「家」でのケアを担う語り手たちと観客が電話でつながる──東京・八重洲に立ち上がる仮設劇場
アートワーカー(企画者)向けプログラム「CRAWL」選出企画 サテライト・コール・シアター

「CRAWL」は、株式会社リクルートホールディングスが運営するアートセンターBUGが行っているアートワーカー(企画者)向けのためプログラムです。
企画書をコミュニケーションツールとして、メンターとの壁打ちや参加者同士のネットワーク構築などアートワーカーの機会と場をつなぎ、未来へつづくつながりを形成していくことを目的としています。
2025年7月4日より「CRAWL」にて選出された竹中香子による「サテライト・コール・シアター」が開催されます。
「サテライト・コール・シアター」は、都市に仮設された擬似的な劇場で、そこには、コールセンターの舞台セットがあり、「家でのケア」に関する物語が上演されます。
「家」でのケアに従事する「ホーム・ケアリスト」たちは、約3ヶ月間、「ナラティブパートナー」との対話を重ね、自身のケアの物語を執筆してきました。
会期中、会場=コールセンターには、ホーム・ケアリストそれぞれの「家」から電話がかかり、様々なモノローグが交差する「サテライト・コール・シアター」が立ち現れます。ケアという行為に不確実性が満ちているように、電話がいつかかってくるかはわかりません。電話が鳴ったら、コールセンターの臨時職員として ホーム・ケアリストの「物語」や「見えない痛み」の声=台詞に耳を傾けてください。
長い時間電話がかかってこないこともありますが、それまでは会場にてゆっくりとお過ごしいただけます。
※滞在推奨時間:60分
●ホーム・ケアリスト
「家」でのケアに従事している方々を意味する「ホーム・ケアリスト」という新たな言葉を提案します。家でのケアには、それぞれの家の独自のルールと専門性があります。社会ではなかなか垣間見ることができない、家でのケアのスペシャリストとして、全国から個々の物語を紡いでいただきます。
●ナラティブパートナー
ホーム・ケアリストたちのテキスト執筆過程に「傾聴」と「対話」を通して寄り添う「伴走者」です。様々な現場で「他者を想像する」プロフェッショナルの方々が、ホーム・ケアリストたちの自発的な創作をサポートします。
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作品のみどころ(企画・演出:竹中香子)
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1.〈フィクションのインフラ〉としての劇場空間
「サテライト・コール・シアター」は、“聞き逃されてきた声”を受け取るための装置としての「劇場」です。劇場とは、決して完成された上演を観るための“箱”ではなく、誰もが一時的に“役”を引き受け、他者と関係を築くことが許される〈フィクションのインフラ〉です。そのフィクションの中でこそ、人は現実を演じなおすことができるのかもしれません。
古代ギリシャのディオニシオス祭では、普段語ることのできなかった感情や思想が、演劇というかたちで公に発せられることが許されていました。政治や社会に直接声を届けられない立場にあっても、台詞(フィクション)というかたちを借りれば、「あーだこーだ」と言えてしまう──その仕組みこそが、演劇の始まりだったとも言われています。
フィクションという担保・言い訳のもと、言えてしまう本当の気持ちがある。「劇場」という場が、行き場を失い彷徨っている物語を受けとることで、東京がスマート・シティからケアリング・シティ*に生まれ変わることを願って。
*ケアを社会の中心に据え、人と人の支え合いを大切にする都市のあり方。目に見えにくいケアの営みに光をあて、すべての人の尊厳と暮らしやすさを支える新しい都市モデルです。
2. 独自のルールと創造性に満ちた、「家」でのケアの現場に光をあてる
本企画で語られるのは、「家」でのケアにまつわる物語です。私は、子育てや介護など「家」でのケアに従事する人々の実践が、あまりにも専門的で、そして驚くほどクリエイティブであると感じていました。その思いから、彼らとともに作品をつくりたいと考え、全国から公募を行いました。
このプロジェクトに参加する12名の語り手を、私たちは〈ホーム・ケアリスト〉と呼んでいます。この名称は、家庭内でのケアを担う人々の専門性と重要性を再評価し、社会の中で尊重されるべき仕事であることを示すために選びました。
制度化されたケアとは異なり、その家、その人、その関係ごとに生まれる独自の工夫と選択。誰かのマニュアルには書かれていないけれど、そこには現場でしか得られない知識と、状況に応じて編み出された想像力が息づいています。
しかしその一方で、家でのケアは、社会的に“当たり前”とされ、特別視も評価もされにくいのが現実です。そして何より、ケアリスト本人たちでさえ、それを「当然のこと」として引き受けてきた背景があります。
そうした静かな営みに光をあて、その複雑さや創造性を「語ること」「聴くこと」を通じて社会に開いていく試みです。
3. “創作”の再定義としての対話と協働
本企画は、演出家が単独で「つくる」作品ではありません。12名のホーム・ケアリストと5名のナラティブパートナーが、対話と関係を育みながら、共に立ち上げていきます。ナラティブパートナーは、語り手の物語を“引き出す”のではなく、迷いや揺れとともに隣に「いる」存在。協働することで、ケアリストたちは、ひとりでは気づけなかった思いや、知らなかった自分に出会ったかもしれません。自分という存在が、球体ではなく、多面体であると気づく時間。そしてこの営みそのものが、ケアする人にとっての“ケア”にもなったのではないか。
今回、何より大切にしたのは、創作を担保にして、誰かの現実がそっと動き出す余白をひらくことでした。私たちにとって、このプロジェクトが成果として評価されること以上に、関わった人たちがこの創作に参加してよかったと思えることの方が、ずっと大切です。
最終的に生まれるのは、完成された「成果物」ではなく、創作そのものが「ケアすること/されること」と重ねながら進めていく芸術のかたち——誰かと関わり、耳を傾け、想像しようとした痕跡の集積かもしれません。
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企画者プロフィール
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竹中香子 / Kyoko TAKENAKA
一般社団法人ハイドロブラスト プロデューサー・俳優・演劇教育
201年に渡仏。日本人としてはじめてフランスの国立高等演劇学校の俳優セクションに合格し、2016年、フランス俳優国家資格を取得。パリを拠点に、フランス国公立劇場を中心に多数の舞台に出演。俳優活動のほか、創作現場におけるハラスメント問題に関するレクチャーやWSを行う。2021年、フランス演劇教育者国家資格を取得。2021年以降、太田信吾監督作品すべての映画プロデュースを行う。2024年初戯曲を執筆し、『ケアと演技』を上演。「演技を、自己表現のためでなく、他者を想像するためのツールとして扱うこと」をモットーに、アートプロジェクトを企画している。
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サテライト・コール・シアターのセノグラフィー*について(セノグラファー:中村友美)
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BUGの中に劇場空間を構築し、そこに舞台セットとしての「コールセンター」という状況が設定されています。カフェエリアとも繋がる本会場では、仕事をしたりお茶をする場としても利用できます。
その中で作品にハプニング的に出会い、現実とフィクションが絶妙に混ざり合う体験をすることができます。
この場所はケアのターミナルであり、様々な人が行き交う交差点です。他者の生の「声」が響き合うこのシアトリカル(演劇的)な時間と空間は、毎日少しずつ変化していきます。
*セノグラフィー(Scenography)の語源は「場面(Scene)」+「記述・表現(Graphy)」を組み合わせたものです。単なる装飾ではなく、人と環境の関係性を視覚的かつ感覚的に捉え、創造的に表現することを目指す考え方です。
■コンセプト図

