角層の細胞間接着構造が生体内で糖化されていることを初めて実証
肌のハリ実感につながる新たな知見へ
ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担うポーラ化成工業株式会社(本社:神奈川県横浜市、代表取締役社長:片桐崇行)は、皮膚の糖化研究を進め、以下を発見しました。
角層の細胞間接着構造「コルネオデスモソーム」の主要構成因子、デスモグレイン1が糖化されていること
デスモグレイン1の糖化は、角層剥離異常の一因となる可能性があります。その糖化を防いで角層剥離を正常化することは、やわらかな角層を育み、肌内部のハリを実感しやすくする新アプローチになると考えられます。
角層剥離の鍵を握るコルネオデスモソーム
角層は、角層細胞が積み重なって形成される皮膚の最外層であり、角層細胞どうしは、細胞をつなぐ役目のタンパク質複合体「コルネオデスモソーム」によって互いにつなぎとめられています。角層の成熟過程では、コルネオデスモソームが酵素によって段階的に切られることで、最表層の角層細胞が剥がれ、皮膚のターンオーバー(※1) が保たれます。しかし切断が不充分だと、角層は剥離せず過剰に積み重なってしまいます(補足資料1)。角層が重層化し、肌の表面が厚く硬くなると、内側からのハリや弾力の向上を実感しにくくなると考えられます(※2)。
※1 表皮で新しい細胞が生まれ、角層で古い角層細胞が剥がれ落ちるまでの、細胞の入れ替わりのこと。またその周期。
※2 「『肌内部のハリ弾力』を実感しやすい肌表面へ」(2023年6月29日) https://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20230629_3.pdf
角層のデスモグレイン1は糖化されていた
皮膚では、紫外線のような外からの刺激や年齢の影響でさまざまなタンパク質が糖化し、構造や性質が変わることが知られています(補足資料2)。このことから、コルネオデスモソームも糖化され、切断されにくくなる可能性があると考えました。
研究の結果、角層のコルネオデスモソームの主要構成因子「デスモグレイン1」が、生体内で糖化されていることが観察され(補足資料3)、糖化したデスモグレイン1は、角層の表層から深くまで広く存在することが明らかになりました(補足資料4)。
さらに、角層の表層において、デスモグレイン1の糖化の度合いと分布の関係を調べました。あまり糖化していない角層では、デスモグレイン1は細胞の辺縁部にのみ存在しており、デスモグレイン1の切断が適切に進んでいることが見て取れました。一方、糖化が進んだ角層では、細胞の中心部にかけてもデスモグレイン1が残っており、細胞どうしのつながりが保たれたままだと考えられました(図1)。このような違いから、糖化したデスモグレイン1は酵素で切断されにくくなること、またその結果として古い角層がはがれ落ちずに積み重なり、重層化することが推察されます。

ワイルドタイムエキスの高い糖化予防効果を確認
コルネオデスモソームが適切なタイミングで切断されるには、デスモグレイン1の糖化を予防することが重要だと考えました。そこで糖化を予防するエキスを探索した結果、ワイルドタイムから抽出されたエキスに高い予防効果を確認しました(補足資料5)。
【補足資料1】 ポーラ化成工業のコルネオデスモソーム研究
角層細胞どうしを接着するコルネオデスモソームは、角層剥離に重要な構造です。ポーラ化成工業は、コルネオデスモソームケアの重要性に従来から着目してきました(※3~5)。
今回新たに明らかにした糖化デスモグレイン1に関する知見は、コルネオデスモソームが適切なタイミングで切断される仕組みを理解する上で重要な手がかりとなります。
これら一連の研究により、健全な角層の形成・維持に関わる新たなアプローチが示されました(図2)。

※3 「睡眠不足による肌あれの原因を解明」(2017年6月27日) https://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20170703.pdf
※4 「角層の『抗硬化ケア」で柔らかな肌の実現へ」(2019年7月11日)https://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20190711.pdf
※5 「細胞間脂質の主要構成成分である脂肪酸が透明感とバリアに重要な角層構造の発達に関わることを発見」(2025年11月21日)https://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20251121.pdf
【補足資料2】 ポーラ化成工業の糖化研究
ポーラ化成工業では、長年にわたり皮膚中のタンパク質の糖化を研究してきました(図3 ※6~9)。糖化研究の新たな知見となる本研究の一部は、2025年9月10日~13日に開催された第56回欧州皮膚研究学会 (European Society of Dermatological Research) で発表されました(※10)。

※6 汗研究: 「汗の成分が糖化することを新たに発見」(2022年1月11日)https://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20220111_01.pdf
※7 表皮細胞研究: 「肌の糖化に新たな知見 角層の糖化が肌のキメに影響することを発見」(2010年4月28日)https://www.pola-rm.co.jp/pdf/po22r031.pdf
※8 真皮研究: 「老化による肌の弾カ・柔軟性の衰えや、黄ぐすみを改善 肌の老化因子の解明と、老化因子に有効な成分を開発」(2008年10月6日)https://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_2008_8.pdf
※9 血管研究: 「『がらくた』と考えられていたジャンク DNA にまた宝を発見 『耐糖化』力をアップ、糖化ダメージに強い丈夫な血管」(2021年4月27日) https://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20210427_01.pdf
※10 第56回欧州皮膚研究学会要旨集(演題番号183番)https://esdrmeeting.org/wp-content/uploads/2025/09/ESDR25abstractbookfinal.pdf
【補足資料3】 角層のデスモグレイン1は糖化されていた
生体内で、角層のデスモグレイン1が糖化されていることを、直接的に検証しました。ヒトの角層細胞を溶かした液から、デスモグレイン1を分離しました。次に、デスモグレイン1の分離液を用いて、糖化したタンパク質を検出する試験を行ったところ、糖化の反応が確認されました(図4)。
このことから、ヒト角層でデスモグレイン1が糖化されていることが示唆されました。

【補足資料4】 糖化デスモグレイン1の分布
健常なヒトの頬部から、異なる深さの角層を採取し、デスモグレイン1の糖化を観察しました。
いずれの層においてもデスモグレイン1と糖化タンパク質が同じ部位に存在しており、デスモグレイン1が糖化されていることが示唆されました(図5)。
デスモグレイン1の糖化は角層の表層だけでなく、より深い層でも見られ、角層剥離の異常に影響する可能性があります。

【補足資料5】 ワイルドタイムエキスに高い糖化予防効果を確認
糖化を予防する植物エキスを探索しました。その結果、ワイルドタイムエキスの存在下では、糖化タンパク質の生成量が大きく低下しました(図6)。ワイルドタイムエキスには、糖化を予防する効果が期待できます。

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