腸内細菌と代謝物を“同時に見る”新技術を開発

― アルツハイマー病モデルマウスで腸内環境異常を可視化 ―

千葉工業大学

腸内細菌叢と代謝機能を同一サンプルから統合解析する新しい研究基盤を確立

 学校法人千葉工業大学 大学院先進工学研究科 生命科学専攻 南澤麿優覽准教授、坂本泰一教授らの研究グループは、少量の糞便サンプルから腸内細菌DNAと代謝物(ポリアミン)を同時に抽出・解析できる新しい手法を開発しました。

 この技術をアルツハイマー病(Alzheimer’s disease: AD)のモデルマウス 注1)へ適用した結果、腸内細菌叢 注2)の乱れとポリアミン 注3)代謝異常が密接に関連しながら進行することを明らかにしました。

 これまで、腸内細菌叢解析と代謝物解析は別々の試料や抽出工程を必要としていたため、「どの細菌が存在しているか」と「その細菌が何を作り出しているか」を同時に理解することは困難でした。本研究で開発した逐次共抽出法は、この長年の課題を解決するものであり、腸内細菌叢と代謝機能を統合的に評価する新しい研究基盤となります。

 本成果は、アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患の病態解明を前進させるとともに、将来的には非侵襲的なバイオマーカー 注4)探索や個別化医療への応用が期待されます。

 本研究成果は、Nature Portfolioが発行する国際学術誌「Scientific Reports」に2026年7月9日付で掲載されました。なお、本研究の一部は、「令和7年度 藤田研究開発課題(藤田preA)」の支援を受けて実施されました。

<研究の社会的背景と経緯>

 アルツハイマー病は世界で5,500万人以上が罹患するとされる代表的な神経変性疾患です。高齢化の進行に伴い患者数は増加を続けており、医療・介護・福祉の分野に大きな社会的負担をもたらしています。近年、脳だけでなく腸内環境が神経機能や免疫機能に深く関与することが明らかになり、「腸-脳相関」 注5)が世界的な研究テーマとなっています。特に腸内細菌叢は、代謝物の産生を通じて脳や全身の機能に影響を与えることが知られており、アルツハイマー病との関連も数多く報告されています。しかし、従来の研究では、・腸内細菌叢解析 注6)と・代謝物解析が別々の試料を用いて行われることが多く、腸内細菌の変化と代謝機能の変化を直接結び付けて評価することが困難でした。

 そこで研究グループは、「同一の糞便サンプルから腸内細菌と代謝物を同時に解析できれば、腸内環境をより正確に理解できるのではないか」と考え、新しい解析技術の開発に取り組みました。

<研究の内容>

 本研究では、糞便から腸内細菌DNAを回収する工程と、代謝物であるポリアミンを回収する工程を一体化した「逐次共抽出法(Sequential Co-extraction Method)」を開発しました。この手法では、腸内細菌DNAを抽出した後に残る画分を利用してポリアミンを回収するため、わずかな糞便サンプルから、腸内細菌叢の構成と・代謝物の量を同時に評価することが可能となります。

 研究グループは、この技術をヒトアルツハイマー病モデルマウスへ適用し、8週齢から56週齢まで経時的な解析を実施しました。その結果、若齢期から Lactobacillus (ラクトバチルス、乳酸菌) 注7)の減少が認められ、さらにスペルミジンなどのポリアミン代謝異常が出現することが分かりました。また、アルツハイマーを発症していない健常マウスと腸内細菌叢の種類がどれくらい違うかを見るために統計解析を行ったところ、アルツハイマー病モデルマウスでは腸内細菌叢全体の構造変化が進行していることが確認されました。

 これらの結果は、腸内細菌叢の変化と代謝機能の変化が密接に関連していることを示しています。

<研究成果の意義>

 本研究の最大の意義は、「どの細菌が存在するのか」だけでなく、「その細菌がどのような代謝状態を作り出しているのか」を同時に評価できる点にあります。従来の解析では、腸内細菌叢と代謝物を別々に測定していたため、両者の関係を直接議論することが難しいという問題がありました。

