社会実験コミュニティ「DICT」創設者・山本晋也、10月19日に台湾・国立台北大学にて90分間の特別講義。著書『語りえぬものの値打ち』で提示した「加工貿易2.0」構想を、初めて海外の教壇で論じる
AIが進化するほど、最も人間的な医療の営みの価値は高まる。超高齢社会の最前線で蓄積された日本の臨床の暗黙知を、Agentic AIとともに世界へ届ける構想を提示する。

国際共創イノベーションのための社会実験コミュニティ「DICT」(運営会社:株式会社Link & Innovation)創設者の山本晋也は、2026年10月19日(月)、台湾・新北市の国立台北大学(National Taipei University)三峡キャンパスにおいて、「匠の暗黙知とAgentic AI ― AI時代の医療と『臨床の知』の再発見」と題した特別講義を行います。講義時間は90分、対象は同大学経営学部のWei-Lun Chang特別教授が受け持つ学生 約30名です。
本講義は、山本が2026年8月に上梓した『語りえぬものの値打ち〜AIには真似できない、日本という戦略』(DICT Publishing)で展開した議論を、初めて海外の教壇で論じるものとなります。
■「AIに代替されるのか」という問いに、逆説で応える
指示を待つ生成AIから、目標を与えれば自ら計画し実行するAgentic AIへ。この移行は医療の現場でも急速に進んでいます。画像診断の補助、診療記録や看護記録の作成、鑑別診断の提示、リハビリ計画の最適化において、AIはすでに熟練の専門職に迫る、あるいは凌駕する生産性を示しはじめました。
「自分たちの仕事はAIに代替されるのか」。この問いは、医療を支えるあらゆる職種に、そしてそれを支える工学・産業の現場にも広く共有されつつあります。
本講義が提示するのは、ひとつの逆説です。すなわち、AIが進化するほど、最も人間的な医療の営みの価値はむしろ高まる、というものです。
■鍵となる概念は「暗黙知」
哲学者マイケル・ポランニーは「我々は語り得る以上のことを知っている」と述べました。熟練医が患者を一目見て察知する違和感。ベテラン看護師が顔色のわずかな変化から読み取る急変の予兆。リハビリ職が手で触れた瞬間に把握する身体の硬さ。これらは教科書にも論文にも記述されない、身体と経験に深く埋め込まれた知です。
AIが容易に代替できるのは形式知です。暗黙知は、学習データそのものが存在しないために、AIの最も苦手とする領域にとどまります。
■「核心は人に、周辺はAIに」
本講義は、暗黙知とAgentic AIを対立させるのではなく、「組む」関係として捉え直します。核心は人(医療チーム)に、周辺はAIに。この役割分担のもとでAIを観察者・対話相手・翻訳者として傍らに置くことで、これまで熟達者一代に閉じていた臨床知の継承を可視化し、地域医療や人材偏在といった課題に資する道筋を描きます。
ここでは、課題を発見しデバイスやシステムへと翻訳する工学の役割と、臨床知とテクノロジーを橋渡しする産業の役割が、不可分のものとして交わります。
■「加工貿易2.0」― 臨床知を資源として、世界へ
講義はさらに、これを個人の働き方にとどめず、日本の医療が世界に貢献する戦略へと接続します。
世界で最も早く超高齢社会に突入した日本の臨床現場には、世界トップレベルの暗黙知が多職種にわたって厚く蓄積されています。これらをAgentic AIとともに「世界に届く形」へと翻訳する営みを、山本は「加工貿易2.0」と呼んでいます。
戦後の日本が資源を輸入し、加工し、世界に届けることで成長したように、これからは臨床知という資源を、AIを加工機械とし、工学と産業の力を得て、世界の医療課題へと届ける。この構想と、それを担う「プロデューサー」という新しい職能について論じます。
■英語で論じるということ
講義は英語で行われます。日本の臨床現場に蓄積された暗黙知を、日本語以外の言語で論じる最初の機会となります。
「語りえぬもの」を母語で語ることすら難しいとすれば、それを別の言語に移すことは、さらに困難な作業です。しかし「加工貿易2.0」が構想するのは、まさにその翻訳にほかなりません。本講義そのものが、その試みの最初の一歩となります。
■台湾との学術交流から生まれた機会
DICTと国立台北大学の交流は、同大学経営学部のWei-Lun Chang特別教授(Distinguished Professor)と山本の長年にわたる学術交流に始まります。2026年5月には、法政大学経営大学院の講義室において、来日した同大学経営学部の学生16名を対象に、「技術革新とコミュニティによって自律分散する社会」と題した特別講義を実施しました。
この五月の講義で論じたのは、DICTが実践する分散型自律組織(DAO)の仕組みでした。これが好評を得たことから、あらためて台北の教壇に立つよう依頼をいただいたのが、今回の講義です。
五月に東京で迎えた相手の教壇に、十月に立つ。往来が、逆向きになりました。
台湾もまた、高齢化が急速に進む社会です。医療現場に蓄積された知をどう次の世代へ、そして社会の価値へと翻訳するかという課題は、日本と台湾に共通するものです。

