ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル フェスティバル 日本初上陸
【はじめに】
ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペルは、毎年世界各地で催してきたモダンダンスとコンテンポラリーダンスのフェスティバルを、イニシアチブの発足以来初めて、京都と埼玉で開催いたします。2023年、ヴァン クリーフ&アーペルは、日本進出50周年という節目を迎えました。日本は今もなお、メゾンが積極的に活動を展開している国であり、当イベントは、日本とヴァン クリーフ&アーペルが築き上げてきた豊かな文化交流の歴史を受け継ぐものとなります。
ヴァン クリーフ&アーペルは1906年、世界が極東へ強い関心を向け、芸術的親和性が高まっていた時代のパリに
誕生しました。1920年代以降、ヴァン クリーフ&アーペルが手掛けたジュエリーや貴重なオブジェといったコレクションの一部には、形状、技巧、素材、象徴的イメージにおいて日本文化の影響がうかがえます。1970年、メゾンは大阪で開催された日本万国博覧会に出展し、その3年後には日本初となるブティックをオープンしました。以来、著名な日本人アーティストとの数多くのコラボレーションを通し、2つの文化の間の対話は、より豊かなものへと着実に発展しています。
ヴァン クリーフ&アーペルは2004年以来、パピヨン クリップの装飾を漆芸作家である箱瀬淳一氏に依頼しています。メゾンを象徴する作品のひとつであるパピヨン クリップの左右の羽は、私たちが受け継いできた2つの伝統、すなわち、ジュエリーと日本の漆芸の出会いを表現しています。2017年に開催された京都国立近代美術館主催の「技を極める―ヴァン クリーフ&アーペル/ハイジュエリーと日本の工芸」展では、ハイジュエリー、明治時代の名作、日本の現代工芸のつながりが紹介され、私たちが所蔵するパトリモニーコレクションからの約270点と日本の作品63点とが対話を交わすように美しく響き合っていました。蜷川実花氏による色鮮やかな写真と花をモチーフとするメゾンのクリエーションを展示した「Florae」展(2017年)では、建築家の田根剛氏が光を巧みに操り、没入感溢れる空間を創出しました。また、東京と京都で開催された「Light of Flowers」(東京2021年開催、京都 2022年開催)では、華道家の片桐功敦氏によるいけばなの芸術性と、ヴァン クリーフ&アーペルが自然から得てきたインスピレーションのつながりが表現されました。
さらに最近では、2023年、「友禅」の重要無形文化財保持者(人間国宝)・染織家の森口邦彦氏との貴重な交流の機会を得ることができました。日本古来の染色技巧とハイジュエリーの素材や技巧との融合により誕生した2つのプレシャスボックスは、「紅白」と「玄」と名付けられ、メゾンの日本進出50周年を記念して東京で初公開されました。これら2点の作品は、2024年にパリのパトリモニー ギャラリー(20 Place Vendôme)で開催された「ヴァン クリーフ&アーペルと日本:芸術的出会い」展(1月19日〜6月17日)でも展示されており、こうした2つの文化の交流が今日に於いても実り多きものであることを示しています。
漆芸からデザイン、写真、いけばな、友禅に至るまで、インスピレーションに満ちたこの交流のレガシーは今年、メゾンが創立以来愛着を抱き続けてきた芸術であるダンスを中心に、さらなる発展を遂げます。2020年のダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペルの創設以来、メゾンは振付芸術とのつながりをより一層深めるべく注力してきました。メゾンの伝統を礎とする当フェスティバルは、ロンドン、香港、ニューヨークに続き、初となる日本での開催を機に、貴重な芸術的シナジーを世界へ向けて発信します。
ニコラ・ボス
ヴァン クリーフ&アーペル プレジデント兼CEO
ダンスを支援すべく2020年に始動したダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペルは、創造、教育、継承という3つの本質的価値を体現するプログラムです。パートナーシップによって結ばれた幅広いネットワークにより、振付家と団体を支援するとともに、例年開催のダンス フェスティバルを実現しています。ロンドン(2022年3月)、香港(2023年5月)、ニューヨーク(2023年10月)に続き、2024年10月4日から11月16日まで、このフェスティバルを京都と埼玉にて開催いたします。公演をはじめ、アーティストとの交流イベント、どなたでも参加できるワークショップ、さらに今回、関連イベントとして開催される写真展を含めた本フェスティバルが、KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭、彩の国さいたま芸術劇場、ロームシアター京都とのコラボレーションを継続するとともに、日本の皆さまにコンテンポラリーダンスの世界を広くご紹介する機会となることを願っています。
