朝食の欠食が糖尿病の血管硬化に悪影響を与えることを明らかに
~動脈硬化予防のための朝食の重要性~
順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学の三田 智也准教授、綿田 裕孝教授らの研究グループは、朝食の欠食が2型糖尿病における血管硬化に悪影響を与えることを明らかにしました。今回、生活習慣が血管の硬化に与える影響を明らかにすることを目的に、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベント*1の既往のない患者さんを対象に様々な生活習慣と血管硬化との関連性を調査しました。その結果、朝食の回数が少ないほど血管の硬化が続くことがわかりました。これらの結果は、2型糖尿病患者さんにおいて朝食をしっかり摂ることが血管硬化の抑制に繋がることを示唆しています。本研究成果は、英国の医学専門誌「BMJ open Diabetes Research& Care」に掲載されました。
【本研究成果のポイント】
【背景】
糖尿病は心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベントの発症を増加させます。従って、糖尿病の治療では、血管の硬化を予防し、硬化がさらに進まないように維持することは重要な課題です。これまでの報告では、2型糖尿病患者さんでは高齢であること、血糖のコントロールが悪いこと、糖尿病の罹病期間が長いこと、血圧が高いことなどが血管の硬化を進める危険因子であることが報告されております。しかしながら、2型糖尿病患者さんにおける生活習慣と血管の硬化の関連性は十分に明らかになっていませんでした。そこで、今回、生活習慣が血管の硬化に与える影響を明らかにすることを目的に、心血管イベントの既往のない2型糖尿病患者さんを対象に様々な生活習慣と血管硬化の指標であるbaPWV(brachial-ankle pulse wave velocity)*2の関連性を調査しました。
【内容】
本研究では、順天堂医院等の外来に通院中の心血管イベントの既往のない2型糖尿病患者さん736名を対象に質問紙などを使用して生活習慣を調査し、研究開始時、2年後、5年後にそれぞれbaPWVを測定することで、生活習慣と動脈硬化との関連性を解析しました。生活習慣に関しては、朝型あるいは夜型などの生活パターン、睡眠時間、睡眠の質、うつ状態、食事のカロリー、身体活動量、飲酒量、喫煙の有無、朝食の欠食や夕食の時間などを調査項目としました。
その結果、朝食の欠食回数が多い人は毎日朝食を摂る人に比べ、baPWVの値(血管の硬さの指標)が5年に渡って高く出続けることを発見しました。さらに、年齢、性別、血糖コントロールや血圧などオーソドックスな動脈硬化の因子を調整しても、朝食の欠食回数は、baPWVの持続高値に関連していました。さらに、1週間の朝食の回数によりグループに分けて、各群の特徴を比較をしたところ、朝食の回数が4回未満のグループの患者さんでは、夜型の生活パターン、睡眠の質が不良、うつ傾向、アルコールの摂取量が多い、夕食時間が遅い、中食や外食の頻度が多いなど他の悪い生活習慣が集積しておりました。そのような患者さんでは、5年に渡り、BMIが高い、HDL(善玉コレステロール)が低いそして尿酸値が高く、さらに、baPWVが高値であることが明らかになりました(図1)。
以上より、朝食の欠食そのものが動脈の硬化に悪影響を与えることが明らかになりました。
【今後の展開】
今回、朝食の欠食が2型糖尿病患者さんの血管の硬化に悪影響を与えることを明らかにしました。血管の硬化が進行し、心血管イベントを起こしてしまうと、患者さんの寿命が短くなる、あるいは生活の質が大きく損なわれることもあり、経済的な負担も増加してしまいます。心血管イベント発症の予防策として、朝食をしっかり摂ることが重要です。日本の健常人を対象としたコホート調査では、朝食の欠食が脳卒中の増加に関連することが報告されていますが、本研究では、心血管イベントのリスクが高い2型糖尿病患者さんにおいて朝食の欠食が血管の硬化をさらに促進させる可能性があることを示しました。今後は、血管イベントを引き起こす生活習慣を明らかにしたいと考えております。さらに、その生活習慣を改善させることが、動脈硬化や心血管イベントの抑制に繋がるかを検証する予定です。
