見守って防ごう!高齢者の事故

~電動車いす・介護ベッドによる事故の2人に1人が死亡~

 高齢者(※1)の生活をサポートする製品として、電動車いすや介護ベッド(※2)があります。身体活動を補助し、日々の生活を豊かにする製品ですが、不注意や誤った使い方で大きな事故につながるおそれがあります。実際に、これら2製品は高齢者における重大製品事故の発生件数が多く、重傷・死亡発生率も高くなっています(図1参照)。独立行政法人製品評価技術基盤機構[NITE(ナイト)、理事長:長谷川 史彦、本所:東京都渋谷区西原]は、電動車いすや介護ベッドを使用する上で気を付けるポイントをお知らせします。

(※1)本資料では、内閣府の高齢社会白書の定義に合わせて65歳以上を高齢者としています。
(※2)介護ベッド用の手すりやサイドレールも含めています。

 2013年から2023年(2023年は7月末まで)にNITEに通知のあった製品事故情報(※3)では、高齢者が被害者となった電動車いす・介護ベッドの事故は合計101件(電動車いす:52件、介護ベッド:49件)ありました。そのうち死亡事故は合計49件(電動車いす:26件、介護ベッド:23件)、重傷事故は合計32件(電動車いす:16件、介護ベッド:16件)発生しており、事故の8割が死亡・重傷事故となっています。特に今年は、7月時点で電動車いすの事故がすでに8件(死亡6件、重傷1件、製品破損1件)起きています。

電動車いすの事故は、屋外における単独使用時に事故が発生しています。使用上の注意をよく確認し、危険な場所の通行を避けたり、誤った使い方をしないよう気を付けたりすることで防げるものが少なくありません。また、介護ベッドの事故は、ベッド周りの隙間に頭や首など体を挟まれる事故が最も多くなっています。挟まる危険性のある隙間ができてしまっていないかを確認し、対策しておくことで防げる可能性が高いです。

高齢者の事故を防ぐために共通していえることは、使用者本人のみが気を付けるだけでなく、家族や周りの方々が気を配ることも大切です。例えば、使用者だけでなく周りの家族も取扱説明書をしっかり確認しておくことで、誤った使い方に気付けたり、非常時に迅速な対処が可能になります。

高齢者はご自身の身を守るために、周りの方々は高齢者を見守るためにも気を付けるポイントを確認し、事故を未然に防ぎましょう。


(※3)消費生活用製品安全法に基づき報告された重大製品事故に加え、事故情報収集制度により収集された非重大製品事故やヒヤリハット情報(被害なし)を含みます。


  • 電動車いすの気を付けるポイント

○事前に十分な練習を行い、利用する道路状況を介助者とともにあらかじめ確認する。

○踏切の通行はできるだけ避ける。

○体調不良時や飲酒時、夜間に使用することをできるだけ避ける。

○乗車前点検、定期点検を行う。


  • 介護ベッドの気を付けるポイント

○安全基準を満たした製品を使用する。

○クッションや保護カバー等で、挟まるおそれがある隙間をできるだけなくす。



1.高齢者における電動車いす・介護ベッドの事故発生状況

 図1は、高齢者における重大製品事故の発生件数と重傷・死亡発生率を表しています。高齢者が多く利用する「介護ベッド・手すり」や「電動車椅子」が重大製品事故の件数が多く、重傷・死亡発生率も高いことが分かります。

                図1 高齢者重大製品事故データ分析

(出典:経済産業省「高齢者製品事故防止に関するハンドブック」

https://www.meti.go.jp/product_safety/koureisya/pdf/koureisya-handbook.pdf


 NITEに通知された製品事故情報のうち、2013年から2023年(2023年は7月末まで)に発生した高齢者が被害者となった電動車いすの事故52件及び介護ベッドの事故49件(計101件)について、事故発生状況を以下に示します。なお、調査中の案件9件(電動車いす:2022年1件、2023年8件)も含みます。


1-1.年別の事故発生件数

 電動車いす・介護ベッドの事故で高齢者が被害者となった101件について、年別の事故発生件数を図2、図3に示します。特に電動車いすでは、2023年は7月時点ですでに過去10年の各年同月を上回るペースで事故が発生しています(8件発生、うち、死亡6件、重傷1件)。


1-2.事故の被害内容

 電動車いす・介護ベッドの事故で高齢者が被害者となった101件について、被害内容別の事故件数を表1、表2に示します。電動車いすでは、誤って転落・転倒してしまう事故や踏切で起きている事故が多くなっています。また、介護ベッドでは、ベッド周りの隙間に体が挟まってしまう事故が約半数を占めています。