当イベントは、アメリカ人写真家、オリヴィア・ビー氏の写真展「その部屋で私は星を感じた」によって幕を開けます。KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭とのコラボレーションによって展示される当エキシビションでは、過去のフェスティバルの最も美しい瞬間を捉えた写真が展示され、動きの芸術が描き出す瞬間的なビジョンを浮かび上がらせます。このフェスティバルの精神に触れる入り口となるにふさわしいものとなっています。
日本向けのプログラムは、現代の作品をご紹介しながら、歴史を参照するアプローチを軸に構想されています。オラ・マチェイェフスカ氏は、「ロイ・フラー:リサーチ」と「ボンビックス・モリ」とによって、ダンスの伝統と偉業を振り返る機会を観客に提供しています。両作品は、サーペンタインダンス(1892年)と呼ばれるロイ・フラー創案の布と光がうねるように動くダンスを探求すべく、彼女が取り組んだ研究を基にして制作されています。一方、アレッサンドロ・シャッローニ氏はイタリア・ボローニャ地方で継承される一連の作品群を「ラストダンスは私に」で探求しています。
このような過去を振り返る視線は、彼らの独創的な構成や革新的なアプローチを通して、ダンス表現の発展に貢献した現代の作品を紹介することにもつながります。「ソープオペラ、インスタレーション」(2014年)は、ダンスとビジュアルアートの密接な関連性を見事に描き出した作品です。本作において、マチルド・モニエ氏とドミニク・フィガレラ氏は、表象規範に問いを投げかける瞬間的な振付と造形芸術について熟考するよう観客を促します。続いて、クリスチャン・リゾー氏が、イスタンブールの路上で男性たちが即興で踊るフォークダンスを見たことをきっかけに乗り出したリサーチを追います。アーティストは、民間伝承から得た彼らのインスピレーション
を基に「D’après une histoire vraie─本当にあった話から」を2013年に制作しました。
さらに、今回のフェスティバルで発表される近年の作品は、振付家の独創的な才能を証明するものです。日本初演となる(ラ)オルド―マルセイユ国立バレエ団は、ダンスとエレクトロニックミュージックを融合させたユニークな世界との類例のない出会いを描き出す「ルーム・ウィズ・ア・ヴュー」を披露します。ナレーション、サーカス芸、コンテンポラリーダンスをひとつにした「Corps extrêmes―身体の極限で」では、ラシッド・ウランダン氏が、優れた身体能力と動作の詩的な側面を組み合わせたアクロバティックな作品を提示します。フェスティバルの最後を飾るのは「カルカサ」です。作品内でマルコ・ダ・シウヴァ・フェレイラ氏は、ヴォーギングの脚さばき
とハウスミュージック を、フォークダンスを基にした動きと組み合わせた大胆な表現を展開しています。
今回のダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル フェスティバルは、日本のパートナーの方々とのコラボレーションにより実現しました。心より感謝申し上げます。本イベントが、さまざまな芸術分野が交差することでさらなる発展を遂げる振付芸術との出会いの場となることを願っています。
セルジュ・ローラン
ヴァン クリーフ&アーペル ダンス&カルチャー プログラム ディレクター
【公演】
「ラストダンスは私に」アレッサンドロ・シャッローニ
京都芸術センター(講堂)10月5日、6日 / 午後4時
「ラストダンスは私に」は、イタリアのフォークダンスであるポルカ・キナータを探究したアレッサンドロ・シャッローニの作品です。ポルカ・キナータの歴史は、1900年代初期まで遡ります。一般的に男性によって踊られる求愛のダンスであり、抱擁や回転、床に跪くといった動作が含まれます。シャッローニは、かつて人気を博したものの現在では消滅の危機に瀕するこの伝統舞踊の復興と普及を目指し、デュエットパフォーマンスに加え、継承を目的とした一連のワークショップを構築しました。
「ルーム・ウィズ・ア・ヴュー」
(ラ)オルド、ローン with マルセイユ国立バレエ団
ロームシアター京都(サウスホール)10月5日、6日 / 午後6時
