毎日750万人が使うSetlogは、なぜ若者の日常になったのか。創業者が語るプロダクトへのこだわり【後半】

Setlog創業者 Devin Dotyへインタビュー

Z Venture Capital株式会社

今回、Z Venture Capital(以下、ZVC)は、「Setlog」を運営するNew chatに出資しました。1時間に1回、いまの自分を記録して友人と見せ合うSetlogは、日本や韓国の若い世代を中心に急速に広がり、日本ではApp Storeランキング1位も獲得しています。

一見、こうしたサービスは一時的なブームと見られがちですが、Setlogは「日常の習慣」をつくるプロダクトだと考えています。なぜユーザーはこれほどSetlogを大切にするのか。元Snapのデザイナーでもある創業者Devin Dotyに、出資を担当したZVCの北畑 絹子が話を聞きました。ユーザーデータを集めないという選択、UI変更が炎上した日の決断、わずか4人のチームとAIの使い方、そしてアメリカへの挑戦まで、Setlogの裏側にある想いに迫ります。

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【対談者】

Devin Doty(New Chat CEO)/ Kinuko Kitabatake(Z Venture Capital)

「何も取らない」という難しい道

Kinuko: Devinは、Setlogをユーザーにとって安全な場所にすることを、とても大切にしていますよね。ユーザーデータを積極的に集めず、招待を広げるためのアドレス帳へのアクセスや、基本的なデモグラフィック情報を取得しない。正直、私たちもデューデリジェンスでは苦労しました(笑)。多くの企業が成長のために集めようとするデータを、あえて手放している。でも、その選択がユーザーにとって安心できる、ありのままを投稿できる空間につながっていると思います。そこにはどんな考えがあるのでしょうか。

Devin: 良い質問ですね。根底にあるのは、「自分たちが使いたいプロダクトをつくる」という考えです。僕は、あらゆるデータを集めようとするプロダクトに囲まれて育ってきました。何かを防ぐためにはオプトアウトしたり、プライバシー設定を細かく確認したりしなければいけない。

だからSetlogを始めるとき、まず「自分たちは、このアプリに何を見られたいのか。何を取りたいのか」と考えたんです。答えは「何も」でした。友人や家族にも「安心して使っていいよ」と言えるプロダクトにしたかったんです。

もうひとつは、韓国でのローンチです。韓国市場でデータプライバシーの問題を起こしたら、それだけで終わってしまうと思います。だからリリース前から、この点は徹底していました。

それから、僕らの会社には「あえて難しい道を選ぶ」という考え方があります。その先にこそ、より良いものがあると思うからです。

例えば地図アプリなら、起動時に広告を5秒間表示すれば収益を得られるかもしれません。でもユーザーは、一刻も早く地図を見たいわけです。本当に難しいのは、ユーザーの体験を損なわずに、別の方法で収益を生み出すことです。Setlogでも、僕らはできるだけ難しい方の道を選びたい。その方が、長く使われる、より強いプロダクトになると信じています。

Kinuko: とても共感します。例えば、ユーザーは必ずしも「このアプリは暗号化されているから使おう」と考えるわけではありませんよね。でも、プロダクトに対するDevinの哲学は細部に表れている。ユーザーは、それを感覚的に受け取っていると思います。「なぜか安心できる」「これまでのアプリとは何かが違う」と。

一方で、ソーシャルアプリは規模が大きくなるほど、他人からどう見られるかを意識したり、人間関係に負担を感じたりする場所になりがちです。日本ではSetlogはBeRealと比較されることも多いですが、DevinはこうしたSNSの課題をどう考えていますか。

Devin: 僕の中では、Setlogと従来のソーシャルメディアの間には、はっきりとした違いがあります。そもそもプロダクトの構造が違うんです。僕らは、むしろDiscordに近いと思っています。Discordには、同じ趣味を持つ人たちと安心して過ごせるルームもあれば、知らない人たちと交流するためのルームもある。Setlogも、それに近い構造です。

例えばInstagramでは、一度つながった相手との関係が続いていきます。相手を外すべきか、ブロックすべきか、親しい友達に入れるべきか。そうしたことが新たな悩みになることもあります。

