ブルームバーグNEFによる「長期エネルギー見通し(NEO):2024」 現行の技術を早急に導入すれば世界のネットゼロ実現が近づく可能性
• BNEFの最新版の「ネットゼロ・シナリオ」は、地球温暖化による気温上昇を摂氏2度より十分下方に抑えるという世界的な目標の道筋に沿ったものですが、達成が可能となる期限が迫りつつあります
• 当リポートでは、ネットゼロ移行への鍵となる9種類の技術と、どの技術を早急に取り組めば排出量削減により役立つのかを明らかにしています
• 当リポートのベースケース「経済移行シナリオ」では、コスト競争力の高い成熟した技術を活用することで、新たな措置が全く講じられない場合と比べると、2050年までに世界の排出量が半減できることを示しています
• グローバル分析では12カ国9地域の詳細なモデル分析を網羅し、気候変動の取り組みがネットゼロ・シナリオに整合している国を特定しています
• BNEFのネットゼロ・シナリオの実現に必要な投資額は、ベースラインの経済移行シナリオの実現に必要な投資額よりもわずか19%高い結果となっています
【ロンドン、2024年5月21日】 - パリ協定の目標年が迫りつつありますが、ブルームバーグのリサーチ部門、ブルームバーグNEFが本日発表した「長期エネルギー見通し(NEO):2024」では、パリ協定の要となる世界目標、すなわち「地球温暖化による気温上昇を摂氏2度より十分下方に抑え、気候変動がもたらす最悪の影響を回避すること」の達成方法と、そのための必要事項を提示しています。今回のリポートには、クリーン技術と電力部門の脱炭素化の加速が極めて重要となることを記載しています。
「長期エネルギー見通し(NEO):2024」では、2種類の気候変動シナリオ(「ネットゼロ・シナリオ」、およびベースケースとする「経済移行シナリオ」)における最新の分析を掲載しています。これらのシナリオは、政策決定、各国の気候変動対策への取り組み、企業や金融機関の低炭素移行戦略に活用されることを目指して設計されています。
図1:エネルギー源排出量とネットゼロのカーボンバジェット:BNEFの経済移行シナリオとネットゼロ・シナリオ
出所:ブルームバーグNEF
ネットゼロ・シナリオでは、地球温暖化による気温上昇を摂氏1.75度に抑えられる可能性が67%となっています。当シナリオでは、石油、ガス、および石炭の需要が間もなくピークに達し、2025年から急激に減少します。電力、交通、産業、および建物の各部門の移行は、部門ごとで脱炭素化に利用できる技術によってそれぞれ異なる速度で進みますが、どのセクターも排出量が急激な減少していきます。短期間でこのような変化を起こすのに不可欠なのは、2030年までにクリーンエネルギー技術が急速に拡大すること、特に再生可能エネルギーが2030年までに3倍に増大すること、電気自動車(EV)の普及が加速し内燃機関車の販売が2034年までに段階的に終了すること、そして蓄電池と原子力発電に加えて二酸化炭素回収技術が大幅に進展することです。
BNEF経済性・モデル試算部門統括で同調査リポートの執筆責任者、デイビッド・ホスタートの見解は次の通り:「地球温暖化を摂氏2度より十分下方に抑えるための道筋は、ますます狭くなってきています。BNEFのグローバルシナリオを前回更新した18カ月前以降、エネルギー移行は確実に加速しているものの、まだ十分ではありません。当リポートがその警鐘の役割を果たすことを期待しています。2050年までのネットゼロ達成の可能性を信じ続けるのであれば、排出量の急削減を5年後に実現するのではなく、今からすぐに取りかからないと手遅れになってしまいます」
図2:ネットゼロ・シナリオと非移行シナリオを比較: 技術別による、化石燃料燃焼に伴う二酸化炭素排出量の削減
出所:ブルームバーグNEF。注:「移行なし」のシナリオは、脱炭素やエネルギー効率において現状以上の措置が全く講じられないという、事実と異なる仮想的な世界を表しています。電力および交通部門では、燃料構成が2023年(海上交通は2027年)から変更がないことを想定しています。他のすべての部門については、ネットゼロ・シナリオ(NZS)ではないものは、経済移行シナリオ(ETS)です。「クリーンエネルギー」には、再生可能エネルギーと原子力が含まれています。二酸化炭素回収・貯留(CCS)、水素、バイオエネルギーは「クリーンエネルギー」ではなく、それぞれの個別のカテゴリーに割り当てられています。「エネルギー効率」には、需要側の効率向上と、産業部門におけるリサイクルの拡大が含まれます。
脱炭素に向けた対策が全く講じられないことを想定した「移行なし」のシナリオと比較すると、電力部門での移行による排出量削減量は、現在から2050年までの間に削減すべき総排出量のほぼ半分を占めています。交通、建物、産業などの最終消費部門の電化は次に多く、全体の約25%を占めています。内訳の残り25%を占めるソリューションは、海上交通と航空分野におけるバイオ燃料の使用、産業と交通における水素の使用、産業と電力部門における二酸化炭素回収・貯留(CCS)と、普及が最も困難なものです。
また、「長期エネルギー見通し(NEO):2024」ではベースケースとする「経済移行シナリオ」の詳細も示しています。このシナリオは、クリーンエネルギー技術に関する政策支援が現在の段階から全く講じられず、経済的に競争力がある場合もしくは消費者の選択によってのみクリーンエネルギー技術が導入される場合に限られると想定したものです。再生可能エネルギー(特に太陽光発電と風力発電)のコスト低減は、この経済移行シナリオにおいて、これらの発電の割合が2030年までに世界の電力発電全体の51%、2050年までに70%と急速に拡大することを意味します。併せて、世界の電力システムは変革し、太陽光発電と風力発電の大幅な普及に対応できるよう柔軟性が増すことが考えられます。
