【福岡大学】豪雨や災害の実態と備えー線状降水帯はどうやって発生する?ー
近年、各地で頻発する豪雨は、私たちの暮らしに大きな影響を及ぼしています。しかし、その仕組みや危険性を正しく理解する機会は多くありません。
そこで本企画では、専門分野の異なる5人の教員が、豪雨や災害等の実態とリスク、対応策等を本学の取り組みを通してお伝えします。「知ることは備えること」。一人一人の判断や行動を支える力になればと考えています。
今回は、福岡大学理学部地球圏科学科の西憲敬教授(専門:熱帯気象学)に話を聞きました。
<豪雨を降らせる積乱雲や線状降水帯は、どうやって発生する?>
水蒸気を含んだ暖かく湿った空気は軽いため上昇し、上空で冷やされて雲になります。雲の中で水滴が大きくなると、雨として地上に降ります。これが雨が降る仕組みです。
雨を降らせる雲には「乱層雲」と「積乱雲」の2つがあります。災害につながる激しい雨を降らせるのは積乱雲。夏によく見られる「入道雲」のことです。
積乱雲の横幅は5km程度なので、激しい雨が降ったとしてもせいぜい1時間以内でおさまります。ところが、積乱雲が次々と発生して列を作り同じ場所で雨を降らせ続けると、長時間の豪雨になります。これが「線状降水帯」です。
<梅雨は線状降水帯発生の要因が揃いやすい季節>
積乱雲が線状降水帯になる要因はいくつもあります。
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大量の水蒸気
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暖かく湿った空気を運ぶ風
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複雑な風の流れ
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空気が集まりやすい地形
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島や山地 ほか
これらすべての条件が必要というわけではありません。一方で欠かせない条件と考えられているのが、大量の水蒸気とそれを継続して運ぶ風です。
九州地方では梅雨の時期に、南方から暖かく湿った空気が流入します。まさに、線状降水帯発生に欠かせない条件である「大量の水蒸気」と「暖かく湿った空気を継続して運ぶ風」が揃いやすい状況です。
また、台風も周囲から暖かく湿った空気を取り込んで発達するので、積乱雲が発生する条件を備えています。梅雨の時期に訪れる台風は梅雨前線が影響し合うため、小さな台風であっても、その影響は無視できません。
<九州ならではの事情>
九州に住む私たちは、梅雨に長く降り続く雨を実感しますが、実はこれは九州ならではの特徴なのだとか。
「例えば、関東では、梅雨よりも秋の雨の降水量の方が多い傾向があります。九州は“梅雨の本場”なんですよ」と西先生は話します。
梅雨に雨を降らせる暖かく湿った空気は、台湾や中国大陸南方の海上から日本へ流れ込みます。海は水蒸気の供給源となります。
湿った空気が大量に継続して運ばれるので、九州は他の地域に比べて降水量が多くなりやすいのです。
九州西側の海上には多くの島があり、福岡に向かう途中の長崎や佐賀にも山地が広がっています。暖かく湿った空気がこうした地形にぶつかると持ち上げられて積乱雲が発生しやすくなります。
ところで、福岡のニュースを見ていて「小郡や基山などで豪雨が多いな」と感じる方は多いのではないでしょうか。
「観測点があるわけではないので断言はできませんが、福岡の天気予報をよく見ている人ならそういう実感はありますよね。おそらく山の影響が大きいと思います」と西先生は地図を示しながら話します。
では、山沿い以外は安全かというとそうではありません。平地であっても線状降水帯が発生して大雨が降る可能性はあります。


<天気予報で豪雨や線状降水帯はどこまで分かるのか>
気象衛星やレーダー、コンピューターを用いることで、天気や台風の予測は高い精度で行われています。
それでもなお、線状降水帯の予測は困難です。水蒸気の流入量や風のパターンから発生しやすい状況を把握することはできますが、正確な場所や時間をピンポイントで特定することは容易ではありません。
その理由は次の3つです。
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線状降水帯は発生地域が狭い
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発生条件が複数あり「この条件だと必ず発生する」とは言えない