一方、Setlogでは、自分がつくるスペースごとに人間関係を分けられます。親しい人だけの安心できる

場所もあれば、知らない人と交流する場所もつくれる。もし居心地が悪くなったら、そのルームを出ればいい。プロダクトそのものを離れる必要はありません。この違いは、僕らにとってとても重要なんです。

良いものをつくるために、エゴはいらない 

Kinuko: Devin自身についても聞かせてください。私がNewchat(Setlog)への投資に確信を持てた理由のひとつは、デューデリジェンスの過程で、Devinがとても正直だったことです。コンシューマープロダクトへの理解は圧倒的で、基本的なデータや分析も揃っていました。

でも同時に、「分からないことは分からない」と率直に話してくれた。 プレゼンが上手な起業家はたくさんいます。それも大切な能力ですが、私はDevinのそういう姿勢に強く惹かれました。だからこそ聞きたいのですが、Devinは自分自身をどんな人間だと思いますか。何をいちばん大切にしていますか。

Devin: 今日のインタビューでは、ZVCが投資を決めてくれた理由を次々と教えてもらっていますね(笑)。知らなかったことばかりで面白いです。難しい質問ですが、僕の核にあるのは「何があっても、本当に良いものをつくる」ということだと思います。

自分より優れた人がいたら、僕はいつもその人に惹かれてきました。嫉妬したり、張り合おうとしたりするのではなく、「どうすれば、このプロダクトをもっと良くできるか」を考えるんです。だから投資家と話すときも、自分を飾る必要は感じませんでした。僕のキャリアでは、仕事そのものが自分のことを語ってくれたと思っています。「これは僕がつくった」と声高に主張したこともありません。

会議に行き、成果を見せ、また仕事に戻る。その繰り返しでした。結局、僕にとって大事なのは自分の名前ではなく、つくっているものそのものなんです。だから「これが僕らのプロダクトです。投資したいですか」と、そのまま見せられる。断られても、それで傷つくことはありません。次に進むだけです。


Kinuko: その考え方は、チームづくりにも表れていると思います。Setlogは今も、とても小さなチームですよね。4人ですか?

Devin: ええ、4人です。

Kinuko: 4人で数百万人が日常的に使うアプリを運営しているというのは、AIの発展によって可能になった部分もあると思います。そうした中で、チームをつくるうえで大切にしていることは何ですか。少人数を維持しているのは意図的なのでしょうか。

Devin: まず、採用するときに伝えているのは、「会社とプロダクトがいちばん大切で、誰がつくったかは重要ではない」ということです。「この人がつくった」ではなく、「Setlogがつくった」と言われる。それでいいんです。

自分の名前や個人のブランドを前に出すことが最優先なら、このチームには合わないかもしれません。その考え方があるからこそ、僕らはプロダクトを良くすることに集中できます。もちろん、社内では誰が何を成し遂げたか、みんな分かっていますし、お互いに評価しています。でも外に向かって自分たちを主役にする必要はありません。

2つ目は、エゴのない人を採用することです。人の意見を聞けて、フィードバックを受け入れ、より良いものをつくるために動ける人です。

そして3つ目は、全員が自分の手でプロダクトを前に進められること。僕らは全員が「Individual Contributor(個人として実務に貢献する人)」です。デザイナーがコードを書きたければ、書いていい。役割に縛られず、全員が自分で判断して行動する権限を持っています。一方で、お互いにフィードバックし合い、会社としての大きな目標は共有しています。

Kinuko: そういう人たちは、どうやって見つけたんですか?

