「昭和基地利用プログラム」に採択され、南極での技術研究・建築構法開発を開始
ミサワホーム総合研究所と国立極地研究所の産学連携による共同研究
○ 将来の南極観測を支えうる新たな技術や、極限環境へも適用可能な技術の開発を目指す
○ 南極地域観測隊の居住空間の展開やオフグリッド化に向けた研究により自立型災害対策拠点ユニットの構築に寄与
○ 短工期で建設可能な中層木造構法の開発により、国内建築業界の労働人口減少に関する課題解決に寄与
ミサワホームグループのシンクタンクである株式会社ミサワホーム総合研究所(代表取締役社⻑ 千原勝幸)は、大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立極地研究所(所⻑ 野木義史、以下「極地研」)が実施する、「昭和基地利用プログラム」において、「内陸基地における『モジュールの簡易連結技術開発』および『自然エネルギー利用の効果測定』」、「『日本国内での仮組立』と『昭和基地での組立』の工事進捗比較による専門職でなくても組立が可能な建築構法の開発」の2点を提案し、採択されました。研究開発は南極・昭和基地にて2024年12月から2027年3月まで実施します。
「昭和基地利用プログラム」とは、将来の南極観測を支えうる新たな技術開発や極限環境へも適用可能な技術の開発等を積極的に支援することを目的として、極地研が南極・昭和基地等のプラットホームを民間事業者の研究開発のために開放するプログラムです。今回の提案では、内陸基地における居住空間の展開やオフグリッド化に向けた研究を通じて、災害直後でも対応できる自立型災害対策拠点ユニットの構築を目指すとともに、専門職が限られた昭和基地における短工期建設を実現する構法の検討により、職人不足が深刻な国内の建築業界にもフィードバックできることが評価され採択されました。
ミサワホームはこれまで南極・昭和基地での建物建設のサポートを通して、南極地域観測隊の安全・安⼼の確保および観測活動への貢献を進めてきました。今回の研究・開発においても、これまで培ってきたノウハウを最大限にいかし、未来を見据えた技術開発に取り組んでいきます。
■南極におけるミサワホームの取り組み
ミサワホームは1968年に受注した第10居住棟以降、南極地域観測隊員の観測活動や⽣活を支える建物を提供。その数は累計36棟、延床面積約5900㎡におよび、現在建設が進められている夏期隊員宿舎で37棟目となります。1975年からは南極地域観測隊に社員を派遣し建設のサポートもおこなってまいりました。2025年1月現在、延べ29名の社員を南極地域観測隊に派遣して、隊員のなかでは数少ない建築のプロとして建設に携わってきました。2019年にはミサワホームグループと極地研・JAXAが連携し、持続可能な住宅システムの構築を目指して「南極移動基地ユニット」による実証実験を実施。現在「南極移動基地ユニット」はドームふじ観測拠点Ⅱ周辺で食事やミーティングを行う居住空間として活用されています。この「南極移動基地ユニット」を皮切りに、内陸観測用の移動式建物として2台の作業用モジュールを受注し納品、現在は寝室や観測室に使用されています。
■採択された内容
〈1〉 内陸基地における「モジュールの簡易連結技術開発」および「自然エネルギー利用の効果測定」
1. 背景
近年、災害の激甚化・頻発化により、トレーラーハウスの活用が注目されています。トレーラーハウスを有機的かつ機能的に連結させることにより、災害時の重要な現場拠点を迅速に提供することが可能です。そして設置場所の環境に依存しない、電力の自給自足ができるインフラフリーの自立的運用が重視されています。一方、地盤面が氷床である南極内陸では建物の建設が困難であり、そりに乗せて移動することができるモジュール※1が使用されています。さらに未来の南極内陸基地構想では可動基地や連結するコンテナラボを想定し、再⽣可能エネルギーの利用による燃料消費量の削減が求められています。
2. 研究開発内容
① 作業用モジュール1と作業用モジュール2の並列連結・L型連結および簡易分離を実施
② 3種のモジュールの温湿度測定等により、自然エネルギー利用の効果測定を実施
3. 今後の展望
内陸作業用モジュールの簡易連結および分離により、モジュール機能の変更、拡張、縮小が、容易かつ柔軟に行える技術開発を目指すとともに、内陸基地における「設置環境」「自然エネルギー利用方法」「断熱仕様」が異なる3種のモジュールの効果測定・分析から、内陸基地の最適仕様を確立することによって、将来的には、「移動」「可変(拡張・縮小)」「オフグリッド」からなる空間技術の提供を目指します。これにより、平常時は複合的で快適な居住空間を提供し、設置場所のインフラ設備に左右されない自由な空間設置が可能となり、災害時は臨時インフラとしての空間備蓄を可能とすることが期待されます。
〈2〉「日本国内での仮組立」 と 「昭和基地での組立」 の工事進捗比較による専門職でなくても組立が可能な建築構法の開発
1. 背景
近年、木造住宅の担い手である大工就業者数の減少および高齢化が顕著です。総務省の国勢調査によると2000年から2020年の20年間に大工就業者数は半減し、60歳以上は43%を占めています。週休2日制や時間外労働の上限規制等の対応から、労働力不足はさらに加速すると考えられます。こうした状況のなかで、専門職以外でも建設工事が可能な「簡易施工」が求められています。くわえて、建築物の木材利用は、製造時のCO₂排出量削減や建築物への炭素貯蔵といった効果があり、カーボンニュートラルに貢献できることから、民間建築物を含む中大規模建築物の木造化が促進されています。未来の南極内陸基地構想では、昭和基地において現在約60棟に分散する基地施設は、10棟程度に集約・大型化することが想定されています。
2. 研究開発内容
夏期隊員宿舎の「日本国内での仮組立」と「昭和基地での組立」の工事進捗を比較・分析し、昭和基地の施工条件・気象条件でも国内と同様の工事進捗が可能な建築構法を確立する。
昭和基地の建築物は、施工可能性および建設工程の確認のために事前に国内で仮組立・検証を行い、解体作業を経て昭和基地に納品され、再度組立を行います。このように、同じ建物を異なる施工条件・気象条件で建設する特殊な方法を活用して研究・開発を実施します。
3. 今後の展望
専門職が限られた昭和基地において、短工期で建設可能な中層木造構法の開発は、国内における労働力不足や木材利用促進による脱炭素社会の実現にも寄与すると考えています。
※1 南極における移動式建物の総称
※2 南極移動基地ユニットにおける自然エネルギー利用の効果測定は、極地研・JAXAとの共同研究の追加調査において、ドームふじで測定した温湿度データの分析を実施します
※3 住宅の断熱性能を表す「外皮熱貫流率」のこと
■ドームふじ観測拠点Ⅱ(南極内陸)と昭和基地
昭和基地利用プログラムについて
極地研HP:https://www.nipr.ac.jp/antarctic/partnership/program.html
関連ニュースリリース
JAXA、極地研、ミサワホーム及びミサワホーム総合研究所の連携による「南極移動基地ユニット」の実証実験の実施について(2019年8月26日)
https://www.misawa.co.jp/corporate/news_release/2019/0826/release.pdf
*この件に関する問い合わせ先*
ミサワホーム㈱ 管理本部 広報・渉外部 コーポレートコミュニケーション課 阿部正成 織田島南
TEL:03-3349-8088/FAX:03-5381-7838/E-mail:koho@home.misawa.co.jp
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