こども家庭庁「災害時のこどもの居場所」手引き発表。岩手県 山林火災での子どもと家庭への支援からみえたこと

2025年5月、こども家庭庁は全国の自治体向けに「災害時のこどもの居場所づくり手引き」 を発表しました(*1)
避難所や仮設住宅において、子どもが安心して過ごせる場所を確保することの重要性や、自治体・地域・民間団体が連携して体制を構築する必要性が示されています。
そのわずか3か月前、岩手県大船渡市で山林火災が発生。多くの子ども・子育て家庭が避難生活を強いられました。
認定特定非営利活動法人カタリバ(本部:東京都中野区、代表理事:今村久美、以下カタリバ)の災害時子ども支援「sonaeru」では、過去にも九州豪雨や熱海土砂災害、能登半島地震などで「災害時の子どもの居場所支援」を実施。(*2)今回の山林火災を受けて地域団体と協力し、手引きが掲げる方針と通じる子どもの居場所支援、ならびに給付金支援などを行いました。
本リリースでは、現場でみえた課題と支援の全容を報告し、手引きと併せて、今後の備えに役立てていければと考えています。
山林火災という新たな災害リスクに直面「みえない火災」がストレスに。子ども・子育て家庭が抱えていた不安
2025年2月26日に岩手県大船渡市で発生した山林火災では、約3,370ヘクタールにおよぶ大規模な延焼被害の影響を受けました。(*3)
建物被害は約226棟(*3)にものぼり、最大1,896世帯・4,596人(*4)に避難指示が出されました。それに伴い、綾里小学校、赤崎小学校、東朋中学校は約2週間にわたって休校を余儀なくされました。
山林火災には、一般的な住宅火災や地震等とは異なる「みえにくい危険」が多く存在します。目に見える地表だけではなく、倒木の内部・地中の炭化層・風にあおられた火の粉などによって、目に見えないところで火がくすぶり続けていることがあります。
そのため、火の気が完全になくなり、再燃の可能性がなくなった状態を表す「鎮火」には時間を要することになります。
当時の避難所では、いつまで避難生活が続くか先がみえず、被害の状況も明確に確認できない中での不安やストレスが蓄積していました。子どもたちもまた「いつ帰れるのか」「自分の家がどうなっているのか分からない」「夜になっても遠くで煙が上がっていて、寝付けない」という緊張のなかで過ごしていました。
“外から”ではなく“共に”ーーつながりのある地域で生まれた、ふたつの子どもの居場所支援
発災後、岩手県大船渡市で長年活動する団体からの情報提供により、被災地域が局所的でインフラが大きく損なわれていないが、避難者が多数いるという情報を受けて、カタリバの災害時子ども支援「sonaeru」のメンバーが現地入りしました。
災害時子ども支援「sonaeru」は、災害発生時にいち早く子どもたちに支援を届け、日常を取り戻せることを目的とした緊急支援プロジェクトチームです。これまでにも2020年九州地方を襲った豪雨災害、熱海市の土砂災害、能登半島地震・奥能登豪雨災害にて支援活動を実施。避難所等での「災害時の子どもの居場所」支援を中心に、学校再開に向けた支援など幅広く災害時の子どもを取り巻く課題にアプローチしてきました。
今回も現地での支援ニーズの調査を行い、避難所等での子どもの居場所支援や給付金支援を実施しましたので報告します。
■越喜来地区「みんなのこども部屋」

避難所となっていた三陸公民館内に、子どもが自由に遊んだり、交流ができるスペース「みんなのこども部屋」を設置しました。
子どもを見守るユースワーカーが常駐していることで、保護者が安心して子どもを預けられ、自分自身も休息できる場となりました。
また陸前高田市で活動するNPO法人SETが主体となり、それに加え、東北各地のNPOが協力し運営を行いました。カタリバも含め東北には東日本大震災をきっかけに現在も支援を続けている団体が数多くあります。
現地団体や近隣地域の団体と協力して運営することで、より迅速かつ継続的に支援が行えるということが、これまでの支援活動からみえてきました。
そのためカタリバでは災害時の子どもの居場所の立ち上げだけでなく、そのノウハウを提供したり、団体同士を繋げて継続的な支援ができる地盤をつくることを大切にしています。
■越喜来地区「みんなのこども部屋」
・期 間:2025年3月3日〜11日
・対 象:避難所にいる4〜18歳の子ども
・利用人数:45名(述べ)
・共 催:NPO法人SET・認定NPO法人カタリバ/運営:NPO法人SET
・協 力:認定NPO法人底上げ、一般社団法人まちとこ、一般社団法人まるオフィス、NPO法人みやっこベース
■市街地「みんなのあそびば」

