIV-Tockyシステムを用いて作製した感染細胞モデルは、潜伏を標的とする薬剤で処理をした際に、従来のモデルに比べてより鋭敏に薬剤効果を判定できることから、今後のHIV感染の治癒を目指した研究において有用なツールになる事が期待されます。
本研究結果は令和6年3月20日(現地時間)に英科学誌「Communications Biology」に掲載されました。
また、本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)エイズ対策実用化研究事業「革新的核酸解析技術によるHIV潜伏感染機序の解明と克服のための研究」からの支援を受けて行われました。
【展開】
HIV-Tockyシステムを用いて作製した潜伏感染モデル細胞を10種類以上樹立し、それぞれのウイルス全長配列及び組み込み部位情報を解析して決定しました。この細胞モデルは、潜伏を標的とする薬剤効果判定において、従来のモデルと比較して、より鋭敏に薬剤効果を判定できることから、今後のHIV感染の治癒を目指した研究において有用なツールになる事が期待されます。
【用語解説】
※1: ヒトレトロウイルス学共同研究センター
HTLV-1やヒト免疫不全ウイルス等の難治性ヒトレトロウイルスの克服を共通目標に、熊本大学と鹿児島大学が大学の枠を越えて2019年4月に新設した研究センター。
※2: 蛍光タンパク
生物学や生物工学等の分野で広く使用されるタンパク質の一種。蛍光タンパク質は、その名のとおり、特定の波長の光を吸収し、それに応じて別の波長の光を放出する性質を持つ。細胞内の化学反応の場所や進行状況等を蛍光顕微鏡等の手法を用いて観察することが可能である。
※3: タイマー蛍光タンパク
特定の時間経過後に発光する蛍光が変化する蛍光タンパクの一種。一般的に、このタイプのタンパク質は、生物学的なプロセスや細胞内の出来事の経時的な解析に役立つ。
【論文情報】
論文名:HIV-Tocky system to visualize proviral expression dynamics.
著者:Omnia Reda, Kazuaki Monde, Kenji Sugata, Akhinur Rahman, Wajihah Sakhor, Samiul Alam Rajib, Sharmin Nahar Sithi, Benjy Jek Yang Tan, Koki Niimura, Chihiro Motozono, Kenji Maeda, Masahiro Ono, Hiroaki Takeuchi & Yorifumi Satou.
掲載誌:Communications Biology
DOI:10.1038/s42003-024-06025-8
URL:https://www.nature.com/articles/s42003-024-06025-8
▼プレスリリース全文はこちら
https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei-sentankenkyu/20240409
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