【用語解説】
*1 心血管イベント:心血管イベントとは、心筋梗塞や脳梗塞などに代表される心血管系の病気のことです。糖尿病患者さんではこのような心血管イベントによる死亡が多いため、心血管イベントの発症を回避することは糖尿病治療において重大な課題です。
*2 baPWV (brachial-ankle pulse wave velocity) 上腕-足首脈波伝播速度:心臓からの血液が押し出される際に生じる動脈の脈動が末梢へと伝播する波が脈波であり、血管が硬いほど速く伝わるという原理を利用して、血管の硬化を簡便に検査できるのが脈波伝播検査です。両上腕、両足首に血圧測定カフ(腕帯)を巻いて、血管を流れる血液の脈動の速さ測定します。
【原著論文】
本研究はBMJ open Diabetes Research& Care誌のオンライン版で(2020年2月24日付)公開されました。
タイトル: Breakfast skipping is associated with persistently increased arterial stiffness in patients with type 2 diabetes
タイトル(日本語訳): 2型糖尿病患者において朝食の欠食は持続的な血管硬化に関連する
著者: Tomoya Mita 1), Yusuke Osonoi 1), Takeshi Osonoi 2), Miyoko Saito 2), Shiho Nakayama 1), Yuki Someya 1), Hidenori Ishida 2), Masahiko Gosho 3), and Hirotaka Watada 1)
著者:三田 智也1)、遅野井 雄介1)、遅野井 健2)、斎藤 三代子2) 中山 志保1)、染谷 由希1)、石田 英則2)、五所 正彦3)、綿田 裕孝1)
著者所属:1)順天堂大学 2)那珂記念クリニック 3)筑波大学
DOI: 10.1136/bmjdrc-2019-001162
本研究は、鈴木謙三医科学応用財団からの研究助成を受けて行われました。
なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。
- 2型糖尿病患者における様々な生活習慣と血管硬化との関連性をコホート研究で調査
- 朝食の欠食が多いと血管の硬化が続くことを明らかに
- 朝食を欠かさず摂ることが動脈硬化を抑制する可能性
【背景】
糖尿病は心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベントの発症を増加させます。従って、糖尿病の治療では、血管の硬化を予防し、硬化がさらに進まないように維持することは重要な課題です。これまでの報告では、2型糖尿病患者さんでは高齢であること、血糖のコントロールが悪いこと、糖尿病の罹病期間が長いこと、血圧が高いことなどが血管の硬化を進める危険因子であることが報告されております。しかしながら、2型糖尿病患者さんにおける生活習慣と血管の硬化の関連性は十分に明らかになっていませんでした。そこで、今回、生活習慣が血管の硬化に与える影響を明らかにすることを目的に、心血管イベントの既往のない2型糖尿病患者さんを対象に様々な生活習慣と血管硬化の指標であるbaPWV(brachial-ankle pulse wave velocity)*2の関連性を調査しました。
【内容】
本研究では、順天堂医院等の外来に通院中の心血管イベントの既往のない2型糖尿病患者さん736名を対象に質問紙などを使用して生活習慣を調査し、研究開始時、2年後、5年後にそれぞれbaPWVを測定することで、生活習慣と動脈硬化との関連性を解析しました。生活習慣に関しては、朝型あるいは夜型などの生活パターン、睡眠時間、睡眠の質、うつ状態、食事のカロリー、身体活動量、飲酒量、喫煙の有無、朝食の欠食や夕食の時間などを調査項目としました。
