企業の67.0%が事業承継を「経営上の問題」と認識
新型コロナを機に事業承継への関心が高まった企業は8.9%に
中小企業庁が2017年7月に事業承継支援の集中実施期間とする「事業承継5ヶ年計画」を策定してから、3年が経過した。新型コロナウイルスの影響拡大により倒産や休廃業の増加も懸念されるなか、その回避策としての事業承継も今まで以上に注目されている。また、政府は中小企業の経営資源の引継ぎを後押しするため、「経営資源引継ぎ補助金」を実施するなど、円滑な事業承継に向けて積極的な支援が行われている。
<調査結果(要旨)>
事業承継を経営上の問題と認識している企業は 67.0%で、3 社に 2 社にのぼる
新型コロナウイルスの拡大を契機に事業承継への関心が高くなった企業は 8.9%
新型コロナウイルスの影響を契機として事業承継に対する関心が変化したかどうかを尋ねたと ころ、「変わらない」企業が 75.0%と大半を占めており、「高くなった」が 8.9%、「低くなった」は 2.3%となった。 関心が高くなったとする企業からは、「経営者が高 齢のため、新型コロナウイルスに感染すると本人の健康の危機とともに経営にも打撃を与える可能性が高いので、事業継承について考えさせられた」(事業サー ビス、東京都)などの声があげられた。
一方で、「事業承継の準備段階に入って行こうかと考えていたが、 新型コロナの影響で事業承継どころではなくなってき ている。今は会社存続が当面の課題になっている状 況」(製缶板金、長崎県)や「会社を発展させる上で 後継者の強み、現事業の立地や技術、人材、資金力が うまくマッチしないうえに、新型コロナの影響が拡がっている現状では事業承継する勇気が出てこない」 (鉄骨工事、大阪府)といった意見も多く聞かれた。
企業の 4 割で事業承継の計画があるものの、うち半分が進めていない結果に
それに対して、事業承継を「経営上の問題のひとつと認識している」企業では 50.2%が計画を有し、20.4%が進めている。事業承継を最優先の問題と認識し ているかが事業承継計画の有無を大きく左右することが明らかとなった。 さらに、事業承継に関する計画の有無を社長年齢別にみると、「39歳以下」「40代」ではすでに 事業承継を終えている企業は 3 割以上で、計画のある企業は 2 割前後となっている。一方で、「50代」以降は社長年齢が高くなるにつれて、事業承継の計画を有している割合や計画を進めている 割合も増加する傾向が表れている。ただ、「80歳以上」では計画を進めている企業は 70 代より減 少し、計画の有無を「分からない」とする企業の割合が最も高くなっている。
事業承継で「苦労したこと」「苦労しそうなこと」ともに後継者の育成がトップ
企業からは、「後継者の育成は零細企業にとっては非常に大きな問題。勉強方法、経験など、後継者の育成が特に遅れており、危機感を覚えている」(塗料卸売、神奈川県)や「後継者を選任して教育を実施してきたが、経営者として納得がいくレベルまで到達させることができず、日々悩んでいる」(給排水・衛生設備工事、長野県)、「後継者と予定している人材がまだ若く、今は仕込み期間でまだまだ時間がかかる。しばらく見守っていくしかない」(一般管工事、青森県)など、 後継者問題に対する懸念が多くあげられている。 また、「贈与税の問題が大きい。現状の制度では、中小企業の事業承継は非常に難しい」(一般機械器具卸売、愛知県)、「贈与税、相続税により資金が減少し、事業の継続が困難になることが一番の心配。事業承継の税制を見直してほしい」(土木建築サービス、岩手県)のような税制に対する声があがった。さらに、「事業が安定し、内部留保が大きくなっていると株式評価関連が後継者にとって大きな負担となる。後継者にスムーズに承継させる方法をもっと積極的に提供しないと後継者の意欲を失わせる結果になってしまう」(舗装材料製造、群馬県)といった意見もみられた。
M&A※に関わる可能性がある企業は 37.2%、可能性がない企業も 39.2%と近い水準に
事業承継を行う手段として、M&Aへの注目が高 まっている。そこで、自社について近い将来(今後 5 年以内)における M&A への関わり方について尋ねたところ、「買い手となる可能性がある」 は 21.6%、「売り手となる可能性がある」は 10.5%、「買い手・売り手両者の可能性がある」 は 5.1%となった。合計して企業の 37.2%が事業承継を行う手段として M&A に関わる可能性があると考えている結果となった。一方、「近い将来において M&Aに関わる可能性はない」は 39.2%、「分からない」は 23.6%となった。M&A に関わる可能性は二分化している。