現地で活動する認定NPO法人おはなしころりん、NPO法人SET、カタリバが協力し、市街地にある「おおふなぽーと」内で未就学児向けの居場所スペースを設置しました。
地域の元保育士の方の呼びかけを発端に、現地のNPOが賛同し、カタリバはその活動をノウハウや資金面でバックアップする体制で運営に関わりました。
災害時には、現地で「自分もなにかしたい」と声をあげる人の存在が大きな力になります。
私たちは、そうした思いをもつ個人や団体がつながり、それぞれが役割を持って動けるよう支えることも、私たちは大切な支援のひとつだと考えています。
■市街地「みんなのあそびば」
・期 間:2025年3月4日〜27日のうち計7日間
・対 象:未就学児と保護者
・利用人数:77名(述べ)
・共 催:認定NPO法人おはなしころりん、NPO法人SET、認定NPO法人カタリバ
・運 営:認定NPO法人おはなしころりん、NPO法人SET
子どもの日常を早期に取り戻す「カタリバこども支援給付金」

山林火災の被害を受けた子どもが、早期に日常生活を取り戻すことを目的とした現金給付型の支援を行いました。
現地で明らかになってきたのは、住宅が直接焼損していなくても、周辺火災の影響により被害を受けるケースがあること、また、そうした状況が明確になるまでに時間を要することです。
加えて、災害救助法などで適用される支援は、学用品などの現物給付に限られるため、衣類や寝具、勉強机、部活道具といった子どもの生活に必要な物の購入には使えません。
市街地の物流や生活用品店等を利用することができるため、地域経済の貢献にも繋がり、より迅速に子どもや子育て家庭の手に届く支援として実施しました。
■カタリバこども支援給付金
・対 象:全焼・半焼の被害を受けた方のほか、火災による周辺被害を受けた0歳〜18歳の子どもがいる家庭
・内 容:子ども一人あたり:50,000円を給付、全壊世帯の場合、上記に追加で50,000円を給付(日常生活再建および養育費のため)
・利用人数:28人の子ども・家庭
■利用者の声
このたびはご支援をいただき、ありがとうございました。
現在は仮設住宅への入居が決まり、少しずつ日常を取り戻しています。
当時は乳幼児を連れて突然の避難を強いられ、不安のなか市内のホテルに数日滞在しました。避難解除の見通しも立たず、自宅に戻れない状況で育児用品を買い揃える必要がありました。
子どもを連れて避難所で生活するのは難しく、物資を受け取るにも情報が少なく行列も大変で、必要なものは自分たちで購入せざるを得ませんでした。給付金はホテル代や育児用品の購入費、焼失した子ども用品の買い直しに充てさせていただき、大きな助けとなりました。
物資支援だけでは対応しきれない状況もあり、年齢や月齢に応じた対応が必要な子育て家庭にとって、現金での支援は非常に有効だったと実感しています。
「支える側」を支えることで、地域の力を持続可能に。現地の学校とNPOに寄付支援
山林火災発生後、現地で動いていたのは、外部の支援者だけではありませんでした。大船渡市の高校生たちや、平時から子ども支援に取り組む地元の方々が運営するNPO、大船渡市出身の大学生など、混乱の中でも、それぞれの立場で役割を果たそうとしていました。
そうした「地域を支える担い手たち」が継続して活動できるようにすることも、カタリバにとっては重要な支援のひとつです。
そこで、被災直後から動き始めていた高校生たちや、子どもと地域をつなぐ活動を長年担ってきた団体への寄付支援を実施しました。
■大船渡高校

被災地域の大船渡高校では、火災の混乱が続くなか、100人を超える生徒が自発的にボランティア登録を行い、実際に活動していました。また、授業では「総合的な探究の時間」のなかで、自分自身の探究テーマと山林火災のつながりを考えるワークを行うなど、災害の経験を学びに変える取り組みも行われていました。
今後は、地域の方々に話を聞くフィールドワークや、有志の生徒による復興に向けたイベントの企画なども計画されています。こうした学びの場や社会との接点が、将来にわたって地域を支える原動力になるとカタリバは考えています。
生徒たちが災害復興に自ら関わり、学びに変えていく、その主体的な経験を応援するために、寄付金はフィールドワークや復興イベントなどの活動に活用される予定です。
■認定NPO法人おはなしころりん