1-3.事故の被害状況

 電動車いす・介護ベッドの事故で高齢者が被害者となった101件について、被害状況別の事故件数及び被害者数を表3、表4に示します。事故のほとんどが人的被害を伴っており、死亡事故が約半数と大きな割合を占めています。死亡事故件数に重傷事故件数を加えると、件数全体の8割を占めています。


(※4)人的被害(死亡・重傷・軽傷)が複数同時に起きている場合は、最も重篤な分類で事故件数をカウントし、重複カウントはしていません。また、製品本体のみの被害(製品破損)にとどまらず周囲の製品や建物などにも被害を及ぼすことを「拡大被害」としています。


1-4.原因別の事故発生件数

 電動車いす・介護ベッドの事故で高齢者が被害者となった101件のうち、調査中の案件を除く電動車いすの事故43件及び介護ベッドの事故49件の事故原因別の事故発生件数を図4に示します。原因として「製品の不具合以外による事故」が半数以上を占めており、使用者及び周りの方々が気を付けることで防げる事故が多くあります。

1-5.使用期間別の事故発生件数

 電動車いす・介護ベッドの事故で高齢者が被害者となった101件のうち、使用年数が判明した70件(電動車いす43件、介護ベッド25件)について、使用期間別の事故発生件数を図5に示します。使用期間が「1年未満」や「1年以上5年未満」といった短い使用期間で起きている事故の割合が大きくなっています。製品を使用する上で、取扱説明書の内容をしっかり理解したり、製品の操作に十分慣れておくことで、事故を防ぐことができる可能性があります。


  • 電動車いすの気を付けるポイント

○事前に十分な練習を行い、利用する道路状況を介助者とともにあらかじめ確認する。

 運転操作の不慣れが事故につながるおそれがあるため、以下の点に気を付けてください。

購入時や貸与を受ける際には広く安全な場所で練習を行い、操作や速度に十分に慣れる。

取扱説明書をしっかり確認するとともに、適宜、事業者に使用方法を確認し、疑問点があれば質問する。

事業者や警察、自治体などが開催する運転講習会があれば積極的に参加する。

初めて道路に出るときは家族などに同行してもらい、利用する道路の状況を確認する。

 特に、踏切や転落のおそれがある側溝、急な坂道などの危険な箇所を確認し、それらの箇所の通行をなるべく避ける。


 また、電動車いすの使用者の家族など、周りの方々も使用方法についての理解を深めて、使用者に注意を払うことが事故の防止につながります。特に、手動操作をするためのクラッチの位置や使用方法を知っておくことは緊急時の対応に役立ちます。クラッチを切ると、電動車いすを手押し移動することができます。

<クラッチとは>

 モーターとタイヤを連結する装置でレバー形やハンドル形などがあります。

 なお、坂道でクラッチを切った状態で電動車いすを手押ししたり、乗ったりすることは、自動ブレーキ(電磁ブレーキ)がかからず大変危険であるため、坂道ではクラッチを切らないでください。

○踏切の通行はできるだけ避ける。

 重大な事故につながるおそれがあるため、踏切の横断はできるだけ避けましょう。踏切を避けるための迂回路を探し、そちらを通行するようにしましょう。やむを得ず、踏切を渡る必要がある場合は以下の点に気を付けてください。

介助者とともに通行し、踏切の手前では一時停止及び左右の確認をする。

脱輪や線路の溝にタイヤが挟まることを避けるため、ハンドルをしっかりと握り、線路に対して直角に渡る。

・脱輪しないように、踏切の端を通行することは避ける。

万が一踏切で立ち往生してしまったら、周囲の人に大声で助けを求め、電動車いすを放置してでも脱出することを最優先にする。


<ご通行中の方へのお願い>

 電動車いすで踏切を渡ろうとする人を見かけたら、できるだけ渡りきるまで見守ってくださるようお願いします。また、電動車いすの方が歩行者や自転車を避けてハンドルを切ってしまうと、線路の溝や踏切の端に落ちてしまうおそれがあります。電動車いすの使用者が安全に通行できるように道を譲ってくださいますようご協力をお願いします。

 もしも踏切内で動けなくなっている人がいたら、すぐに踏切の非常ボタンを押してください。

○体調不良時や飲酒時、夜間に使用することをできるだけ避ける。

 体調が悪いときや飲酒後、眠気が出るおそれのある薬を服用したときは使用をできるだけ避けましょう。その他、持病などで運転操作に不安のある方も使用を避けましょう。

また、夜間は視界が悪くなるため使用は控えましょう。外出する際は、暗くなるまでに帰宅するように、あらかじめ計画を立てましょう。また、外出中、日が暮れてしまったときのために、車や自転車などとの接触事故を防ぐため、ライトを反射する「反射材」を身に付けるようにしましょう。あらかじめ電動車いすにも反射材を取り付けておくことも接触事故の防止につながります。