■空間イメージ図

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セノグラファー
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中村友美 / Tomomi NAKAMURA
新潟県柏崎市出身。舞台美術家/セノグラファー。一児母。舞台・ダンス・オペラ作品中心に近年では音楽イベントや展示の空間の設計・デザインも行う。BUGでは2024年「キャラクター・マトリクス」の空間設計を担当。舞台芸術の子育てと仕事の両立を考える団体『プラットフォームデザインlab』代表。女子美術大学非常勤講師。
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クレジット
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ホーム・ケアリスト:全国から公募した「家」でのケアに従事する方々
ナラティブ・パートナー:うちはし華英(文筆家)、佐々木将史(編集者)、田村かのこ(アートトランスレーター)、萩原雄太(演出家)、南野詩恵(劇作家・演出家・衣裳作家)
制作:佐藤瞳
プロデュース相談:武田知也(一般社団法人ベンチ)
演出相談:太田信吾(一般社団法人ハイドロブラスト)
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関連イベント
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「コミュニケーションデザイン実践ワークショップ〜安心と挑戦を両立させる場づくりの練習〜」
2025年7月5日(土)18:00-20:00(予定)
講師:田村かのこ(アートトランスレーター)
トークイベント 「“いまだ語られなかった物語”を聴く 〜ナラティブ・アプローチって何?〜」
2025年7月11日(金)19:00-20:30(予定)
登壇:野口裕二(東京学芸大学名誉教授) 聞き手:竹中香子(本展企画者)
「ホーム・ケアリストたちの話に耳を傾け続けた5名のナラティブパートナーによる座談会 〜聞くこと/聴くこと/訊くこと、そして、誰かを想像すること。〜」
2025年7月15日(火)19:30-21:30(予定)
登壇:うちはし華英、佐々木将史、田村かのこ、萩原雄太、 南野詩恵
現在決定している上記以外にも、順次イベントを追加する予定です。詳細は決まり次第、ウェブサイトやSNSでご案内します。
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開催概要
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<タイトル> アートワーカー(企画者)向けプログラム「CRAWL」選出企画
サテライト・コール・シアター
<会期>2025年7月4日(金)〜 7月21日(月・祝)
<開館時間> 11:00〜19:00 火曜休館 入場無料
<主催> BUG
BUG
〒100-6601 東京都千代田区丸の内1-9-2 グラントウキョウサウスタワー1F
Gran Tokyo SOUTH TOWER 1F, 1-9-2, Marunouchi, Chiyoda-ku, Tokyo
交通アクセス
JR東京駅八重洲南口から徒歩3分
東京メトロ京橋駅8番出口から徒歩5分
東京メトロ銀座一丁目駅1番出口から徒歩7分
※BUGには専用駐車場はありません。ご来館には公共交通機関をご利用ください。
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【本件に関するお問い合わせ先】
https://recruit-holdings.co.jp/support/form/
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