「おはなしころりん」は、東日本大震災の経験をもとに、本や読み聞かせを通じた“心の居場所”づくりに長年取り組んできた団体です。
津波により寸断された地域のつながりを再生するために、「移動こども図書館」や「おたのしみ交流会」「読み聞かせ会」など、対話を生む活動を継続してきました。
今回の山林火災を経て、「火災があったけれど、地域の子どもたちが元気になれる楽しい体験を届けたい」という思いから、中止となった地域のイベントの代替となるイベントの開催や、被災地域への移動こども図書館の拡充を行っています。
カタリバは、その継続的な活動を支えるため、運営費用の一部を寄付というかたちで応援しました。
ご支援への感謝と、これからに向けて
被災直後の不安や混乱のなか、子どもたちやご家庭に少しでも安心できる時間や支援を届けることができたのは、皆さまからのご寄付とご協力のおかげです。心より感謝申し上げます。
現地では、制度の枠組みだけでは支えきれない困りごとや、今まさに必要とされる支援について、たくさんの声が寄せられていました。
カタリバは、そうした現場の声に耳を傾けながら、これからも地域の方々と共に、子どもたちにとって本当に必要な支援を届けていきます。
2025年5月に発表された「災害時のこどもの居場所づくり手引き」は、全国各地で同様の支援の必要性が高まっていることを示しています。この手引きが現場で活かされていくためには、具体的な実践例が広がることが重要です。今回の山林火災での支援報告も、その一助となれば幸いです。
また民間団体が緊急時にすぐに現場にかけつけ、子どもたちへの支援活動を開始するにはご寄付が必要です。以下から常時受け付けています。
最後に、被害を受けた大船渡市のまちと、そこに暮らす方が、一日も早く穏やかな日常を取り戻されることを、心よりお祈り申し上げます。
事業紹介

災害発生時に、子どもたちへの支援を一刻も早く届けることを目的とした緊急支援プロジェクト。これまでの被災地の子ども支援の経験から、「発災直後の子ども支援において、第三者が1秒でも早く駆けつけることが最も大事なことである」と捉え、平時から自治体・企業と事前にアライアンスを組んでおくことで、迅速な支援活動ができるような仕組みづくりに取り組んでいます。2020年は九州地方を襲った令和2年7月豪雨災害、2021年は熱海市の土砂災害時、2024年能登半島地震・奥能登豪雨にて現地での子ども支援活動を実施しました。
認定特定非営利活動法人カタリバとは

どんな環境に生まれ育った10代も、未来を自らつくりだす意欲と創造性を育める社会を目指し、2001年から活動する教育NPOです。高校への出張授業プログラムから始まり、2011年の東日本大震災以降は子どもたちに学びの場と居場所を提供するなど、社会の変化に応じてさまざまな教育活動に取り組んでいます。
<団体概要>
設立 : 2001年11月1日
代表 : 代表理事 今村久美
本部所在地 :東京都中野区中野5丁目15番2号
事業内容 :高校生へのキャリア学習・プロジェクト学習プログラム提供(全国)/被災地の放課後学校の運営(岩手県大槌町・福島県広野町)/災害緊急支援(全国)/地域に密着した教育支援(東京都文京区)/困窮世帯の子どもに対する支援(東京都足立区・全国)/外国ルーツの高校生支援(東京都)/不登校児童・生徒に対する支援(島根県雲南市・全国)/子どもの居場所立ち上げ支援(全国)
URL: https://www.katariba.or.jp
取材に関するお問い合わせは下記フォームにご入力ください。
https://www.katariba.or.jp/report/(担当:カタリバ広報 阿部)
■出典元
*1 こども家庭庁【資料5】「災害時のこどもの居場所づくり」手引き及びチェックリストの発出について(通知)
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/ebca80df-3a49-439a-bc5c-deeef835d008/5cef26a0/20250530_councils_shingikai_kodomo_ibasho_ebca80df_05.pdf
*2 認定NPO法人カタリバ 【令和6年能登半島地震】子どもたちのための支援活動を実施しています<24年09月【能登豪雨】支援情報を追記>
https://www.katariba.or.jp/news/2024/09/23/43420/
*3 大船渡市 令和7年大船渡市大規模林野火災に係る対応状況と取組等の進捗状況について
*4 大船渡 令和7年2月26日 林野火災(赤崎町 合足地内発生)に伴う大船渡市の対応状況
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