図3:テクノロジー(燃料)別発電内訳:経済移行シナリオとネットゼロ・シナリオ
出所:ブルームバーグNEF。注:ネットゼロ・シナリオでは水素製造に必要な発電が含まれています。「その他の再生可能エネルギー」には、水力発電、地熱発電、太陽熱発電など、その他すべての不燃性再生可能エネルギーが含まれます。「CCS」は二酸化炭素回収・貯留。
BNEFエネルギーシステムモデリングのリードアナリストであるイアン・ベリーマンの見解は次の通り:「BNEFの1時間ごとのモデル分析によると、電力システムはコストを増やさずとも風力発電と太陽光発電の大幅な普及に対応できることが分かります。電気自動車のスマート充電、蓄電池、柔軟な発電所を活用し、安価な再生可能エネルギーを基盤とする電力システムこそが将来的に最も低コストとなるでしょう」
経済移行シナリオでは、従来型自動車よりコスト競争力が高い、電気自動車の大幅な導入が進みます。クリーンエネルギー、電気自動車、エネルギー効率向上のそれぞれの影響を合わせると、経済移行シナリオでの2050年の排出量は、これらの技術がなかった場合に想定される排出量から半減、もしくは現在の水準から27%低くなります。この水準ではネットゼロの達成に遠く及ばず、しかも地球温暖化による気温上昇は、摂氏2.6度となってしまい、パリ協定の目標に達しません。とはいえ、経済的な技術と商業的に準備が整っている技術に基づいて、どの程度エネルギー移行が進むのかを把握することができます。このシナリオでは、化石燃料が電力、産業、交通、建物部門において依然として重要な役割を果たします。一方、ガス需要は緩やかな上昇にとどまり、石油・石炭需要は構造的な減少局面に入り始めます。
BNEFエネルギー経済部門統括マティアス・キメルの見解は次の通り:「再生可能エネルギー、電気自動車、エネルギー貯蔵はすでに大規模な展開が見られる上、向こう数年間でさらに成長するでしょう。これらの3種類の技術は、各国が排出量を削減し、エネルギーの安全性を向上させ、ひいては現行のエネルギーシステムのコストを削減するのに役立つ、間違いのない選択といえます」
BNEFは、「長期エネルギー見通し(NEO):2024」においてモデルを拡張しました。ネットゼロ・シナリオと経済移行シナリオの両方で12カ国9地域の詳細なモデル分析を網羅したことにより、以下の点が明らかになっています:
ブラジル、フランス、英国、米国、およびオーストラリアにおける現行の気候変動対策(すなわち「国が決定する貢献」(Nationally Determined Contribution、NDC))が、BNEFのネットゼロ・シナリオに最も一致しています
ドイツ、韓国、日本、およびインドでは、現行のNDCが経済移行シナリオに沿っているか上回っている状況で、さらなる排出削減努力によってネットゼロ・シナリオとの整合性にせまる余地があります
中国、インドネシア、およびベトナムは、次のNDC策定において排出量削減を強化する余地が最もあります。これらの国は、現行のNDCが経済移行シナリオさえ満たしていません
当リポートでは、世界の低炭素移行に関するその他の重要な課題も明記しています:
ネットゼロの実現を軌道に乗せるために鍵となる、次の9種類の技術を拡大する必要があること:再生可能エネルギー、電気自動車、蓄電池・エネルギー貯蔵、原子力エネルギー、二酸化炭素回収・貯留(CCS)、水素、持続可能な航空燃料、ヒートポンプ、および電力系統
エネルギー移行において低炭素水素の活用が有効となる可能性がある分野と、電化が明確に有意義な分野について、より詳細な見通し
電力、交通、産業、建物の各部門における脱炭素化を実現するために、上記の技術を組み合わせ、相互作用させる方法
各シナリオの実現に必要な投資額(経済移行シナリオでは2050年までに181兆ドル、ネットゼロ・シナリオでは2050年までに215兆ドル)と、それぞれの必要投資額が意外にも近い理由(ネットゼロ・シナリオの方がわずか19%高い予測)
土地利用を検証する重要性。低炭素技術は通常、化石燃料よりも広い土地を必要とすること、またエネルギー移行、農作物の生産や生物多様性の保全に関連する土地需要が拡大していることを踏まえるとそれらを天秤にかけ、最適化する必要があります
図4:2024年から2050年までの世界のエネルギー投資と支出:
経済移行シナリオ、ネットゼロ・シナリオ
出所:ブルームバーグNEF。注:棒グラフの上に記載された数値は、2024年から2050年までの投資額と支出額の累計を示しています。
「長期エネルギー見通し(NEO):2024」のエグゼクティブ・サマリーは、以下のリンク( https://about.bnef.com/new-energy-outlook/ )で公開されています。また、今回初めて、一部のリサーチデータをここ( https://about.bnef.com/new-energy-outlook/ )で公表しています。
ブルームバーグNEFのサービスをご利用のお客さまは、https://about.bnef.com/ およびブルームバーグ ターミナルでリポート全文を閲覧いただけます。
ブルームバーグNEFについて
ブルームバーグNEF(BNEF)は、世界の脱炭素化についての戦略的な分析を提供する、ブルームバーグのリサーチ部門です。各国のアナリストが、脱炭素社会の実現に向けての鍵となる最先端の技術、政策、金融動向を追い、排出量の多いセクターを中心にデータやリサーチを日々配信。政府・金融・企業の戦略立案者を中心とする幅広いユーザー層にご活用いただいております。
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