規模別でみると、「大企業」は 43.3%が M&A に関わる可能性があり全体を上回っているが、「中小企業」では 35.9%、「小規模企業」では 34.1%にとどまっている。特に大企業と小規模企業で は 9.2 ポイントの差が開いている。 企業からは、「後継者の育成ができなければ、1つの選択肢としてM&A の売り手となることを考慮しておく必要がある」(有機質肥料製造、熊本県)といった意見のほか、「後継者不在により国内企業との M&A について検討している。しかし、仲介手数料が思いのほか高額であり、買い手企業側から会社バリューを不当に安く評価されることもあり、難しさを実感している」(電子応用装置製造、東京都)などの課題があげられている。
[注]M&A とは、企業の買収や合併、一部株式を売買して資本提携することなどの企業戦略全般を指す。また、人材難などにより後継者がいない場合の事業承継の手段や事業の一部を譲渡することなども含められる。なお、資本の移動を伴わない業務提携(共同研究、開発など)は含まない。
2025年までに経営者127万人が70歳かつ後継者未定の試算
本調査によると、事業承継を経営上の問題と認識している企業は 3 社に 2 社にのぼった。また、 新型コロナウイルスの感染拡大を契機とした事業承継に対する関心は、企業の約 1 割で高くなったとしている。ただし、新型コロナウイルスによって事業承継どころではなくなっているという 声が多数あげられている。 事業承継に関する計画の有無では、企業の 4 割が計画を有していた。特に事業承継を経営上の問題と認識している企業ほど計画を有している割合が高い。また、社長年齢が高くなるほど事業 承継の計画を有している割合や計画を進めている割合も増加する傾向が表れている。
事業承継を行う上で苦労したことでは、苦労しそうなことともに後継者に関する項目が上位となっている。また、相続税や贈与税といった税金対策や従業員への理解、事業の将来性や魅力の向上をあげる企業も多い。事業承継の手段の一つとして注目されている M&Aに関しては、可能性 がある割合とない割合は二分化する結果となった。
経済産業省によると、現状のままだと2025年までに日本企業全体の 3分の 1にあたる 127 万人の経営者が 70 歳以上かつ後継者未定になり、廃業が増加した場合には多くの雇用や GDP が失われると試算している。こうした現状に加えて新型コロナウイルスの影響拡大による企業の休廃業リスクの増加もあり、事業承継は従来以上に喫緊の課題になったといえよう。事業承継を行う上で大きな課題となる後継者の決定や育成に対する支援もさることながら、「新型コロナウイルスの影響により借り入れが増加しており、事業承継への影響を懸念している」(金属プレス製品製造、山形県)といった声もあり、財務面に対する施策を講じることも求められている。
■調査期間は2020年8月18日~31日、調査対象は全国2万3,689社で、有効回答企業数は1万2,000社(回答率50.7%)。なお、事業承継に関する調査は、2017年10月以来、今回で2回目
■本調査における詳細データは景気動向オンライン(https://www.tdb-di.com)に掲載している
- 事業承継への考え方について、「最優先の経営上の問題と認識している」企業が11.8%となり、「経営上の問題のひとつと認識している」(55.2%)と合わせると67.0%が事業承継を経営上の問題として認識している。「経営上の問題として認識していない」は21.6%、「分からない」は11.4%だった
- 新型コロナウイルスを契機とした事業承継に対する関心の変化を尋ねたところ、「変わらない」とした企業が75.0%で大半を占めており、「高くなった」企業が8.9%で、「低くなった」とする企業は2.3%となった
- 事業承継の計画の有無について、「計画があり、進めている」企業は18.7%、「計画はあるが、まだ進めていない」は21.1%となった。企業の39.8%が事業承継計画を有している一方で、そのうち半分は進めていなかった。また、事業承継を経営上の問題と認識している企業や、社長年齢が高い企業ほど事業承継を計画している傾向が高い
- 事業承継を行う上で苦労したことでは、「後継者の育成」が48.3%で最も高い(複数回答、以下同)。また、苦労しそうなことに関しても「後継者の育成」(55.4%)、「後継者の決定」(44.6%)が上位となり、総じて後継者問題に関する懸念が上位にあげられている
- 近い将来(今後5年以内)、事業承継を行う手段として「M&Aに関わる可能性がある」企業は37.2%となった。規模別では「大企業」が43.3%と全体を上回るものの、「中小企業」は35.9%、「小規模企業」では34.1%にとどまり、特に大企業と小規模企業では10ポイント近く差が開いている
事業承継を経営上の問題と認識している企業は 67.0%で、3 社に 2 社にのぼる