Devin: 実は、これまで採用したメンバーは全員、向こうから連絡をくれた人たちなんです。

「どうしてもSetlogで働きたい」「このプロダクトに貢献したい」と。プロダクトに情熱があって、自分の力で仕事を進められる人なら、とてもうまくいきます。

そして、AIの存在も大きいですね。特にバックエンドの体制は、かなり面白いことになっています。AIを専門にするメンバーがいて、システムが自動的に問題を修復する仕組みをつくっているんです。AIは性能が上がるにつれて、使う範囲もどんどん広がっています。

僕自身は主にCodexを使っていますし、チームにはClaudeを使うメンバーもいます。GPT-6以降、活用する場面がさらに増えて、毎日のように驚かされています。Androidアプリの開発には、ほぼ全面的にAIを活用しています。

一方で、iOSアプリは今もかなり手作業です。UIはすべて僕がFigmaでデザインしています。細部まで完璧に仕上げたい部分は、今でも自分の手でつくっています。

ただ、AIに任せる範囲は確実に広がっています。例えば、Setlogのアクティビティ画面には、誰かがリアクションすると表示される小さなバブルがあります。でも、あのバブルには表示するときも消えるときもアニメーションがないんです。以前の僕だったら、弾むように現れて、自然に消えていくアニメーションを必ずつくり込んでいたと思います。

でも今は、やることがあまりにも多くて、ひとまずそのままにしています。後から「どうしてあれで良しとしたんだろう。以前なら絶対に考えられなかったのに」と思いました。いずれ直すと分かっているからかもしれませんが、自分がどれだけ多くの作業をAIに任せるようになったのか、改めて感じた出来事でした。もちろん、本当に大切な部分は今も自分の手でデザインし、コードを書いていますけどね。

Kinuko: すごく分かります。AIはコーディングだけでなく、デザインやコンテンツ制作でも日に日に進化していますよね。でも私は、最終的には人間の「こうしたい」というビジョンが必要だと思っています。AIは、そのビジョンを実際のプロダクトにするための強力な手段です。でも、何をつくりたいのかという核の部分は、人間から生まれなければいけない。

Devin: 本当にそうですね。僕は昔から、コーディングはものづくりの中でも特に苦痛なプロセスだと思っていました。とにかく時間がかかるんです。AIがそこを大きく加速してくれたことには、本当に感謝しています。

 次なる挑戦は、競争の激しいアメリカ市場 

Kinuko: 最後に、Setlogの未来について聞かせてください。今後はアメリカ市場への展開を計画していますよね。日本とは違い、アメリカはコンシューマーアプリの競争がとても激しい市場です。

一方で、こちらの学生たちと話していると、「アプリはたくさんあるのに、本当に自分に合うものが見つからない」という声も聞きます。Devinは、アメリカ市場の可能性をどう見ていますか?

Devin: まず、アメリカでうまくいくかどうかは、まだ分かりません。「日常のログを残す」という行為そのものが、アメリカより東アジアの文化に合っている可能性もあります。横向きのカメラが受け入れられるかどうかも含め、テストが必要です。

ただ、アメリカにも、新しいプロダクトが勝負できる余地はあると思っています。これまで多くのアプリが登場しては消えていくのを見てきました。そのたびに、「ここを変えていればよかったのに」「ここで判断を間違えたのではないか」とメモしてきたんです。

だから、自分なりに考えてきたことはたくさんあります。でも、最終的に大切なのは、ユーザーが「これは何かが違う」と感じてくれるかどうかだと思います。

そうした成長は、時間がかかるかもしれません。でも、ユーザーに深く定着し、時間とともに価値が高まっていくプロダクトにしたいんです。

Kinuko: 皆さんの挑戦を私も大いに期待しています。

Devin: もちろん、簡単な挑戦ではありません。僕らは小さな魚で、周りにはサメがたくさんいます。しかも、そのサメたちはものすごく賢くて、暗視ゴーグルまで持っているような相手です(笑)。アメリカのコンシューマーアプリは、ユーザーをどう獲得し、どう使ってもらい、どう定着させるかを熟知しています。

僕らは、そのために一般的に使われる手法の多くを、あえて使わないと決めてスタートしました。だから、はるかに難しい挑戦になるでしょう。それでも、アメリカで本当に成長したいと思っています。まずは挑戦して、何が起こるのか、自分たちの目で確かめたいですね。

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会社概要

Z Venture Capital株式会社

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URL
https://zvc.vc/
業種
金融・保険業
本社所在地
東京都千代田区紀尾井町1-3 東京ガーデンテラス紀尾井町紀尾井タワー
電話番号
03-6850-0010
代表者名
In Joon Hwang
上場
未上場
資本金
2億円
設立
2012年08月