2型糖尿病およびそれに伴う脂肪蓄積や線維化を改善する新たな治療薬候補の発見
【ポイント】
当研究室で抗線維化薬として開発されたHPH-15が、2型糖尿病の治療薬候補となることを発見しました。
糖代謝に関与する臓器のモデル細胞を用いた実験より、HPH-15が糖代謝改善に重要な蛋白質AMPKを活性化する作用をもつことを明らかにしました。
高脂肪食肥満モデルマウスを用いた実験より、HPH-15は血糖値抑制作用を示すこと、肝臓・脂肪組織において同効薬のメトホルミンよりも強い脂肪蓄積抑制作用および抗線維化作用をもつことを明らかにしました。
HPH-15は、血糖値と脂肪の減少効果、さらに抗線維化作用を併せ持つ画期的な薬剤として展開されることが期待されます。
【概要説明】
AMPKは、肝臓・筋肉・脂肪組織にて細胞内のエネルギー不足を感知する蛋白質であり、カロリー制限や運動などによって活性化されます。そのため、AMPKの活性化は運動時と同じメカニズムによって糖を代謝し、膵臓への負担もないため2型糖尿病治療薬の創薬標的として有望です。
今回、熊本大学大学院生命科学研究部(薬学系)サイエンスファーム生体機能化学共同研究講座の立石大 客員准教授(平田機工株式会社 研究開発本部 遺伝資源研究開発部 研究開発グループ 主任)、博士後期課程3年の當眞嗣雅 大学院生、熊本大学病院糖尿病・代謝・内分泌内科の荒木栄一 名誉教授(菊池郡市医師会立病院 顧問、熊本保健科学大学 健康・スポーツ教育研究センター 特任教授)らの研究グループは、抗線維化*1薬として開発中である低分子化合物HPH-15が、AMPKの活性化を介した血糖降下作用に加えて脂質代謝改善作用を有していることを明らかにしました。脂肪蓄積は合併症のリスク因子であるため、脂肪と血糖値の減少効果を併せ持つHPH-15は画期的や薬剤になることが期待されます。
本研究成果は、令和6年9月9日に欧州の科学誌で糖尿病関係のトップジャーナルであるDiabetologiaにオンラインで発表されました。本研究は、日本学術振興会特別研究員事業、科学研究費助成事業、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)橋渡し研究プログラム、肥後銀行イノベーション応援プログラム、次世代ベンチャー創出支援事業化可能性調査委託事業の支援を受けて実施されました。
【展開】
本研究により、HPH-15がAMPK活性化による血糖降下作用だけでなく脂肪蓄積および脂肪組織の肥大化を抑制することが明らかになりました。組織への過剰な脂肪蓄積は、糖尿病合併症のリスク因子であるため、脂肪と血糖値の減少効果を併せ持つHPH-15は新規2型糖尿病治療薬として有用であることが期待されます。また2型糖尿病患者では組織の線維化が促進されることが知られており、臓器不全といった重篤な症状を呈します。HPH-15は肝臓と脂肪組織に対する抗線維化作用も有する点でメトホルミンと異なり、糖尿病に伴う肝硬変やNAFLD/NASH*5をはじめとする肝合併症にも有用な薬剤として期待されます。
【用語解説】
*1:線維化
皮膚や組織にコラーゲンなどの細胞外基質が過剰に沈着し、硬化する現象のことです。組織の線維化が進むと、組織が本来有している機能が損なわれてしまいます。
【論文情報】
論文名:An anti-fibrotic compound that ameliorates hyperglycaemia and fat accumulation in cell and HFD mouse models.
著者:當眞嗣雅1、宮川展和2、新垣唯一1、渡邊拓郎2、中原涼晴1、 Taha F.S. Ali1,3、Tanima Biswas1、戸高幹夫4、近藤龍也2、藤田美歌子1、大塚雅巳1,5、荒木栄一2,6,7*、立石大1,8*(*Corresponding authors)
1熊本大学大学院生命科学研究部(薬学系)サイエンスファーム生体機能化学共同研究講座、2熊本大学病院糖尿病・代謝・内分泌内科、3Minia大学薬学部医薬品化学講座、4とだか内科クリニック、5サイエンスファーム株式会社研究開発本部、6菊池郡市医師会立病院、7熊本保健科学大学健康・スポーツ教育研究センター、8Hirata Corporation, Research and Development Headquarters, Research and Development Department
掲載誌:Diabetologia
doi:10.1007/s00125-024-06260-y
URL:https://link.springer.com/article/10.1007/s00125-024-06260-y
▼プレスリリース全文はこちら
すべての画像