その結果、朝食の欠食回数が多い人は毎日朝食を摂る人に比べ、baPWVの値(血管の硬さの指標)が5年に渡って高く出続けることを発見しました。さらに、年齢、性別、血糖コントロールや血圧などオーソドックスな動脈硬化の因子を調整しても、朝食の欠食回数は、baPWVの持続高値に関連していました。さらに、1週間の朝食の回数によりグループに分けて、各群の特徴を比較をしたところ、朝食の回数が4回未満のグループの患者さんでは、夜型の生活パターン、睡眠の質が不良、うつ傾向、アルコールの摂取量が多い、夕食時間が遅い、中食や外食の頻度が多いなど他の悪い生活習慣が集積しておりました。そのような患者さんでは、5年に渡り、BMIが高い、HDL(善玉コレステロール)が低いそして尿酸値が高く、さらに、baPWVが高値であることが明らかになりました(図1)。
このことから、朝食の欠食が多い患者さんでは、他の悪い生活習慣や動脈硬化の危険因子(BMI高値、HDL低値や尿酸高値)が集積することが、血管の硬化に影響した可能性がありますが、さらに詳細な解析を進めたところ、これらの因子とは独立して、朝食の欠食が多い患者さんでは血管の硬化が続くことが明らかになりました。
以上より、朝食の欠食そのものが動脈の硬化に悪影響を与えることが明らかになりました。
【今後の展開】
今回、朝食の欠食が2型糖尿病患者さんの血管の硬化に悪影響を与えることを明らかにしました。血管の硬化が進行し、心血管イベントを起こしてしまうと、患者さんの寿命が短くなる、あるいは生活の質が大きく損なわれることもあり、経済的な負担も増加してしまいます。心血管イベント発症の予防策として、朝食をしっかり摂ることが重要です。日本の健常人を対象としたコホート調査では、朝食の欠食が脳卒中の増加に関連することが報告されていますが、本研究では、心血管イベントのリスクが高い2型糖尿病患者さんにおいて朝食の欠食が血管の硬化をさらに促進させる可能性があることを示しました。今後は、血管イベントを引き起こす生活習慣を明らかにしたいと考えております。さらに、その生活習慣を改善させることが、動脈硬化や心血管イベントの抑制に繋がるかを検証する予定です。
【用語解説】
*1 心血管イベント:心血管イベントとは、心筋梗塞や脳梗塞などに代表される心血管系の病気のことです。糖尿病患者さんではこのような心血管イベントによる死亡が多いため、心血管イベントの発症を回避することは糖尿病治療において重大な課題です。
*2 baPWV (brachial-ankle pulse wave velocity) 上腕-足首脈波伝播速度:心臓からの血液が押し出される際に生じる動脈の脈動が末梢へと伝播する波が脈波であり、血管が硬いほど速く伝わるという原理を利用して、血管の硬化を簡便に検査できるのが脈波伝播検査です。両上腕、両足首に血圧測定カフ(腕帯)を巻いて、血管を流れる血液の脈動の速さ測定します。
【原著論文】
本研究はBMJ open Diabetes Research& Care誌のオンライン版で(2020年2月24日付)公開されました。
タイトル: Breakfast skipping is associated with persistently increased arterial stiffness in patients with type 2 diabetes
タイトル(日本語訳): 2型糖尿病患者において朝食の欠食は持続的な血管硬化に関連する
著者: Tomoya Mita 1), Yusuke Osonoi 1), Takeshi Osonoi 2), Miyoko Saito 2), Shiho Nakayama 1), Yuki Someya 1), Hidenori Ishida 2), Masahiko Gosho 3), and Hirotaka Watada 1)
著者:三田 智也1)、遅野井 雄介1)、遅野井 健2)、斎藤 三代子2) 中山 志保1)、染谷 由希1)、石田 英則2)、五所 正彦3)、綿田 裕孝1)
著者所属:1)順天堂大学 2)那珂記念クリニック 3)筑波大学
DOI: 10.1136/bmjdrc-2019-001162
本研究は、鈴木謙三医科学応用財団からの研究助成を受けて行われました。
なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。
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