事業承継についてどのように考えているか尋ねたところ、「経営上の問題のひとつと認識している」と回答した企業が 55.2%で最も高かった。また、「最優先の経営上の問題と認識している」は 11.8%となり、合計すると企業の 67.0%が事業承継を経営上の問題と認識していた。ただし、2017 年 10 月時点と比較するとそれぞれ減少している。他方、「経営上の問題として認識していない」 (21.6%)は 2017 年の 18.2%から 2 割台へと増加した。「分からない」は 11.4%だった。
新型コロナウイルスの拡大を契機に事業承継への関心が高くなった企業は 8.9%
新型コロナウイルスの影響を契機として事業承継に対する関心が変化したかどうかを尋ねたと ころ、「変わらない」企業が 75.0%と大半を占めており、「高くなった」が 8.9%、「低くなった」は 2.3%となった。 関心が高くなったとする企業からは、「経営者が高 齢のため、新型コロナウイルスに感染すると本人の健康の危機とともに経営にも打撃を与える可能性が高いので、事業継承について考えさせられた」(事業サー ビス、東京都)などの声があげられた。
一方で、「事業承継の準備段階に入って行こうかと考えていたが、 新型コロナの影響で事業承継どころではなくなってき ている。今は会社存続が当面の課題になっている状 況」(製缶板金、長崎県)や「会社を発展させる上で 後継者の強み、現事業の立地や技術、人材、資金力が うまくマッチしないうえに、新型コロナの影響が拡がっている現状では事業承継する勇気が出てこない」 (鉄骨工事、大阪府)といった意見も多く聞かれた。
企業の 4 割で事業承継の計画があるものの、うち半分が進めていない結果に
事業承継を進めるための計画の有無について尋ねたところ、「計画があり、進めている」企業は 18.7%、「計画はあるが、まだ進めていない」は 21.1%となった。合計すると企業の 39.8%は事 業承継の計画があるものの、そのうち半分以上の企業で進めていない結果となった。一方で、「計画はない」は 34.8%、「すでに事業承継を終えている」は 12.3%だった。 事業承継に関する計画の有無を経営上の問題認識別にみると、事業承継を「最優先の経営上の問題と認識している」企業では 73.5%が計画を有しており、さらに計画を実際に進めている割合も 46.0%と全体を大きく上回った。
それに対して、事業承継を「経営上の問題のひとつと認識している」企業では 50.2%が計画を有し、20.4%が進めている。事業承継を最優先の問題と認識し ているかが事業承継計画の有無を大きく左右することが明らかとなった。 さらに、事業承継に関する計画の有無を社長年齢別にみると、「39歳以下」「40代」ではすでに 事業承継を終えている企業は 3 割以上で、計画のある企業は 2 割前後となっている。一方で、「50代」以降は社長年齢が高くなるにつれて、事業承継の計画を有している割合や計画を進めている 割合も増加する傾向が表れている。ただ、「80歳以上」では計画を進めている企業は 70 代より減 少し、計画の有無を「分からない」とする企業の割合が最も高くなっている。
事業承継で「苦労したこと」「苦労しそうなこと」ともに後継者の育成がトップ
事業承継に関する計画に対して「計画があり、進めている」「すでに事業承継を終えている」と した企業に対して、事業承継を行う上で苦労したことを尋ねたところ、「後継者の育成」が 48.3% でトップとなった(複数回答、以下同)。次いで、事業承継税制の活用など「相続税・贈与税など の税金対策」(31.7%)や「自社株など資産の取扱い」(30.5%)が 3 割台で続いた。また、後継者 の育成の前提となる「後継者の決定」(28.2%)や「後継者への権限の移譲」(26.4%)も高い。 さらに、事業承継に関して「計画があり、まだ進めていない」「計画はない」とした企業が想定 する苦労しそうなことでは、「後継者の育成」が 55.4%で半数を超えトップとなり、「後継者の決定」(44.6%)も続き、後継者に関する 2 項目を懸念事項と考えている様子がうかがえた。次いで、 「従業員の理解」(25.5%)、「事業の将来性や魅力の向上」(22.3%)が続いている。
