カーボンオフセット市場、適正ルールの適用で1兆ドルに達する可能性

投資家は信用度と気候変動への影響に懐疑的で様子見の姿勢を2022年にとっていたが、それでも長期的な需要の飛躍的成長が今後期待される:BNEF

ブルームバーグ エル・ピー

【ニューヨーク、ロンドン、2023年1月23日】ブルームバーグNEF(BNEF)の最新リサーチリポートである「カーボンオフセット長期見通し」によると、企業や個人の脱炭素化目標達成を支援するために発行され販売されるカーボンクレジットの総額は、早ければ2037年に1兆ドルに達する可能性があることがわかりました。しかし、二酸化炭素排出量1トン相当の認証付き排出権を取引する、いわゆるボランタリーのカーボン市場は、現状の設計では成功にはほど遠いと言わざるを得ません。より厳格な品質の定義と炭素除去へのさらなる注目により、市場の信頼性が強固になり、価格も上昇、結果的に需要を押し上げると当リポートは指摘しています。
BNEFは同リポートの中で、2022年にオフセット市場はメディアと投資家からの批判にさらされた影響で、成長できなかったと分析しています。質の低いクレジットを購入することによる風評被害へのリスク懸念から、企業による昨年のオフセット購入量はわずか1億5500万トンで、2021年比で4%の減少となりました。このようなクレジットの供給量は、世界中のプロジェクトの合計で2億5500万トンとなり、前年比2%増となりました。「森林減少の防止」クレジットの供給量は、2021年から2022年までに3分の1の減少となりました。中には環境への影響に疑念が残るプロジェクトからオフセットを購入した企業がいわゆるグリーンウォッシングで訴えられた例も見受けられました。

BNEFのサステナビリティ分析の部門長で、本リポートの筆頭執筆者であるカイル・ハリソンは、現在の基準に対し批判的な厳しい姿勢をとってきました。同氏は次のように述べています。「現在のオフセット市場は、主に安価なクレジットの相対取引に基づいており、墓穴を掘ってしまっているかもしれません。買い手企業は透明性、品質の明確な定義、優良売り手企業へのアクセスのしやすさを必要としています。このままでは将来的にも、2022年と変わらない年が続くでしょう。こういった変化は、脱炭素化の効果が最も高く、最も多くの投資を必要とするプロジェクトに需要喚起のシグナルを送ることになるでしょう」

BNEFでは、三つの考えられるシナリオにおいて、2050年までのカーボンオフセットの供給、需要、および価格をモデル化しました。全シナリオ下において需要増が見込まれますが、それぞれの増加率は大きく異なっています。同様に価格も劇的に異なったものとなっています。

一つ目のボランタリー市場シナリオでは、企業はネットゼロ目標を達成するためにあらゆるタイプにわたるカーボンオフセットのクレジットを購入でき、2050年には年間54億トンのオフセットが必要となります。市場は常に供給過剰であり、2050年には年間80億トンのオフセット(主に森林減少の防止)が供給されることになるでしょう。2030年の価格は1トン当たり12ドル、50年には1トン当たり35ドルに上昇し、企業は脱炭素化目標達成のために環境価値が疑わしいオフセットに頼ることになるでしょう。同シナリオでの2030年市場規模は年間150億ドルにとどまるものの、現在予想される市場規模20億ドルからの増加が見込まれています。

二つ目の炭素除去シナリオでは、実際に大気から炭素を除去したプロジェクトからのオフセットのみが考慮されることとなり、需給バランスはさらに逼迫するでしょう。そして森林減少の防止やクリーンエネルギープロジェクトによるクレジットは除外されることになります。一方、同シナリオでは、炭素を直接除去する技術、ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)の大規模な活用にはコストがかかるため、市場は2037年から一時的に供給不足になると考えられます。カーボンオフセット価格は1トン当たり250ドルを超えると予想され、年間市場規模は約1兆ドルに達すると思われます。

このような炭素除去のみのオフセット市場では、DACのような技術に投資が向かうため、コスト削減に貢献することになります。オフセットクレジットが高価であると、企業の中にはオフセットよりも影響力のある他の脱炭素化戦略に投資する必要に迫られるものも出てきます。高額なオフセット価格は、将来的に企業を市場から遠ざけてしまう懸念もあります。ネットゼロ達成までのコストが高すぎると、企業が目標自体を完全に放棄してしまうことも考えられます。

図1:ボランタリー市場および除去シナリオ下でのカーボンオフセット価格

出所:ブルームバーグNEF 注:図は、実際の価格ではなく予想価格を表示しています。

何を高品質のカーボンオフセットと定義するのかは、現在の差し迫った問題です。投資家、企業、非営利団体が、定量化の難しい永続性、追加性、脱炭素化以外の利点などの要素が品質の定義として含まれていることに対し、より理解を示し始めています。

BNEFの三つ目のシナリオは分岐シナリオです。当議論は市場を二つに区分けすることを想定しています。一つの市場は、規模が小さく流動性の低い高品質オフセット市場となります。具体的には技術ベースでの炭素除去や、アフリカ、北米、オセアニアにおける自然ベースのソリューションを用いたオフセットを含みます。高品質なオフセットの需要は、2030年にはわずか4億3300万トン、50年には13億トンとなる見込みとなっているものの、買い手は同じそれぞれの年に14億トンおよび32億トンと、当レポートの他のシナリオよりも限られたオフセットの供給に直面することになります。価格は、2039年に1トン当たり38ドルでピークに達し、2050年には1トン当たり32ドルまで下落すると予想されます。

図2: 分岐シナリオ下でのカーボンオフセット価格

出所:ブルームバーグNEF 注:図は、実際の価格ではなく予想価格を表示しています。

この分岐シナリオでもう一つの市場は、残りの低品質のオフセットを取引するものとなります。具体的には、発電およびアジアと中南米における自然ベースのソリューションを用いたオフセットを含みます。2025年では、需要増により1トンあたりの価格が12ドルと高品質クレジット市場よりも高価ですが、50年予想では22ドルにとどまります。このような低品質の市場を利用する企業は、オフセットを活用してネットゼロ目標を達成する可能性がありますが、現在よりもはるかに大きな風評リスクに対処する必要に迫られるでしょう。

分岐シナリオの結果は、何をもって高品質・低品質と定義するかで異なってくるでしょう。取引所、先物商品、技術提供者、またボランタリーカーボンマーケットの評議会(Voluntary Carbon Markets Integrity Initiative)などの民間主導のイニシアチブは、オフセットの購入を標準化、簡素化し、質の定義を明確にすべく、努力を重ねています。こうした取り組みが成果を挙げれば、標準化と品質の定義が市場の流動性を大幅に高め、企業や投資家がオフセット戦略を差別化できるようになるのです。しかし、同問題に別々に取り組む団体が非常に多いと、買い手が当初より混乱してしまう可能性があります。

ハリソンは、また次のようにも述べています。「標準化の達成は、カーボンオフセット市場にとっての宇宙競争と同じです。これらの問題を解決することで、市場は劇的な桁数で成長すると思われますが、ESG情報開示やサステナブルファイナンスなどの類似する分野でも見られるように、個別の競合するやり取りが同時に発生するリスクにさらされることになります。こうした連携のない個々のアプローチが続けば、私たちの試みは無駄になってしまうでしょう」

BNEFは、オフセット需給の実績データを月次で、長期見通しを年次で更新しています。

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未上場
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設立
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