■講義概要
・演題(和文):匠の暗黙知とAgentic AI ― AI時代の医療と「臨床の知」の再発見
・演題(英文):Tacit Knowledge and Agentic AI: Rediscovering Clinical Wisdom in the Age of Artificial Intelligence
・日時:2026年10月19日(月)13:30〜15:00(90分)
・会場:国立台北大学 三峡キャンパス(台湾・新北市三峡区大学路151号)
・対象:国立台北大学 経営学部 Wei-Lun Chang 特別教授の学生 約30名
・使用言語:英語
・主催:国立台北大学 経営学部(Department of Business Administration)
・演者:山本晋也(社会実験コミュニティ DICT 創設者)
■『語りえぬものの値打ち〜AIには真似できない、日本という戦略』について
2026年8月にDICT Publishingより刊行。AIが「言葉にできること」を限りなく豊かに、限りなく安くしていくのであれば、希少なまま残るのは、はじめから言葉にしきれなかったもののほうである、という逆説を軸に、「匠の暗黙知 × Agentic AI × プロデューサーの仕事 = 世界に届く新しい価値」という変換式を提示しています。
・著者:山本晋也/発行所:株式会社Virgo/レーベル:DICT Publishing
・ISBN:978-4-911392-01-0/187ページ/999円(税込)

■演者について
山本晋也(やまもと・しんや)。連続起業家、社会起業家、投資家、思想家、スタートアップ・メンター、社会物理学者。化学(BSc)、分子生物学(MSc)、技術・革新的経営(PhD)の三分野に学位を持つ。
大阪大学大学院医学系研究科 国際未来医療学特定講座 招聘教授、大阪大学医学部附属病院 未来医療開発部 招聘教授、神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科 客員教授、法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科 兼任講師。東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター 社会起業推進分野 特任教授、東北大学病院臨床研究推進センター 客員教授などを歴任。
株式会社Link & Innovation 代表取締役。Deep Intelligent Pharma株式会社においてAIを活用した医薬品開発・臨床研究の変革に取り組むほか、複数の法人で代表取締役、役員、顧問等を務める。厚生労働省の検討委員会委員、内閣府・経済産業省・中小企業庁による省庁横断検討会の参考人、科学技術振興機構 社会技術研究開発センター(RISTEX)特別研究員等を歴任。
2022年に社会実験コミュニティ「DICT」を創設。著書に『イノベーションの最適解』『語りえぬものの値打ち』(いずれもDICT Publishing)、分担執筆に『イノベーション政策の科学』(東京大学出版会)、翻訳に『スタンフォード大学バイオデザイン』(薬事日報社)。ラジオ関西「山本晋也のイノベーター・ラボ」パーソナリティ。
■国際共創イノベーションのための社会実験コミュニティ「DICT」
DICT(Design, Innovation, Co-Creation, Technology)は、2022年に社会起業家であり社会物理学者の山本晋也によって創設されたコミュニティです。Web 3.0とDAOを基盤に、デザイン、イノベーション、共創、テクノロジーを融合させた社会実験を通じて、新しい価値創造の形を模索しています。
DICTは国内外の多様な拠点で活動を展開し、創設以来20社の法人を生み出してきました。起業家や研究者、プロデューサー、アーティスト、クリエイターが集い、国際的な共創を推進する共鳴場として注目を集めています。

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