2020年、フランス・パリのシャトレ座において、アーティストのローンと共同で制作された ルーム・ウィズ・ア・ヴューは、(ラ)オルドが16か国28名のダンサーで構成されるマルセイユ国立バレエ団と組んだ初の振付作品です。大理石採石場を舞台に、さまざまな機械が切り出しや研磨のために駆動する中、作品が展開されます。舞台に創出された異空間で、ローンは機器を駆使し電子的でありながら感情に訴えかけるような壮大な光景を生み出し、一群のダンサーがそこでパフォーマンスを繰り広げます。ミケランジェロの言葉にあるように、彫刻家が大理石を彫り「塊に閉じ込められた人間の像を解放」しようとするのに対し、パフォーマーたちは大理石という不動の白い物質性から逃れようとして踊ります。彼らは、迫りくる惨事の限りなく人間的な外形を見極めるために立ち上がり、そこにある美の可能性そのものを思い描こうとしているのです。
(ラ)オルドは、ダンスを通じて、抗議や反逆の表現を模索し続けています。「ルーム・ウィズ・ア・ヴュー」は、まさに白紙のような作品です。プレーンな白いキューブとして考案された空間であり、そこに音、物体、イメージを刻み込むことで、人間の変わり続ける役割についての熟考を促します。ローンの5枚目となるスタジオ・アルバム「ルーム・ウィズ・ア・ヴュー」は、この作品から誕生しました。彼が操る機器からサウンドが響き渡る独創的なパフォーマンスは、人類そのものをはるかに超えて存在する歌に向かって、私たちを解き放ち、消えゆく線を辿るように誘います。
「ボンビックス・モリ」オラ・マチェイェフスカ
ロームシアター京都(ノースホール)10月11日 / 午後7時、10月12日 / 午後4時30分
オラ・マチェイェフスカによる3人のダンサーのための本作品は、ロイ・フラーが1892年に考案したサーペンタインダンスからインスピレーションを得て制作されました。マチェイェフスカは、この伝説的なダンスを、自らのうちにある矛盾とつかみどころのない性質に向き合わせています。タイトルの「ボンビックス・モリ」は、生存のために完全に人間に依存するようになった蚕を指しています。このパフォーマンスでは、ダンス、過去の記録、技巧性が織り交ざり、諸物のハイブリッドな性質についてのメタファーを生み出します。
ロイ・フラーは、型にとらわれることのない先駆的なダンサーであり、パフォーミングアーティストという呼称が生まれる以前から、それを体現する人物でした。西洋のダンス界にあって物議を醸す存在であった彼女は、たっぷりとしたシルクの布の下に身体を隠し、ダンスを特殊効果に溶け込ませて、火、水やそのほかの自然の要素の動きを表現しました。フラーは、舞台で初めて電気照明を使用し、人体以外の動きを探求することで、演劇やダンスの世界に革新をもたらしたのです。また彼女は、オーギュスト・ロダン、リュミエール兄弟、アンリ・ソヴァージュ、マリー・スクウォドフスカ=キュリーといった傑出した人物たちとのコラボレーションを実現しています。
「ロイ・フラー:リサーチ」オラ・マチェイェフスカ
京都芸術センター(講堂)10月14日 / 午後6時30分
「ロイ・フラー:リサーチ」は、ロイ・フラーが創作した有名なサーペンタインダンスを甦らせるものです。彼女は、振付に何メートルもの絹地を取り付けた竹の棒を取り入れてダンスと特殊効果を融合させ、炎、海の波など自然現象へと自身の姿を変えてみせることで、西洋舞踊の伝統に一石を投じました。マチェイェフスカは作品の中で、神話的なアイコン、その矛盾、そして、追跡不可能なものと対峙します。身体を通してダンスをアーカイブ化することにより、この作品は、振付の歴史、その継承と解放に、独自の視点をもたらします。
「D’APRÈS UNE HISTOIRE VRAIE―本当にあった話から」クリスチャン・リゾー
京都芸術劇場 春秋座 10月12日 &13日 / 午後7時
彩の国さいたま芸術劇場(大ホール)10月19日 / 午後7時、10月20日 / 午後3時
8人のダンサーと2人のドラマー。「男らしさ」という悪徳にとらわれた10人の男性たち――約10年前、「D’après une histoire vraie―本当にあった話から」は、優雅で情熱的な動きによって不安を一つずつ打ち砕きながら、両極を抗いがたく行き来するような流動性への扉を開きました。パフォーマーたちにはここで、伝統と現代性の分裂を繊細に解消する振付作品を再展開することが求められます。感情の記憶を白熱の頂点へと導き、題材を限界まで引き伸ばすような、極めて重要な作品です。大地のリズムと波打つ身体との摩擦の中で、ダンスは自らの身体性を探求し続けます。音楽と歩調を合わせながら、部族の儀式から幾何学的な形、虚構から抽象、グループからコミュニティへと広がっていくのです。しかし、土地をもたない人々の民話が浮かび上がるのは、常に他者の存在に支えられて結束を固める、運動という秘密裏に結ばれた連帯を通じてなのです。ダンサーたちは、絶え間なく繰り返される接触に反応して倒れ、差し伸べられた手の心地よさに駆け寄り、心を込めて握り締めます。ひとりでいたかと思うと、結びついては離れ、そして、再び結びつきます。連帯感? これは、非常に切実な問題なのです。