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九州地方は豪雨の予測に必要なデータが収集しにくい
線状降水帯が発生する範囲が狭い
台風は広い範囲に影響を及ぼしますが、線状降水帯は隣町で起きていても分からない程ごく狭い範囲で起きます。ピンポイントで地域を予想するのは困難です。
発生条件が複数あり「この条件だと必ず発生する」とは言えない
線状降水帯は、雨を降らせる条件がそろえば広い範囲で発生する可能性があります。地形はきっかけの一つというだけで、関係しないこともあります。
九州西部の島で発生した雲が発達し、風に流されて福岡など離れた地域で大雨をもたらすこともあります。その場所や時間を予測するのはとても困難です。
九州は地理的に予測に必要なデータが収集しにくい
線状降水帯の発生を予測するには、水蒸気の量や、どこから流れ込んでくるかを把握する必要があります。
例えば近畿地方は、周辺の陸地に観測点が多く、九州や中国地方で既に雨が降っている状況なので予測がしやすい環境にあります。
一方で九州は、湿った空気が入り込む“上流”にあたる場所が海上で、観測点がありません。気象庁は船舶での観測を行って状況を把握しますが、他の地域と比べると予測が難しいと言えます。
<線状降水帯は以前から存在していたが、近年はっきりと認識されるようになった>
Q:近年、線状降水帯という言葉をニュースでよく耳にするようになりました。なぜこのように多く発生するようになったのでしょうか。
積乱雲が連続して発生し大雨を降らせる、いわゆる『線状降水帯』の気象現象は昔からあるものなんです。例えば1957年の『諫早豪雨』や1982年の『長崎大水害』も、線状降水帯かそれに類する現象だった可能性が大きいんです。
線状降水帯という言葉がテレビで使われて広まったことで、急に増えたと感じる方が多いのかもしれませんね。
Q:大雨が増えたと言われることも多いですが…
確かに大雨の回数や雨量は増えているとされていますが、一般の方が明らかに増えたと実感できるほど増えているわけではないと思います。
今は、衛星やレーダーで気象状況が刻々と分かります。以前は災害の把握にも時間が掛かりました。線状降水帯の予測は難しいですが、そうはいってもこの辺りで起きそうだということは分かります。天気予報の精度が高くなり過ぎて、目立っている面もあると思いますが…。
参考:国土交通省 気象庁 大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化
<避難が必要な警報とどう向き合う?>
私が学生の頃の30~40年前は、コンピューターによる予報は無くて、全然当たりませんでした。子どもの頃は誰も知らないうちに小さな台風が九州に上陸する、なんてこともありました。今、天気予報の技術はほぼ確立して、以前と比べたら別世界になっています。
警報というのは、広い範囲で災害が起こるかもしれないという情報です。警報が出ても何も起きないことの方が多い一方で、やっぱり何回かに1回は実際に災害が起こるんです。
「警報が出てもどうせ何も起きない」と受け取られてしまうよりは、皆さんを信じてできるだけ正確に伝えるべきと思いますが、「災害が起こる可能性は高くないけど、酷い災害になる可能性もある」という表現では、誰も避難しなくなってしまうと気象庁の方が言われていました。
予測技術が発達しても、多くの人に適切に避難してもらうためにどのように伝えるかは難しい問題です。
人間が本格的に気象を観測し始めてから、まだ100〜200年程しか経っていません。気象や環境の変化は長い時間の中で揺れ動くもの。科学的に分かっていることも多い一方で、まだ不確実な点も残されています。
気象学では、多くの研究が続けられていますが、それでもなお難しい課題が多い分野です。
例えば、伊勢湾台風レベルの台風は何十年も日本には来ていませんが、世界中から消えたわけではありません。ずっとこのまま減っていくのかどうかも分からないんです。
だからこそ、「今まで警報が出ても浸水や土砂はここには来なかった」という経験だけで、大きな災害が起きないと判断するのは危険だと強調しておきたいです。
実際には、長い年月の中で一度だけ起きるような規模の災害も起こります。たとえその土地に長く住んでいる方が「ここは大丈夫」と感じていたとしても、それがそのまま将来の安全を保証するとは限らないと知り、予報を活用していただきたいと思います。
◎ミニ情報◎
1時間に100ミリの雨が実際に1時間降り続いて、記録になることはごくまれですが、それと同じ強さの雨が短時間だけ降ることは珍しくなく、われわれも体験している可能性があります。
【関連リンク】
理学部地球圏科学科ウェブサイト
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