 今回開発した逐次共抽出法により、腸内細菌と代謝機能を同時に解析できるようになったことで、腸内環境をより統合的に理解できるようになります。これは、アルツハイマー病のみならず、パーキンソン病、炎症性腸疾患、糖尿病、肥満など、腸内環境との関連が指摘される多くの疾患研究に応用可能です。

 本研究は、「腸内細菌と代謝物を別々に見る時代」から、「同時に見る時代」への転換点となる成果といえます。

<今後の展開>

 今後はヒト糞便検体への応用を進め、アルツハイマー病患者や高齢者における腸内環境変化の解析へ展開する予定です。また、腸内細菌叢と代謝物を同時に評価することで、病態進行を反映する非侵襲的なバイオマーカー探索や個別化医療への応用も期待されます。

 本研究で確立した逐次共抽出法は、次世代のマイクロバイオーム 注8)研究を支える基盤技術として発展する可能性があります。

図1 少量の糞便から腸内細菌とポリアミンンを同時に調べる新技術(逐次共抽出法)の概念図

<用語の説明>

注1) アルツハイマー病(Alzheimer’s disease: AD)モデルマウス 

  理化学研究所 脳神経科学研究センター 神経老化制御研究チーム 西道隆臣チームリーダー、名古屋市 立大学大学院医学研究科・脳神経科学研究所 認知症科学分野 齊藤貴志教授らが作製したヒトアルツハイマー病モデルマウスを用いて、本研究を実施しました。

注2) 腸内細菌叢(Gut microbiota)

 ヒトや動物の腸内に生息する細菌群集の総称です。腸内には数百種類、数十兆個以上の細菌が存在するとされ、栄養吸収、免疫機能、代謝機能、神経機能などに深く関与しています。近年では脳機能との関連も明らかになり、「腸-脳相関(Gut–Brain Axis)」の重要な構成要素として注目されています。

注3)  ポリアミン

 プトレシン(Putrescine)、スペルミジン(Spermidine)、スペルミン(Spermine)などの生体アミンの総称です。細胞増殖、タンパク質合成、ミトコンドリア機能維持、老化制御などに重要な役割を担っています。近年では神経変性疾患との関連も注目されています。

注4)バイオマーカー

 病気の発症や進行の状態を客観的に評価するための指標です。血液、尿、糞便などに含まれる成分を測定することで病気の診断や予測に利用されます。

注5)腸-脳相関

 腸と脳が神経、免疫、代謝などを介して相互に影響し合う仕組みです。近年、腸内細菌叢の変化が脳機能や神経疾患に関与することが明らかになりつつあります。

注6)腸内細菌叢解析

 腸内に存在する細菌の種類や割合を調べる解析手法です。本研究では16S rRNA遺伝子解析を用いて、腸内細菌叢の構成変化を評価しました。腸内細菌叢の乱れや特定の細菌の増減を把握することができます。

注7)Lactobacillus(ラクトバチルス属、乳酸菌)

 腸内に広く存在する善玉菌の一種です。乳酸を産生して腸内環境を整え、健康維持に重要な役割を果たします。

注8)マイクロバイオーム

 腸内をはじめとする生体内に存在する微生物群と、その遺伝情報の総称です。近年、免疫、代謝、神経機能との関連が注目されています。

<論文情報>

【論文題目】

  Sequential co-extraction of gut microbial DNA and fecal polyamines enables 

  integrated microbiome–metabolite profiling in an Alzheimer’s disease mouse model

(アルツハイマー病モデルマウスにおける統合的マイクロバイオーム-代謝物解析を可能にする腸内細    菌DNAおよび糞便ポリアミンの逐次共抽出法)

【著者】

  Shion Akagi, Yuma Sato, Taiichi Sakamoto and Mayumi Minamisawa

【掲載誌】

  Scientific Reports(Nature Portfolio)

【公開日】

  2026年 7月 9日 

【DOI】

  https://doi.org/10.1038/s41598-026-54312-7

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会社概要

千葉工業大学

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URL
https://chibatech.jp/
業種
教育・学習支援業
本社所在地
千葉県習志野市津田沼2-17-1
電話番号
047-478-0222
代表者名
瀬戸熊 修
上場
未上場
資本金
-
設立
1942年05月