【福岡大学】耐震・免震研究から見えてきた防災と立地の重要性
福岡大学工学部建築学科の高山峯夫教授(専門:建築構造)は、耐震構造や免震構造に関する研究を通して、災害による建物被害の軽減や住環境の安全性向上に取り組んでいます。
建築の災害対策は「地震」が中心
日本は、世界で発生するマグニチュード6以上の地震のうち、約18%が集中する地震大国です。そのため日本では、地震から建物を守る制度や技術が発展してきました。
建物に施す地震対策には「耐震」と「免震」があります。「耐震構造」に共通しているのは、地震の揺れを建物が受け止め、「踏ん張って耐える」という考え方です。
大きな地震が起きた際に、建物がまったく損傷しないことを目指しているわけではなく、家具・家電の転倒や一定の損傷は許容しながら、倒壊を防いで人命を守ることを重視しています。
ただ、命は助かっても多額の修繕費が必要になったり、生活の再建に時間を要したりすることも少なくありません。
対して「免震構造」は地面と建物の間に免震層(クッションのようなもの)を設置し、地震の揺れを建物に伝えにくくする技術です。1995年の阪神淡路大震災を機に知られるようになりました。


災害リスクとコストのバランス
免震設計は、人命を守るだけでなく、家具・家電の転倒や建物の損傷リスクも軽減できます。しかし、普及率はまだ低く、全国の建物のうち採用されている割合は1%程度です。マンションやビルなどが中心で、戸建て住宅にはあまり普及していません。
理由は、人々が住宅を選ぶ際の災害リスクに対する考え方が影響しています。
建築物の多くは、道路や上下水道などのインフラと異なり、個人や民間企業が費用を負担して建てるものです。限られた予算の中で、いつ発生するか分からない(発生しないかもしれない)地震への備えにどこまでコストを掛けるのかを考えたとき「免震まで必要なのか、耐震住宅で十分ではないか」と判断する人も少なくありません。
工務店や住宅メーカー、施主の間でも免震設計への理解が十分に進んでいるとは言えず、優れた技術でありながら普及が進みにくい状況があります。
「免震設計が増えれば『被害が無いのが当たり前』という社会になっていくと思います。被災後の修繕費も抑えられますし、建て替え工事に伴うCO2排出の削減にもつながります。長い目で見れば、免震の方が経済的かもしれません」と高山先生は話します。
そのうえで「免震をさらに普及させるためには、国による規制の見直しや補助金制度の拡充も必要ではないか」と提言します。


住宅メーカーで進む水害対策
豪雨による水害が毎年のように発生する中、住宅の浸水対策に対する消費者の関心も高まっています。この様な背景から「耐水害性能」に着目する住宅メーカーも登場しています。
ある工務店の「耐水害住宅」は、窓やドアの水密性を高め、床下の排水管に下水管からの逆流を防ぐ逆流防止弁を設置して浸水を防ぎます。家が水没するような被害に遭ったときは、建物が基礎から離れて浮き上がる「浮上タイプ」も販売されています。
一方で、水害対策を施した住宅は耐震・免震建築ほど一般的に普及していません。そこには次の2つの理由があります。
・建築基準法では「耐水害」の安全基準が義務付けられていない。
・水害対策は建物だけで防ぐよりインフラ整備による対策が重要。
建築基準法では「水害」「土砂災害」の安全基準が義務付けられていない
建物を建てる際には「建築基準法」に定められた安全基準を満たす必要があります。建築基準法では、地震や風、積雪などに対する基準が設けられている一方で、洪水や浸水、土砂災害については、全国一律の安全基準はありません。
地震への対策が義務付けられているのに対し、水害対策は義務ではないため、施主や住宅メーカーが必要と判断した場合にのみ採用されています。
建物だけで防ぐインフラ整備による対策が重要
都市では、雨水の量が下水道の処理能力を超えて発生する「内水氾濫」が課題です。これに住宅だけで対策するには限界があります。被害を抑えるには、雨水を一時的に貯留する施設の整備など、地域全体で水をコントロールする取り組みが重要です。
水害対策は「建物」よりも「立地」が重要
最も基本的な水害対策は、ハザードマップを確認して自宅や会社、学校などが建っている土地の災害リスクを理解することです。地震は発生する場所や時期、規模を正確に予測することが困難ですが、水害は、河川が氾濫しにくい場所、土砂災害が起きにくい場所をある程度予測できます。
「家を購入する人、建てる人は、不動産会社や住宅メーカーに任せ切りにするのではなく、ハザードマップを見て地域の特徴を自分で確認することが大切です。設計事務所などに土地のリスクについて相談するのも良いかもしれません」と高山先生は話します。
水が引いた後の泥の除去や消毒、家財の片付けなどには多くの時間と労力が掛かります。それが毎年のように繰り返されれば、大きな負担です。車も浸水すると廃車を余儀なくされてしまいます。
本当は災害のリスクが低い土地に移り住むのが良いのですが、土地への愛着やさまざまな事情があって簡単には進まないのが現実です。
そこで、現実的な対策について高山先生に聞いてみました。
Q.今住んでいる家にできる水害対策はありますか?
頻繁に浸水する地域であれば、止水板を設置すると、土嚢で防ぐよりは効果があると思います。リフォームで、耐水害住宅のように水密性を高めたり、配管を変えたりすることもできないわけではないかもしれませんが、水はわずかな隙間から入ってくるので完全に防ぐのはかなり難しいです。土砂災害を防ぐとなると、住宅が土砂の重みに耐えられるようにコンクリートの壁を作る大掛かりな工事になるのではないでしょうか。
Q.浸水の可能性がある土地に家を建てるときにできることはありますか?
低地ならかさ上げをする、止水板を付けるなど、土地の特徴を考慮した設計を依頼すると良いです。
Q.すぐに引っ越しはできないのですが、どのようなことに気を付ければ良いですか?
ハザードマップを見て自分の住む地域のリスクを確認する。そして、リスクに合わせた備えをすることです。「浸水被害が出やすい場所だ」と知っていれば、適切な避難や備蓄もできると思います。住んでいるのが耐震住宅であれば、家具を固定することも忘れないようにしてください。
全ての災害に対応できる「万能な家」は存在しない
いくら優れた防災機能があっても、災害リスクに応じたものでなければ期待した効果を得られません。だからこそ、ハザードマップを見て自分の住んでいる地域のリスクを知ることが大切なのです。
例えば、免震構造は地震には高い効果を発揮しますが、河川の氾濫が起こると地下の免震層に浸水する恐れがあります(※1)。また、建物に直接衝撃や水圧を与える津波の被害を防ぐことは困難です。
※1 免震層を地上に設けることも可能
全ての災害にオールマイティな建物はありません。災害に強い家は、建物の性能だけで完成するものでなく、立地や日頃の備えも併せて考える必要があります。
高山先生は、「時間が経つと災害の記憶は薄れ、人々は備えを怠りがちになります。だからこそ、過去の災害の記録や教訓を受け継ぎ、防災に生かし続けることがとても大切です」と話します。
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