【提言】信頼ある生成AIの利活用に向けて
生成AIの信頼性確保で21兆円の付加価値を創出
1. 背景
ビジネスにおける生成AI利活用への期待が高まっています。労働力不足が顕在化する中で、多くの企業は生成AIを業務に活用して労働者の生産性を向上させることに高い関心を示しています。しかし、実際のビジネス現場における生成AIの利活用は依然として限定的です。
今回、MRIでは、生成AIにおける信頼性の問題に着目し、ビジネスにおける信頼性へのニーズや効果を、定量モデルを用いて分析しました。そして、生成AIの信頼性の確保を通じて利活用を推進するための具体的な方策や、日本の産業競争力を高める方策について提言します。
2. 本提言の概要
ビジネスで生成AIの利活用を進めるためには、その阻害要因を特定し、解消する必要があります。MRIが国内5産業(製造業、情報通信業、卸売・小売業、医療・福祉業、教育・学習支援業)に勤める社会人約1万人を対象に実施したアンケートによると、業務での生成AIの活用意向が50%を超えるのに対し、実際の活用率は14.6%にとどまっていました。主な阻害要因は、企業内での「利用環境の未整備」と、「信頼性(正確性、安全性、セキュリティ、アカウンタビリティなど)に対する懸念」で、特に、信頼性を懸念すると回答した人は60%を超えていました。今後は社内ルールや支援体制など利用環境を整える企業が増加していく中で、信頼性の問題が最大のハードルになると想定されます。
生成AIの活用にあたって懸念する事項(信頼性に関連する項目)
注:複数回答のアンケート調査項目
三菱総合研究所作成 「生成AIの信頼に関するアンケート調査」(2024年6月)
MRIでは、独自の付加価値試算モデルを構築し、生成AIの信頼性を確保することによる付加価値(生産性の向上効果に相当)を推計しました。その結果、利用環境の整備に加えて信頼性の確保を進めることで、5つの産業で約21兆円の付加価値が得られることがわかりました。特に注目すべき点として、信頼性の構成要素である「正確性」を担保することで、約6兆円の増分効果が期待できます。また、正確性を高めることで、生成AIの活用レベルを「壁打ち相手や下作業に使う」レベルから「業務を生成AIに任せて人間は監督だけする」レベルへ引き上げられる可能性が高いことも判明しました。
生成AIの活用による5産業全体の付加価値創出
三菱総合研究所作成 「生成AIの信頼に関するアンケート調査」(2024年6月)
生成AIの信頼性確保で期待される約21兆円の付加価値を実際に享受するためには、技術開発などを通じて生成AIの信頼性を高めるだけでなく、その信頼性を可視化し評価する仕組みが必要です。生成AIの提供者自身による第一者評価だけでなく、利用企業による第二者評価、認証機関等による第三者評価や認証の仕組みを整えることが求められます。実効性を高めるためには、認証取得等への対応が規模の小さな企業にとって過度な負担とならないように配慮することが重要です。
さらに、本提言で検討した信頼性確保の対応や「【提言】生成AIの普及が与える日本の電力需要への影響」(https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/policy/20240828_1.html)で検討した電力制約への対応を日本の産業競争力につなげる、3つの取り組みを提言します。
提言1: 海外大型AIを活用しつつ応用産業で稼ぐ(「稼げる小作人」に)
提言2: 国産の省エネ・高信頼AIを育てる
提言3: 適切な生成AI利用を促す環境を整備する
詳細はレポート本文をご参照ください。
→ https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/policy/i5inlu000000nr2f-att/nr20240828pec-2.pdf
3. 今後の予定
今後、生成AIの業務利用を検討する企業がますます増えていく中で、MRIは生成AIサービスの信頼性を高めるための取り組みや、その可視化と評価の仕組み作り、日本の産業競争力の強化策などについて、分析や提言を行います。
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