【調査研究】小中高における生成AIの継続利用と情報活用能力の関係―「みんなで生成AIコース」児童生徒1.7万人、55万件の利用ログ分析―
日本教育工学会研究報告集にて発表
特定非営利活動法人みんなのコード(神奈川県横浜市、代表理事:杉之原 明子、以下みんなのコード)が提供する「プログルラボ みんなで生成AIコース」における利用データをもとに、安藤 祐介(みんなのコード)、佐藤 和紀 氏(国立大学法人信州大学)、井手 絢絵 氏(ペンシルバニア州立大学)による共同研究の成果が、日本教育工学会(JSET)の研究報告集に掲載されました。

本論文(安藤祐介・佐藤和紀・井手絢絵(2025)『子どものプロンプトと教師アンケートに基づく学校での生成AI利用の実態調査』日本教育工学会研究報告集, 2025巻, 3号 掲載)では、児童生徒17,418名による55万件以上の利用ログと教員97名のアンケートを分析しました。
その結果、学級における「情報活用能力」の高さと「長期的な継続利用」が組み合わさることで、生成AIが単なる検索や翻訳の「ツール」から、対話を通じて思考を深める「学びのパートナー」へと変容する可能性が示唆されました。
■ 本研究の背景
本研究は、国内最大規模となる生成AIの利用ログをもとに、学校教育における生成AIの利用実態、安全性、そして教育的な効果を横断的に調査したものです。
学校現場で生成AIの導入が進む一方、その利用の実態を大規模かつ定量的に把握した研究はまだ多くありません。そこで本研究では、授業の中で子どもが生成AIに入力したプロンプトの傾向に加えて、教員が感じた指導上の手応えや、クラス全体の情報活用能力、学級の雰囲気との関係性を分析しました。これにより、生成AIを教育の中で効果的に活用するために必要な条件を明らかにすることを目指しました。
■ 本研究で明らかになった3つの考察
①継続利用が生成AIを学びのパートナーに変える
利用データの分析から、短期利用と長期利用(28日以上)のクラスを比較したところ、子どもたちのプロンプト(入力内容)に質的違いがあることが分かりました。
短期利用(体験・単発利用): 「翻訳」「要約」「単語検索」など、生成AIの機能確認や正解を求める利用が中心でした。
長期利用(継続的な利用): 「自分の作文への批評依頼」「意見交換」「感謝の表現」といった、対話的なプロンプトが多く出現しました。 この結果は、長期的な利用が、生成AIを批判的思考や創造的活動を支える「学びのパートナー」へと進化させることを示しています。
②情報活用能力が高いほど、生成AIを効果的に使える「正の相関」
教師アンケートとのクロス分析の結果、生成AIを単に長く使えば良いわけではなく、児童生徒の「情報活用能力」が高いクラスにおいて、「学びのパートナー」として生成AIの効果的な活用ができているという強い正の相関が見られました。
これは、生成AIの操作的なスキルだけを教えるのではなく、探究的な学び全体を通じた「情報活用能力」の育成こそが、生成AIのポテンシャルを引き出すための不可欠な土台であることを示唆しています。
③有害コンテンツの検出率は0.37%
55万件のログのうち、コンテンツフィルターが有害と検知したのは0.37%程度であり、その大部分は小学生のひらがなの羅列などの誤記や文脈による誤検知でした。自傷行為など深刻なワードは0.0003%であり、教員による適切な見守りと指導がある環境下であれば、リスクは十分に管理可能であることが定量的に裏付けられました。
■ 研究者コメント
国立大学法人 信州大学 学術研究院 教育学系 准教授 佐藤 和紀 氏
本研究で示された「情報活用能力」と「継続利用」の重要性は肌感として腹落ちします。大規模データ分析が、学校現場の肌感覚を裏付け、さらに生成AIが単なるツールから思考を深める「学びのパートナー」へと深化する条件を提示した点に本研究の意義があります。子供たちが主体的に学ぶために生成AIをどう位置づけ、そのための力をどう育むか、具体的な授業実践の議論へと繋がることを期待します。
ペンシルバニア州立大学 井手 絢絵 氏
生成AIの活用を実践されている先生方が教育現場で抱える課題感を起点として、本プロジェクトの分析に着手致しました。初中等教育という文脈でのプロンプトに関するベストプラクティスが十分に存在せず、現場での活用の質にばらつきがあるという背景を受け、文科省の生成AIガイドラインを教育現場で実践可能な形で具体化することを目指しました。本分析の結果が、第一に日々学校で教鞭をとる先生方、第二に生成AIの教育現場への適切な活用を検討する研究者の方々の支援となれば幸いです。
特定非営利活動法人みんなのコード CTO安藤 祐介
全国の様々な学校での取り組みにより、生成AIを教室の中で活用する際の典型的な場面がデータから見えてきました。先生が生徒の利用を見守る中で質問や、文章の要約・翻訳といった典型的な利用方法は短期的な利用でも実現できているようです。また長期間活用したクラスの生徒からは、生成AIと人間の新しい関係を予感させるような利用も出てきています。今回の知見が今後生成AIを教室の中で利用する先生方の背中を押すメッセージになれば幸いです。
■ 論文の概要
本研究は、「NHK for School 生成 AI 研究会」の成果の一部としてまとめられたものです。
論文名: 子どものプロンプトと教師アンケートに基づく学校での生成AI利用の実態調査
著者: 安藤 祐介(みんなのコード)、佐藤 和紀 氏(信州大学)、井手 絢絵 氏(ペンシルバニア州立大学)
掲載: 日本教育工学会研究報告集
URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsetstudy/2025/3/2025_JSET2025-3-B5/_article/-char/ja/
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