企業からは、「後継者の育成は零細企業にとっては非常に大きな問題。勉強方法、経験など、後継者の育成が特に遅れており、危機感を覚えている」(塗料卸売、神奈川県)や「後継者を選任して教育を実施してきたが、経営者として納得がいくレベルまで到達させることができず、日々悩んでいる」(給排水・衛生設備工事、長野県)、「後継者と予定している人材がまだ若く、今は仕込み期間でまだまだ時間がかかる。しばらく見守っていくしかない」(一般管工事、青森県)など、 後継者問題に対する懸念が多くあげられている。 また、「贈与税の問題が大きい。現状の制度では、中小企業の事業承継は非常に難しい」(一般機械器具卸売、愛知県)、「贈与税、相続税により資金が減少し、事業の継続が困難になることが一番の心配。事業承継の税制を見直してほしい」(土木建築サービス、岩手県)のような税制に対する声があがった。さらに、「事業が安定し、内部留保が大きくなっていると株式評価関連が後継者にとって大きな負担となる。後継者にスムーズに承継させる方法をもっと積極的に提供しないと後継者の意欲を失わせる結果になってしまう」(舗装材料製造、群馬県)といった意見もみられた。
M&A※に関わる可能性がある企業は 37.2%、可能性がない企業も 39.2%と近い水準に
事業承継を行う手段として、M&Aへの注目が高 まっている。そこで、自社について近い将来(今後 5 年以内)における M&A への関わり方について尋ねたところ、「買い手となる可能性がある」 は 21.6%、「売り手となる可能性がある」は 10.5%、「買い手・売り手両者の可能性がある」 は 5.1%となった。合計して企業の 37.2%が事業承継を行う手段として M&A に関わる可能性があると考えている結果となった。一方、「近い将来において M&Aに関わる可能性はない」は 39.2%、「分からない」は 23.6%となった。M&A に関わる可能性は二分化している。
規模別でみると、「大企業」は 43.3%が M&A に関わる可能性があり全体を上回っているが、「中小企業」では 35.9%、「小規模企業」では 34.1%にとどまっている。特に大企業と小規模企業で は 9.2 ポイントの差が開いている。 企業からは、「後継者の育成ができなければ、1つの選択肢としてM&A の売り手となることを考慮しておく必要がある」(有機質肥料製造、熊本県)といった意見のほか、「後継者不在により国内企業との M&A について検討している。しかし、仲介手数料が思いのほか高額であり、買い手企業側から会社バリューを不当に安く評価されることもあり、難しさを実感している」(電子応用装置製造、東京都)などの課題があげられている。
[注]M&A とは、企業の買収や合併、一部株式を売買して資本提携することなどの企業戦略全般を指す。また、人材難などにより後継者がいない場合の事業承継の手段や事業の一部を譲渡することなども含められる。なお、資本の移動を伴わない業務提携(共同研究、開発など)は含まない。
2025年までに経営者127万人が70歳かつ後継者未定の試算
本調査によると、事業承継を経営上の問題と認識している企業は 3 社に 2 社にのぼった。また、 新型コロナウイルスの感染拡大を契機とした事業承継に対する関心は、企業の約 1 割で高くなったとしている。ただし、新型コロナウイルスによって事業承継どころではなくなっているという 声が多数あげられている。 事業承継に関する計画の有無では、企業の 4 割が計画を有していた。特に事業承継を経営上の問題と認識している企業ほど計画を有している割合が高い。また、社長年齢が高くなるほど事業 承継の計画を有している割合や計画を進めている割合も増加する傾向が表れている。
事業承継を行う上で苦労したことでは、苦労しそうなことともに後継者に関する項目が上位となっている。また、相続税や贈与税といった税金対策や従業員への理解、事業の将来性や魅力の向上をあげる企業も多い。事業承継の手段の一つとして注目されている M&Aに関しては、可能性 がある割合とない割合は二分化する結果となった。
経済産業省によると、現状のままだと2025年までに日本企業全体の 3分の 1にあたる 127 万人の経営者が 70 歳以上かつ後継者未定になり、廃業が増加した場合には多くの雇用や GDP が失われると試算している。こうした現状に加えて新型コロナウイルスの影響拡大による企業の休廃業リスクの増加もあり、事業承継は従来以上に喫緊の課題になったといえよう。事業承継を行う上で大きな課題となる後継者の決定や育成に対する支援もさることながら、「新型コロナウイルスの影響により借り入れが増加しており、事業承継への影響を懸念している」(金属プレス製品製造、山形県)といった声もあり、財務面に対する施策を講じることも求められている。
■調査期間は2020年8月18日~31日、調査対象は全国2万3,689社で、有効回答企業数は1万2,000社(回答率50.7%)。なお、事業承継に関する調査は、2017年10月以来、今回で2回目
■本調査における詳細データは景気動向オンライン(https://www.tdb-di.com)に掲載している
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