 

○乗車前点検、定期点検を行う。

 電動車いすを使用する際には、バッテリー残量を必ず確認してください。残量が少ないまま利用すると、途中でバッテリーが切れてしまい止まってしまうおそれがあります。また、乗車前にハンドルやアクセルレバーに緩みがないか、タイヤに亀裂がないかなどを点検することも、製品の故障による事故の防止につながります。

 さらに、定期的に取扱店などで専門の点検を受けることも大切です。不具合のある状態で使用すると、けがをしたり電動車いすを損傷したりする原因になります。

  充電時期の目安や点検項目の詳細、点検時期については、製品に付属の取扱説明書やメーカーのホームページをご確認ください。


<参考>

 電動車いすのJISとして、「JIS T 9203 電動車椅子」や「JIS T 9208 ハンドル形電動車椅子」があります。電動車いすを使用する際は、JISやJIS相当の安全基準を満たした製品を選択するようにしましょう。



  • 介護ベッドの気を付けるポイント

○安全基準を満たした製品を使用する。

 介護ベッドにおけるサイドレールやベッド用手すりの隙間に頭や首、手足を挟み込むことによる窒息、骨折事故を防ぐために、「JIS T 9254 在宅用電動介護用ベッド」が2009年に改正・公示され、対応国際規格に合わせた隙間の規定の見直しが行われました。さらに対応国際規格の改定に合わせ、2015年にも規定の見直しが行われています。隙間や空間を狭くした2009年以降のJISが求める寸法を満たす製品では、挟み込みによる死亡事故は大きく減少しています。

 しかし、2009年以前に製造され、最新の安全基準を満たしていない製品もまだ使用されている可能性があります。そのような製品に対しては、隙間への挟み込み防止措置を施すようにしてください。目安として、下図のAの隙間が直径120mm、Bの隙間が直径60mmより広くなっている場合は、注意が必要です。また、新たに介護ベッドを導入する際の目印としては、JISマーク付きの製品であれば安全基準を満たしています。

○クッションや保護カバー等で、挟まるおそれがある隙間をできるだけなくす。

  前述のような安全基準を満たしている場合でも、隙間からベッドの外にある物を取ろうとする、意図せず体勢を崩してしまうなどして、隙間に挟まってしまうおそれがあります。また、手足などが隙間に入った状態で、誤って介護ベッドのリクライニング操作をしてしまうことで挟まれてしまう可能性があります。使用者の身体能力や体格に応じて、あらかじめクッションや保護カバー、スペーサーで隙間をなくしておくことで、より安全に使用できます。

(画像出典:医療・介護ベッド安全普及協議会 パンフレット「介護ベッドここが危ない!!」http://www.bed-anzen.org/use/


<介助者へのお願い>

 事故は主に、介護ベッド周りの隙間に頭や首、手足を挟み込むことで起こっています。使用者だけでなく、周りの家族や介護をされる方も介護ベッドの隙間に細心の注意を払い、必要に応じて保護カバーなどで隙間をなくすなどの対策を行ってください。また、取扱説明書を確認することで、危ない箇所や誤った使い方に気付くことができます。



  • 今回の注意喚起動画はこちら

>>NITE公式 YouTube

介護ベッド「4.隙間に挟まる」


  • 一般消費者用検索ツール「SAFE-Lite」のご紹介

 NITEはホームページで製品事故に特化したウェブ検索ツール「SAFE-Lite(セーフ・ライト)」のサービスを行っております。製品の利用者が慣れ親しんだ名称で製品名を入力すると、その名称(製品)に関連する事故の情報が表示されます。

https://www.nite.go.jp/jiko/jikojohou/safe-lite.html


  • 独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE) 製品安全センターの概要

 NITE 製品安全センターには、消費生活用製品安全法などの法律に基づき、一般消費者が購入する消費生活用製品(家庭用電気製品やガス・石油機器、身の回り品など)を対象に毎年1千件以上の事故情報が寄せられます。製品安全センターでは、こうして収集した事故情報を公平かつ中立な立場で調査・分析して原因究明やリスク評価を行っています。原因究明調査の結果を公表することで、製品事故の再発・未然防止に役立てています。

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会社概要

URL
https://www.nite.go.jp/
業種
官公庁・地方自治体
本社所在地
東京都渋谷区西原2-49-10
電話番号
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代表者名
長谷川 史彦
上場
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資本金
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設立
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