「ソープオペラ、インスタレーション」マチルド・モニエ & ドミニク・フィガレラ
ロームシアター京都(ノースホール)10月18日 &19日 / 午後7時、10月20日 / 午後4時
「ソープオペラ、インスタレーション」は、振付家マチルド・モニエと画家ドミニク・フィガレラが2009年に共同制作した振付作品「ソープオペラ」 の新バージョンです。
2人の継続的なコラボレーションを証明するこのバージョンは、より造形的でパフォーマンス性に富んだものとなっています。マチルド・モニエとドミニク・フィガレラは、オリジナル版で使用した泡という素材を、パフォーマンス空間の中心に置き換えることを構想しました。この素材は、途方もないスケールのボリュームへと変化し、空間全体に徐々に広がりゆく動く物体を形成しながら、伝統的な舞台を白い箱に作り変えます。出現する形状は壁に掛けられるものではなく、リアルタイムで扱われるとともに消えていきます。パフォーマンスは、ドラマチックな緊張感をもって繰り広げられ、やがて泡が消え、ダンサーだけがステージに残る瞬間へと至るのです。
「CORPS EXTRÊMES-身体の極限で」ラシッド・ウランダン / シャイヨー国立舞踊劇場カンパニー
彩の国さいたま芸術劇場(大ホール)10月26日 / 午後7時 10月27日 / 午後3時
ロームシアター京都(サウスホール)11月2日 / 午後7時 11月3日 / 午後3時
「CORPS EXTRÊMES―身体の極限で」 は、ラシッド・ウランダンが抱く「飛行、無重力、宙づり、飛翔といった概念が引き起こす魅惑に焦点を当てたい」という願望から着想を得ています。ハイライナーとクライマーという2人の象徴的なエクストリームスポーツを愛するスペシャリストが、いつもの遊び場からは遠く離れた舞台で、8人のアクロバットパフォーマーと出会います。
身軽で回転も自在な、自由を愛するこの並外れたコミュニティは、天と地の間で進化を遂げます。メンバーたちは、さまざまな方法でイカロスの夢を今日の世界に甦らせるのです。舞台の奥には、支点となる印象的なクライミングウォールがあります。上空に長いロープが張られたステージは、時に巨大なスクリーンと化し、壮大な自然の風景の中でエクストリームスポーツのアスリートたちがパフォーマンスを繰り広げる、文字通り目もくらむようなイメージが映し出されます。
比類ない2人のアスリートによるナレーションも重要な役割を果たしており、それぞれが自分たちの活動について個人的な視点で語ります。ジャン=バティスト・ジュリアンが手掛ける音楽は、時に高揚感を与え、時に熱狂を誘発するような調子で、多層的で繊細に感情をゆさぶるこの作品をより一層盛り上げます。
この作品は、単に超絶技巧の魅惑に身を任せるものではなく、虚空と戯れながら、ダンスの実存的、さらには形而上学的な側面を深く掘り下げ、明らかにしていきます。現実に根差しながらも夢のようであり、親密でありながらも壮大なこの作品は、人間の並外れた体験に際立って芸術的な光を当てています。
「カルカサ」マルコ・ダ・シウヴァ・フェレイラ
ロームシアター京都(サウスホール)11月15日 / 午後7時、11月16日 / 午後3時
「カルカサ」では、マルコ・ダ・シウヴァ・フェレイラを含む10人のダンサーと2人のミュージシャンという多彩なキャストが、型にはまらない陽気なコール・ド・バレエ(群舞)を形成しています。彼らは、スタンダードな民族舞踊と、マイノリティとみなされてきた文化から生まれた現代的なアーバンダンスのスタイルを融合させた複雑な脚さばきを披露します。この振付において、マルコ・ダ・シウヴァ・フェレイラは、コミュニティ、集団的アイデンティティの構築、記憶、文化の結晶化を研究するためのツールとしてダンスを用いています。
出演者たちは、身体、ダンス、文化構築の、肉体的かつ直感的で気取らない流れの中で、このアイデアを探求します。彼らは、クラブ、舞踏会、スタジオから引用した馴染みのあるフットワークからこの探索を始め、現代の社会的、都市的コンテクストの身体的語彙( ハウス、クドゥーロ、トップロック、ハードスタイルなど) をアイデンティティの語彙として使用します。ゆっくりと構造化された構築プロセスを通じて、彼らはこれらのスタイルを過去のダンスの遺産や記憶に結び付けるのです。
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